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バイオテクノロジー

数学修士からバイオ分野の社会人博士にフィールドチェンジした感想

理人

私は、数学の修士課程を卒業してひょんなことからバイオ(バイオロジー)を研究することになり、大学院の博士課程に進学しました。バイオは私たち生物に関する学問であり、生命の理解や、医療と健康のために必須の学問です。今回の記事では、大学院に進学して3ヶ月経った私が感じたことをお伝えします。私と同じように数学を使う物理や情報、工学出身の方が新たな分野を開拓するにあたって、バイオ分野がおすすめである理由を紹介します。

就職して初めて数学からバイオへ

私は現在バイオ分野の研究をしていますが、大学時代は生物の講義はなく、高校1年生のときに勉強したきりでした。大学と大学院では、数学を専門としており、表現論という複雑なものをより扱いやすい形に表現するための理論を研究していました。BlueMemeに入社し、共同研究プロジェクトに参画することになって初めて、本格的にバイオ分野について学び始めました。

九州大学大学院の研究機関に所属

2023年4月から、九州大学大学院のシステム生命科学府(生体防御医学研究所)というところに所属しています。

▼システム生命科学府
https://www.sls.kyushu-u.ac.jp/

▼生体防御医学研究所
https://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/

「システム生命科学」については、ほとんどの方は聞き馴染みがないでしょう。これは、生物の遺伝子やタンパク質などをミクロな視点で単独に理解しようとするのではなく、それらがどのように相互作用して組織や生物全体の挙動を引き起こすのか、マクロな視点で理解しようとする学問です。システム生命科学は、生物学や数学、物理学、情報科学など、多くの異なる学問領域が交差する場所に位置しています。そのため、システム生命科学府の学生も教員も、さまざまなバックグラウンドを持つ方が多いです。

感想1:バイオロジーは数理科学・情報科学ととても相性がいい

システム生命科学府に進学し、講義を受ける中で気づいたこととして、バイオロジーと数理科学・情報科学の相性の良さがあります。それには、以下のような理由が挙げられます。

  • 生物の設計図であるゲノムは30億の文字データを持つなど、バイオロジーのデータは大規模のものが多く、効率的に解析する必要がある
  • 生物学的現象を数学的にモデリングし、シミュレーションすることで理解を深められる

そのため、論文を読んでいて数式が出てくることも多いですし、講義を受けていても線形代数と微分積分、統計学、機械学習などの話題がたくさん出てきます。

感想2:生物の仕組みはデジタルかつシステマチックで面白い

生物は暗記科目でつまらないものという印象でしたが、共同研究に携わり始めてから、そして博士課程に進学してから印象がガラッと変わりました。生物の身体はゲノムという設計図に基づいて、高度にプログラミングされた複雑で大きなシステムであり、そこにはノーベル賞級のメカニズムに溢れています。

例えば、DNAは生命の基本的な情報を保存し、伝えるための「コード」のようなもので、それは4つの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン、それぞれA, T, G, Cと表記されます)の組み合わせで書かれています。この情報は、DNAからRNAへと転写され、その後、RNAからタンパク質へと翻訳されるというプロセスを経て、「実行」されます。このような観点から生物の仕組みを学び、研究するのは非常に面白いです。関連する記事や書籍もあるので、併せてご覧ください。

▼「生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像(ブルーバックス)」(田口善弘著、講談社)
https://amzn.asia/d/g5k89mO

感想3:バイオロジーはハードウェア・ソフトウェア両面の技術進化によって高速にアップデートされている

バイオテクノロジーは、ハードウェアとソフトウェアの進歩とともに、目まぐるしく状況がアップデートされている真っ只中です。下記はごく一部の例ですが、これらの技術的進歩が相互に連携することで、生物学的な問いを新たな角度から捉えることを可能にし、新たな発見や理解を促進しています。

ハードウェア関連の進歩の例

  • 次世代シーケンシンサー(NGS): DNAまたはRNAを高速かつ大規模にシーケンス(読み取り)できる装置です。これにより、ゲノムを解析する能力も格段に向上しました。
  • シングルセル解析:各細胞が持つ独自の遺伝的情報を解析することで、細胞間の遺伝的な異質性を理解することが可能になりました。これまでは組織全体の平均的な情報しか解析できなかったところを、各細胞レベルで詳細に解析できるようになりました。

ソフトウェア関連の進歩の例

  • 深層学習(ディープラーニング):大量の生物学的データを解析し予測することを可能にしました。
  • ゲノムワイドアソシエーションスタディ(GWAS):この手法を用いることで、特定の表現型や疾患と関連する遺伝的マーカーを全ゲノム規模で探索することが可能になりました。

感想4:幅広い知識とスキルが必要で、勉強することが多い

目まぐるしくアップデートされる状況に応じて、システム生命科学を研究するのに必要な知識もどんどん増えていっています。私が必要だと感じている知識を、以下に列挙してみます。

  • 生物学の知識:メインは研究テーマ分野の知識があればいいのですが、細胞生物学や分子生物学、遺伝学、生化学、生態学、進化生物学などを幅広く知っているに越したことはありません。
  • コンピュータサイエンスの知識:解析のためにアルゴリズムやデータ構造、オブジェクト指向プログラミング、データベース管理などの知識が必要です。
  • プログラミングスキル:R、Python、Linuxなどが必要です。
  • 数学の知識:微分積分や線形代数、統計学は必須です。
  • この他、ゲノム解析ツールやデータベースの利用についても、知識が求められます。

これらの知識とスキルのキャッチアップのため、講義を受けたり論文を読む、実装を試す、などやることは盛りだくさんです。だからこそ、この分野を研究するのはエキサイティングで面白いと感じています。また、数学やプログラミングなどに強みがある人は、それを活かして研究をやっていけるとも言えます。

STEM系学生のキャリアとしてバイオはオススメ!

バイオロジー、特にシステム生命科学は生物学の基本的な要素から、高度な数学、物理学、コンピュータサイエンスまで、幅広い知識とスキルを必要とする学問分野です。博士課程に進学してから若干3ヶ月ですが、その面白さと難しさに圧倒される日々です。

数学修士の目線で振り返りましたが、学部や修士で数学や物理、工学、情報科学を学んだ皆さんには総じておすすめできるエキサイティングな分野だと思います。この記事を読んで現在のバイオ分野、そして社会人博士進学に興味を持ってくれる人が増えることを期待しています。

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理人
理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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