心理的安全性の3つの誤解:大企業や経営層だけじゃない課題
前回の記事では、「心理的安全性」と呼ばれる、従業員が安心して働ける環境が、組織の成長にとって重要だということを紹介しました。
しかし、ここでいくつか疑問が浮かびます。今回は、これらの誤解を解いてみましょう。
- 人材や予算に余裕がある大企業だけが、実現できることでは?
- そういう環境や仕組みを作るべき、経営層だけの課題でしょ
- 中小企業や同族企業が多い日本的な文化には、馴染まないって
大企業だけではなく、どんな規模の組織にとっても重要!
日本では、企業数で全体の99.7%を中小企業が占めています。家族経営や個人経営の組織は、手法や組織文化が旧態依然の例が少なくありません。
▼中小企業庁:2021年版「中小企業白書」 第1節 多様な中小企業・小規模事業者
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b1_2_1.html
小規模な組織では、そもそも心理的安全性の実現に課題を抱えている可能性があります。封建的なトップダウンや年功序列などの階層文化では、決められた厳格なプロセスの実践に重点が置かれています。均一なルールによって、組織構造の維持とコントロールが重視される一方、透明性や民主制は制限されます。従業員が自律的に行動したり、リスクにチャレンジすることは抑制されます。
確かに、経営者の考え方や組織の運営スタイルが古い場合、心理的安全性を高めるためには、大胆な組織および意識改革が避けられません。投資できる資源も限られています。しかし、心理的安全性は組織の規模や業種に関係なく、実現可能です。従業員が提案や潜在的な問題を指摘することを奨励するオープンな文化を促進することで、心理的安全を促進できます。実現のために、経営層が果たすべき重要な役割は、規模に関係なく確かにあります。それを、次で見てみましょう。
心理的安全性を実現するのは、経営層だけのタスクじゃない!
心理的安全性とは、各従業員レベルの努力で達成されることはありません。経営層の意識変容と具体的な行動がなければ達成できません。では、経営層だけの課題でしょうか?
実は、心理的安全性は、経営層やチームリーダー、そして各個人それぞれの努力によって達成されるものです。自分の立場でするべきこと・やれることがあります。具体的な活動のポイントを挙げてみましょう。
経営層
マネージメント層が自ら、心理的安全性に関するレベルや課題を自分事として認識する必要があります。メリットや効果、リスク、コストを知り、心理的安全性の高い職場づくりのポイントや具体的な方法を実践することが求められます。
もし、今の時点で従業員が心理的なストレスを感じているのであれば、働きがいの無さや新規提案の少なさ、離職率の高さとして表れているはずです。マイナスのレベルをプラスに転じるには、経営層の根本的な意識改革が不可欠です。
- 経営層自身が心理的安全性の重要性を認識し、組織の変革に積極的に取り組む。
- メンバーに対してオープンでフェアな態度を示し、信頼関係を築く。
- メンバーに自律や責任を与え、意思決定や問題解決に参画させる。
- メンバーの学習や成長を支援し、失敗からのフィードバックと学びを奨励する。
- ポジティブな行動を評価し、多様性と公平、包摂を実現する具体的な体制を整備する。
チームリーダー
チームリーダーには、経営層の意志や方針をメンバー各個人に伝える一方、現場の状況やニーズを上層部に伝えるという、仲介者としての大切な役割があります。
リーダーは、心理的安全性を最優先事項として明示し、オープンなコミュニケーションの舞台を整えることで、よりよい職場環境作りを支援します。メンバーがアイデアを積極的に提案したり、潜在的な問題を指摘することを奨励する文化を作る立場です。また、1on1やアンケート、雑談などの機会で、心理的安全性に関するメンバーの心理状況を把握することも重要です。
仲介役としては、さらに大きな組織革新やエンゲージメント(親密度)の向上、インクルージョン(包摂性)などの、より高い目的につなげることも期待されます。
- 心理的安全性を確保することの意味や重要性について、チームと話し合う
- 望ましい行動をモデル化し、オープンなコミュニケーションの舞台を整える
- メンバー各個人を尊重し、コミュニケーションとコラボレーションを促進する
- メンバーを支援していく雰囲気を作り、役割と期待を明確に伝える
- 経営層とメンバー双方に、具体的かつ建設的なフィードバックを提供する
- 自己表現がしやすい環境や安心できる感覚を作ることで、包摂的な安全性を築くことに注力する
- 必要に応じて、仕事以外でもメンバーが交流する機会を作り、よりよい対人関係を育む
各メンバー
心理的安全性が高い職場環境づくりにおいて、経営層やチームリーダーが重要な役割を担っていることは事実ですが、従業員個人にもこの取り組みに貢献する、一定の責任があります。どれほど崇高な目的や高い志があっても、それを具体的な形で実現していけるかは、現場の人々の意志とアクションに掛かっているからです。
個人もまた、積極的に提案や問題を指摘してチームに貢献することで、同僚との確かな信頼関係を育むことでができます。また、1on1やアンケートに回答することで、組織の心理的安全性が測定され、改善のヒントとして役立てることができます。
- 自分事として参加し、積極的に発言してアイデアを共有する
- 質問したり助けを求め、逆に求められれば他のメンバーをサポートする
- 間違いを素直に認め、他者を許し、そこから新しく学んでいく
- 他の人の貢献を評価し、お互いを讃え合う
同調圧力が強い日本的な企業文化にこそ、心理的安全性が大事!
心理的安全性が確保されるのが理想だとしても、日本の組織で本当に実現可能なんでしょうか?同質性が高くて同調圧力も強い、日本社会特有の阻害要因は何でしょう?
- 同質性が高く、異質性や多様性を受け入れにくい
- 目立つことや人と違うことを、過度に恐れる
- 同調圧力が強く、自分の意見や感情を表現しにくい
- 上下関係や役割分担が固定化され、柔軟性や創造性が欠ける
- 誰かに感謝を直接示したり、お礼を言葉にして伝えるのが苦手
- フィードバックや評価が不透明であり、信頼関係が築きにくい
これらの厄介な条件を、果たしてどのようにクリアしていくことができるでしょうか?もうすでに、何回も出ていますが、改めてまとめてみましょう。
- 従業員が、新しい提案や潜在的な問題を指摘することを奨励する、オープンなカルチャーを促進する。
- チームのメンバー同士が、自分の考えやアイデアを安心して共有できる確かな信頼関係や、相談しやすい小さなグループを育成する。
- 日本の組織文化が直面する特有の課題を考慮し、自社にとって最適な戦略を作っていく。
むしろ、日本の組織にこそ、心理的安全性を確保することが不可欠だと言えそうです。
心理的安全性を確保するために、具体的にすべきこと
最後に、心理的安全性をチームや組織で実現するには、具体的にどんなことをすればいいかをまとめてみましょう。
- メンバー同士の相互理解やフィードバックを促進するワークショップを実施する
- より心理的安全性を高めるために、リーダーが実施するべき具体的なステップを計画する
- メンバーが自分の強みや価値観を発見し、共有するプログラムを導入する
- メンバーに自己表現や挑戦の機会を与え、失敗を恐れない文化を育てる
- メンバー同士のコミュニケーションを強化し、フィードバックや評価を透明化する
- リーダーがメンバーの成長や貢献を認める文化を築き、面談や雑談の時間を確保する
- 心理的安全性の実現をコアミッションとして掲げ、日本特有の文化的ニーズに対応する
プロジェクト管理やタスク管理サービスの多くで、目標(マイルストーン)をクリアしたり、タスクを完了したところで、賑やかなアニメーションや面白いエフェクトが表示されます。また、ある組織では、同僚と感謝のメッセージを定期的に贈り合う習慣を設けています。
これらを、ただの子供だましの仕掛けだと侮ってはいけません。実はこういうささやかな達成感や評価の積み重ねは、現場の気分を醸成するのに重要です。
とはいえ、世界的な景気後退で、アメリカのテック大手の人員整理が相次いでいます。生成AIの問題も徐々にクローズアップされています。そもそも、同調圧力が強く、ストレスフルな社会は日本に限りません。
一方で、外的な要因がどうであろうと、自社でできることもあるはずです。挑戦を奨励するカルチャーや、それを下支えする評価基準など、時間が掛かる環境作りという重要なタスクもあります。
また、心理的安全性の重要性は仕事に限りません。家庭や教育、趣味のコミュニティーなどでも大切な要素の一つです。自分の身近なところから取り組んでみるのも有効です。一朝一夕では実現できない心理的安全性の確保は、重要な課題の一つとして、経営層やチーム、メンバーそれぞれの立場で取り組んで、育てていきましょう。