OODAループって何?PDCAとどう違う?特徴や注意点をチェック
「OODA(ウーダ)ループ」という言葉を聞いたことはありますか?これは、スピーディーな意思決定のためのビジネスフレームワーク(問題を解決するための考え方や概念、方法を体系化した枠組み)の一つです。
同じようなフレームワークとして、「PDCAサイクル」はすでに広く使われていますが、最近OODAループを見聞きする機会も増えてきました。今回は、この両者の特徴や違いを通して、新しい仕事のやり方や考え方に触れてみましょう。
知ってる人は知っている、OODAループとは何なのか?
OODAループとは、Observe(観察)、Orient(方向)、Decide(決断)、Act(行動)の頭文字から取った言葉です。これは、アメリカ空軍の戦闘機パイロットであり、後に軍事戦略家となったジョン・ボイド氏が考案した概念です。
OODAループには、以下の4つのステップがあります。OODAループの背景にある考え方は、個人や組織が環境の変化に迅速に対応できるように、意思決定のために構造化されたアプローチを提供することです。
Observe(みる:観察):状況を観察し、データを収集して、変化や傾向を把握する
Orient(わかる:仮説構築):データを分析・解釈し、その意味を理解する
Decide(きめる:意志決定):分析結果に基づいて行動指針を作成し、選択する
Act(やる:行動):選んだアクションを実行し、その結果をモニターする
みんな知ってる・やってる、PDCAサイクルといえば?
一方、PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(行動)の頭文字から取った言葉です。こちらは、アメリカの統計学者であり品質管理の専門家であるW・エドワーズ・デミング博士が考案した、継続的な改善手法です。
PDCAサイクルは、以下の4つのステップです。PDCAサイクルは、組織が製品やサービス、プロセスを改善するための手法です。使っている・知っている方も多いでしょうが、比較のためにおさらいしておきましょう。
Plan(計画):問題を特定して目標を設定し、対処するための計画を立てる
Do(実行): 立案した計画を実行する
Check(評価):結果を評価し、目標と比較する
Act(行動):さらなる改善策を講じ、このサイクルを繰り返していく
OODAループとPDCAサイクルは、どこが違う?
OODAループとPDCAサイクルは、どちらも4つのステップで構成されていますが、この2つのフレームワークはいくつかの重要な点で異なります。OODAループは、組織が環境の変化に素早く対応するための意思決定フレームワークです。対するPDCAサイクルは、組織が製品やサービス、プロセスを長期的に改善していくためのフレームワークという違いがあります。
フレームワーク | OODAループ | PDCAサイクル |
目的 | ダイナミックな環境下での意思決定 | 安定した環境下での継続的な改善 |
ステップ | 観察→仮説構築→意志決定→行動 | 計画→実行→評価→行動 |
フォーカス | 変化への迅速な適応 | 時間の経過による段階的な改善 |
目標 | 競争優位の獲得 | 製品やサービス、プロセスを長期的に改善 |
データ | データの継続的なモニタリングと分析 | データ主導の意思決定 |
行動 | 選択した行動指針を迅速に実行 | 継続的な実行と改善 |
フレーム ワーク | OODA ループ | PDCA サイクル |
目的 | ダイナミックな環境下での意思決定 | 安定した環境下での継続的な改善 |
ステップ | 観察→仮説構築→意志決定→行動 | 計画→実行→評価→行動 |
フォーカス | 変化への迅速な適応 | 時間の経過による段階的な改善 |
目標 | 競争優位の獲得 | 製品やサービス、プロセスを長期的に改善 |
データ | データの継続的なモニタリングと分析 | データ主導の意思決定 |
行動 | 選択した行動指針を迅速に実行 | 継続的な実行と改善 |
OODAループは、生存と繁栄のために迅速な適応が必要とされる、ダイナミックな環境での意思決定に主眼が置かれています。そのため、予測不可能な環境においてスピードと俊敏性が不可欠な場合に特に有効です。例えば、緊急事態や危機管理、サイバーセキュリティーなど、ダイナミックに変化する状況を素早く把握し、スピーディーに対応することが重要な時に最も効果を発揮します。軍事作戦の専門家が提唱したのも納得です。
一方、PDCAサイクルは、より安定した環境での継続的な改善に主眼が置かれていて、時間の経過とともに徐々に変化し、大きな改善へとつながるようになっています。そのため、製造業や医療、サービス業など、幅広い業界や状況に適用することが可能です。組織が改善すべき領域を特定し、変更しながら、望ましい結果が達成されるまで結果を監視するのに役立ちます。学者がじっくり考案したイメージが浮かびます。
意志決定と行動にどちらのフレームワークを選択するかは、チームや組織のカルチャーや、プロジェクトの具体的なゴールによって異なります。場合によっては、両者を組み合わせることが、最も効果的な場合もあります。
PDCAサイクルが定着したチームを、OODAループへとシフトできるのか?
前述のような違いを把握した上で、あなたが組織やチームにOODAループを導入したいと考えたとしましょう。PDCAサイクルがすでに定着しているチームの考え方やマインドを、OODAループへと変えていくことは、理論上は可能です。しかし、決して容易なことではありません。
その理由は、意思決定に対する構造的で段階的なアプローチに慣れているコミュニティーでは、カルチャーを大きく転換させることが避けられないからです。では、具体的に何をすべきかを考えてみましょう。
リアルタイムデータの重要性を強調する
OODAループの意思決定は、リアルタイムでデータを収集し、スピーディーに分析する能力に依存しています。組織は、データを迅速かつ効果的に収集し、処理し、行動するためのインフラと能力を開発する必要があります。
実験し、リスクを取ることを奨励する
OODAループは、たとえ結果が不確実だとしても、実験したりリスクを取って挑戦する意思を奨励します。そのためには、単なる声掛けだけではなく、チャレンジに寛容で、失敗を学習の機会として支持する体制やカルチャーが不可欠です。
意思決定プロセスを合理化する
OODAループはスピードこそが命なので、意思決定プロセスを合理化することが必須です。遅延の原因となる、封建的な官僚主義や、政治的な根回しは徹底的に排除する必要があります。
コラボレーションとコミュニケーションを育む
OODAループでは、チームメンバー間だけでなく、外部のステークホルダーとの密接な協力関係と意思疎通が必要です。つまり、組織は垣根を取り払い、透明性と開放性のある文化を創造する必要があります。
チームにOODAループを浸透させるために、リーダーがすべきこと
では、OODAループの考え方をチームに導入し、定着させていくには、トップダウンとボトムアップのどちらが効果的でしょうか?
答えは、その両方です。迅速な意思決定と継続的な改善を支援する環境づくりには、上下両方向からのアプローチによる、協調的な取り組みが重要です。
まず、リーダーシップについて考えてみましょう。リーダーは、ビジョンを設定し、成功のための条件を整えるために、次のような重要な役割を担っています。
危機感を示す
リーダーは、意思決定におけるスピードと俊敏性の重要性を冷静に伝える必要があります。状況の変化への対応が遅すぎることのリスクを、はっきりと示します。
必要なリソースを提供する
リーダーは、OODAループの考え方への移行をサポートするために、テクノロジーやデータ分析機能、トレーニングなど、必要なリソースを提供する必要があります。
自分が模範となる
リーダーは、自らリスクを取って、実験し、失敗から学ぶ意欲を示すことで、他のメンバーから見られる行動の模範となる必要があります。
メンバーにもある、OODAループ普及のための重要な役割
チームがOODAループの考え方を受け入れ、浸透させていく上で、個々のメンバーもまた、次のような重要な役割を担っています。
変化に対してオープンである
新しいアイデアや仕事のやり方を頭ごなしに否定せず、柔軟に受け入れて、現状に挑戦する姿勢が必要です。
チャレンジしながら学習するマインドを育てる
リスクを取って挑戦し、失敗から学ぶことに寛容な環境があれば、メンバーは自分事としてチャレンジできます。
協働することとコミュニケーション
メンバー同士が協力し、オープンで透明性のあるコミュニケーションを通じて、全員が同じ目標に向かって協力し合う必要があります。
このように、OODAループの考え方をチームに定着させるには、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチが必要です。リーダーシップで方向性を示し、必要な環境やリソースを提供する一方、メンバー各個人は学習マインドを鍛えながら、他者と積極的に協力することが必要です。
OODAループとアジャイル開発の共通点
皆さんはすでにお気づきだと思いますが、OODAループというビジネスフレームワークは、アジャイル開発には不可欠です。一方、各ステップを着実に進めていくPDCAサイクルは、ウォーターフォール開発に通じる考え方だと言えるでしょう。
ただし、OODAループは、すべてのプロジェクトや状況において、必ずしもPDCAサイクルに取って代わるものではありません。どちらも意思決定のために有効なフレームワークですが、両者は異なるタイプの課題に対処するために設計されています。この点も、ソフトウェア開発手法が適材適所なのと同じですね。
その上で、OODAループへのシフトチェンジが必要な場合は、適切なリーダーシップや、より迅速な意思決定と継続的な改善をサポートする文化、システムの変更などが不可欠です。また、スピードや俊敏性、適応能力をより重視することもポイントです。オープンマインドでステークホルダーと協力関係を築きながら、時代の変化に柔軟に対応していきましょう。