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桜とアルハンブラ宮殿とアジャイル開発:全体性が持つ美の秘密

リプリパ編集部

今年の春も桜の便りが届きました。日本という国が南北に長いことを改めて知る、季節の風物詩です。

桜の花の美しさ

毎年春になると、一気に咲いて、短い期間で散っていく桜の樹木は、その枝ぶりや色彩、香りで周囲の空間を演出し、光や風によって表情を変えます。一面に見事に咲きそろったかと思えば、あっという間に旬を終えます。一陣の風に舞う花びらや、散った後で水面を流れる花筏もまた風情を感じさせます。また、春先だけでなく、季節ごとに姿を変えることで、時間的な変化でも見る人を楽しませてくれます。

人は、全体性による関係性と秩序を感じる時に、美しいと認識します。桜でいえば、一輪ずつの花として見た場合の美しさもあり、ひとかたりの房が枝にいくつかまとまっている姿も艶やか。そして、一本の樹として立っていたり、見事な桜並木の光景もまた、見る人を楽しませます。

全体性は複数の全体性で構成される

花から房、樹へ。全体性による関係性と秩序を感じる時、人は「美しさ」を認識する。
花から房、樹へ。全体性による関係性と秩序を感じる時、人は「美しさ」を認識する。

確かに人間は、非合理的で感情的な美しさにも惹かれる生き物です。毎年当たり前だと思えていた時に退屈な桜の花も、年齢や経験を経ることで、二度と巡り会えない大切な光景に思えてきます。その時ふと感じる美しさは、数学的・科学的な面だけでは説明できません。

これと矛盾するようですが、人はその一方で、合理性や秩序にも美しさを感じます。人間は、自然界や社会におけるパターンや構造や相互作用に、美しさを見出すのです。そこでキーとなるのが「全体性」です。

全体性とは?

全体性とは、一つひとつの物事や現象の集積によって全体が形成されながらも、独自の構造や機能上の特性を持った各部分が、全体の中で調和した状態にあることです。全体性を示す例としては、以下のようなものが挙げられます。

フラクタル:桜の花はフラクタルではありませんが、自然界に見られる幾何学的な図形で、小さな部分が全体の形を反復している状態です。例えば、雪の結晶やシダの葉、ブロッコリーなどが知られています。小さな部分が全体と同じ法則に従っていることで、美しい対称性や複雑性を持ちます。

ゲシュタルト:「ゲシュタルト崩壊」といふ単語でも知られていますね。ゲシュタルトとは心理学で用いられる概念で、個々の集合体ではなく、有機的・具体的な全体性のある構造を指す概念です。デザインなど、クリエイティブワークでも知られています。例えば、○が3つただ三角に並んでいるだけの図から、つい生き物の顔をイメージしてしまうように、個別の部分よりも全体を認識することを重視します。

内在秩序:これも、全体から見て初めて意味や価値が生まれることを示す概念です。物理学や哲学で用いられ、粒子や要素が独立して存在するのではなく、それらを含む全体が持つより深い秩序から抽象されたものだという考え方です。

つまり、全体性とは、単純な部分の集合ではなく、部分同士の関係や全体の中に於ける関係によって生まれる特徴や性質です。形や構造、認知や知覚、法則や原理がお互いに影響し合っています。

そして、この全体性を象徴する世界遺産がスペインにあります。

アルハンブラ宮殿と優れた製品開発との共通点

数百年間、増築と改築を繰り返してきた城塞都市「アルハンブラ宮殿」

13世紀から18世紀にかけて、様々な時代に増築と改築を繰り返してきた複合的な施設であり、中世イスラム建築の最高傑作と言われている。
13世紀から18世紀にかけて、様々な時代に増築と改築を繰り返してきた複合的な施設であり、中世イスラム建築の最高傑作と言われている。

スペインのグラナダにある世界遺産アルハンブラ宮殿は、イスラム建築の華とも言われます。壁や天井に細かく施されたアラベスクやカリグラフィーなどの装飾が特徴的で、文学的な意味を持つだけでなく、幾何学的な模様や自然界の象徴としても機能しています。また、庭園内のいろいろな場所に配置された池の水面に映る姿が、建物と装飾の美しさをさらに際立たせています。

▼アルハンブラ宮殿:インスタグラム
https://www.instagram.com/alhambra_oficial/

アルハンブラ宮殿は、いろいろな時代に建てられた建築物の複合体として、世界中の人々を魅了しています。さまざまな要素は、全体と部分の関係や対称性・反復性・比例性などの法則に基づいて配置されています。

実は、この世界的建造物と先進的な企業の製品開発との間には、多くの共通点があります。

先進的な企業の製品開発の6つの特徴とアルハンブラ宮殿の類似性

先進的な企業の製品開発の6つの特徴とアルハンブラ宮殿の類似性

1.他国の侵略

アルハンブラ宮殿は、イスラム教徒がイベリア半島で最後に残った王国グラナダを守るために建設されました。キリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)の脅威に晒されながらも、イスラム芸術や文化を発展させました。

先進的な企業の製品開発も同様に、競合他社や新興勢力からの攻撃やプレッシャーという緊張感の中で、常に革新的な製品やサービスを提供することが求められます。

2.城塞都市としての自律

アルハンブラ宮殿は、単なる宮殿ではなく城塞都市として機能していました。その中には住居や官庁、軍隊や学校などがあり、水道システムや防衛施設も整備され、自給自足できるように工夫されていました。

製品開発も同様に、自由かつ効率的にプロジェクトを遂行することが重要です。外部からの干渉を受けずに、独自性やサステナビリティーを確保することが、新たな付加価値を創造します。

3.同時に拡張

アルハンブラ宮殿は、一度に完成したわけではありません。歴代の王たちが、自分の嗜好や目的に応じて増改築を繰り返してきたことで、異なる時代や地域から影響を受けた建築物が混在しています。

企業も、単一の市場や固定された顧客ニーズに応えるだけでなく、革新的なアイデアや技術を使い、複数の場所やプロダクトで新たな価値を提供することが求められます。

4.さまざまな芸術家の交流

実は、イスラム系だけでなく、キリスト教徒やユダヤ人の芸術家や職人、学者が参加して作り上げられたのが、アルハンブラ宮殿です。北アフリカや中東の出身者も多く、各自の技法や様式を交流し合いました。

製品開発も、コラボレーションが重要です。変化が激しい現代は、一つの組織や部門だけでプロジェクトを推進することは、年々難しくなっています。多様なバックグラウンドや専門知識を持つメンバーやパートナーと協力しながら、創造性を高めることが求められています。

5.芸術家の自由な活動

アルハンブラ宮殿は、比較的柔軟で寛容なイスラム法学派(マーリク学派)が支配していた地域にあったため、芸術家たちは比較的自由に表現や活動ができました。自由な発想と表現が、訪れる人々にさまざまな満足感・幸福感を与えています。

先進的な製品開発にとっても、従来の規則や制約に縛られずに、メンバーが自分の感性や想像力を発揮できる環境が不可欠です。機能性や効率性だけでなく、制作者自身を含む利用者が受ける感情や印象も、重視することが必要です。

6.城塞都市内で知識の移転

アルハンブラ宮殿は、異なる時代や地域から影響を受けた建築物や装飾があったり、時代や環境に応じて改修されたり拡張された施設など、さまざまな知識や技術が統合されていました。

私たちも、製品やサービスを市場に投入て終わりではありません。変化する社会や文化にスピーディーに適応するために、利用者からのフィードバックに耳を傾け、改善や更新し続けることが必要です。多様な専門知識やスキルを持つメンバーやパートナーと連携して、ナレッジや権限を移しながらプロジェクトを推進することが重要です。

なぜ、最初に小さな単位で設計しておくことが重要なのか?

小さな部分の完成度が全体を左右する点は、ソフトウェア開発におけるモジュール化や再利用性、スケーラビリティー、メンテナンスのしやすさなどに通じています。

小さなコンポーネントを組み合わせて大きなシステムを構築し、将来的な変更や拡張にも合理的に対応するには、各コンポーネントが全体の設計や要件に沿っていることと、柔軟性や透明性が非常に重要です。複雑なシステムを小さく独立した部品に分割し、それぞれの部品が単体で機能するように設計することで、再利用性や交換性が高まり、システムの拡張性や保守性も向上します。

これはまさに、アジャイル開発です。柔軟性や迅速性を重視して、顧客や利用者のニーズにスピーディーかつ的確に応える、ソフトウェア開発手法です。ソフトウェアを作る人・使う人たちが、小さな単位での段階的な開発や迅速なフィードバックを繰り返していきます。チームワークやコミュニケーションを大切にしながら価値観を共有し、ゴールを達成します。拡張と拡大を考慮して全体のコンセプトを明確にし、初期の成果物が真似・コピペ・複製されることを前提に、最初に秩序と品質を徹底的に作りこむことが重要です。そうすることで、段階的な開発においても、調和を保った「美しさ」を実現できます。

わずかな期間で咲き誇って散っていく儚い桜並木も、何百年も続く世界的な建築物も、自己相似性という特徴を持っています。小さな領域で全体性を設計し高い品質を確保していれば、それらが集合しても全体性が確保されます。一方で、全体性がないものや適応度の低い個体は、時間と共に淘汰されていかざるを得ません。これは、設計という点において、大自然や建築に限らず、ソフトウェア開発、さらには組織運営にも通じる思想です。

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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