生成AIの憂鬱を私たちはどう生きるか?―宗像仙人だより 013
巷では、相変わらずChatGPTに代表される生成AIに関する技術革新や拡張が止まりません。確かに、介護や工事、接客などの、非定型で人力が必要な業務は、まだまだ人の存在が重要です。一方で、例えば裁判の判例調査や学術論文の査読、検査画像の診断など、ホワイトカラーの専門職が担ってきた一部の業務は、そう遠くない将来、わざわざ人がする必要がない仕事になるかもしれません。実際に、ユーザーサポートや資料作成、広告運用などの業務は、生成AIを導入することで効率化・自動化が実現できている例も報告されています。
今回は、宗像仙人さんから聞いたショックな話を皮切りに考えてみましょう。気が向いたら、前回の記事もぜひご覧ください。
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『あの神童が』…とあるホワイトカラーの憂鬱
今年の夏は、コロナ禍で中止されていた3年振りのお祭りやフェス、花火大会などで賑わう一方、一部では主催者も参加者も大変だったようです。
お盆も、運悪く西日本と東日本でそれぞれ一つずつ台風がやって来て、帰省や移動が大混乱しとった。
それに、新型コロナウイルスの感染は、第9波の変異株「EG.5(エリス)」も警告されてますし。まだまだ、環境の変化や制限は続きそうです。
帰省と言えばさ、こんな話を知り合いの先生から聞いたよ。今、『AIが普及するといろんな仕事がなくなるかも』って話が出よるやん?俺たちもその話を時々しよるけど、それをその先生にたまたましたわけさ。そうしたら『いや、もう実際にありましたよ』って言われた。
あぁ。
学校に、小さい頃から地元では神童と呼ばれていたような、とある優秀な子がいたんだと。トントン拍子で有名校に進学し、大企業に入ってからも、順調に出世街道を進んどった。ところが、その人が、この前クビになって地元に帰って来たって。
生々しい。
聞けば、働いていた会社で、とある基準値を年に0.2%、5年で3%とか地道に上げることに自分の仕事人生を賭けてきたそうな。
調査や研究、R&D部門では、微々たる数値でも、その分野では着実な進化という成果だったりします。
ところが、2年ぐらい前に入社したヤツをアメリカに研修にやったところ、新しいテクノロジーを使って、日本に帰って来たらいきなり7%を達成したそうな。そうしたら、元からいたその人は、会社から『今までご苦労様でした』ということになったんだと。
…エグいな。
で、恩師である先生に、『帰ってきて、私は何をしたらいいんでしょう…』っていったんだと。詳しく聞いたわけじゃないけん、その技術がAIやったかどうかはわからんけど。
明日は我が身…世知辛いと言うか、その人が新しい生き方を見つけているのを祈るばかりです。
俺はもう逃げ切れとるからいいけど。
そう言わずに、もうちょっと付き合ってくださいよ!ある意味、先人としての責任でもあるんだしさ。
古い手法や常識を常に上書きしてきた、新技術の可能性とリスク
技術のフラット化が進めば、こういうことはこれからもますます起こる。生成AIがさらに普及したら、一部の仕事は効率化され、生産性も向上すると期待されとる。
民間企業だけでなく、自治体でも導入が拡がってます。
でも、真っ先に影響を受けるのが、ホワイトカラーといわれとる。
ChatGPTを開発する、OpenAIのS.アルトマンCEOも言ってました。『一部の仕事は間違いなくなくなるが、その代わりに新たな仕事が生まれる可能性もある。ただし、すべての離職者が恩恵を受けるわけではない』と。
でもさ、こういうことは今まで何度もあったことやろ。古くは、電話回線の自動接続で、電話交換手という仕事が要らんくなった。
流石に、それはリアルタイムでは知りませんけど(笑)、確かに、技術の変遷で業界が激変するのを、仙さんとは一緒に見てきましたからね。
そう。例えば、PostScriptとレーザープリンターが登場して、印刷業界にDTP(デスクトップパブリッシング)という大波が押し寄せた。
日本のDTPの起爆剤になったApple LaserWriter II NTX-Jを、ただのオモチャだと軽く見ていた業界人も多かった。
テレビやビデオ業界もそうやったろうが。高い専用機やワークステーションじゃないとできんかったいろんな処理が、次々にパソコンでも可能になった。
SuperMac社が販売していたビデオカードに、無料でバンドルされていたビデオ編集ソフトウェアAdobe Premiereを、ただのオモチャだと…(以下略)。
映画やテレビ産業でも、これからさらに高品質なコンテンツを生成できれば、クロマキー合成やロケ撮影、スタジオ、モデルとかも要らんくなる。
バーチャルキャラクターはスキャンダルも起こさないし、炎上投稿もしない。
つまり、俺らが直面しとる状況は、テクノロジーの普及で多数の生産性を向上させる一方で、どこかの誰かの職を奪うことになるかもしれん。
しかも、そのインパクトは今までの比じゃない。でも、沈みゆく船の中で椅子取りゲームしてもなぁ…。
AIによる格差を埋めるためには、現場に参加するのが重要
サービス業のような第3次産業のホワイトカラーたちは、新しいテクノロジーによって職を奪われる。何も準備しとらんやったら、自分個人の能力を発揮できる生産性が高い仕事にも就けん。会社という組織の力やなくてね。そこに大きな格差が生まれるのは仕方ない。
格差と言えば、『AIと人間の格差よりも早く広がるのが、AIを使いこなす人と使わない・使えない人との格差やと思う』って、仙さん言ってましたね。
[nlink url=/2023/07/27/has-generative-ai-hastened-singularity/]
そうなるやろ。というか、実際、そうなっていきよる。
ちょっと話が変わるかもしれませんけど、全米脚本家組合(WGA)が5月から、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が7月からストライキを決行して、映画やドラマの制作がストップしてます。この記事を書いている8月後半時点で、まだ妥結には至ってません。
見たい映画が作られんのは、消費者としても困るけど。
でもこれって、シナリオ作りに生成AIを使うことや、デジタイズした俳優のアバターとかを全否定しているんじゃないんですよね。使い方・使われ方に、関与できる権利を主張してるわけで。避けられない変化である以上、妥協点やルール作りに、ちゃんと自分たちの声を反映させろ、と。アメリカはユニオンが強いってのもあるけど。
「その場」に自分が参加した上で、言いたいことを言うのは大事。
宗像仙人版『君たちはどう生きるか』はさらに続く
AIのようなテクノロジーが進化して、人間がやらなくてもいいことばかりになれば、人はもう生きていくために働く必要はない社会が何れ実現するって考える人もいます。やや極端なユートピア思想だとは思いますが。海外では、週4日勤務(週休3日)がテストされてたり。
暇になった時間で何をするか?もやけど、それが本当に実現するまでに、どうやって食いつなぐのか?っていうのは、現実の問題やろね。
今の日本だと、一部の組織では賃金カットに都合よく使われる可能性もありそうでイヤだな。
しかし、日本のマスコミは、こういうのを積極的には取り上げんやろが。
だって、こういう現実を詳しく知らせてしまうと、個人じゃなくて一部の企業にとってはまずいことになるからでしょ。特に、メディアのスポンサーだったりするところの。
そりゃそうやろ、考えてもみてん。30年も経ったら、最初の話の個人どころか、会社の多くが『あんたたちはもう要らんよ』っていわれる可能性があるんやから。
アクセンチュアのレポートでは、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)で、全労働時間の約40%が影響を受ける可能性があると指摘されています。この表で上から3番目の「ソフトウェアとプラットフォーム業界」は、言語化の増強や自動化で57%が生産性が向上すると示されています。
だけん、ローコード・ノーコード開発プラットフォームに生成AIが組み合わされるのは、必然なわけさ。
必要のない仕事が消えていくと同時に、AIや機械学習のスペシャリスト、データアナリスト、科学者などのニーズは高まっていく、と。
無くなっていかざるを得ん仕事と、新しいチャンスが生まれる仕事、それら両方を注目しとかんとな。
微妙に『君たちはどう生きるか』風ですね。実際、そうなんだけどさ。
さて、この「宗像仙人シリーズ」は、私たちの仕事や生活に深く関わるいろいろなテクノロジーについて、あれこれ語ってきました。無関心でいることのリスクについて警鐘を鳴らしつつ、かといって無責任に明るい希望や安直な解決策を語るでもなく、時に揶揄や皮肉なども軽く交えながら、現場のリアルに触れてきました。今後もまだまだ続く予定ですが、テクノロジー好きなギーク(オタク)たちが、単に自分たちの妄想を仲間内で喋って終わるだけではありません。
そこで今回、先日の記事でローカル x リテールDXの事例として紹介した、福岡県宮若市役所の取材に行ってきました!
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初の外部取材となりましたが、日本各地の自治体や民間企業の視察もひっきりなしということで、現場のご担当者さんならではの貴重な話をいろいろ聞くことができました。次の記事もどうぞお楽しみに!
この記事の内容は、個人的な見解や感想であり、リープリーパー編集部や運営組織を代表するものではありません。
この記事でインタビューをした方
宗像仙人 / Sennin Munakata
テクノロ爺
量子コンピューターやAI、常温核融合など、テクノロジー全般に関心が尽きない元ITコンサルタント。趣味も幅広く、万年筆やアルコールから、軍事研究、最新アニメ番組のチェックまで。福岡県宗像市のオススメは、沖ノ島と道の駅。
理人様 見ず知らずの者に温かいアドバイスをありがとうございます。 生物学の中だけ…
Soさん、ご質問ありがとうございます。 博士課程で必要な生物学の知識は、基本的に…
貴重な情報をありがとうございます。 私は現在データエンジニアをしており、修士課程…
四葉さん、コメントいただきありがとうございます。にんじんです。 僕がこの会社この…
面白い話をありがとうございます。私自身は法学部ですが哲学にも興味があります。 ふ…