優秀な女性エンジニアを増やすことが今後のITビジネス成功の鍵
6月23日は「国際女性エンジニアの日」です。女性エンジニアは、今後さらに活躍が期待される存在ですが、まだまだジェンダーギャップはあり、実はこれが仕事の生産性を高めるネックの一つになっています。しかし、女性エンジニアがソフトウェア開発の現場で活躍してくれることは、組織にとって成否を握る重要な鍵の一つです。今回は、そんな女性エンジニアにスポットを当ててみましょう。
女性エンジニアをテーマにした過去の記事もぜひ併せてご覧ください。
▼International Women in Engineering Day – 23 June 2023
https://www.inwed.org.uk/
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/05/12/challenges4mothers-working-as-it-engineers/]
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/05/16/movie-hidden-figures4all-engineers/]
STEM系の職種の女性比率は30%に満たない
一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)の調査によれば、対象となった企業では、男性エンジニアが55.7%なのに対して、女性は14.9%に留まっています。
https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2020.pdf
出典:2020年版情報サービス産業 基本統計調査 – 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)
そもそも、エンジニア職に限らず、ジェンダーギャップがなかなか埋まりません。世界銀行が発表したジェンダーギャップ指数レポートでは、日本は190か国中104位。職場環境と賃金格差についての評価が足を引っ張っています。
出典:Women, Business and the Law – Gender Equality, Women Economic Empowerment – World Bank Group
また、世界経済フォーラム(WEF)が先日公表したレポート「グローバルジェンダーギャップレポート2023」で、日本は世界146カ国のうち、前年の116位から125位に順位を下げる結果になっています。
https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2023
出典:Global Gender Gap Report 2023 | World Economic Forum
レポートによると、報酬が高く、将来性も期待されているSTEM(科学、技術、工学、数学)系の職種において、女性の割合は依然として低いままで、29.2%に留まっています。
また、OECD(経済協力開発機構)のレポートではさらに低く、日本におけるSTEM分野に進学する女性の比率は16%と、加盟国の中で最下位です。
https://www.oecd-ilibra ry.org/sites/12d19441-ja/index.html?itemId=/content/component/12d19441-ja
日本 | Education at a Glance 2021 : OECD Indicators | OECD iLibrary
AIが労働市場に革命を起こし続ける中、AI人材の需要は2016年から2022年の間に6倍に増加しています。テクノロジーや教育、専門サービス、金融サービスが高いニーズを示し、全体平均で女性比率が30%に達しました。しかし、ITエンジニアリング分野での女性の割合は依然として低いままです。先進性や革新性が重要な分野でも、ジェンダーギャップは存在していて、まだまだ改善の余地はあります。
「パリテ」の実現による、チームへのポジティブな効果
社会的なカテゴリーにおいて、男女比を均等にすることは「パリテ parité」と呼ばれています。フランスでは、2000年に通称「パリテ法」と呼ばれる法律が制定され、男女の政治参画への平等が促進されました。日本でも、選挙の時に見聞きする機会が増えてきたキーワードの一つです。
ITエンジニアのチーム活動においても、ジェンダーギャップを解消し、女性エンジニアが働く場所を増やすことで男女のバランスが取れたチームを作ることは、生産性とチームワークを向上させることにつながります。
パリテと並んで、ここ数年注目されているキーワードが「ホモソーシャル(男性のみによる同質的な社会)」です。これは、女性や性的マイノリティーを排除した「男同士の絆」によって形成された社会のこと。ホモソーシャルな関係が、パワハラの温床になっているだけでなく、新しいアイデアを実現するイノベーションの阻害要因になっていることも指摘されています。
世界銀行のレポートでは、ジェンダーギャップが解消され、男女が平等に雇用にアクセスできるようになれば、1人当たりのGDPは約20%増加すると報告されています。チームの多様性を促進することは、メンバーの創造性や革新性を刺激し、親密度や信頼感としてのエンゲージメントを向上させ、意思決定の質とスピードを改善するなど、性別に関係なく数多くの利点があります。
アメイジング・ホッパーという女性エンジニアのアイコン
現代よりもっと状況が厳しかった時代にも、果敢に挑戦した女性エンジニアがいました。それが、初期のコンピューター言語であるCOBOLを発明したアメリカ人女性グレース・ホッパー氏(Grace Hopper, 1906-1992)です。彼女は、数学者であり米国海軍准将でもあった人物です。通称 ”Amazing Hopper”。
1906年ニューヨークで生まれた彼女は、幼い頃から工学に興味を持ち、子供の頃は家庭用品を分解しては元通りに組み立てていました。イェール大学で数学の修士号と博士号を取得後、1943年に海軍の女性志願軍に参加。翌1944年に中尉に任命され、ハーバード大学の兵器計算プロジェクト局に配属されました。チームは、電子コンピュータの初期プロトタイプである「マーク I」を開発中で、彼女は、計算機の基本的な原則を説明する500ページもの操作マニュアルを執筆しました。また彼女は、コンピューターの不具合を表す「バグ(bug)」を最初に名付けた人物でもあります(機械が動作しなくなった原因は蛾!)。
第二次世界大戦終結後、ホッパーは、最初の商業用電子コンピューターであるUNIVACの開発に参加。彼女は、プログラマーの指示をコンピューター用コードに変換するプログラム、コンパイラも発明しました。そして、COBOLの共同開発者となりました。当時、彼女は53歳。
エンジニアとしてのキャリアを歩みつつ、ホッパー氏は海軍予備役としての立場を維持しました。退役と復帰を二度繰り返し、79歳で引退する時は現役の最年長将校でした。1987年には、戦闘に参加しなかった人々に授与される最高の栄典である「国防殊勲章」を、また死後の2016年には「大統領自由勲章」を受章しました。海軍の艦船や出身校の寮だけでなく、GPUメーカーのNVIDIAまで彼女の名前を冠した製品を出し、その偉大な栄誉を称えています。
直結するプログラミング教育、地続きのDE&I
2020年から、小学校の新学習指導要領にプログラミング教育が盛り込まれたことを皮切りに、中学校や高校でも段階的にプログラミング教育が導入されています。成功の鍵の一つが、女子学生の参加だと言われています。また、プログラミングを教材にした学習教室も各地で登場しています。長期的な目で見て、女性エンジニアを育成するにはこのような地道な教育活動を進めていくことが不可欠です。
また、従来型の教育機関とは違う、新しいエンジニア養成組織も登場しています。学費が完全無料で、世界中から最新の課題が提示され、学生同士で課題を解決していくユニークな組織が東京にもあり、注目が集まっています。もちろん、女子学生ウェルカム。ITエンジニアを必要とする数多くの企業が、パートナーとして名を連ねています。
6月は、LGBTQの権利についての啓発活動のために、イベントやパレードが世界各地で開催される「プライド月間」でした。女性エンジニアの活躍は、近年、重要視されているDE&I(ダイバーシティー:多様性、エクイティー:公平性、インクルージョン:包括性)にも通じています。これは、さまざまな背景を持つ従業員を歓迎する組織カルチャーの醸成に深く関係しています。
結局のところ、女性エンジニアがストレスなく活動できる場は、マイノリティーにもプラスに作用し、それは男性を含む組織全体にとってポジティブな影響を与えます。
最後に、”Amazing Hopper” が遺した、有名な言葉を紹介して終わりましょう。女性エンジニアの活躍は、希望に満ちた未来を感じさせてくれます。まさにアメイジング!
“If it’s a good idea…go ahead and do it. It is much easier to apologize than it is to get permission.”
『いいアイデアだと思うなら、とにかくやってしまうこと。事前に許可を得るより、後で謝る方がずっと簡単なんだから。』
– Grace Hopper (1906-1992)
“Humans are allergic to change. They love to say, ‘We’ve always done it this way.’ I try to fight that.”
『人は、変化に対してアレルギーがある。「我々はいつもこうやってきたんだ」と言うのが好きなの。私はそれと戦おうとしている。』
– Grace Hopper (1906-1992)
理人様 見ず知らずの者に温かいアドバイスをありがとうございます。 生物学の中だけ…
Soさん、ご質問ありがとうございます。 博士課程で必要な生物学の知識は、基本的に…
貴重な情報をありがとうございます。 私は現在データエンジニアをしており、修士課程…
四葉さん、コメントいただきありがとうございます。にんじんです。 僕がこの会社この…
面白い話をありがとうございます。私自身は法学部ですが哲学にも興味があります。 ふ…