ローコンテキストvsハイコンテキスト:仕事に活かす意思疎通の違い

コミュニケーションのスタイルには、大きく分けて「ローコンテキスト(低文脈)」と「ハイコンテキスト(高文脈)」があります。この違いは、他者とのスムーズな意思疎通で重要な要素です。グローバル化とリモートワークの普及によって、遠隔地とのコミュニケーションのあり方に大きな変化がありました。日本のようなハイコンテキスト社会では、この両者の違いを把握することは、ストレスの無いやり取りに不可欠です。
ローコンテキスト文化とは?
ローコンテキストとは、情報が明示的に伝えられることを指します。言語そのものが情報伝達の中心であり、言葉に明確な指示や詳細な説明を含め、相手に誤解なく伝えることを重視します。言葉以外の要素(非言語的な合図や状況)はあまり重視されません。文化圏でいえば、アメリカやドイツ、スイス、北欧諸国などが典型例です。
長所 | 短所 |
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明確・正確 | 攻撃的、無神経と思われる可能性がある |
直接的・明示的 | 文化的な違いに柔軟に対応できない |
より対立的 | ニュアンスや繊細さに欠けることがある |
ハイコンテキスト文化とは?
一方、ハイコンテキスト文化とは、背景や文脈を重視する文化です。メッセージは言葉だけでなく、非言語的な要素や状況(表情や仕草、場の空気、前提となる知識など)を活用したコミュニケーションが交わされます。日本や中国、韓国、アラブ諸国などがこのタイプに分類されます。
長所 | 短所 |
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人間関係の構築と維持 | 間接的、あいまいと思われる可能性がある |
非言語的な手がかりや文脈に依存 | 非言語的な合図を理解・解釈するために、より多くの努力が必要 |
直接対決を避ける | 文脈が共有・理解されていない場合、誤解を招くことがある |
よくあるビジネスコミュニケーションの例
ローコンテキストとハイコンテキストの違いは、ビジネスのやり取りでもよくある例が分かりやすいでしょう。御社はどちらのスタイルでしょうか?
会議開催のメールの例
ローコンテキスト
- 日時や場所、参加者などが事前に共有される
- 何を決めるための会議か、ゴールや議題が明確に示される
- 必要な資料があれば、事前に共有される
ハイコンテキスト
- (上記のような内容が明確には示されない)
会議の例
ローコンテキスト
- アジェンダが明確で、決定事項を記録し、合意形成を重視
- 議事録がすぐに共有され、次回への持ち越しなども明確化
- プロジェクトのタスクとして、担当者やスケジュールが設定される
ハイコンテキスト
- 事前の根回しが重要で、会議では意思決定よりも雰囲気作りを重視
- 会議が終わった後、ネゴシエーションによる調整や変更も
- 言語化・記録化や共有、積極的発言が歓迎されないことも
コンテキストとコンテンツとの関係とは?
ここで、関連する用語も整理しておきましょう。コンテキスト(またはコンテクスト)とは、文脈や状況、前後関係、背景、つながりのことです。そして、コンテキストとセットで語られることが多いのが、コンテント(複数ならコンテンツ)です。こちらが指すのは、中身や情報、出来事です。文章や写真、イラストレーション、音楽、音声、ビデオ、映画、本なども、コンテンツとして認識され、2000年代に入って定着しました。
コンテキストとコンテンツを比較・整理すると、以下のとおりです。ソーシャルメディアで、前後の文脈を無視して情報の一部だけが切り取られると誤解を生んでしまうのは、ある意味当然と言えます。
コンテキスト
- 文脈や状況、前後関係、背景、つながり、入れ物
- 重要なのは、誰がどんな状況で言ったか
コンテンツ
- 中身や情報、出来事
- 重要なのは、何が語られたり、入っているか
ハイコンテキストな日本社会とビジネス環境
以前、日本人の摩訶不思議なコミュニケーションについて話題になっている、海外サイトの書き込みを目にしたことがありました。
とある人が、ある家を訪ねる。主(あるじ)は、客人を客間に案内し、お茶を出す。床の間に飾ってある掛け軸を眺めては、二人がわずかな言葉を交わす。実はその二人は商人同士で、いつの間にか商売の話がまとまっていた。商品や価格、期日の話は一切しなかったのに!全く意味が分からない!まるで忍者のようなやり取りだった…。
元が、古い日本映画のワンシーンか何かは分かりません。しかし確かに、阿吽の呼吸や察して慮(おもんぱか)る、空気を読むことで物事がまとまる文化は、ミステリアスな世界観を感じずにはいられません。
確かに、世界的に見ても日本は特に、ハイコンテキスト・コミュニケーション社会であることが知られています。通じ合っている相手にだけ分かればいい、非言語的な合図や文脈情報が重視されます。同質性が高く、閉鎖的・封建的な高文脈コミュニティーでは、未だに忍者的なやり取りで物事が進んでいることが珍しくありません。
グループ志向:日本社会は、集団の調和と合意形成に重きを置いています。伝統を重んじることは、素晴らしい面もありますが、業界や組織の規模、職場環境によっては、今でも封建的な年功序列の階層構造になっていることが多く見られます。これは、職場の肩書きや呼称、同調圧力を感じさせるカルチャーなどにも表れています。
非効率な長労働時間:OECDデータに基づく2020年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は、49.5ドル(5,086円/購買力平価換算)で、OECD加盟38カ国中23位に留まっています。労働者は長時間労働が多く、生産性よりもとにかくオフィスにいること・働いている振りが重要視される「プレゼンティズム」の文化があります。
同質的コミュニティー:ソーシャルメディアで時々、地方移住者の厳しい現実が話題になっています。人々が同じような外見で、同じ言語を使い、同じような価値観で生活しているコミュニティーは、異質な存在をはっきりと拒絶しないまでも、ひっそりと穏やかに排除していきます。難民の受け入れ率の低さや、技能実習制度の人権問題も無関係ではないでしょう。
すぐできる!ストレスのないコミュニケーションの3つのヒント
では、日本のようなハイコンテキスト社会で、確実かつ良好なコミュニケーションを実現するには、具体的にどうしたらいいでしょうか?相手に察してもらうことを期待せず、かといって合意形成に手抜きもしない、ストレスフリーな意思疎通のヒントとは?
1.シンプルな言葉や表現を心掛ける
Simple is best. 特にリモート環境では、相手にはっきりと伝わる明確で理解しやすい言葉や表現が重要です。その業界や状況に精通していない相手には、専門用語や特殊な表現、チーム内での略語、複雑で難解な言葉、回りくどい表現は避けましょう。ITやマーケティング系の業界では特に、カタカナ用語が多数飛び交い、新しい用語も次々に出てくるので注意が必要。難解な用語を使いたがる人物は、自分を優位に立たせたいマウンティングのサインなことも。
2.必要な時には、丁寧に文脈をフォローする
現代は、年代や業種・職種、人種・民族、文化的背景が多様化した人々との意思疎通も必要な時代。初対面や普段一緒に活動していない相手には、自分のメッセージが正しく理解されるように、文脈を事前に提供(または事後にフォロー)することが有効です。面倒臭がらず、状況の背景を丁寧に説明したり、すぐにはわからない追加情報を適切に提供することは、合意形成にとって重要なキーです。
議論された重要なポイントを確認するテキストや資料を、タイムリーに共有することで、全員が同じ考え方に立って、議論された内容を明確に理解できます。また最近では、優れたAI議事録サービスも登場しています。発言内容をただテキスト化するだけでなく、要点だけを的確に整理してくれたり、発言者を判断して書き分けたり、翻訳までセットになっていたりと非常に便利です。
3.非言語的(ノンバーバル)なサインに気を配る
直接リアルに顔を合わせることができないリモートでは、共有できる情報が限定的。しかし、声のトーンやボディランゲージ、ちょっとした何気ない仕草などの非言語的(ノンバーバル)な手がかりは、相手の反応を知る重要なヒントです。
ということは、自分の側のサインになっているということ。メッセージが相手に正しく伝わっているかを意識するためにも、表情や視線、身振り手振り、口調や言葉遣い、自分の癖など、言語以外の要素をチェックしてみましょう。社内教育を絡めて、時々チームでフランクに指摘し合う方法も有効です。
ローコンテキストは、世代や性差のギャップを埋めるのにも有効
明確な表現に重点を置いて、全員が明確に意思疎通できるローコンテキストなコミュニケーションは、世代や性差など身近な違いを埋めるのにも役立ちます。表現のスタイルに柔軟性と適応性を持たせることで、ジェネレーションやジェンダーギャップを埋め、誤解や誤認を回避できます。相手の背景や特徴にかかわらず、すべての人々と効果的なコミュニケートが可能です。
ただし、個人の属性だけで紋切り型の判断をするのは危険。その人が受けてきた教育や育った文化、普段接しているメディア、属しているコミュニティーなどによって、考え方や表現は異なるという点は注意しましょう。
グローバル化などの影響により、日本社会でも一部のコミュニケーションはローコンテキスト化する傾向にあります。次回は、ローコンテキストなコミュニケーションが、アジャイルには最適だということを解説します。
ローコンテキストなコミュニケーションがアジャイルに必須な理由
属人性や複雑さを廃して、コンパクトな単位で高速化を実現する—ローコンテキストのメリットは、ローコード開発にも通じています。組織文化のアジャイルな改革と成功についてご相談・ご興味がある方は、ぜひBlueMemeにお問い合わせください。