予測不可能な時代-それでも日本企業がDXを推進できない3つの壁
日本企業は、株高で好調な業績を示す一部の組織もある一方、円安やレアアースの確保、人手不足とAI人材育成など、予測不可能な変化に直面しています。世界の地政学的リスクも混迷を極める一方。それにも関わらず、なぜか変化に対応できずDXが進まない。その理由を、3つの構造的な壁から読み解いてみます。
「激動」が現実化した2026年第1四半期
2026年2月末、アメリカのイラク攻撃により、ホルムズ海峡は封鎖され原油価格が高騰しました。1月には、グリーンランドをめぐるNATO内部での対立と、目まぐるしく変わる関税措置がありました。さらに溯れば、長引くウクライナ情勢がエネルギー価格や航空コストを押し上げ、今も製造や物流に広く影響しています。
今年も1月後半に、スイス・ダボスで世界経済フォーラム(WEF)年次総会(通称ダボス会議)が開催されました。この時の調査では、回答者の50%が「今後2年は激動」と答えていましたが、それが早くも現実化したといえます。
この会議には、各国の政府要人に加え、約850名のCEOや会長、IT業界のキーパーソン、約100社のテクノロジー企業が集結しました。IT関連の課題では、データセンターのエネルギー問題、AI失業、規制対立などが議論のテーマとなりました。毎年、ここでのIT関係者の発言と動向は、見過ごせない重要なシグナルとなっています。
▼出典:A Spirit of Dialogue Brings Record Numbers of World Leaders to Davos for World Economic Forum Annual Meeting 2026 > Press releases | World Economic Forum
https://www.weforum.org/press/2026/01/a-spirit-of-dialogue-brings-record-numbers-of-world-leaders-to-davos-for-world-economic-forum-annual-meeting-2026
点ではなく面で広がり、連鎖する複合リスク
近年のリスクの特徴は、単発ではなく「連鎖」すること。国境を跨ぐ複数のリスクが同時多発的に発生し、予測困難で、対応時間も極めて短い—これが2026年の現実です。また、グローバリズムとIT化・AI化の現代、世界規模の影響からはどの企業も逃れられません。
例えば、劇的に進化するAIによって、エンジニアの採用やジュニアの育成、ホワイトカラー層の維持に急ブレーキが掛かっているのは、危機感と共に伝えられているところ。雇用形態が大きく異なるため単純比較はできませんし、AIが解雇の口実に利用されている面も。とにかく、アメリカのテック企業を襲っているシビアな現実は、日本にも余波となって影響しています。
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また、政治的リスクも勃発しています。中国との関係悪化によるレアアース規制は、日本企業を直撃する大きなリスクとして続いています。日本の対中依存度は2010年の90%から2024年には63%と改善しつつありましたが、重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)は依然としてほぼ100%を中国に依存しています。3ヶ月の輸入停止で経済損失は約6,600億円、1年続けば2.6兆円に達すると試算されています。
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また、2月の春節(旧正月)の時期には、主に中国からのインバウンド観光客が大幅に減りました。今も、大型クルーズ船の就航便数なども以前の状態に回復せず、観光業を中心に大きな打撃を受けています。
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さらに、日本国債の信頼性低下と円安進行は、原材料費・物流費・建設コストに直結します。問題は、こうした複合的リスクが4次・5次取引先にまで波及することです。
事例:ネクスペリア半導体供給停止
去年の秋に起きた自動車業界の事例をご存じでしょうか?2025年10月、オランダ政府が中国資本の半導体メーカー・ネクスペリアの経営権を接収したことで、中国政府が報復措置として輸出規制を発動しました。ネクスペリアは、車載向けディスクリート半導体(単一の機能を持った電子部品)で世界シェア30~40%を占め、電子制御ユニット(ECU)に不可欠な部品を供給しています。
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この影響は瞬時に世界中の自動車メーカーを直撃しました。ホンダはメキシコ・米国・カナダで生産を停止。日産自動車も追浜工場や九州日産工場で減産に追い込まれ、在庫は11月第1週までしか持たないことを発表。欧州ではフォルクスワーゲン、ボルボ、ボッシュも生産停止を余儀なくされました。
その後、ネクスペリアに対するオランダ政府の管理措置は、同年11月に停止されました。問題は、ティア1(1次サプライヤー)への影響は把握できても、ティア2以降の評価が極めて困難だったことです。サプライチェーンの深層部まで可視化できている企業は、ほとんどありません。
レジリエンスがない日本企業の脆弱性
アビームコンサルティングの調査(年商1,000億円以上の組立製造業82社対象)によれば、調達の途絶により営業利益20%以上の損失を受けた企業が約2割、影響を把握さえできない企業も約4割に上っていました。また、棚卸資産回転率は欧米企業に比べて回復が遅れていて、サプライチェーンの計画と実行、意思決定に課題を抱えている実態が浮き彫りになりました。地政学リスクは、もはや「対岸の火事」ではありません。
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日本企業がなかなかDXを推進できない3つの壁
このように、「海外の話」「マクロの話」「大企業だけ」では済まされません。国内外、ミクロ・マクロ、企業規模にかかわらずすべてが、思わぬ形で急に影響する時代です。
それにも関わらず、課題への対応を阻む日本企業特有の3つの壁があります。
1.組織の壁
年度予算主義、稟議文化、縦割り組織—日本企業の意思決定の遅さは、平時には安定をもたらしますが、緊急時には致命的なリスクとなります。
例えば、ネクスペリア問題のような突発的な調達先変更では、代替サプライヤーの選定、品質評価、稟議承認、契約締結という一連のプロセスに、数週間から数ヶ月を要します。しかし、在庫が1~2週間しかない状況では、この意思決定スピードでは間に合いません。
グローバル競合が現場判断で即座に動く中、日本企業は「本社承認待ち」で機会を逃します。柔軟な権限委譲と迅速な意思決定メカニズムの欠如が、変化への対応を阻んでいます。
2.知見の壁
メンバーシップ型雇用の弊害として、平時のリスク対応投資が不足しがちです。サプライチェーンのリスク管理は「何も起きなければ価値が見えない」減点主義のため、予算がつきにくく、専門人材も育ちません。
加えて、属人的なスキル依存とノウハウが共有されない体制が深刻です。「あの人だけが知っている」状態で組織知として蓄積されず、担当者が異動すると知識も一緒に失われてしまいます。コロナ禍や半導体不足の際に得た教訓も、組織として定着しないまま忘れ去られているケースが少なくありません。
アビームの調査では、リスク対応型SCMの実現を阻む5つの壁として「調達リスク対応・在庫管理の役割と責任の不明確さ」「業務の属人化」「調達・SCM人材管理の不足」が指摘されています。
3.システムの壁
例えば、アメリカの関税政策によるシステム変更への影響は単純ではありません。ある時までは15%だった税率が、翌月には10%に突然変わり、払いすぎていた金額と日数、商品点数を計算して払い戻しを請求しなければならないという、あまりにも面倒な手続きが発生します。さらに、取引相手がこれを拒めば、交渉や訴訟というさらに不毛な業務もプラスされる事態に。
レガシーERPは柔軟性に欠け、変更に数ヶ月を要します。サイロ化したシステムではリアルタイムなデータ統合が困難で、サプライチェーン全体の可視化ができません。日本企業の97%を占める中小企業はリソース不足に直面していて、システム刷新は「やりたくてもできない」状況です。調達先変更に必要なマスタデータ更新、テスト、承認プロセスだけで数週間かかる現実があります。
さらに、アジャイル性とセキュリティーの両立という難題もあります。変化に素早く対応できる柔軟なシステムを求める一方で、セキュリティー要件は年々厳格化していて、両立は容易ではありません。
予測不可能な時代を生き抜くために
組織、知見、システムという3つの壁は、それぞれが深刻な問題であり、状況はさらに厳しさを増しています。さまざまな課題が複合的に急に影響する時代において、「予測して備える」ことには限界があります。
このような状況だからこそ、起きた変化に素早く追随する柔軟性を獲得することが必須。他社の成功事例の後追いや、自社の過去の経験頼み、完璧な予測を諦め、避けられない変化を自社の正解に変え続けることが求められています。
大きなビジネスリスクを、新たなビジネスチャンスに変えるには、堅牢かつ柔軟なシステムと、信頼できるパートナーシップが必要です。変化が予測できない現代、具体的なシステム設計原則と実現方法をどうすればいいのか…これについて、次の記事で考えてみましょう。
変化に強いシステムでDXを実現するには?
警鐘が鳴らされていることはわかるが、課題が大きすぎるし、変化が急激過ぎて、一体、何から手を付けていいかわからない…だったらこの機会に、まずは自社の現状を調査して、課題を洗い出しませんか?
予測不可能な変化に対応するには、システムと組織の両面からのアプローチが必要です。レガシーシステムの段階的な刷新、ローコード・ノーコード開発によるアジャイルな現場の構築、AIを活用した意思決定支援など、変化に強いシステム開発について、ぜひBlueMemeにご相談ください。
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