マイクロマネージメントでやるべきは、社員の監視ではなく○○だ!
『計測して数値化できないものは改善できない』とは、ビジネスシーンでよく言われる台詞。しかし、マイクロマネージメントによって社員の行動を全て細かくログで取得したところで、果たして本当に費用対効果が得られるでしょうか?アジャイルを推進するリープリーパーとしては、監獄のような懲罰的な仕組みではイノベーションにつながらないと、前回の記事で指摘しました。
今回は、マイクロマネージメントの活かし方や注意点と、組織とリーダー、個人というそれぞれの立場ですべきことを考えてみましょう。
パノプティコンで監視された状態でイノベーションなんて起きるか?
アジリティーと自律性によって実現されるレジリエンス
監視と言えば、システムに起きるインシデント(障害やトラブル)は正確に把握して、いち早く対処すべきです。しかし組織がトラッキングする必要があるのは、個人のマウスの動きやキーストローク、顔の動きよりも、過度な成果主義に陥らない仕事の成果です。社員が創意工夫する能力も、監視をすり抜けるハックよりは、ビジネスで成果を上げるイノベーションに応用する方が、精神衛生上もいいはずです。
新型コロナウイルスのパンデミックや、世界情勢の混乱、テクノロジーの進化によって、ビジネス面で私たちが再認識したこともいくつもあります。例えば、準備や対策をしているつもりでも、予想を上回る避けられない変化が必ず起きること。緊急時に露呈するのが、形骸化したルールには存在意義がないということ。ダメージを受けた時に重要なのは、そこから回復するレジリエンス(回復力)や柔軟性であること、などでした。
プロジェクトの進め方の概念であるアジャイル(俊敏さ)は、ソフトウェア開発に限りません。計画に基づいて、リリースと改善を高速に繰り返しながら、最短距離でゴールを達成する手法です。オープンなコミュニケーションが成立する心理的安全性が確保された環境では、定期的にフィードバックが共有され、最も効果的なアプローチによって、目的が達成されます。ここで重要なのが、コンパクトなチームの中での相互信頼と協力、各メンバーの自律的な行動です。自分の仕事に対して責任を負うと同時に、自分にとって最適な方法を選択する自由も与えられます。
マイクロマネージメントのカギは、監視と○○のバランス
マイクロマネージメントを導入する上で重要なのは、監視ではなく、信頼とのバランスです。
過剰な監視システムは、社員の憤りや離職、さらには燃え尽き症候群につながる可能性があります。また、ストレスの多い職場環境では、創造性や生産性を阻害しかねません。一方、信頼と透明性が担保されたオープンなコミュニケーション文化があれば、社員は否定的な反応や報復を恐れて萎縮することがなく、アイデアを共有したり、疑問や懸念を率直に上司に示せます。社員が一人ひとり違うのは当たり前で、マイクロマネージメントが役立つ構造化された環境で成長する人もいれば、自律性を好む人もいます。例えば、自由な発想が必要なクリエイティブワーク(世の中には、創造性が関係ない仕事などありませんが)には、別のアプローチの方が効果的かもしれません。
プロジェクト管理サービスや時間管理ツールなど、社員がより効果的に時間を使えるサービスは、使い方次第では効果的でしょう。説明責任と敬意を意識しながら、信頼や支援を目的としてテクノロジーを応用することが重要です。効果的なフィードバックの与え方や社員のサポート方法について、管理者側もトレーニングする必要があります。社員の心理的安全を確保しつつ、組織の合理性を実現することをゴールに設定して戦略的に運用しましょう。
設定や運用を調整することで、社員の一挙手一投足をすべて常に監視しなくても、必要な情報だけを管理者が把握できます。また、社員には、自分のデータがどのように収集され、使われているか認識できる、一定の権利を与える必要があります。必須ではない項目では、社員が選択した条件に従って、データ収集からオプトアウトできるようにするのは理想的です。
以下で、マイクロマネージメントと自律性の良好なバランスを維持するためのポイントを、組織とリーダー、個人というそれぞれの立場から、もう少し詳しく考えてみましょう。
マイクロマネージメントの罠に陥らないために:組織編
マイクロマネージメントも、コストと効果を天秤にかける必要があります。実施することで大きな成果が上がるよりもむしろ、信頼の欠如や失敗への恐れなど、より大きな問題を引き起こすことが多いのも現実です。離職率の上昇や社員の士気の低下につながることもあります。
実施する方もされる方も手間とストレスだけが多いと、手段が目的化しがちです。社会や環境の変化、他者はコントロールできませんが、社内のコミュニケーションならマネージメントできる余地があります。
組織がすべきこと
- 明確なガイドラインを策定する。何を、いつ、どのように管理・監視するのが適切か、具体的に示し、すべての管理職に周知徹底させる。
- 効果的なコミュニケーション関する研修を提供する。効果的な回答や社員のサポート、信頼と透明性のある企業文化について、管理職をトレーニングする。
- 監視と自律性とのバランスが取れるテクノロジーに投資する。ガイドラインを遵守した範囲で社員の行動を追跡できるソフトウェアを導入し、社員が自分のデータがどのように収集され、使われているかを認識できるように、オプトイン・オプトアウトなど透明性を担保する。
- 社員からフィードバックを収集し、分析する。定期的に社員の認識を把握し、そのフィードバックを改善に役立てる。
- 信頼と尊敬の文化を創造する。社員の離職率が高止まりしている場合は、経営層の意識改革による組織カルチャーの改革が不可欠。
マイクロマネージメントの罠に陥らないために:チームリーダー編
管理者としてのリーダーやマネージャーは、まずは現場の懸念に真摯に耳を傾ける必要があります。場合によっては、自分たちが実施していることがマイクロマネージメントになってしまっていると、気づいていないこともあるからです。
社員が各自の経験や認識を共有し、マイクロマネージメントの課題について一緒に解決策を考える、チーム内の機会も有効です。課題を属人化させないためにも、チームディスカッションでさまざまな懸念材料を洗い出す一方で、個別の事情を把握することも必要です。社員同士が抱えている懸念を共有し合い、安心して発言できるような、より協力的な環境を育てましょう。
同時に、1on1など個別相談の機会は有効な方法の一つです。ただし、一対一で対峙する関係が、かえって抑圧的・閉鎖的にならないことが前提です。マネージメントの内容や手法、理由を説明したり、必要な調整や改善を検討しましょう。
チームリーダーがすべきこと
- メンバーに対して、期待を明確かつ一貫して伝える。期待値を設定し、そのパフォーマンスについて、必要なフィードバックとサポートを提供する。
- メンバーに、仕事の管理権限を与え、意思決定を委ねる。行動を細かく管理するのではなく、自分にとって最適な方法で仕事をする自由を与える。
- プロセスよりも成果を重視する。時間の使い方ではなく、成果に基づいてメンバーを評価する。
- 協力的な環境をつくる。オープンなコミュニケーションとチームワークを奨励し、信頼と尊敬のカルチャーを醸成していく。
マイクロマネージメントの罠に陥らないために:チームメンバー編
マイクロマネージメントの問題に限りませんが、いきなりチーム全体に共有したり、マネージャーに直訴するのはやや危険かもしれません。自分が抱いている懸念を信頼できる同僚に相談することで、状況を別の視点から見ることができます。
会社で導入している管理システムが機能していても、それが個人にどう作用しているかまでは、リーダーが具体的に把握しているとは限りません。ログやスクリーンショットなど、マイクロマネージメントの具体例を記録しておくと、リーダーと問題を冷静に話し合う時に役立ちます(ただし、攻撃の武器として使わないように)。
それでも、過大なプレッシャーを感じている場合は、セラピストやカウンセラーに専門的な助けを求めることも必要かもしれません。ストレスや不安が強くなればなるほど、冷静な判断ができなくなるため、早めの相談が有効です。抑圧的な管理体制を捨てられない組織の場合は、転職活動も視野に入れるべきでしょう。
メンバー各自がすべきこと
- 上司からのフィードバックを積極的・定期的に求め、改善点を特定する。
- マイクロマネージメントに関する懸念、疑問や不安を感じたら、上司に相談する。
- 問題を解決するために、積極的にイニシアティブを執る。自分の仕事の管理権限を自分自身で持ち、自立して仕事ができることを上司に示す。
- プロとしての前向きな態度を保つ。仮に、上司や組織のやり方に同意できないとしても、常に敬意を払って冷静に行動する。
もし、プライベートな活動でも、自分の行動を分単位で監視する・されるとしたら、どうでしょう?どんなに信頼している相手でも、自分の自由を束縛されるのは心地いいとは言えませんし、監視する側にしてもそれは負担になります。また、面倒な管理を任せてしえば楽な反面、自分と合わないやり方をいちいち指図されると、ついイラっときてしまうかもしれません。
マイクロマネージメントを成功させるカギは、社員の時間を効果的に管理することと、自主性を尊重することのバランスを取ること。サポートを含む管理を意識することで、そこから生み出される信頼関係が、仕事の効率化やチームワークの向上になり、新しいイノベーションの土壌を作ります。
これから年度末に掛けては、あっという間に時間が過ぎてしまう時期です。しかし、チームや社内のマネージメントルールを調整するなら、絶好のタイミングです。自分たちがパフォーマンスを最大化できる環境について、見直してみるチャンスを逃さないようにしましょう。
理人様 見ず知らずの者に温かいアドバイスをありがとうございます。 生物学の中だけ…
Soさん、ご質問ありがとうございます。 博士課程で必要な生物学の知識は、基本的に…
貴重な情報をありがとうございます。 私は現在データエンジニアをしており、修士課程…
四葉さん、コメントいただきありがとうございます。にんじんです。 僕がこの会社この…
面白い話をありがとうございます。私自身は法学部ですが哲学にも興味があります。 ふ…