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社会

大谷翔平がMLBで闘ってきた、対戦チームやケガ以外の強敵とは?

kotobato

今期のMLB(アメリカメジャーリーグ野球)の話題の中心も、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手の活躍でした。残念ながら、ケガのために9月半ばで残り試合を欠場してシーズンを終えましたが、ホームラン44本でアメリカンリーグのホームラン王のタイトルを獲得しました。日本人選手としても、アジア人としても史上初の快挙です。

Was Shohei Ohtani Just a Dream? | The New Yorker https://www.newyorker.com/sports/sporting-scene/was-shohei-ohtani-just-a-dream

彼は、投打の両面で卓越した技術を持ち、球史に残る二刀流選手として知られています。ケガから快復した来期の動向が注目されています。

実は、彼が闘ってきたのは、自身のケガや疲労、対戦チームの手強い選手たち、なかなか勝てない自身のチームだけではありません。このことは、日々いろいろな対象と格闘している私たちにも関係しているように思えます。

自己管理できるプロであってもケガはしてしまう

大谷は、2012年に北海道日本ハムファイターズからドラフト1位で指名されました。彼が希望する二刀流のスタイルは、荒唐無稽なマンガの中だけの話だと、球界関係者から厳しく非難されました。しかし、ベンチとフロントのサポートもあり、5年間で素晴らしい成績を上げ、2018年、念願のMLBへ移籍。彼の希望を最大限に尊重する球団として、エンジェルスが選ばれました。

どれだけ日本のプロ野球界で実績があっても、MLBではさまざまな条件が違っていました。言葉や文化の壁はもちろん、ボールの素材、球場ごとの作り、長距離移動、トレーニング、ファンとのコミュニケーション、選手組合、そしてMLBという機構そのもの。大谷はそれらに柔軟に対応し、MLBに所属したこの5年間で、月間最優秀新人賞や週間最優秀選手賞、またワールド・ベースボール・クラシック(WBC)最優秀選手賞など、数々の賞を受賞しました。環境の変化に柔軟に適応して前人未踏の活躍をしているのは、まさにマンガの世界です。

そんな自己管理ができているプロであっても、ケガは避けられないもの。元々、今シーズンの大谷は、3月のWBCや二刀流としての疲労の蓄積から、ケガが不安視されていました。彼はキャリアを通じて、右肘靱帯の損傷、腕の疲労、けいれん、指のマメなどに直面してきました。2018年には右肘靱帯を手術し、今年の9月、右肘靱帯の2回目の手術が成功したところです。来期は開幕からバッターとして復帰し、ピッチャーとして投球できるのは2025年シーズンだろうと言われています。

Shohei Ohtani | 大谷翔平(@shoheiohtani) • Instagram写真と動画

人種差別とも闘わざるを得なかったジャッキー・ロビンソン

MLBで人種差別といえば、近代MLBでプレーした最初の黒人(アフリカ系アメリカ人)選手ジャッキー・ロビンソンについて語らない訳にはいきません。彼は1947年4月15日、ブルックリン・ドジャースの一塁手として先発出場し、人種の壁を打ち破りました。

J.ロビンソンは、暴言だけでなく暴力も含め、さまざまな虐待に直面しましたが、それでも野球を続けることを止めませんでした。黒人選手初の打点王、最優秀選手賞、野球殿堂入りなど、さまざまな功績を残したことで、日本人を含む有色人種選手に道が開かれました。また、彼の努力は球場の中に留まらず、アメリカの公民権革命における記念碑的な一歩となりました。

真の王者の振る舞いとしての勝利を先人から学ぶ意味

しかし残念ながら、それは差別が解消されたことを意味しません。根深く残る差別的な慣習への対応という点で、大谷以外に紹介したい日本人MLB選手が、ダルビッシュ有投手です。

彼は、2017年のワールドシリーズに、当時ロサンゼルス・ドジャースのピッチャーとして登板しましたが、対戦チームであるヒューストン・アストロズのユリ・グリエル選手から、アジア人に対する差別的ジェスチャーを受けました。当然、この行為は大問題になり、試合後にMLB機構により制裁が下されました。

一方、ダルビッシュは打たれて敗戦投手になりましたが、試合後に彼は次のようなツイートをしました。

完璧な人間などいない。

それはあなたも私も同じです。

彼が今日したことは正しいことではないが、私たちは彼を非難するのではなく、学ぶことに力を注ぐべきだと思う。ここから何かを得ることができれば、それは人類にとって大きな一歩となる。

せっかく素晴らしい世界に生きているのだから、怒りに目を向けるのではなく、前向きに進んでいこう。みんなの大きな愛に期待している。

ダルビッシュ有(Yu Darvish) on Twitter から意訳

結局、ドジャースはチャンピオンリングを逃しました。しかし、彼はゲームとは違う偉大な勝利を手にし、人々の心に深く刻まれました。大谷もまた、同じ日本人投手の(しかも元ファイターズの)先輩として、ダルビッシュの振る舞いを見つめていたはずです。

未だに根深く残る差別や偏見、先入観

J.ロビンソンがプレーしていた時代ほどあからさまではないものの、大谷もさまざまな人種差別に直面してきました。2021年、デトロイト・タイガースのキャスターであり、野球殿堂入りの元ピッチャー、ジャック・モリスが試合中に大谷に言及する際、人種差別的なアクセントを使って彼を揶揄しました。J.モリスは、『不快なことを言ったつもりはないし、もし言ったのなら謝る。確かに私は彼に最大限の敬意を払っている』とありがちな言い訳をしたことで、ファンやアジア系コミュニティーから強い怒りを買いました。

一部の人々の間に『baseballと野球は別物である』という意識が残っているからでしょうか、大谷の活躍を快く思わない一般人からの人種差別的な中傷は、ソーシャルメディアで散見されます。J.ロビンソンが初出場して76年が経った今でも、MLBやスポーツに限らず、偏見や先入観に対処し、抵抗し続けなければならないのが現実です。

黒人の少女だけ「ガン無視」されたメダル授与式 「胸が張り裂ける」動画 | アイルランドの体操競技会で | クーリエ・ジャポン https://courrier.jp/news/archives/339353/

人口構成が変わっていく組織と社会の中で

2022年、セントラルフロリダ大学の研究機関から、ある報告書が発表されました。この報告書は、選手だけでなくチームの監督やコーチ、ゼネラルマネージャー、事務局職員など、MLBという組織全体の雇用状況について、多様性と公平性、包括性(DE&I:ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン)の観点から採点されています。

この中で、MLBでプレーする黒人選手の割合が、過去30年で最も少なくなっていることが報告されました。2022年の開幕時点で、MLB全選手の38%が有色人種で、内訳を見るとヒスパニック系またはラテン系が約28.5%、アジア系が1.9%、ハワイアン/太平洋諸島系またはネイティブ・アメリカンが1%未満でした。黒人選手は調査開始の1991年当時、全選手の約18%を占めていましたが、7.2%と過去最少でした。

しかし、なぜ黒人選手の比率が下がったのでしょう?そこには、アメリカ社会の変化が影響しています。2022年当時、アメリカ全体の人口に対する有色人種の割合は約42.2%でした。近年、白人のアングロサクソン・プロテスタント(WASP)が少数派になりつつあり、社会的分断が深刻化しています。自分たちがマイノリティーに転落する危機感から、アフリカ系やアジア系の人々対する敵意が高まり、人種差別を動機とした攻撃が激化しました。Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)運動や、アジア人へのヘイトクライムが社会問題になったのは、記憶に新しいところです。

ラスボスは、野球というスポーツそのものの人気低下!

さらに、MLBにおける黒人選手の減少傾向には、実は野球そのものの人気の低下が大きく影響しています。マイナーリーグなど、青少年レベルから育成しようとする試みにもかかわらず、MLBはNFL(フットボール)やNBA(バスケットボール)などの人気スポーツに黒人選手を奪われ続けています。

元々、野球やソフトボールは、アメリカとカナダの北米、日本や韓国、中国、台湾、オーストラリアなどの東南アジアと太平洋、キューバやブラジルなどの南米地域と、参加国や競技人口が限られています。サッカーが盛んなヨーロッパや中東、アフリカではマイナースポーツです。

また、2024年のパリ五輪では、野球とソフトボールは実施競技から外れています。近年、オリンピック自体が世界的なスポーツの祭典ではなく、あからさまな興業であることが露呈していることも、ネガティブ要因の一つです。

一方、皮肉なことに、世界のプロスポーツ放送の収益は、2027年には6,141億ドルに達すると予測されています。メディア放映権市場も成長が見込まれ、地上波テレビや衛星放送、インターネット配信、さらにはライセンスビジネスなど、今後さらに多くの収益をもたらすと期待されています。


労働生産人口の減少や働き方の多様化、グローバリズム、アフターコロナのニューノーマルは、自分たちでは変えられない以上、何とか対応していくしかありません。それと同時に、時代の変化に合わせたルールや環境のアップデートは、組織運営のガバナンスとして不可欠です。

チームメイトやファン、地域など、さまざまなステークホルダーとの良好な関係を育てて顧客満足(CS)を向上させなければ、目先のライバルとは全く違うところにチャンスを奪われてしまうでしょう。個人や組織が奮闘することで得られる成果もあれば、業界や社会を変えなければ達成できない目標もあります。一人ひとりはチームの勝利のために貢献し、チームはそれぞれの個人が活躍できる場を用意することができるはずです。必ずしも自分とは相容れない多様な文化や慣習も認め合いつつ、助け合いながら競い合ってゴールを目指していく姿勢が求められています。

これらは、程度の差こそあれ、多くのビジネスで必要なことに共通しているように思えませんか?さて、私たちは、どんな難問に、どのように挑戦していきましょうか?

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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