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社会問題化しているのに転売が未だに解決されない根深い理由とは

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転売は、消費者にとって不利益をもたらすだけでなく、正規の販売者や出演者、企業にも影響を及ぼす深刻な社会問題です。任天堂の株主総会では、期待が高まるNintendo Switchの後継機で、転売対策が議題になるほどです。

分かりきったことなのに、なぜ解決や抑止されないのでしょうか?本人確認の確実で効率的な手法や、トレーサビリティーを実現する技術もあるはず。にもかかわらず、むしろ拡大・巧妙化しているような印象すら受けます。

今回は、転売問題の解決がなぜ難しいのか、その背景について考えてみます。ぜひ、前回の記事からお読みください。

転売の背景に絡む複数の要因

転売問題が根本的に解決されない理由は、主に、次のような複数の要因が複雑に絡み合っているためだと思われます。もちろん、これらだけではないでしょう。特定の商材やメーカー、プラットフォーマー、まして個人をその都度、ポリティカルコレクトネス(政治的な正しさ)を御旗に叩いたところで、解決にはほど遠いのが実情です。

需要があれば闇でも市場ができる

水は低いところへと流れるもの。転売は、需要が高く供給が限られている商品であれば成り立つビジネスモデルです。

新型コロナウイルスが蔓延し始めた当初、マスクや消毒液が品薄になり、購入制限や早い者勝ちになりました。同時に、オークションやフリーマーケットサービスに、価格を吊り上げた商品が溢れたのは、記憶に新しいところ。たとえブラックマーケットであっても、転売業者は単に世間のニーズを反映した、合理的な価格に設定しているだけとも言えます。

転売業者の巧妙な販売戦略

転売業者は、規模が大きくなれば組織ビジネス化していると考えられています。これは、企業を攻撃するハッカー集団や、個人を対象とした特殊詐欺グループと同じです。

彼らは、ユーザーよりも遙かに知識や情報、技術を持ち、研究熱心でもあります。オンラインショッピングではBOT(自動化ツール)や複数のデバイスを使って商品を瞬時に大量購入するなど、巧妙な手法を駆使しています。

自由な市場経済とのバランス

前回の記事でも事例を紹介したように、どこまでが常識的な商取引で、どこからが悪質な転売行為なのか、転売の線引きが難しい面があります。

規制を強化し、商品の仕入れや調達ルート、価格で圧力を掛けることは、独占禁止法の対象になるばかりか、新たなビジネスチャンスを阻害することにもなりかねません。

エージェントという存在

チケット取得を代行するエージェント(代理店)も存在します。競争率が高かったり、海外からでは煩雑な手続きが必要なチケットを、ユーザーに代わって取得してくれます。プロならではの専門知識を持っていて、ファンにとって有益な情報源でもあります。

その一方で、正規のチケット購入者がさらにしわ寄せを喰うことで、悪質な転売を助長している側面も否定できません。

国ごとに異なる法律と規制の限界

今春東京で開催されたテイラー・スウィフトのコンサートには、世界各地からのファンが押し寄せました。イギリスの人気ロックバンドOASISは、ファン待望の再結成とワールドツアーの日程も発表になりました。TOKYOも含まれていますが、すでに高値の転売が始まっています。

円安もあり、アフターコロナで人やモノ、情報の交流も盛んになっています。転売行為に関する規制や法律は、国や地域によって異なります。規制が緩い地域で仕入れ、税関もパスし、高い利益率が見込める地域で売り捌けば、手数料や輸送コスト、人件費まで十分ペイします。

確実に儲かるプラットフォーマー

転売業者は、タイミングを逃してしまうと損をするリスクがあります。しかし、オークションやフリーマーケットなどのプラットフォーマーは、価格の影響を大きく被ることなく、安定して手数料収入を得られる構図になっています。

彼らは、「我々は単に場を提供しているだけ」という詭弁が常套句。利益を最優先する立場としては、社会的責任を果たす表面的なポーズは取りながら、転売問題の根本的な解決に積極的に取り組むはずがありません。

諸刃のソーシャルメディアやAI

転売屋(別称、転売ヤー)の目に余る行動は、ソーシャルメディアの定番炎上ネタの一つ。市販商品だけに留まらず、一般の作家にオリジナルグッズの制作を有料で直接依頼し、完成品を受け取ったら自作したことにして、高額で転売する行為も発覚しています。しかし、「転売を止めよう!」と声高に叫べば叫ぶほど、転売需要が根強いことが認知される矛盾も孕んでいます。

ソーシャルネットワークのタイムラインや検索結果には、転売の広告や取引情報が表示されます。直接、個人取引すれば、正規のECサイトを使う必要がありません。また、規制をすり抜けるために暗喩が使われます。一部の消費者—特に、ソーシャルネイティブな若年層が、無自覚に加担・拡散してトラブルになっています。さらに、手軽に使える生成AIが転売問題に悪影響を与えることも、想像に難くありません。

社会的・政治的な停滞と無関心

転売問題の解決には、法的な枠組みがセットになることが大前提です。それでもほぼ放置されている理由は、他の社会問題に比べて政治的な優先度が低く、真剣に検討されないからに他なりません。

声を上げる熱心なファンや、地道に努力を続けている関係者もいます。しかし、一部の層が騒いだところで、社会全体が強い関心を持たなければ、政治家もこの問題を重視しないため、解決が進むことはありません。

人間の倫理観はとても脆弱

買う人がいるから売る人が絶えないのが事実。しかも、それがソーシャルメディアで可視化されます。消極的な買い手まで含めて、時間や機会を買えるのなら金銭で手に入れたい人は一定数います。

価値観を倫理観で、パッションをロジックでは説得できません。他者を批判する時あなた自身には、一生に一度でいいから体験したい・手に入れたいモノは、本当に一つもありませんか?家族や大切な人の希望だったら?

詐欺広告やフェイクニュースにも通じている転売問題

上記の点は、近年の粗悪なソーシャルメディア広告や検索連動型広告にも共通しています。流通している商品や情報の品質と信頼性、それを表示しているプラットフォーマー、そして被害を受けているユーザーという構図は相似形です。正しい教育とリテラシー、技術が無ければ(あっても)、防ぐことがとても難しい状況です。

Googleは、何度も延期してきたChromeのサードパーティーCookieの廃止を、ついに撤回しました。個人の行動をトラッキングできるCookieに替わる技術を、開発できていないからです。Metaも、著名人を騙る詐欺広告や、若年層へのネガティブな影響を無責任に放置してきましたが、この両社の収益源は広告です。

Xは、Twitter時代に曲がりなりにも目指していた、言論プラットフォーマーとしての中立公正な場を放棄しました。オーナー自身がフェイクをポストするような極めて恣意的な運用に変わり、広告主も去り、企業価値を著しく下げています。

問題が指摘され続けているYahoo!ニュースのコメント欄には、今も、低質で無責任なコメントが掲載されています。目にしたユーザーが不快な体験をするだけでなく、誤った情報の汚染源になっています。


音楽コンテンツの聴取方法が、今のようなサブスクリプションでなく、ファイルダウンロードとして普及し始めた頃、NapsterなどP2Pを通じた違法アップロード・ダウンロードが横行していました。当時のエピソードで、とあるバンドが、自分たちの曲が多く違法ダウンロードされている都市を見つけ、そこでライブを開催したところ、多数の観客が集まり大きな収益を上げたのです。ネガティブな事象を逆手に取り、マーケティングのシグナルとして使うことで、複製が不可能なナマの体験を訴求して成功を収めた話でした。

▼誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち【無料拡大お試し版】 (早川書房) eBook : スティーヴン ウィット, 関 美和: https://www.amazon.co.jp/dp/B01LN67VBA/

転売問題には、需要と供給の不均衡や、業者の巧妙な戦略、プラットフォーマーの利益構造、法律と規制の限界、社会的・政治的な停滞、人の欲望の可視化など、複数の要因が絡み合っています。しかし、そこにはビジネスチャンスも眠っています。こうして考えると、転売問題に関係や関心が薄い人でも、気がついていないだけで、全く無関係だとも言い切れません。

しかし、これらの問題すべてを今すぐ解決できないとしても、ITテクノロジーで少しでも改善する術はないのでしょうか?効率的・自動的に処理できる仕組みを実現するのは、ITシステムが得意なことでは?次回はその辺りを考えてみます。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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