女性エンジニアが少ない理由は女性エンジニアが少ないから!でしょ
経済産業省の「DXレポート」で指摘された、団塊ジュニア世代の一斉退職による「2025年の崖」が徐々に迫っています。人手不足と採用・育成コストという問題は、業界を問わず、すでに現時点で深刻な課題です。
しかし、女性ITエンジニアの比率はなかなか増えず、改善も緩慢です。従来、ITエンジニアと言えば、社外パートナーのSIerに所属している人材というケースが多くありましたが、今は社内に確保・育成することが求められています。優れたDX人材の確保・育成という間口を性別で制限するのは、そもそも無意味で非合理的です。実は、この問題を解決することは、組織やチーム、男性にとっても大きな意義があります。
今回の記事タイトルは禅問答のようですが、『女性エンジニアを増やすには、先例や環境を作って拡大していく』ことが重要です。今もある男女格差という背景や、期待されるFemTechによる女性の支援という話の流れでご覧ください。
女性エンジニアが直面している課題
リープリーパーでは、女性エンジニアを取り巻く現状の課題について、何度か紹介してきました。旧い体質の組織では、ジェンダーバイアスのそもそも何が問題なのか自覚できていないことも珍しくなく、実はIT業界も例外ではありません。「女性×エンジニア」には、さまざまなハードルがあります。
- 社会的な固定観念:一人のエンジニアである前に、女性として見られることの煩わしさや、私生活と仕事のバランスは大きな課題です。女性は伝統的な役割分担に従わなければならないという親世代の無理解や、地域・文化的な違いによるプレッシャーにも晒されています。
- 変化する業務への適応:プロジェクトやタスクは、常に変更される可能性があります。アジャイルなチームであればなおさら。メンバーは新しい状況に素早く適応する必要がありますが、これは特に子育て中のエンジニアには非常にハードです。
- 継続的な学習とスキルの更新:世の中の変化の激しさは、BANI(脆弱性がある/不安な/非線形の/理解不能な)というキーワードで表現される現代。女性エンジニアも男性と同じように、ローコード・ノーコードやアジャイル開発など、最新テクノロジーや業界トレンドに常に敏感であることが求められます。
マミートラックという制限付きコースの罠
女性というだけでなく「母親×エンジニア」だと、厳しさのレベルはさらにアップします。それが「マミートラック」。産休や育休などから復帰した女性に責任のある仕事が任されず、キャリアアップが難しくなってしまう状況のことです。
重要な役割を任せてもらえないので、新しい経験を積むことができない。でも、経験がないと、重要な役割を任せてもらえない。仕事と私生活のどちらが大切かの二者択一ではなく、どちらも重要。個人の事情を汲んでもらうのは助かるけれど、だからと言ってメインの仕事から外されるのも消化不良。誰でも経験するこういったジレンマは、「母親コース」に乗せられてしまう多くのエンジニアたちが直面している問題でもあります。
改善のために、組織としてすべきこと・できること
一方で、リーダーやマネージャー職としては、どの程度のタスクならその人に任せて大丈夫なのかは非常に気になるところ。また、家庭を持つ女性たちの働きやすさが、独身者の犠牲の上に成り立つような歪な仕組みでは、遅かれ早かれ破綻するのは明らかです。
ジェンダーバイアスの是正は、より包括的で多様性のある職場を作る上で極めて重要です。1on1の面談でニーズを丁寧に把握したり、チーム内の意識を変える、現場のボトムアップの取り組みも必要ですが、働き方や評価制度、柔軟なマネージメント、ハラスメントに関するトレーニングなど、管理や労務レベルも含む組織全体での改革が不可欠です。
- 男女平等の推進:男女格差に対処することは、より公平で多様な環境を作ることにつながります。女性だけでなく、組織や業界の全員に利益をもたらします。
- ジェンダー目標を設定:男女平等を宣言し、財務業績だけでなく、男女平等の進捗状況に連動した四半期ごとや年間の成功目標を設定することも、有効な手段の一つです。
- 賃金格差の是正:男女間の待遇格差に対処するには、採用や賃金、経営層の目標など、透明性のある基準や考え方を明確にすることが有効です。
- 柔軟な勤務形態:リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な勤務形態にすることで、女性エンジニアが仕事とプライベートを両立できるようになります。
- 無意識のバイアスを排除:女性エンジニアが直面する一般的な二重基準や偏見を考慮し、プロセスを再設計する必要もあります。
- ブラインド履歴書の利用:過去記事で紹介したブラインドオーディションのように、応募者の性別や外見に左右されないように、性別や写真のないエントリーシートが利用されることも増えています(名前も応募番号)。
- 従業員教育:偏見や差別に対する認識の解像度を高めるために、採用と評価プロセスに関わるすべての人に、ジェンダーバイアス研修を義務付けることも不可欠です。
ロールモデルやメンターも育てていくしかない
重要な施策の一つが、女性エンジニアのロールモデルやメンターを育てていくことです。孤立感や不安を相談できる先輩や、リーダーシップに必要なスキルを学ぶ機会が少ない立場にとって、アドバイザーやメンターなど、自分をサポートして育ててくれる人の存在は非常に重要です。
これは、単なる一つの企業の人材不足対策ではなく、STEM(科学/技術/工学/数学)分野に進む女性たち全体を鼓舞し、育成する、長期的・包括的な成長戦略でもあります。性別に関係なく、メンターとしてもエンジニアを育てていく組織カルチャーが必要です。
- 女性のロールモデルに注目:ロールモデルが同性でなければならない縛りはありません。しかし、心身やキャリアの悩みなどを相談する相手は、やはり女性の先輩の方が安心かつ効果的でしょう。
- メンタープログラムを提供:仕事やキャリア、生活などに関して、必要なアドバイスとサポートを提供し、伴走者として支えてくれる、メンター自身を支える仕組みが不可欠です。
- 多様なロールモデルを紹介:さまざまなキャリアやスキル、背景、経験、働き方など、より多様なロールモデルを紹介することも有効です。
- 教育機関も対象に:「STEM分野は男の仕事」という誤解を解くには、就業前の早い段階から、高等教育の女子学生たちに現状を説明する機会も必要です。
- 露出機会の確保:オンライン/オフラインのネットワーキングを通じた緩やかなコミュニティー活動は、関係構築と意識の醸成に役立つだけでなく、メンターシップの機会にもなります。
女性エンジニアが働きやすい環境のための3つの要素
そもそも、女性エンジニアが働きやすい環境を整備することが、なぜ重要か?これを考える上で3つの視点があり、相互に深く関係しています。
DE&Iの推進
多様性と公平性、包括性を意味するDE&Iは、現代の組織にとって重要な経営指標の一つです。チームのメンバーによって多様な考え方や価値観、それぞれの事情を考慮すること。各自が十分に能力を発揮できるようなサポートを、柔軟に提供すること。お互いのことを尊重し、組織としてのゴールを目指して協力し合うこと。これらは、女性エンジニアが活躍できる組織ほど、高いレベルで達成されていると言っていいでしょう。
心理的安全性の担保
封建的・抑圧的・家父長的で成果目標のプレッシャーが強く、緊張と恐怖が支配する環境では、前例のないことにチャレンジしようという機運が起きないのは当たり前。性別に関係なくフラットかつ良好な対人関係を築くことで、より高い目標を目指す環境が実現します。個人の挑戦を後押しし、失敗しても個人の責任追求に終始せず、教訓を学びとして共有する寛容なカルチャーは、イノベーションには必須です。
ローコード・ノーコードの導入
ウォーターフォール開発を続けている男性よりも、産休・育休せざるを得ない女性の方が、リスキリングのチャンスかもしれません。効率的なソフトウェア開発手法であるローコード・ノーコード開発プラットフォームは、忙しいエンジニアや経験が浅い人にも、ビジネス現場で稼働するソフトウェアを開発できる機会を提供します。さらに、生成AIと組み合わせることで、スピードや品質、柔軟性もアップできます。
例えば、産休・育休は元々、主に母親のための制度でしたが父親にも拡がり、例えば「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度は施行されて1年半が経過しました。これは、パートナーの産後8週間以内に4週間(28日)を限度として、父親も休業時間を取得できる制度で、1歳までの育児休業とは別に取得できます。しかし、現実には人手不足や社内制度の不在、企業文化なども関係し、どの業界でも取得率は2割程度に留まっています。
いろいろな課題を解決することは、職種や雇用形態、子育てだけでなく介護や病気の治療、性的指向・性自認や障害、国籍や慣習などを越えて、多くの人々にメリットがあります。女性エンジニアが働きやすい環境は、男性にとってもより理想的な環境になるはず。これは、ローコード・ノーコード開発プラットフォームが、市民開発者(シチズンデベロッパー)の可能性を生み出すだけでなく、性別に関係なく全ITエンジニアのチャンスも広げることにも通じています。
時間と共に変わっていく個人のライフステージ、それまでの常識やルールではカバーしきれない社会の出来事、予期していなかった急なアクシデント、そして次々に革新されるテクノロジー。それらに柔軟に対応できる環境が、組織にも個人にも求められています。女性エンジニアという存在をきっかけに、いろいろな課題や可能性について、引き続きさまざまな角度から考えていきましょう。
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