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社会

共に創る物語としてのナラティブを活かして成功する企業事例に学ぶ

リプリパ編集部

そもそも「ナラティブ」という言葉は、2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授の書籍『ナラティブ経済学』で広く知られるようになりました。物語という形でのアイデアの口承伝搬と、人々が新しい物語を生み出しては伝播していく「感染性」について注目されています。その後、2020年頃から日本でも、ナラティブに関する情報が増えていきました。

すべてのビジネスには、物語があります。今回も引き続き、ナラティブという「私やあなたの物語」に注目し、成功例をいくつか見てみましょう。前回の記事もどうぞ。

Amazon.co.jp: ナラティブ経済学―経済予測の全く新しい考え方 eBook : ロバート・シラー, 山形 浩生: Kindleストア

ナラティブを活用した国内外の成功例

稀代のストーリーテラーでありビジョナリー、そして天才詐欺師でもあったのが、Appleの創設者S.ジョブズ。彼が身に纏っていたカリスマ性と、人を煙に巻く話術は「現実歪曲フィールド」と呼ばれていました。彼は、スペックとストーリーとを絶妙のバランスで演出し、大企業幹部から消費者まで、聴衆を虜にし、羨望と期待に駆り立てるエンターテイナーでした。効果的なストーリーテリングは芸術、科学であり、時に劇薬でもあると言えます。

その一方で現代は、天才ではない市井の人々が自分事として語る物語―ナラティブが、大きなパワーを秘めています。壇上のカリスマを憧れと共に見上げるのではなく、同じ広場に集まった人々の語りが、計り知れない新たな可能性を持っています。意図していたかどうかに関係なく、結果としてナラティブが最大限に活用された事例を見てみましょう。

Benetton

「controversial 物議を醸す」という単語は、もはやベネトンの代名詞とも言えます。社会的・政治的問題に取り組む、挑発的でセンセーショナルなキャンペーンで知られます。戦争や人種差別、病気などデリケートなトピックについて、衝撃的な手法で意識を高め、社会問題にスポットライトを当てています(なぜか日本では展開されません)。

Nike

“Just Do It” を鼓舞するナイキは、チャレンジの克服や身体の卓越性に焦点を当て、アスリートやアスリート志望者をエンパワーしてきました。スポーツの範疇に限らない、挑戦するマインドを持つオーディエンスを刺激する強力なメッセージは、ブランドコミュニティーを育み、人々の会話に火を点け、目標を追求する意欲を高めています。

Nike: This is us. – YouTube

Patagonia

環境保護活動への積極的関与でも知られる、アウトドア・アパレル企業パタゴニア。一見、企業利益に反する「より少なく買って、より長く使い続ける」ことを奨励しています。製品の寿命と価値を紹介し、使用済み商品のリサイクルなど、環境意識の高い消費者とのつながりを育んでいます。今秋のアメリカ大統領選挙に向けても、気候変動に対するメッセージを出すのでは?

P&G:Thank You Mom

家庭用洗剤や日用品メーカーのP&Gは、オリンピックのたびに、選手を子供の頃から成長を支えてきた母親にスポットを当てたキャンペーンを展開しています。固定されたストーリーとしての広告が新たなナラティブを生みだし、ソーシャルメディアで爆発的にシェアされます。今年の夏も要注目です。

P&G ‘Thank You Mom’ Campaign Ad: “Best Job” (London 2012 Olympic Games) – YouTube

ユニクロ:MADE FOR ALL

手頃な価格で手に入る、高品質で機能的なベーシックウェア「LifeWear」を推進し、機能性とシンプルなデザイン、高機能を強調し、日常生活に自然に溶け込む服を販売しています。「MADE FOR ALL」は、アクセシビリティーと包括性を強調し、多様なニーズやスタイルに対応するコンセプトです。

▼UNIQLO : made for all
https://www.uniqlo.com/made_for_all/jp/

スタジオジブリ:『君たちはどう生きるか』

自然や想像力、子供時代のノスタルジーなど社会的テーマで、世界的に支持されるアニメ映画を多数作り続けています。強い女性を主人公にした物語が多いのも特徴。『君たちはどう生きるか』は、ほぼ広告宣伝をせず、難解な作品だったこともあり、人々の間で大きな話題となりました。ゴールデングローブ賞アニメ映画賞を受賞。

映画『君たちはどう生きるか』最新予告(海外版)|The Boy and The Heron’s New Trailer – YouTube

Soup Stock Tokyo

企業理念として「世の中の体温をあげる」を掲げ、健康志向が強い女性客から支持される専門店スープストックトーキョー。離乳食を無料で提供することを発表したところ、子育て世代の来客を忌避する独身層からネガティブな反応が。包摂と寛容のコンセプト「スープ for all!」の通り、自社の姿勢を丁寧かつ毅然と示した姿勢に賞賛が集まりました。

ヘラルボニー

「異彩を、放て。」をミッションに掲げる、知的障害を持つ人々がアートやファッション、デザインを通じて才能を発揮する機会を創出している「福祉実験カンパニー」です。障害者を社会的弱者ではなく、社会を豊かにするユニークで価値ある視点を持った存在だと捉え、インクルーシブで公平な世界を作る活動をしています。

ESGやSDGsでもナラティブが重要な鍵、だが…

これらの事例は、ナラティブがいかに強力なマーケティングツールになるかを示していますが、同時に、批判と監視の対象にもなっています。例えば、ベネトンのアプローチは、悲劇を利用しているだけだと糾弾され、ナイキやファーストリテイリングも、強制労働などエシカルな観点から批判され続けています。

企業にとってナラティブなアプローチが有効かは、企業の倫理観や行動との整合性に大きく依存します。重要なのは、企業の価値観との一致や信憑性、ナラティブに込められた約束の実現です。諸刃の剣でもあることには、十分に注意しておきましょう。

社会課題とビジネスの接点と言えば、ESG(環境と社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)が思い浮かびます。持続可能性を強調する企業にとって、ナラティブは重要な役割を担っています。消費者だけでなく、従業員や取引先、地域、行政、そして社会に対して、自社の製品やサービス、サプライチェーンを通じて何ができるのか?ステークホルダーとの相互対話を続けることこそが、持続可能な社会の実現に直結しています。

2022年のWEF(世界経済フォーラム)では、国連事務次長(グローバルコミュニケーション担当)が、GoogleやTikTokなどの大手IT企業と、気候変動や新型コロナウイルスを巡るナラティブについて協力していくことについて語りました。物語を掌握することの重要性は、経済や政治、国際、医療、教育分野などでますます注目を集めています。

▼UN tells WEF how it partners with tech platforms to promote narratives
https://reclaimthenet.org/un-tells-wef-partners-tech-promote-narratives

その一方で、ESGやSDGsを掲げる企業が矛盾する行為をしていたり、グローバルサウスの国々に負担を付け回している現実がたびたびニュースになります。従業員がコンプライアンス違反をして、ソーシャルネットワークで炎上するのも、大して珍しくありません。具体的な行動を伴わない表面的なストーリーや宣言は、齟齬を生み出すことで信頼を損なって価値を低下させるだけでなく、組織の未来を危うくします。


B2Cの良好なナラティブがB2Bにプラスの影響を与える一方で、一部の企業では、人々のナラティブを味方に付けることに失敗しています。炎上からリカバーするコストや時間などの被害は、時に甚大です。ナラティブはなぜ失敗するのか?その原因について、次回の記事で詳しく観察してみましょう。

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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