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そもそも転売は、仕入れて売る普通の商売と違って何がダメなのか?

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以前、リープリーパーでライブイベントでのチケット転売問題についての記事を公開したところ、多くの方の目に止まったようでした。

実は、転売という社会問題について考えることは、エンターテインメント業界だけの話でも、また、購入者である私たち個人レベルの話でもありません。

ユーザーの不安や不信を取り除き、リスクを信頼へと変える工夫をしながら、ファンとのエンゲージメント(親密度)を高めていくこと。自社の目先の利益だけでなく、ビジネスとしての広い視点から持続性を意識すること。これらは、一般企業が考えるマーケティング面でも、とても重要なヒントに溢れています。

転売の背景やテクノロジー面の考察を交えて、改めていろいろな角度から俯瞰してみましょう。4回の連載でお届けします。

そもそも社会問題化している転売行為とは?

チケットの転売が社会問題として広く知られ、当時の最大手チケットキャンプがサービスを終了したのが2017年12月。それから7年近くが経過していますが、転売は減るどころかより広範囲に拡がり、手法は巧妙かつ複雑になっています。

そもそも、何が転売なのか?2019年に施行された「チケット不正転売禁止法(略称)」から、ポイントを拾い出してまとめてみます。

▼チケット不正転売禁止法 | 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/ticket_resale_ban/index.html

▼COLUMN11 「チケット不正転売禁止法」について | 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_column_11.html

  • 興行主の事前の同意がない
  • 継続の意思がある、対価を得た権利の譲渡
  • 元の販売価格より高額な設定
  • 販売の際に、興行主の同意のない有償譲渡の禁止が明示
  • 興行の日時や場所、座席の指定あり
  • 座席または立ち見で、購入者の氏名と連絡先を確認する措置あり
  • 上記の禁止事項や日時、購入者の確認が、券面に印字または電子チケットで表示

転売の対象はチケットだけではない

転売の対象となるモノや権利は、人気アーティストのライブイベントから話題のデバイスの発売、プレミアム付きのファン限定グッズなど、多岐にわたります。転売業者にとっては、価格が急騰して受け渡しが楽で、利益が見込めさえすれば、商材は何でもいいのです。

  • コンサートや演劇、ミュージカル、映画のプレミアチケット
  • 限定商品やコレクターズアイテム
  • 高機能ゲーム機や新型スマートフォン
  • テーマパークの入場券やファストパス
  • スポーツのシーズンチケットやファンクラブのメンバーシップ
  • オンラインゲームのアカウントやアイテム
  • ハイシーズンの航空券や宿泊予約
  • イベントのVIPパッケージ
  • 不動産やリースの権利、美術品 など

価格以外の転売行為の問題とは?

転売というと、価格の吊り上げだけが問題のように思えますが、それ以外にもさまざまな悪影響があります。

歪な需給バランス

新型コロナウイルスの流行当初、マスクや消毒液は転売の対象になるほど品薄でした。量産体制が整って供給が安定し出したら、今度は一転して値崩れし投げ売りに。企業が需給バランスを崩すほど増産すると余剰在庫となり、収益を圧迫します。そのリスクを負うのは、転売業者ではありません。

ブランドの信頼リスク

転売行為への非難は、業者とそれを可能にしているプラットフォーマーだけではなく、被害者であるはずの主催者やアーティスト、メーカーにまで向けられます。コンプライアンスや法的責任問題にも発展する可能性があり、ブランドイメージや株価の低下、取引停止につながります。

セキュリティー対策はコストに

不正転売や本人確認、偽造を防ぐさまざまなテクノロジーがすでに導入されています。しかしこれらはすべて、主催者側にとってはコスト負担にしかなりません。結果として、商品価格や手数料が上がり、参加者やアーティスト、メーカーにとって重い負担になります。

チケットの取引については、正規の販売企業が共同で再販プラットフォームを作っていますが、転売業者が売れ残りそうなチケットを処分する場としても、ここが機能してしまっている面もあります。

投機目的やマネーロンダリングの温床に

古美術品や不動産などより取り扱いや管理が楽な、例えばトレーディングカードの転売は、投機やマネーロンダリングに使われます。例えば、違法な取引で得た金を、転売商品を介して洗浄することで表に出す役割を果たします。

犯罪のマイクロ化・分散化

特殊詐欺と同様に、転売組織は統率された大きなヒエラルキー型ではなく、役割ごとに敢えて細分化されています。転売は個人でも簡単にできてしまうため、知らない間に犯罪行為に加担させられている例も後を絶ちません。残念ながらここにも、ネットワークやアプリの充実、ソフトウェアによる自動化が関係しています。

厳格に取り締まる法律がない

真っ当な商取引と、行き過ぎた転売との線引きが非常に難しいのが現実。前述の「チケット不正転売禁止法」が制定されたものの、現行法では他に厳しく取り締まる方法がなく、業者はアニメのキャラクターグッズやスニーカーに移るだけ。また、後述するように国境を跨いだ転売もますます拡大しています。日本国内での外国人組織の犯罪や、逆に東南アジアを舞台に日本人が指示役として指揮している事件も。国家間の調整も追いついていません。

倫理観を誰に求めるべきか?

ファンの期待や体験を損なう行為は、倫理的な観点や持続可能性の点からも問題視されます。しかし、転売業者に倫理を求めるのは無理筋。

転売されている商品を買って自分の満足を得ること、正規品以外をキッパリと拒否する声を上げること—何が正しい行為なのか?利用者側の倫理観が問われますが、これは地道な啓蒙・教育活動が必要です。これもまた無料ではありません。

適正な商行為との線引きはどこに?

先日、京都嵐山のとあるカフェが、他店が製造・販売しているケーキにドリンクをセットし、数倍の値段で客に提供していたことが話題となりました。

事情を知ってしまったことでがっかりしたり、行くことを避ける人もいるでしょう。しかし、これが転売行為だと断罪するのは、短絡的だったように思えます。

問題は、観光客向けの価格設定だったのか?付加価値の有無か?仕入れの出所がわかるような提供か?ステークホルダーが納得できる透明性なのか?…これらは全て、一般のビジネスにも関係するような問いです。

一般に、店舗が仕入れる食材のレベルで、飲食店と来店客との間で合意形成されることはありません。セットドリンクや店内空間、京都で時間を過ごすという体験などを含めて、付加価値があると客が認めているのであれば、揶揄を目的にそれをわざわざ他者が指摘する必要はなかったのでは?転売は、風評被害やえん罪も生み出してしまいます。

転売についての国際事情

インバウンドの話をしたところで、日本と韓国、アメリカ、EUそれぞれの主な転売対策事例を見てみましょう。

地域ごとに若干異なるアプローチはあるものの、デジタルチケットの導入や、クレジットカード決済による与信、モバイルの電話番号、QRコードによる入場手続きなどは、概ね共通しています。

ただし、商取引も人も国境を越えている以上、転売も国際間で発生しています。国を越えた規制は、経済だけでなく政治・外交的な調整も必要になり、手続きが複雑です。

また、これらの国や地域ですら、転売に関する法律や規制は不十分です。対策が甘い地域では、悪質な転売行為を効果的に抑制する手段が整っていません。

日本

J-POPの人気アイドルのチケットは、当選の願いが神社の絵馬に書かれるほど。ファンクラブ会員向けの先行販売があり、一般販売はすぐに完売することがほとんどです。最近では、音楽業界自身が再販サービスを運営する努力も見られるものの、現実には抜け穴だらけです。

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先日、ついに販売が開始されたSONY PlayStation 5 Proは、約12万円という高額な価格にもかかわらず注目を集めています。さらに、特別限定モデルの購入には、日本のアカウントで約10年間30時間以上のプレイ時間が、本人確認として新たに併用されることになりました。どこまで効果があるかはわかりませんが、新しい取り組みです。

韓国

BTSやBLACKPINKなど、人気のK-POPグループのチケットも、InterparkやMelon TicketなどのECサービスで販売されています。K-POPの国際的な人気を示すように、韓国のグループが台湾で開くコンサートチケットが香港で転売されるなど、国境を越えた転売が発生しています。

チケットは日本からも購入可能ですが、先着順の場合は国外からの購入は圧倒的に不利です。それでも、VPN(仮想ネットワーク)を経由したり、正規の代行業者(エージェント)に委託したり、ファンはあらゆる手を尽くしています。

とはいえ、何せライバルは、世界最速の国内インターネットを提供している国の地元ファンたち。入手確率を上げるには、ファンクラブに加入し、韓国国内でゲットするしかありません。それも、日本人は外国人登録証と、それで契約した韓国国内のモバイル番号が必須というハードルの高さ。そこで、転売市場で探さざるを得ないという構図です。

アメリカ・カナダ

4大メジャースポーツ(フットボール/バスケットボール/野球/アイスホッケー)でも、人気ゲームのチケット転売問題が深刻です。各リーグやチームは、公式ECプラットフォームでのみ転売を許可し、価格に上限を設けたり、さまざまな対策を講じて過度な価格高騰を防いでいます。

毎年4月にカリフォルニアで開催される音楽とアートの祭典コーチェラは、NFT(非代替性トークン)マーケットプレイスのOpenSeaと提携しました。これは、転売や偽造防止だけでなく、アーティストとファン双方への価値提供としても注目されています。詳しくはまた後日の記事で。

セキュリティー面でいえば、アメリカでは州ごとに異なる法律が存在し、例えば、広告規制で知られるCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)があります。

EU

EU全体で転売を制限する動きがあり、各国で規制が強化されています。サッカーUEFAチャンピオンズリーグの場合、国際試合では入場時にパスポートやIDカードの提示が求められ、チケットに印字された購入者の名前と共に、厳格にチェックされます。これは、フーリガン(暴徒)対策としても機能しています。

プライバシー関係では、アメリカよりも厳しいともいわれるGDPR(EU一般データ保護規則)が知られています。


最後に一つ、転売 x 音楽ビジネスがテーマになっている本をご紹介しましょう。

自分のバンドの存在価値を高めたいと考えたあるロックボーカリストが、「カリスマ転売ヤー」に自らのチケットの転売を依頼し、悪魔の囁きに耳を傾けていく—リアルな緊張感に溢れる筋書きです。

それもそのはず。著者の尾崎 世界観氏自身が、ロックバンド「クリープハイプ」のボーカリストであり作家です。第171回芥川賞候補作になったのも、納得の一冊。

『転の声』Amazon.co.jp: 尾崎 世界観

しかし、小説のテーマになるほどまで社会問題化している転売が、なぜ未だに解決されないのでしょうか?次回はその複雑な背景を探ってみましょう。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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