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アジャイル

ダーウィンは適者生存なんて言ってない!じゃあアジャイルって何だ?

リプリパ編集部

『強い種が生き残るのではない。環境に適応し、変化できた者だけが生き残る!』―こういう言葉を見聞きしたことはありませんか?ITコンサルタントやテック系イベントの登壇者、就活面談の企業担当者たちがよく使いたがりますよね。『競争原理とは自然の法則であり、弱者が淘汰されることは自然の摂理である』といった、マッチョな言説にもつながります。自然科学者であり生物学者のC.ダーウィンが唱えた「進化論」で語られたことだ、とされますが、実はこれはウソ。ダーウィンは、そんなこと言ってません。

今回は、よく見聞きする名言や格言の原典を辿ることが、フェイクニュースに対するファクトチェックにも通じているという話と、この例に挙げた「変化への対応」についてアジャイル視点で深掘りしてみましょう。

『適者生存なんて言ってないけど』by C.ダーウィン(談)

チャールズ・ダーウィン(1809-1882)は、イギリスの自然科学者、生物学者、地質学者。「進化論」や、大西洋の航海でガラパゴス諸島を調査したり、『種の起源』を著したことなど、学校の授業で習いますね。大半の人が、卒業後に再会するのが冒頭のような言葉とセットかもしれませんが、これをキッパリ否定する良書があります。それがこの一冊。とてもよく知られているフレーズなのに圧倒的に誤解されていることについて、丁寧に解説されています。この本を紹介したラジオ番組のアーカイブもあるので、ぜひご一緒に。

ダーウィンの呪い (講談社現代新書) 千葉聡

#90 千葉聡「ダーウィンの呪い」 – KODANSHA presents 金曜開店 砂鉄堂書店 | Podcast on Spotify

著者は、東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授で、専門は進化生物学と生態学。ダーウィンが唱えた進化論は、書き記して伝承されるうちに、ダーウィン自身の考えや研究成果が都合よく改変され、本人の意向に関係なく3つの呪いを生み出してしまったと指摘しています。

進化の呪い:進化は生命の必然である!進化せよ!
闘争の呪い:生存闘争と適者生存!生き残りたければ、努力して闘いに勝て!
ダーウィンの呪い:この規範は人間社会も支配する自然の法則だと、ダーウィンも言っている!

この本では、ダーウィンの言説が曲解される中で、現代の生物学では使われない用語がそれらしくビジネス用語として使われ、遂には優生思想・選民思想につながったと指摘しています。欧米の研究者や著名人、政治家が支持することで、その後の反ユダヤ思想としてのホロコーストや、日本の軍国教育にも影響を与えたと示されています。帯に大きく示された「サイエンスミステリー」というのも納得。3つの呪いを見聞きしたり、自分でも使ったことがあれば、ちょっと寒気がしませんか?

酔いしれる名言が迷言化してしまう背景と理由

ここで、いわゆる名言とされる言葉が、ノイズになっていく背景や理由を考えてみましょう。

短くシンプルで、インパクトを持つ魅力

名言とされるフレーズは、どれもシンプルな表現の中に端的で力強いメッセージを含んでいるもの。プレゼンテーションの「キメ」の画面で使いたくなるのもわかります。それなりに格好良くて、何か言っているような気になるには便利かつ強力。

複数のメディアで繰り返し使われることによる強化

Webで、ソーシャルメディアで、書籍で、テレビで、セミナーで。何度も繰り返し使われることで、一部の人には共通認識としての下地がある程度できているなら、使う側としては、示した瞬間に確実に伝わる安心感もあります。特に、短文でインパクト重視、複数のプラットフォームに展開といえば、これほどソーシャルメディアと相性がいいネタもありません。間違ったことや、改編した表現の方がミーム(ネットの流行語)としてバズるのは、哀しいかなよくある話。

誤情報でも拡散されれば対価が支払われる仕組み

ディストピアの源はここでも主にX (Twitter)。手軽な「世界の名言」「著名人の格言」を永遠に投稿するようなボットの目的は、単にアクセス数(PV ページビュー)による広告収入です。信頼性など最初から必要とせず、むしろ非難や炎上を大歓迎。

使われる時に、ディテールが変わってしまう

「引用」「転載」は本来、改変が不可。しかし、口伝の物語として又聞きされていく過程で、どんどん改変されていきます。外国語の場合、翻訳によって微妙にゆらぎがあるのは無理もありません。

訂正は常に後追いで届きにくい

人は、「面倒で複雑、耳が痛い事実」より「自分の耳に心地よく、納得できること」が好き。訂正はいつも後から追いかけるしかなく、決して楽しい気分にさせてくれません。しかも、追いついても、人の関心はもう次に移っています。気分よく名言をキメた人に訂正を進言して逆恨みされるリスクを考えると、野放しにしておくのが身の安全。

誤情報がインデックスされてしまう

たとえ間違った表現であっても、沢山の人が参照・言及・共有すれば、それがクローラー(スパイダー)と呼ばれる検索エンジンの巡回ロボットに拾われて登録(インデックス)され、それを人が参照することで強化されていきます。

信頼できるソースを確認するのが難しい

正確な原典を確認するなんて、コストが掛かるだけ。「世界の名言」がまとめられているようなサイトも、一次ソースである原典を確認・明示しているところはほぼありません。ブリタニカ百科事典より正確とされるWikipediaを参照するのも、心許ない限り。

名言を使いたくなったら、ちょっと立ち止まって

名言の源流を辿るのは、ファクトチェックにも通じています。クリティカルシンキング(批判的思考)の視点で、多面的に確認することが求められます。いくつか有効なチェック方法があるので紹介しましょう。

信頼できるソース付きで回答する生成AIを使う

先週はBard改めGeminiになったGoogleのAIが公開され、大きな話題になりました。正々堂々とご回答を返すハルシネーションが起きないだけでなく、検索ではノイズに埋もれがちな名言でも、正確にソースを参照できる結果も散見されます。

また、アカデミックなソースや大手メディアなどに限定して、回答を得る生成AIもあります。名言の多くが海外発信なので、英語のプロンプトがオススメ。

▼Perplexity
https://www.perplexity.ai/

名言を検証するサイトを参照する

『求めよ、さらば与えられん』(新約聖書 ルカの福音書11章9節)―ファクトチェックのように、名言を検証する情報をまとめたサイトがあります。ただし、オリジナルのソースはこれだ!とはっきり示されている例ばかりではありません(使いやすくパッケージされたのが名言でもあるため)。ソースが絶対に間違いないとは言えないのは、前述のとおり。

▼Quote Investigator – Tracing Quotations
https://quoteinvestigator.com/

別の表現を検討したり、プロに依頼する

上記の方法も、できれば複数のサービスを使って多面的に検証した方が確実です。しかし、趣味でもない限り、そんな時間や手間を掛けている暇はないはず。何より、簡単に使えるキメフレーズとしてのメリットがありません。自分で確実にソースをチェックできないなら、表現を変えたり工夫するか、校閲と編集のプロに任せるのが一番妥当かもしれません。

「生物の進化」でアジャイルを再考してみる

前述の本で、著者はこう言い切っています。

生物進化は一定方向への変化を意味しない。目的も目標も、一切ないのだ。

また、ダーウィンが説いた『進化は進歩ではない』ということについて、3つの点を解説しています。

  • 生物の種は、共通祖先から分化変遷してきたものであり、常に変化する。
  • 生物の種は、形のギャップで恣意的に区分される変異のグループに過ぎない。
  • 変化を引き起こした主要なプロセスは、自然選択である。

このことを踏まえて、変化に迅速に対応できるアジャイルやアジリティー(俊敏性)について考えると、別の側面が見えてくる気もします。変化の過程では必ずしも、何がゴールや正解なのか、KPIが数値で明確に設定できない。目的や方向がはっきりとは定まらない中でも、とにかく変化に迅速に順応していくには、トライ&エラーを頻繁に繰り返してフィードバックしていくしかない。そのスタイルこそがアジャイルである、と捉えることもできるかもしれません。

とはいえ、人間社会における組織が生物と完全に同じ「進化」を遂げるはずはありません。また、営利企業としての組織が目的や目標、締切も一切なく進化することは無理で、リソースも限られている以上、現実としての落としどころを探る必要はあるでしょう。

ただ少なくとも、『厳しい現代、変化に適応できた者だけが生き残れるのは常識!』とか、『ウォーターフォールは古い!時代はアジャイル!』『目的意識を持って、選択と集中を繰り返して最適化せよ!』といった乱暴な表現で、「生物学の進化」を悪用する使い手には、気をつけた方が良さそうです。

やっぱり、TESCREALについて考える必要あり

生物と人間の進化、そしてテクノロジーの進歩について考えると、どうしてもTESCREALと無関係ではいられません。

テクノロジーの進化を是とする急進的な人々の多くが、冒頭の言葉に通じる言説を振るっています。名言で示された先人の知恵の本質とは何なのか?それを使う人々の意図は何なのか?使う時はもちろん、見聞きする時も慎重に判断する必要がありそうです。

世間一般に広く知られていたり、よく見聞きする名言や格言ほど気をつけて使いたいもの。あなたが知っている、「進化」や「発展」を象徴する名言はありますか?それについて、調べてみるのも面白いですよ。分かったことがあったら、ぜひコメントなどで教えてください。

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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