コンパクトシティー化とMaaSが及ぼす影響―宗像仙人だより 009
北部九州は、人口増が進む福岡市と、逆に流出が著しい北九州市に挟まれた地域で、DX人材の育成が進んでいます。主産業が、石炭から鉄鋼などの重厚長大産業へと移り、さらに今、インダストリー4.0やSociety 5.0とも呼ばれる産業構造の変化の中で、地方都市はどう生き残りを賭けていくか。
コンパクトシティーとして、徐々に都市機能を縮小していかざるを得ない一方、例えばMaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)というテクノロジーで社会はどう変わるのか?同じような課題は、日本各地に山積しています。そんな話を、宗像仙人さんと続けます。
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/07/18/dx-challenge-example-in-local-area/]
縮小を前提とした地方都市の、チャレンジの明暗
地方都市といえば、以前、日本の国土を支えてきたインフラの維持管理やアップデートが、非常に厳しいって話をしてたじゃないですか。
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/06/22/crisis-of-maintaining-infrastructure-in-japan/]
したな。そしたら先日も、2017年の九州豪雨でJRの地方路線が被災した地域に、バス高速輸送システム(BRT)を通すはずやったのが、開業直前で道路が崩壊した。
▼【速報】日田彦山線BRT専用道が崩壊か 8月末の開業控え…筑前岩屋駅近くで土砂崩れ|【西日本新聞me】
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1105917/
泣きっ面に蜂というか…やっぱりコンパクトシティー化・スマートシュリンク(都市機能の賢い規模縮小)は避けられませんよね。人口が少ない郊外や地方は、申し訳ないけれどもその地域に居住することは諦めてもらい、中心部に集まって住んでくださいっていう風に移行していかないと。そうじゃないととても、交通や上下水道、電力などのインフラを維持し続けられません。
そう。青森市がやろうとしよったみたいに、もう行政が『中心部に住め』というしかないとして、それができるのは何年先か?って話。それに…
その青森市の例って、失敗に終わってますからね。
▼西武も逃げ出した青森駅前再開発ビルの今:日経ビジネス電子
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/221102/012600153/
都市のコンパクト化で成功しとる都市といえば、富山市や熊本市が上げられる。成功か失敗かは、ある程度、長期的な視野で見ないかんけど。
富山市は、次世代型の路面電車LRT(ライトレールトランジット)を導入して、バスと接続を便利にしたり、沿線の住宅地を整備することで、中心部に住む人が増え、地価も上昇してますね。
北陸新幹線の開業で、東京まで2時間半も掛からんのも大きいわな。
▼富山市|「環境未来都市」構想
https://www.future-city.go.jp/torikumi/toyama/
政令指定都市の熊本市は、医療資源も豊富で、待機児童対策など、働く子育て世帯には便利な都市です。九州新幹線で博多まで40分というのも、アドバンテージ。バスターミナルは、2019年に開業した複合施設サクラマチクマモトと一体化しました。
▼まちなか再生プロジェクトについて / 熊本市ホームページ
https://www.city.kumamoto.jp/hpkiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=26490
元々、水や緑に溢れる町並みを縫って路面電車が走っとったしね。あと、2016年の熊本地震で、空き家対策がもう先延ばしできんことが判明したのもある。
そうそう、熊本といえば前回TSMCの話が出てましたけど、半導体メーカーのラピダスが進出する「北海道バレー」とも呼ばれる地区も、北部九州と同じような構図ですね。
▼ラピダスが北海道変える 投資5兆円、半導体工場の衝撃 – 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC028G30S3A600C2000000/
ただ、残念なのはひと昔前と違って、日本にできる工場は世界の最先端ではないってことやね。超先端半導体は微細なモノほど高性能で、今は5 nm(ナノメートル=10億分の1)品の量産が始まって、もう次世代は3 nm、2 nmが発表されとる。
一方、熊本にできる工場で製造するのは、22~28 nm。台湾有事のような地政学的なリスクや技術の海外移転のハードルとか、いろいろあるんでしょうけど。
地方に雇用が生まれるのはいいし、ワークライフバランスも大事やけど、日本はますます世界の2軍、3軍になっていく。
製造業やサービス業では、人件費の安さで、すでに東南アジアから日本国内へと回帰しつつありますからねぇ。
先進都市の挑戦と、テクノロジーが変える未来
都市と先端技術でいえば、トヨタがCES 2020で発表した「ウーブン・シティ」は成功すると思うね?
静岡県裾野市の自社工場跡地に開発する、スマートシティー構想ね。自動運転車とかパーソナルモビリティー、ロボット、AI、スマートホームを使った、実証実験都市ってやつ。
▼人、建物、クルマなどが情報でつながる実証都市「Woven City」。Mobility for Allを追求していきたい方の参画を歓迎します。 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31221882.html
「CASE (Connected Autonomous Shared Electric)」という、ネット接続と自動運転、シェアリング、電動化された生活環境の中でのモビリティー、か。今後、各自動車メーカーはこの研究開発費を増やすとも聞きます。
巨額の法人税免税や内部留保を持つ国策企業の挑戦という反面、子会社は債務超過になっとる。
▼トヨタ子会社「ウーブン」、60億円の債務超過 23年3月末 – 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD304ZL0Q3A630C2000000/
んー、どうなんだろ…。もちろん、失敗よりは成功の方がいいでしょうけど、これこそ結果の判定には時間が掛かりそう。
クルマによる移動が大きく変わっていく今後、300万人を越える自動車関連企業に携わる人たちは、どうやって生きていけるだろうか?技術者は本当にリスキリングできるやろか?もっと大きな視野で見れば、日本の車検制度が生き残るんだろうか?
クルマは税制も酷いですよね。自動車税に自動車重量税、ガソリン代、駐車場代、高速道路料金…。それでも、他に移動手段がない地方の人には必須。Z世代・α世代は、スマホのギガ払うのが優先だし、憧れなんてない。
個人的な趣味に根ざした、クルマ文化は残るやろうね。やっぱり、自分でクルマを所有して、好きなときに好きな場所へ行きたいとか。でもそれは、一部の人の楽しみになってく。
マニュアル車のコンバーティブルで風を感じたい、SUVでグランピングに行きたい、追加で税金払ってもいいからガソリン車に乗りたい、レストアした旧車ラブ!とか、完全に壮年・中年のノスタルジーだもんな(笑)。
日々の通院や買い物、子供の送迎、介護ぐらいやったら、安全な全自動運転のコミュニティーバスとかが楽。
中心部なら、ある程度はオンデマンド型タクシーやカーシェアでカバーできなくもないです。でも、現実には、コンパクトシティー化する外の地価が下がれば、クルマを使うライフスタイルを続けたい人たちがいるのも当然でしょうね。移動手段がないと、現実として不便だし。結果、自治体が旗を振っても、思ったほどには進まない…。
どんなテクノロジーがどれぐらいの時間で実現できるか、サービスの提供にいくら予算が掛かるのか、それを維持できるだけのニーズがあるかという話。モビリティーだけの話で考えても、その周辺で次々に何が起こるかっていったら、もちろん物流も変わるし、駐車場が要らんようになったら、都市の景観も変わる。
量子コンピューターでよく、自動車の渋滞回避のシミュレーションをやってますよね。交通量や道路状況に応じて、リアルタイムに信号やカーナビを上手く制御する。MaaSで移動の概念そのものが変われば、駐車場の問題も解決するどころか、移動手段を個人が所有する価値そのものが変わるはず。
人が自分で運転するということ自体が要らんようになったら、ホテルを建てる必要もないわな。
広告屋は、『移動が滞在になります』とかってコピーでいいたくなる。
そう。考えてみてん。そしたら、社会のインフラ維持は重要とはいえ、今からどこまで金掛けていいのか見極めが大事って話やろ?空飛ぶ車だって、もう夢物語やない。
ここでも、選択と集中か…
何をするにも必須のエネルギー、その調達
都市の単位でDXにチャレンジするところもあれば、消滅へ向かっていかざるを得ない地方もある、と。共通しているのは、残っていくところは、技術とアイデア、そして実践で残れるようにしていくしかないですね。アジャイルなチャレンジ。
うん。だからこれからIoT化はますます進むし、いろんなデバイスにインテリジェンス機能が付くわけよ。エネルギーにしても、家の中のエネルギー需給が一目でわかるスマートメーターが、電力だけじゃなく、水道やガスにも付く。
電力でいえば、これからまた亜熱帯化した日本の夏が本格化していきますが、エネルギー調達コストの高騰が電気代にダイレクトに反映してますよね。電力各社、特に沖縄や北海道なんか、値上げ率も半端なかったし。
▼電気料金 大手電力7社 きょうから値上げ 最大で2700円余値上げ | NHK | 物価高
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230601/k10014084681000.html
九州電力の場合は、原発を動かしとったから、まだ今のところ電気料金の大幅な値上げはないけど、それもいつまで持ち堪えられるかって話。
多くの人が働くオフィスや、製造ラインを止められない・シフトできない工場や医療現場、そしてオール電化の一般家庭は、電気代の高騰で本当に苦しくて大変ですよ。
大規模停電だって、この先ないとは限らんよ。再生可能エネルギーも、まだまだ心許ない。
便利で快適な生活を支えるエネルギーは、どっから調達するんだ?と。ガソリンエンジンというナレッジを持っていなかったテスラが、単純に自動車だけじゃなくて、EVの電力を確保するメガソーラーやスマートグリッド、家庭用蓄電池までエコシステムで考えているのは納得だけど。
他者との共生なんてホントにできるのか?
先進国が誇ってきた文明の曲がり角やろね。これからは、共有という考え方は大事になってくるかもしれん。テクノロジーでいえば、白熱電球からLEDライトに変わったような、グローバルサウスにモバイルネットワークが一気に普及したような、大きな転換が起きんと間に合わん。それと同時に、ダイバーシティーやSDGsとか、前いった精神世界も、綺麗事とか極端な話じゃなく、本当に重要になっていくと思うよ。
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/06/26/religion-as-the-remaining-frontier4humans/]
でも、人間って、このままじゃマズいとわかっていても、社会や世界より、今日の自分の生活が大事。ライフスタイルや考え方を変えたり、ましてや慣れ親しんだ土地を捨てるなんて、簡単にはできませんもんねぇ。
これから梅雨明け、そして夏本番を迎えるにあたって、台風関連のニュースも気になる季節になっていきます。台風は、自然災害の中で唯一、勢力や進路、影響がある程度予測できて対策が打てるといわれていますが、気候変動の影響も指摘されるように、かつてない規模の災害につながっています。
何れ確実に襲ってくることがわかっていたのが、我が国の人口減と労働力不足、インフラ維持の厳しさです。貴重なリソースや新しい技術を、どこに割り振るべきなのか?
この記事の内容は、個人的な見解や感想であり、リープリーパー編集部や運営組織を代表するものではありません。
[nlink url=https://www.leapleaper.jp/2023/07/27/has-generative-ai-hastened-singularity/]
この記事でインタビューをした方
宗像仙人 / Sennin Munakata
テクノロ爺
量子コンピューターやAI、常温核融合など、テクノロジー全般に関心が尽きない元ITコンサルタント。趣味も幅広く、万年筆やアルコールから、軍事研究、最新アニメ番組のチェックまで。福岡県宗像市のオススメは、沖ノ島と道の駅。
理人様 見ず知らずの者に温かいアドバイスをありがとうございます。 生物学の中だけ…
Soさん、ご質問ありがとうございます。 博士課程で必要な生物学の知識は、基本的に…
貴重な情報をありがとうございます。 私は現在データエンジニアをしており、修士課程…
四葉さん、コメントいただきありがとうございます。にんじんです。 僕がこの会社この…
面白い話をありがとうございます。私自身は法学部ですが哲学にも興味があります。 ふ…