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テクノロジー

技術革新や野球人口減など「運」も実力のうち?―伊東 貴行さん4

リプリパ編集部

元プロ野球選手で、現在はBlueMemeで経理チーム所属の伊東 貴行さんに聞いてきた話も最終回。リープリーパーとして、スポーツ x テクノロジーを話題にしてみました。プロアスリート経験のあるIT企業の一員は、どう感じているのか?前回までの記事から続けてお読みください。

スポーツの道具やルール vs 技術革新の鬩ぎ合い

― タレントの伊集院光さんって、草野球好きなんです。彼のラジオ番組でも、軟式野球の芸人リーグについての話題がよく出ます。先日も、とても興味深い話を聞きました。中にウレタン素材が入って、ボールが飛びやすいバットがあるらしいんですが、毎年のようにルール改正があって、1本5万円もするバットを何本も買い直さないといけなくて大変って。

伊東さん:高反発バットと言われるミズノ「ビヨンドマックス」ですね。僕らが小学校の頃から出初めたんですけど、本当にめっちゃ飛ぶんですよ。むしろ、飛び過ぎて規制が掛かってるって話です。高校野球も、今までの金属バットから、反発が少ない新基準のバットに変わってます。

― やっぱり、そんなに飛ぶんだ!飛距離が5%伸びたら、壁際の大フライもスタンドに入っちゃう。それに、連盟はOKだけど球場がダメとか、開発しているメーカーとしての立場はどうなるんだ?って話でした。こんなにコロコロとルールが変わったり、しわ寄せがユーザーに来るなら、もう野球自体を辞める人も出てくるんじゃないか?って気も…

伊東さん:ですね。でも、道具が進歩すると言うことは、裏返せば人の側には技術がなくても、いい結果を得られてしまうことにつながります。趣味や娯楽で楽しんでいる大人なら、そういうアイテムを使ってもいいかもしれません。ただ、子供の頃は、あんまりそういう道具に頼らない方がいいんじゃないかなって思います。

― 人間、勘違いでも、小さな成功体験が次のきっかけになることもあります。成果につながると嬉しいので、もうちょっと練習してみようかなって気になりますし。その一方で、道具抜きの実力も鍛えておかねば、道具が主役になってしまう。

道具や技術の進化に翻弄され続けるアスリートだけど

― 道具に限らずルールも、テクノロジーと共にちょっとずつ変わっていますよね。例えば、判定に不服があった場合に監督がビデオ判定を要求できる「チャレンジ(日本では「リクエスト」)」と呼ばれる制度も定着しました。サッカーでも、2022年のカタールW杯スペイン戦では、ゴールライン際でクロスボールを折り返した奇跡の「三笘の1mm」が決勝点を生みましたが、決め手はVAR(ビデオアシスタントレフリー)でした。
ジャッジの正確性とゲームのリズム、審判員の技術、ルール整備などとの兼ね合いだとは思いますが、一人のプレーヤーだった立場として、こういう現状をどう思いますか?

伊東さん:実際の映像を見てリプレイ検証できて、正しい結果を得られるようになったのはいいことだと思うんです。審判も人間なんで、「リクエスト」されるケースで常に正しい判定ができているわけではないですから。

ただ、そういった設備があるプロ野球だと検証ができても、高校や中学など、アマチュアのゲームだと無理です。テクノロジーの進化は止められないので、何れは拡がっていくんでしょうけど。

― 今後は、バットやボールだけでなく、ベースやラインなどの球場設備とか、選手のウェアやシューズ、ヘルメットにもセンサーが入って、クロスプレーだけでなく、すべての判定が半自動化されるようになるかもしれません。そうなると、人間の審判の意味って…

伊東さん:僕らの時はリプレイ検証なんてなかったんで、守備側だとクロスプレーもどうやってアウトのように審判に見せるかも、一つの技術として練習してました。『人の目を欺く』とまで言ったらちょっと語弊がありますが、審判がアウトって言いたくなるようなプレーをできるかも含めて練習してたんです。そういう僕が言うのも何ですが(笑)、テクノロジーの進化で正しい結果が得られるようになっていくことは、基本的には賛成です。

― 道具が、人を育てれば危うくもする、と。

伊東さん:そうなんです。ウレタン入りバットやビデオ判定にしても、道具や技術が進化し過ぎても、プレーする人・そのプレーを判定する人が育たなくなってしまいますよね。経験が浅い時からいい道具や技術に頼って、自分自身の人間としてのスキルが伸びてないと、その上の世界行った時に多分苦労します。そうなると、全体的なレベルの低下につながる可能性もあるんじゃないかなって、ちょっと心配はします。

― 考えれば、スポーツがテクノロジーと無縁ではないどころか、競技と共に移り変わってきたわけで。例えば、イギリスのSPEEDO社が開発した競技用水着「LZR Racer(レーザーレーサー)」は、2008年の北京五輪で獲得メダルの実に90%近くを占めるほどでした。しかし、2010年には事実上の禁止に。2017年に登場したNIKEの厚底シューズ「VAPOR FLY(ヴェイパーフライ)」は、いろいろな記録を塗り替えました。

伊東さん:箱根駅伝でも、多くの選手が目立つピンクのシューズを履いて、新記録が続出して話題になりましたね。

― そう。そして2024年11月からは、陸上競技のソールが20mm以下に制限されます。スキージャンプの高梨沙羅選手が優勝するたびに、板の長さやウェアの材質といったルールが変えられ続けて来ました。彼女が闘ってきた相手は、ライバルや天候、世間の評価、恐怖心だけではなかった。

伊東さん:いちプレーヤーとしては、透明性・妥当性のあるルールが整備されたら、その中で自分ができるベストを尽くすだけです。ただ、公平・公正であることは大前提ですね。

少子化が止まらない中で、野球人口減をどう思う?

― 追い打ちを掛けるようですが、少子化で野球の競技人口が減ってる現状をどう見ますか?日本の野球人口(競技統括団体に登録している選手数)は、2010年から2022年に掛けて約60万人減少し、約101万7,500人―今頃は、日本国内で100万人いるかどうか。

▼野球普及振興活動状況調査2022 報告書
https://npb.jp/kyogikai/report_promotion_2022.pdf

― 世界的に見れば、野球はアメリカや日本、台湾、韓国、キューバなど、一部の国で人気なだけ。それ以外の、特にヨーロッパや中南米、アフリカではサッカーが主流です。2028年のロサンゼルス五輪で、野球やソフトボールが復活するようですが、ヤバい興業だとバレた五輪自体が不人気で。

伊東さん:確かに寂しいところですが、そうなっていかざるを得ないのもわかります。野球って、結構ハードルが高いじゃないですか。グローブやバット、ボールなどの道具を揃えたり、やれる場所を確保したり。もちろん、メンバーを揃えるのだって。

― ですね。それに、公園ってどこも、やっちゃいけないことだらけ。ボール投げるな、バット振るな、騒ぐな。高齢世帯からのクレームで公園が消えたり、有料じゃないと利用できない施設に変わったり。中には、写真を撮ってWebやソーシャルに公開するな、まで!次世代を育成しないとコミュニティーも拡がらないのに。

伊東さん:確かに、野球をやる環境自体が整ってないですからね。都市の中心部ならなおさら。

― どんなに条件が悪くても、競技人口を増やそうとする人はいますし、やりたい人は、やれることを工夫するかもしれませんね。バスケットボールは3on3のような新しいスタイルもありますし、都市部のビルの屋上にフットサルコートができて、人気なのもわかります。次世代型三角ベースの復活(笑)!?

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伊東さん:野球がする人が少なくなるからといって、今すぐなくなるわけではないと思います。見る競技としてはこれからも人気があるでしょうし、そこに関しては、僕はあんまり寂しいっていう気持ちはないんですけどね。

― リーグ運営やルール変更、道具や技術の進化って、選手がどうこうできませんよね?決まったらそれに従うだけ。他にも、屋外競技なら天候とか、4年前のコロナ禍とその後もそうですが、自分ではコントロールできない。野球人口の減少もそうかも。『運も実力のうち』だという考えを、どう思いますか?

伊東さん:「運」っていうよりは、善し悪しも含めた平等に与えられた「条件」だと思えば、準備次第かなと思うんですよね。確かに、自分ではどうしようもないことかもしれませんが、勝ち負けとして結果に出る以上、言い訳はできません。ただ、自分ができることは必ず何かある気はします。

― そうですね。それぞれにとっての、次のゲームがあるわけで。ありがとうございました。


4回にわたって聞いてきた、元プロ野球選手である伊東さんの話は、一般の私たちにも共通していたり、かなり違っているコントラストを感じました。

私たちは、圧倒的なIT化や高度なシステム化、技術革新、人手不足、国際情勢など、コントロールできない条件に影響され続けています。目的と結果がはっきり出る世界で、自分に有利か不利かには関係なく、とにかく変化している。それでもとにかく、ゲームまたは興業として成立させる必要がある。その中で、チームとして、個人として、勝利のために準備できることは?そんなことを考えさせられました。

ぜひ、ご意見・ご感想をお寄せください。また、あなたの身の回りに、意外な業界から転身した人はいますか?次のキャリアへの挑戦でやってみていることはありますか?コメントで聞かせてください。試合はまだまだ続いていきます。

この記事でインタビューをした方

伊東 貴行 
元プロ野球選手
父親と兄が野球好きだったことで、幼少期から野球を始める。
23歳からは独立リーグで、プロ野球選手として2年間プレーをした。 今は仕事ではなく趣味として野球を続け月に1回は都内のバッティングセンターでストレス発散をしている。

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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