エネルギー危機とAI時代のリモートワーク-コロナ禍との違いとは?
6年前の2020年春、多くの企業が「やむを得ず」リモートワークへ移行しました。世界があの頃とはまったく異なる状況にある中、今さら「リモートか出社か」を問うことは意味がないでしょう。「エネルギーとコミュニケーション」という、AI時代の観点から再考してみませんか?
「いつかまた起きるパンデミック」に代わる危機
2026年3月に起きたアメリカとイスラエルによるイラン攻撃が、中東からのエネルギー供給に緊張をもたらしています。金融市場は乱高下し、原油価格は急騰しています。
第一生命経済研究所によると、2026年春の花見コスト指数は2020年比で25.0%上昇しています。コロナ禍の春とは異なる形で、今年の桜は厳しい経済環境の花冷えを感じさせました。
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ホルムズ海峡は、世界の石油輸送量の約20%が通過するチョークポイント(喉のように、締められると窒息する細い場所)。石油輸入の約90%が中東に依存している日本にとってはまさに生命線であり、エネルギー供給だけでなくサプライチェーン全体が揺れています。
例えば、介護施設では入浴の回数を制限したり、離島へ定期船が出せずに診療所がリモート診察に変えざるを得なかったり、公営交通機関の燃料入札がゼロになっています。食料品や肥料の製造工場が止まり、人工透析に必要な医療器具が確保できない緊急事態も叫ばれています。
コロナ禍以降、「いつかまた必ず起きるパンデミックへの備え」という警鐘が鳴らされていた一方で、先に来たのは地政学的・政治的危機でした。今起きていることは過去の連鎖の帰結であり、次の連鎖への起点でもあります。
▼出典:原油高だけではない中東情勢緊迫化の試練 ― 3つの経路からみた世界経済・産業への影響 ―|みずほリサーチ&テクノロジーズ
https://www.mizuho-rt.co.jp/business/research/report/2026-0024/index.html
コロナ禍とは事情が違うリモートワーク
国際エネルギー機関(IEA)は3月に、今回のエネルギー危機への需要側対策として、「石油節約の10の提言」を発表しました。その筆頭が「可能な限り在宅勤務を行うこと」。
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アジアでは特に影響が深刻で、タイは公務員への在宅勤務や徒歩通勤を命令、スリランカでは週の稼働日を減らし、ベトナムやフィリピンも相次いで同様の措置を打ち出しています。
イラン情勢については、専門家の間では、5月に延期されたアメリカと中国の首脳会談や7月のアメリカ建国記念日を前に、沈静化へ向かうシナリオも指摘されています。ただし、トランプ政権の政策転換のリスクは常にあり、予断を許さない状況が続いています。
仮に情勢が一時的に落ち着いても、構造的問題は変わらない以上、短期的な沈静化で解消すると捉えるのは非常に危険です。組織に本当に必要なのは、エネルギーコストの変動を発端とした、構造的な備えであり、ビジネスとしてのレジリエンス(回復性)とアジリティー(俊敏性)です。
6年間で何が変わって、何が変わらないか?
構造化している地政学リスク以外にも目を向けてみましょう。AIは爆発的に普及し、半導体需要によるデバイス高騰、円安やインフレが組織のコストを直撃しています。「やむを得ずリモートに」というコロナ禍の急場凌ぎから、大きく変わったこともあれば、あまり変わっていないこともあるので、それらを整理してみます。
大きく変わったこと
コロナ禍を仕事の現場で経験していなかった人材が、組織に入って約2年が経過しています。人材の構成が徐々に変わり、若い世代ほどリモートネイティブ・AIネイティブです。
学校や塾、友だちとのコミュニケーションでリモートは当たり前。レポート作成や就職活動、エントリーシートの作成、面接のシミュレーションなどに、AIを使うことも特別ではなくなりつつある世代です。採用面接や指導する側がノウハウと環境を提供できなければ、育成の機会そのものが失われます。
また、ホワイトカラーの一部がAIに置き換えられる傾向は、雇用の流動性が高い欧米先進国だけの話ではなく、現実になりつつあります。ジュニアエンジニアの育成問題はその象徴で、「リモートではOJTができない」といわれていた議論はもはや古いといえます。補佐的な仕事を割り当てられがちだった、女性たちの雇用が影響を受けやすいというジェンダーギャップも、AI時代に改めて指摘されています。
課題は、その業務や人材の存在意義や、AIで代替されることの短期的・長期的功罪というフェーズに移り始めています。
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変わっていないこと
多くの業界・業種が、未だにリモートと出社の最適解を模索し続けています。大手テック企業が出社に回帰するニュースもあれば、都市部のビジネスビルの入居率もたびたび話題になります。
エッセンシャルワークやブルーカラーの仕事の多くは、今もリモートやAIでは代替できません。危機のたびに「リモートへ!」と号令が出ても、現時点ではその恩恵を受けられない職種が存在する現実は、議論の前提として押さえておく必要があるでしょう。
コミュニケーションのためのエネルギーコスト
もう一つ、重要な視点があります。広義の貴重なエネルギーといえば、例えば、意思疎通や合意形成、組織運営にかかるコミュニケーションコストも無視できない問題です。どの組織にも、それを浪費している余裕はないはず。見落とされがちな問題は、例えば、低く留まるコミュニケーションの解像度、ナレッジの格差や属人化、そしてAIの介在です。
▼出典:レノボ・ジャパン「ハイブリッドワーク実態調査 2024」
https://www.lenovo.com/jp/ja/news/article/0123042024.html
レノボ・ジャパンの2024年調査では、リモートワークしにくい理由として「社内関係者とのコミュニケーションがとりづらい」が22.0%でトップ。コロナ禍から5年が経過してもなお、コミュニケーションコストはリモートワーク最大の課題であり続けています。
画面越しのやりとりは、必要な情報の受け渡しはできても、文脈やニュアンス、体温が欠けやすいもの。リアルでも会っていたり、知っている相手とのやり取りだけでなく、全く知らない相手と対話する機会も増えました。また、「対面で接しているあの人たちだけは知っている」情報格差が組織内に蓄積されてしまいます。これはリモート環境固有のリスクとして、未だに解決策が模索されています。
さらに、昨今ではチャットやメールを送受信する相手が、全部ではなくてもAIを経由している可能性もあります。ミスしていないか、最後は人がチェックするコストはゼロにできません。
リモートが上手く機能しなかったり、不具合をリカバーすることには、常にエネルギーやリソースが割かれます。エネルギー危機とAI時代を前に、リモートワークの是非といった些末な問題ではなく、組織はどのように働き方を設計し直せばいいでしょうか。
野良AIは、シャドウITの次元を超えた問題
コロナ禍以前から、シャドウITは問題になっていました。情シスの管理外のツールが許可なく業務に持ち込まれ、セキュリティーの境界が曖昧になるリスクは、リモートワークによって改めて表面化しただけです。しかし、シャドウAI(野良AI)は、それとは次元が異なります。
従来のシャドウITは、主に「どのエンドポイントが使われているか?」が問題でした。野良AIの場合、問題は「判断や評価が外に出てしまう」こと。プロンプト経由で業務情報が外部のLLMに渡り、それがどこで学習・保存されるかは、ユーザー自身にも見えません。情報漏洩がわからないことが、最大のリスクです。
Gartnerによると、69%の組織で従業員が禁止された生成AIツールを使っている証拠が確認されています。2030年までに、40%以上の企業がシャドウAI起因のセキュリティーまたはコンプライアンス・インシデントを経験すると予測されています。別の調査では、企業が経験するシャドウAIインシデントは月平均223件にものぼります。
▼出典:Gartner、AIリスクへの対処について日本企業への提言を発表
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20250318-ai-risk
もちろん、この問題に対処するサービスも進められています。クラウド上でIDと認証を一元管理するIDaaS(統合認証・ID管理)サービスOktaは、「Okta for AI Agents」を展開し、シャドウAIエージェントの継続的な発見と管理を可能にしています。
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また、個人向けパスワード管理ツール1Passwordは「Unified Access」を発表しました。これは、XAM(Extended Access Management)プラットフォームを進化させ、人間とAIエージェント双方のアイデンティティー・認証情報の発見・保護・監査を統合した環境です。
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両社のサービスに限らず、従来のSSO(シングルサインオン)やMDM(モバイルデバイス管理)では、AIエージェントを管理しきれません。そこで求められる仕組みは、AIの利用禁止ではなく可視化と管理です。
そしてこれは、リモート環境を管理する情シス部門だけの問題ではなく、経営層や人事、現場マネジャーも全員が当事者となる問題です。
「リモート=省エネ」の等式は本当に成立するか?
確かに、リモートワークには、通勤・出張の削減によるCO₂排出とエネルギー消費の低減効果があります。しかし同時に、生成AIのデータセンターが消費する電力は急増しています。
出典:

データセンターの電力消費量 2030年に日本超え IEA報告書 | 一般社団法人 日本原子力産業協会
IEAの試算では、世界のデータセンターの電力消費量は2030年までに2024年比で倍増する見通しです。日本でも2034年には現在の3倍以上に達するという予測もあります。「個人が通勤を減らす」レベルの省エネ効果が、データセンターの消費増に相殺される構図は、数字が示す通りです。
また、気候変動の進行も加味が必要で、これから夏を迎える冷房需要は確実に増加します。オーストラリアは今回、輸入ディーゼルの規格基準を一時的に引き下げ、調達の幅を広げました。省エネと脱炭素という平時の目標が有事には後退するという矛盾が、ここにも現れています。省エネの効果が単純に積み上がらない時代になっています。
AI時代において、「リモートワーク=省エネ」という等式は、そのままでは成立しない可能性があります。個別最適の積み上げが全体最適にならない典型例として、真剣に議論されるべきテーマです。
リモートワーク体制を更新すべき3つのポイント
危機が来ると管理を強化し、禁止事項を増やす—これは、企業が陥りやすい罠です。コロナ禍で、セキュリティー強化を名目にツールを一律禁止した組織のイノベーションが止まり、競合との体験格差に苦しんでいる話は珍しくありません。
ここで重要なのは、世代論よりも体験格差という個人差。AIやリモートツールを実際に使い込んだ経験があるかどうかの体験の有無が、組織内のパフォーマンス差を生みます。
オンサイトかリモートかに関係なく、AIやローコード開発ツールを使いたい、進化を試したい—その意欲は健全で、推奨されるべきです。問題は、その意欲を阻むことではなく、安全に試せる環境が整っていないことにあります。
解決の方向性は「禁止」ではなく「設計」です。サンドボックス環境の整備、AI利用ガイドラインのルール化、支援する教育体制、管理された開発基盤の活用など、これらを揃えて初めて、チャレンジを安全に推奨できます。
1.リモートワークポリシーの更新
無駄な会議、合意形成の遅延、情報共有の断絶—これらはすべて、組織の貴重なエネルギーの浪費です。危機の時こそ、これらのコストが致命的になるため、「コミュニケーションコストもエネルギーとして意識する」という発想が、危機対応の質を変えます。出社しようがしまいが、問いはひとつ。ビジネスのゴールを効果的に達成できているか?です。
そのためには、コロナ時代に作ったリモートワークポリシーを、AI時代に合わせて更新することが有効です。
2.「ルール」としてガイドラインを整備
リモートワークもAIも、今やインフラの一部になりつつあります。「使うかどうか?」を議論する段階から、「どこで使って、どう組み合わせて、無駄なく最大の成果を出すか?」に移っています。
体験格差を組織内に固定するだけでなく、意欲ある人材の離脱を招くリスクを考えると、闇雲な禁止は悪手。ガイドラインを「禁止令」ではなく「ルール」として整備・更新する方が、組織と個人の両方にとってメリットが大きいでしょう。ガバナンスとイノベーションはどちらかを選ぶものではなく、組み合わせの設計が問われています。
3.オフィス+リモートのハイブリッド設計
BlueMemeは、アフターコロナ以降、原則として出社に回帰しました。これは、対面というより質の高いコミュニケーションと迅速な意思決定との最適なバランスを考慮した結果です。
しかし、社員やパートナーは日本各地にいるため、コロナ禍以前から一部ではリモートの環境も整えていました。また、絶対に出社ありきではなく、チームの構成や社員ごとの事情なども考慮し、パフォーマンスを最大に活かせる条件を常に模索し続けています。
御社も、コスト変動を前提とした、オフィス+リモートのハイブリッド設計を見直すチャンスかもしれません。
6年間のリモート経験をアップデートしよう
コロナ禍という危機的状況から学んだ経験は、組織と個人の両方にとって貴重な財産です。多くの組織が不十分ながらも数週間でリモート環境を整え、想定以上に業務が回ることを知りました。同時に、脆弱なVPNのリスクや、ルールをアップデートする必要性、リモートでは無理な現実も突きつけられました。
しかし今回求められているのは、構造的な対応です。エネルギー危機は一時的な現象ではなく、地政学リスク・気候変動・AIの電力需要増という複数の要因が絡み合った慢性的な課題です。
電力の安定供給のために複数のエネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」にも通じる柔軟な組み合わせという発想を、働き方の設計にも持ち込む必要がありそうです。6年間の経験をアップデートして、リモートとオンサイト、管理と支援、AIと人のベストバランスを改めて目指していきましょう。
もし、BlueMemeに少しでも興味を持ってもらったら、一度、募集要項を覗いてみませんか?リモートワークのメリット・デメリットは、私たち自身も経験してきたことですし、コロナ禍の就職で苦労した先輩たちも多数働いています。ご質問もどうぞお気軽にお寄せください。





