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テクノロジー

理論やモデル名で知られる研究者たちに学ぶネットワークの科学構造2

福田 慎一郎

前回に引き続き、ネットワーク科学の発展に寄与した研究者を紹介し、その人たちによって作られたネットワーク科学における重要な概念、代表的なネットワークモデルを紹介します。この記事を読んで、ネットワーク科学の理解を深めていただければと思います。

ネットワークモデルや理論を発明した研究者2

前回、紹介しきれなかったネットワークモデルや理論を発明した研究者を紹介します。

ダンカン ・ワッツ(1971-)

ダンカン・ワッツ
ダンカン・ワッツ
出典:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Duncan_J._Watts

ダンカン・ワッツは社会学者で、スモールワールド現象の提唱者として知られています。彼は「Six Degrees of Separation(6次の隔たり)」理論を支える要素となるスモールワールドネットワークの特性を初めて示しました。彼の先駆的な研究は、ネットワーク科学が社会や情報伝播においてどれほど重要な役割を果たすかを示すものであり、ネットワークが人間社会においてどのように機能するかについての理解を深めました。ワッツの業績は学際的な視点からのネットワーク科学の進化に寄与しています。

アルバート=ラズロ・バラバシ(1967-)

アルバート=ラズロ・バラバシ
アルバート=ラズロ・バラバシ
出典:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Albert-L%C3%A1szl%C3%B3_Barab%C3%A1si

バラバシは物理学者であり、ネットワーク科学の分野で先駆的な業績を残しました。彼の「バラバシ・アルバートモデル」は、スケールフリーネットワークの基本法則を提唱し、成長するネットワークの構造を説明する重要な理論となりました。バラバシはネットワーク内でのハブの形成や情報伝播のパターンに関する理解を深め、その研究は実世界のさまざまなネットワークの形成メカニズムに影響を与えました。

ネットワークにおける尺度とは?

ネットワークにおけるいろいろな尺度を紹介します。

次数

次数とは、各ノードに接続されているリンクの数です。例えば以下のように、サーバーに接続されているネットワークがあるとします。サーバーAはサーバーBおよびCと接続しているので、次数は2です。サーバーBはサーバーAとC、D、Eと接続しているので、次数は4です。サーバーCは、サーバーA、Bと接続しているので次数は2です。このように、次数は数えられます。

このネットワークは、ノードが5つですが、現実のネットワークではノードの数が数千〜数万ととても大きな数になります。そのような巨大ネットワークを分析する際に、ネットワークの次数の分布を用いてどのネットワークモデルに近いのかを分析します。

ネットワークの模式図と次数
ネットワークの模式図と次数

平均経路長

平均経路長は、ネットワークにおける全てのノード間距離の平均値を示します。これは、ネットワーク内での情報の伝播や結びつきの強さを示す指標で、小さな平均経路長は「スモールワールド性」を示す特徴となります。平均経路長〈 $d$ 〉は以下の式で計算されます。

$\langle\mathrm{d}\rangle=\frac{2}{\mathrm{n}(\mathrm{n}-1)} \sum_{\mathrm{i} \neq \mathrm{j}} \mathrm{d}_{\mathrm{ij}}$

$n$ : ノード数

$d_ij$ : 任意のノード i からj までの最短距離

「 $Σ$ 」は総和を求める、つまり全部足すという意味です。

局所クラスター係数、平均クラスター係数

次に、「クラスター性」を示す指標に、「局所クラスター係数」と「平均クラスター係数」があります。

局所クラスター係数とは、ある1つのノードの隣接ノード同士がどれだけ結びついているかを示す指標で、ネットワーク内での局所的な結びつきの強さを示します。クラスター係数は$0$から$1$の範囲で表され、$1$に近いほどクラスター性が高いことを示します。平均クラスター係数は、局所クラスター係数の平均を取り、ネットワーク全体の結びつきの度合いを示します。

局所クラスター係数:$Ci$および平均クラスター係数:<$C$ >は、以下の式で計算されます。

$C_i=\frac{2L_i}{k_i\left(k_i-1\right)}$

$L_i $: あるノードに隣接するノード同士が結びついている数

$k_i $: あるノードに隣接するノードの数

$<c>=\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}C_i$

代表的なネットワークとネットワークモデル2

代表的なネットワークとネットワークモデルも、前回紹介した他にもあります。

スモールワールドネットワーク

スモールワールドネットワークは、クラスター性が高い一方で、平均ノード間距離が短い特徴を持つネットワークです。これは、局所的なつながりが強く(高いクラスター性)、一方で、どのノードも少ないステップで他のノードに到達できる(短い平均ノード間距離)構造を表しています。

スモールワールドネットワークモデルを導入した初めのモデルは、1998年にダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツによって提案されました。このモデルは、「ワッツ・ストロガッツモデル」として知られ、非常にシンプルでありながらスモールワールドネットワークの特性を捉えています。ワッツ・ストロガッツモデルは、規則的な構造(各ノードが近くのノードとだけ繋がる)からランダムな構造(全てのノードが等確率でつながる)への遷移を表現しています。

<ネットワークを観察してみよう>

ワッツ・ストロガッツモデルは、はじめに規則的なグリッド状のネットワークを構築します。その後、一定の確率 : $p$ でノードを再配線し、新たなランダムな結びつきを生み出します。今回は、$N$(ノードの数)$=30$として、確率 : $p$ を$0.01,0.1,0.3,$と変化させワッツ・ストロガッツモデルのネットワークを作成しました。併せて各ネットワークの平均経路長 : <$d$ >と平均クラスター係数 : <$c$ >を示します。

N=30,p=0.01,=: 3.606 ,=0.5144
N=30,p=0.01,=: 3.606 ,=0.5144
N=30,p=0.1,=3.151 ,= 2.811
N=30,p=0.1,=3.151 ,= 2.811
N=30,p=0.3,<d>=2.793 ,<C>=0.247
N=30,p=0.3,=2.793 ,=0.247

スケールフリーネットワーク

スケールフリーネットワークとは、ノードの次数分布が「べき則」に従うネットワークです。べき則とは、特定の現象やデータの分布が、尾部が長い尾を持つ特徴的な分布を指します。

べき則の例を以下に示します。以下は、友人がx人いる人が何人いるか?を示すグラフです。友人の数を横軸に、その友人が何人いるかを縦軸に取っています。人によっては数百人の友人がいる人もいますが、大部分の人は数十人だと思います。その関係をグラフに表すと、右に裾野が広いグラフとして描かれます。

何人の友人を持つ人が、何人いるか「べき則」の分布グラフ
何人の友人を持つ人が、何人いるか「べき則」の分布グラフ

これをネットワークに当てはめると、少数のノードが非常に高い次数を持ち、その他の多くのノードは比較的低い次数を持つ分布となります。スケールフリーネットワークに見られる、高い次数を持つノードのことを「ハブ」と呼びます。このスケールフリーネットワークを導入した初めてのネットワークモデルは、アルバート=ラズロ・バラバシとレカ・アルバートによって1999年に発表された、バラバシ・アルバートモデルです。バラバシ・アルバートモデルの新しいノードが既存のノードに接続される過程において、既存のノードの次数に比例した確率で接続される特徴を持っています。

<ネットワークを観察してみよう>

バラバシ・アルバートモデルは、成長と優越的接続と呼ばれる基本原則に基づいて生成されます。基本原則を以下に示します。

基本原則

成長:ネットワークは時間とともに成長します。最初に一部のノードが存在し、新しいノードが追加されます。

優越的接続 : 新しいノードが既存のノードに接続される際、既存のノードが持つ次数に比例して接続される確率が高くなります。これにより、ハブと呼ばれる高次数のノードが形成されます。

ノード数を100、新しいノードがつながる既存ノードの数を1つとし、バラバシ・アルバートモデルを用いてネットワークを作成しました。ところどころにハブがあることが観察できます。

ネットワークの途中に見られるハブ
ネットワークの途中に見られるハブ

また、ネットワークの次数分布を見てみると、少数のノードが非常に高い次数を持ち、その他の多くのノードは比較的低い次数を持つことが分かります。

ネットワークの次数分布
ネットワークの次数分布


ネットワーク科学の概念や理論は、大規模言語モデル(LLM)や量子コンピューター、ブロックチェーンなど、新たなテクノロジーにも深く関係し、応用範囲もさらに拡がっています。研究者の一人として、引き続き注目しています。

参考

ネットワーク科学 (サイエンス・パレット) | 増田 直紀、高口 太朗、増田 直紀

「複雑ネットワーク」とは何か 複雑な関係を読み解く新しいアプローチ (ブルーバックス) | 増田直紀、今野紀雄

ネットワーク科学: ひと・もの・ことの関係性をデータから解き明かす新しいアプローチ | Albert‐L´aszl´o Barab´asi、池田裕一、井上寛康、谷澤俊弘、京都大学ネットワーク社会研究会

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ABOUT ME
福田 慎一郎
福田 慎一郎
ワイン大好き社会人
2021年BlueMemeに新卒で入社。2023年10月からネットワークの統計解析に関する研究開発業務に携わっています。2024年4月から九州大学大学院システム生命科学府に社会人博士学生として入学。科学とアートが好きで、休みの日は美術館や博物館によく行きます。入社してからワインにはまりました。
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