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社会

物語同士が闘う今、ナラティブの光と影を知り希望の対話を続けよう

リプリパ編集部

現代は、メディアやチャンネルの多様化、通信技術やデバイスの発展、グローバル化などで、物語に溢れています。文化や地域特性を取り入れ、価値観に根ざしたナラティブもあれば、言語や民族、国境の壁を超えて拡がるナラティブもあります。

新たな語り手を生み出し、終わりのない物語を続けていく力であるナラティブは、ソーシャルメディアによって育まれてきました。ソーシャルメディアは、他者からの評価を獲得するアーンドメディアの代表格。一方的な発信よりも傾聴と対話に活かす時に、大きな効果を発揮するナラティブと地続きです。これは、自社でコントロールし、情報を発信するオウンドメディアであるWebサイトが、ストーリーテリング的な性格を持つのと対照的です。

今回は、ナラティブの光と影にスポットを当て、今後、私たちがどうすべきかについてより深く考えてみましょう。前回の記事もどうぞ。

ナラティブはソーシャルメディアで強化される

個人が一人ひとり自分事として物語を語り、共感した人同士をつないで一緒に行動することで、さらに大きな物語を作り続けていくナラティブ。これほどソーシャルメディアやスマートフォンと相性がいい物語もなく、ナラティブはそれらを味方にブーストされたと言ってもいいでしょう。

コミュニティーの一体感を高める要素は、「同じ時間・場所・目的の共有」だと言われますが、「同じ悲劇の共有」もその効果を果たします。直近では能登半島地震や戦争、テロであり、4年前からのコロナ禍、そして13年前の東日本大震災などはその顕著な例です。ソーシャルメディアでは、多くの個人や組織が当事者として、それぞれのナラティブと活動を通じて、当事者を力強く勇気づけました。

また、ハッシュタグアクティビズムと呼ばれる社会運動では、ナラティブとソーシャルメディアが相互作用する様子が可視化され、大きな役割を果たしてきました。例えば、女性たちの抑圧に対して声を上げた #MeToo は世界各地で拡がり、黒人差別に反対する #BlackLivesMatter や、ガザ停戦を訴える #CeaseFireNow などは、日本でも大きな活動につながっています。

さまざまな物語同士の闘いでもある、ナラティブの光と影

ファクト(事実)に対するのは、フェイク(虚偽)ではなく、オルタナティブファクト(もう一つの事実)―この言葉が叫ばれてから8年後の今秋、アメリカ大統領選はリターンマッチの様相を呈してきました。ナラティブとソーシャルメディアはどちらも諸刃の剣として機能し、プラスにもマイナスにも作用しますが、現代は物語同士の闘いであるナラティブバトルの時代だとも言えます。

ソーシャルネットワークの弊害として、エコーチェンバー(同じような音を反響させる共鳴室)やフィルターバブル(自分が接したい情報だけに包み込む泡)が知られています。これらは、傾聴と対話を拒否し、分断と対立による閉じたナラティブを正当化する温床になっています。自分が信じたい物語だけが絶対的な真実であり、それに反対する他者を敵や悪魔に仕立て上げる様子は、毎日のように目にします。社内の政治闘争から競合他社との鬩ぎ合い、世界各地の紛争まで、ナラティブの明るく輝く光は、同時に濃い影を作り出しているのです。

ナラティブのポジティブ面

  • 物語の共創:地理的な距離や人種・民族、言語、文化、社会階層を越えたつながりを育む物語は、理解と共感を促進し、さまざまな違いを越える架け橋となります。共有された経験を強調する物語は、寛容と協力を力強く促進します。
  • 変化の促進:「私の物語」「あなたの物語」を語るステークホルダーの活動が、集団行動として拡がっていくことで、市政の人々が声を上げ、組織や業界、社会に希望ある変革のきっかけをもたらします。
  • 人々を鼓舞:優れた物語は、個人やコミュニティーを力強く勇気づけます。新たな価値を定義し、目的やビジョンを共有して、人々が前向きな目標へと向かう動機を、強力に後押しします。

ナラティブのネガティブ面

  • 分裂の助長:誤った情報やプロパガンダ、社会を分断する物語は、感情を操作して不信感を生み、社会的・政治的偏向を悪化させます。「私たち vs 彼ら」「味方 vs 敵」という分かりやすい敵対構図を作り出すことにも、ナラティブが悪用されています。
  • 有害行為の正当化:自分が語る「正しい」物語を広めるには、手段が正当化されると考える人々も出現します。現実を歪めることで、敵愾心や差別、その他の有害な行為を正当化するために使われます。
  • 限定的な視点:過度に単純化された語りや扇情的な演出は、多様な声や経験を排除し、理解と進歩を妨げます。古い価値観を持つ人々やメディアの偏った報道が、差別や偏見を助長することも珍しくありません。

B2Bにおけるナラティブマーケティングの活用ポイント

さて、これまでナラティブについてさまざまな角度からスポットを当ててきました。企業のビジネス戦略にも非常に重要で、ナラティブが個人の意思決定プロセスだけでなく、企業活動にも大きく影響を与えることがわかりました。しかし、個人が物語の語り手になるB2Cでは有効だとしても、企業間取引のB2Bでナラティブをどう活かせるでしょうか?予測不可能でコントロールできないナラティブを、マーケティング戦略でどう位置づければいいでしょうか?

確かに、ナラティブでは個人が主な語り手になることが多く、B2Bマーケティングにおけるナラティブの応用や複雑さを理解するには、慎重な検討が必要です。しかし、昨今は、企業がB2Bの場でナラティブマーケティングを効果的に活用しています(成功事例の一部は、過去の記事をご覧ください)。

ナラティブマーケティングとは、自社に都合のいい架空のストーリーを作り上げることではありません。自社の価値観や専門性、存在意義を、B2Bのオーディエンス(企業や個人の意思決定者)に共感してもらえる形で、一緒に対話していくことです。人々の心に響いた共有された物語に焦点を当て、説得力と親近感のあるナラティブに織り込んでいくことで、信憑性が確保されます。適切に測定戦略を繰り返すことで、ナラティブの力を活用し、さらに強いつながりと信頼が育まれ、企業が目標を達成できます。

  • 価値と関連性に焦点:特定のニーズや課題に対応するナラティブを作ることを優先する。自社の製品やサービスが如何に顧客の価値観に合致するかを示す。
  • 企業価値と使命:自社ならではの物語を共有し、目的や価値観、そしてそれらがオーディエンスの価値観や目標とどのように一致しているかを強調する。
  • 顧客の成功事例:自社の製品やサービスを利用して、他の企業がどのように課題を克服し、成功を収めたかを紹介する。
  • 業界特有のストーリー:特定の業界における共通の課題や願望、価値観などリアルな声を取り上げる。
  • 対象を限定した物語:意思決定者のニーズや視点が異なる可能性があることを認識し、さまざまなステークホルダーに合わせたナラティブを醸成する。
  • オムニチャネルの物語:ソーシャルネットワークやビデオ、ブログ、ケーススタディーなど、オーディエンスの共感を得られる方法でナラティブを共有する。

また、ナラティブの直接的な効果を測定・評価するのは複雑で、多角的なアプローチが必要です。ブランド認知や信頼、長期的な関係への影響を把握するには、クリック数やコンバージョン数など以外の、定性的手法・定量的手法の組み合わせを検討しましょう。

  • エンゲージメント指標:ソーシャルメディアエンゲージメントやWebサイトのトラフィック、ナラティブで生み出されたコンテンツのダウンロード数などをモニター。
  • 顧客アンケート:ナラティブがオーディエンスの心にどのように響き、ブランドの認知にどのような影響を与えたかを把握する。
  • 営業チームのインサイト:ナラティブを担当者が正しく・深く理解し、それが顧客とのやり取りや意思決定にどのような影響を与えたか、フィードバックを分析。

ナラティブもまた、オーセンティックであるべし

最後に、ナラティブの重要な要素である「真正性」について考えておきましょう。

不安定で不確実、複雑、曖昧な状況を示すVUCA(ヴーカ)と呼ばれる現代では、変化し続けて終わりのない物語であるナラティブが大きな役割を果たしています。しかし、物語と情報が膨大に溢れている今、私たちは誰の、何の、いつの話を信じていいのかわからなくなっていることも、また現実です。

オンライン英語辞典のメリアム・ウェブスターが年末に選んだ「2023年の単語」は “authentic” オーセンティック(本物の、正真正銘の、真正の、信じるに値する)でした。この単語の検索回数が大幅に増えたことは、生成AIによるディープフェイクや社会の分断により、何が本当に信じられる真実なのかを、人々が心から欲した記録です。そして、興味深いことに、近年の広告における重要なキーもまた “authenticity” オーセンティシティー(真正性)です。

  • 真実性・透明性:企業がナラティブを活かすには、自社の行動と一致させることが不可欠。従業員にも意識を共有する組織文化を作る。
  • 批判的思考:時にナラティブを批判的に評価する多様な視点と能力を養い、偏見や潜在的意図、情報操作のリスクを認識する。
  • 共感と対話:異なるナラティブを持つ人々とも敬意を持って対話し、他者と相互理解を深める、オープンなコミュニケーションを心掛ける。
  • 事実確認と検証:シェアする立場も、情報の管理責任者の一人である。信頼できる一次ソースを照合し、未検証や疑わしい物語を広めない。
  • 物語を創る責任:自身のストーリーを共有する際は、自分の言葉の潜在的な影響力に留意し、信憑性・包括性・正確性を意識する。


ナラティブについての物語を、4回に分けてお届けしてきました。物語には、価値を増幅させる効果があり、ビジネスにとってもますます重要な要素となっています。

同時に、『ストーリーテリングは古く、これからはナラティブの時代だ!』という物言いが、如何に本質を捉えていないか、おわかりいただけたと思います。歴史を見れば明らかなように、物語とは常に勝者に都合よく上書きされてきたものだけが残ってきたことにも、注意しておきましょう。また、ナラティブの本質は、広告や広報、マーケティング手法の一つではありません。単なる物語消費で終わらないためには、ステークホルダーと共に語り手になることが重要です。

さて、「あなた」にとってのナラティブとは何ですか?「御社」のストーリーテリングではなく、あなた自身の声を聞かせてください。上手く語れなくても、小さな声でも結構です。ご意見・ご感想、お待ちしています。このテキストは一旦ここで終わりますが、ナラティブは終わりがない物語。ぜひ次の話を一緒に続けていきましょう。

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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