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バイオテクノロジー

ジグゾーパズルに例えて学ぶロングリードシーケンスのゲノム解析

理人

私たち一人ひとりの体の設計図であるゲノム。難しい印象があり、全く想像もつかない人も多いかもしれません。しかし、ゲノムを詳しく調べることは、病気の理解や健康の維持に直結する重要な取り組みなのです。

最近のゲノム解析の分野では欠かせないキーワードの一つが、「ロングリードシーケンス」です。これは、ゲノム解析の分野で大きな注目を集めている最新技術です。この技術の登場によって、これまで見えなかったゲノムの姿が明らかになりつつあります。今回の記事では、ロングリードシーケンスについて、その基本的な仕組みを皆さんもよくご存知のジグソーパズルに例えて説明します。そして、医療や産業へのインパクト、そして私たちの生活にどう関わってくるのかを、紹介します。

私はバイオ系の博士学生として、ロングリードシーケンスで得られたデータを使って日々ゲノム解析に取り組んでいます。ゲノムが私たちの身体に与える影響に関しては、「セントラルドグマ」というまた別のキーワードに注目した記事も書いたので、参照してみてください。

ロングリードシーケンスってどんな技術?

ロングリードシーケンスとは、DNAの長い断片を一度に読み取れる最新のシーケンス(DNAの塩基配列を解読するプロセス)技術です。私たちの設計図とも言えるゲノムは、とても長いDNAでできていますが、従来のシーケンス技術では、短いDNAの断片を大量に読み取って、後からつなぎ合わせる必要がありました。しかし、ロングリードシーケンスなら、数千から数万の文字に相当する長さのDNAを一気に読み取れるのです。

この長い断片を読み取れるという手法には、どんなメリットがあるのでしょうか?実は、ゲノムの中には、繰り返し配列が多数存在していたり、構造が複雑な部分があります。これらの領域は、短い断片を読み取る従来の方法では解析が難しいことが知られています。

ところが、ロングリードシーケンスを使えば、こうした複雑な領域も一度に読み取れるようになります。つまり、ゲノムのより詳細な解析が可能になるのです。ロングリードシーケンスによって、ゲノムのこれまで見えていなかった部分に光が当てられるようになりました。この技術は、難病の原因解明や新薬の開発、農作物の品種改良など、様々な分野で役立つことが期待されています。

ロングリードシーケンスをジグソーパズルで例えると

ロングリードシーケンスの特徴を、ジグソーパズルに例えて説明してみましょう。ヒトのゲノムを1つの大きなジグソーパズルだと考えると、そのパズルを完成させることが、ゲノム解析の目的だと言えます。

  • ジグソーパズルの完成形:ヒトゲノムのDNA全長
  • ジグソーパズルのピース:DNA断片(リード)
  • ジグソーパズルの目的:ピースを組み合わせて全体像を完成させること
ヒトのゲノムを1つの大きなジグソーパズルに例える
ヒトのゲノムを1つの大きなジグソーパズルに例えると

絵に繰り返し箇所があったり複雑だと、細かいピースではパズルを完成させるのが難しい

従来のシーケンス技術は、このパズルを小さなピースに分けて、1つ1つの形を見ていくようなものでした。小さなピースを大量に集めて、つなぎ合わせていく作業は、時間も掛かれば、間違いも起こりやすくなります。特に、似たような形のピースが繰り返し出てくる部分では、正しく組み合わせるのが難しくなります。

小さいピースだと、パズル全体の中でどの部分なのかわからない。つまり、時間も掛かりミスも起きやすい。

ロングリードの大きいピースなら、繰り返し箇所があったり複雑でも、簡単に完成させられる

一方、ロングリードシーケンスは、そのジグソーパズルのピースが大きくなったようなものです。1つ1つのピースが大きければ、それだけパズルの全体像が見えやすくなります。繰り返しのある部分も、大きなピースなら形の違いがわかりやすいので、正しい位置に収めることができるでしょう。

ロングリードシーケンスによって、ヒトゲノムのジグソーパズルを、より速く、正確に完成させられるようになったのです。

ジグソーパズルの大きなピースに例えた、シーケンスの概念図
大きいピースだと、パズル全体の中でどの部分なのかすぐわかる。つまり、くり返しの全長が含まれているので、どこから来たリードなのかすぐわかる。

ロングリードシーケンスのスゴイところ

ロングリードシーケンスの最大の強みは、ゲノムをより詳細に解析できるようになったことです。私たちのゲノムには、全体の約50%を占める繰り返し配列や、変異が起きやすい領域があります。こうした部分は、短いDNA断片を読み取る従来の方法では、正確に解析することが難しいのです。

しかし、ロングリードシーケンスなら、こうした複雑な領域も一度に読み取れます。その結果、病気の原因となる変異や、個人差に関わる部分など、これまで見落とされていた重要な情報を明らかにできるようになったのです。

実際に、ロングリードシーケンスを使った研究では、驚くような成果が報告されています。例えば、広島大の研究グループは、難病の一種であるALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因の一つを特定することに成功しました。従来の方法では見つけられなかった、ゲノムの複雑な領域にある変異を、ロングリードシーケンスで捉えることができたのです。

また、ガンの研究でも、ロングリードシーケンスが威力を発揮しています。ガン細胞では、ゲノムに大規模な構造変化が起きていることが知られていますが、その詳細な解析は困難でした。ロングリードシーケンスを使うことで、こうした構造変化をより正確に解析できるようになり、新たながん治療法の開発につながることが期待されています。

ロングリードシーケンスは、従来のシーケンス技術と比べて、読み取れるDNA断片が格段に長いだけでなく、解析の正確さも大幅に向上しています。こうした技術的な進歩によって、ゲノム研究は新たな時代を迎えようとしているのです。

ロングリードシーケンスで広がるビジネスチャンス

ロングリードシーケンスは、ゲノム研究の可能性を大きく広げるだけでなく、さまざまな産業分野でイノベーションを起こす可能性を秘めています。新薬開発への応用では、病気の原因となる遺伝子の変異をより詳しく解析でき、効果的な治療薬の開発につながるでしょう。また、個人に合った医療の実現にも大きく貢献すると考えられています。農業分野では、病気に強く収量の多い品種の開発が加速し、環境問題の解決にも役立つ可能性があります。このように、ロングリードシーケンスは医療や農業、環境など、さまざまな分野で新しいビジネスチャンスを生み出すことが期待されており、企業の成長戦略を考える上で重要な技術になってくるでしょう。

ロングリードシーケンス:ゲノム解析の新時代を切り拓く最新技術

今回の記事では、ゲノム解析の分野で注目を集めている最新技術、ロングリードシーケンスについて解説しました。

従来のシーケンス技術では、短いDNA断片を読み取ってつなぎ合わせる必要がありました。しかし、ロングリードシーケンスでは、数千から数万の文字に相当する長さのDNAを一気に読み取れます。これにより、ゲノムの繰り返し配列や複雑な構造を持つ領域も、正確に解析できるようになりました。

ジグソーパズルに例えると、大きなピースを使うことで、全体像がより見えやすくなるのです。この技術は、難病の原因解明や新薬開発、農作物の品種改良など、医療や産業に大きなインパクトを与えると期待されています。

ロングリードシーケンスの登場によって、ゲノム研究は新たな時代を迎えている真っ只中なのです。

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理人
理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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