ローコード・ノーコード

なぜ複数のローコード環境を使うのか?メリットとデメリットは?

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すべての企業が、戦略的に複数のツールやサービスを使っているとは限りません。必要に伴ってシステムの増改築が繰り返され、その結果として「魔窟化」している例などいくらでもあります。エンジンを組み立てながら旅客機を飛ばし続けるようなリスクも、ある程度は避けられません。

しかし、複数のプラットフォームが増えれば増えるほど、導入や教育、維持管理など、運用の手間とコストが増えます。何か一つの優れたプラットフォームに集約する方が、資本効率も上がるはず。それにも関わらず、目的に最適化した複数のプラットフォームを組み合わせるだけの、合理的な理由や背景とは?今回は、その辺りの実情を深掘りしてみましょう。

前回の記事からの続きとしてお読みください。

シングルローコード・ノーコードのメリット

マルチ環境の強みや課題を明らかにするため、まず、単一または限定的なローコード・ノーコード環境のメリットを整理してみます。後述しますが、これらはそのまま、マルチ環境に移行する・移行せざるを得なくなる制限でもあります。

シンプルな一貫性

ITエコシステム全体をシンプルに利用・管理できます。単一のプラットフォームを導入すれば、すべてのアプリケーションで一貫した開発環境、UI、データモデルが保証されます。

学習曲線が最短

開発エンジニアとシチズンデベロッパー(非エンジニアの市民開発者)が共通のプラットフォームを使いこなすことで、トレーニングに掛かる時間とコストを最短化できます。

統合の合理化

同じプラットフォーム上に構築されたアプリケーション同士は、シームレスに統合できます。データ連携やUXなど、インテグレーションを気にする必要はありません。

ワンストップのサポート

単一のベンダーと取引することで、サポートやアップデート、トラブルシューティングが簡素化されます。担当者との意思疎通にも大きなメリットあり。

費用対効果

ライセンス料やインフラ管理、教育コストも最小化できます。

マルチローコード・ノーコードのメリット

限定された少数のプラットフォームを運用する方が、管理や教育コスト、ライセンス料、契約更新などで有利なはず。ではなぜ、企業は敢えて複数のローコード・ノーコード環境を併用するのでしょうか?

その答えはシンプルで、高度で複雑化する現代では、単一のローコード・ノーコード環境では、多様なニーズのすべてを満たせないからです。異なるプラットフォームは、特定の分野やユースケースにアドバンテージがあります。例えば、以下のような場合です。

  • A:柔軟なモバイルアプリ開発や、シンプルなWebアプリ開発に最適
  • B:特定の業界ニーズに対応した、高速プロトタイピングに強み
  • C:データ集約型の大規模システム開発や、高度な分析に特化

また、業界や業種、プロジェクト、地域、国によってもニーズは異なります。複数のプラットフォームの特徴や機能を見極め、最適なツールを選択して組み合わせることが、最も効率的かつ合理的な判断となっています。以下で、細かく見てみましょう。

部門固有のニーズに最適化

大規模な組織は、技術的な要件が異なる複数の部門に分岐しています。例えば、情シス部門には、複雑なインテグレーションのために、技術的に高度なローコード・プラットフォームが必要です。マーケティングチームは、強力なCMSやCRM機能を備えたツールが求められるはず。オペレーションチームは、堅牢なプロセス自動化機能を備えたサービスを好むかもしれません。

異なるローコード・ノーコード開発プラットフォームは、それぞれに特徴があります。組織内のチームは、自分たちの業務に合ったサービスを選択できる自由が必要です。

コンプライアンスと規制要件

法務や金融など、特定の業界や業種、地域には、法律や規制に準じた特定のコンプライアンス要件が必要とされます。そのため、適合する特定のプラットフォームを採用する必要があります。

柔軟性とパフォーマンス

業務内容の変更やビジネスの長期化に伴って、アプリケーションが複雑化し、規模が拡大するのはよくあること。単一のプラットフォームでは、すべてのプロセスを効率的に処理できなくなる可能性があります。複数のプラットフォームを使用することで、企業はエコシステムのさまざまな部分を、独立してある程度自由に拡張できます。

既存システムとの統合

特定のローコード・ノーコードと統合しやすいテクノロジーや、置き換えられないレガシーシステムと連携しなければならないニーズもあります。複数のプラットフォームを柔軟に選択することで、既存システムとの連携や統合のギャップをより効果的に埋められます。

そもそも、既存のビジネス環境を維持しながら、時間を掛けて新しいプラットフォームへと移行する期間中は、マルチプラットフォーム環境にならざるを得ません。

ロックインの回避

プラットフォームが提供するサービスを大幅に変更したり、ベンダーが製品提供を中止した場合もリスクです。依存によるロックインを減らしておけば、フォールバック(縮退運転・縮退運用)の代替オプションを確保できます。

また、一つのプラットフォームでダウンタイムやセキュリティー問題が発生しても、すべてのアプリケーションに影響が及ぶことはありません。

イノベーションと競争優位性

多様なプラットフォームに触れることは、創造的なソリューションやアプローチを生み出すきっかけにもなります。また、プラットフォームごとに革新のスピードが違うのは当たり前。複数のプラットフォームを併用することで、企業は新機能を迅速に導入でき、競争優位性を維持できます。

人材獲得と維持

企業は、従業員に多様な学習機会を提供することで、新たなキャリアパスを示せます。また、企業の魅力を高めることは、潜在的な人材の確保にもつながります。従業員にとっても、競争の激しい雇用市場において、複数のプラットフォームを経験できることは、新しいチャンスに。

コストの最適化

実は、複数のプラットフォームを使い分ける方が、コスト削減につながる場合があります。例えば、コアビジネスには高機能かつ堅牢なローコード、単純なタスクにはよりコスト効率の高いノーコードを組み合わせるのは、極めて妥当な構成です。また、使用量に応じた従量制課金モデルも、リーズナブルな手法です。

マルチローコード・ノーコードのデメリット

マルチ環境としてのデメリットは、シングル環境のメリットの裏返しです。前述と重複するので、主なものだけ簡単にまとめておきます。これらをどのように克服していくかが、マルチプラットフォーム戦略を成功に導くポイントです。

複雑性の増大:複数のプラットフォームを管理しなければならないため、ITリソースに負担が掛かり、ガバナンスを複雑にする可能性がある。

インテグレーションの課題:異なるプラットフォームや既存のシステム、レガシーな環境の間で、シームレスなインテグレーションを実現する必要がある。

コストへの影響:プラットフォームの組み合わせによっては、複数ライセンスの更新や管理、人材のトレーニング、管理などのコスト増が懸念される。

スキル要件:複数のプラットフォームを効果的に活用するには、多様なスキルが必要であり、追加のトレーニングや人材雇用が必要になる。


絵本『スイミー』を読んだことはありますか?世界的に人気の絵本で、日本でもロングセラーになっています。

物語は、小さな黒い魚スイミーが、独りぼっちになってしまい、大海原でいろいろな旅をしながら冒険するストーリー。スイミーは知恵を働かせ、多くの仲間たちと一緒になって一つの魚の形を作り、大きな魚に対抗します。作者はレオ・レオニ氏で、日本語版の翻訳は先日亡くなった谷川 俊太郎氏(ちなみにテックオタクでした)。

スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし : レオ・レオニ, 谷川 俊太郎

私たちは今、次にどんな試練が待ち受けているか分からない、荒れ狂う海を必死に泳いでいます。それぞれ小さくても多様なサービスを賢く柔軟に組み合わせれば、全体として機能することで、未知の苦難も克服できる勇気と信頼が必要です。

では、マルチローコード・ノーコードで自社に最適なシステムを作って、レッドからブルーまでの広い大海を自由に泳ぐには、どのような人材が必要でしょうか?引き続き、次回も考えてみましょう。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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