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データ分析もAIとローコードで内製化へ-Big Data Expoレポート1

リプリパ編集部

オランダは、EU諸国の中でもスマートシティーやビッグデータ、セキュリティーに積極的な国の一つです。隔年で開催されている「Big Data Expo 2023」が、9月12日と13日にオランダで開かれていたので、BlueMemeロッテルダムオフィスの国田健さんが出席した様子を基に、2回に分けて現地レポートとしてお届けします。

▼Big Data Expo – Jaarbeurs Utrecht
https://www.data-expo.nl/

「Big Data Expo 2023」の概要

EUは、日本より先にアフターコロナの生活へと移行していることや、今回の「Big Data Expo 2023」が無料イベントだということもあってか、会場となったユトレヒト会議場にもそれなりの人数が参加していました。1つの基調講演会場以外に、8つの講演会場があり、120人のスピーカーが登壇するなかなかの規模でした。また、展示ブースでは100社以上の出展者がビッグデータの収集や生成、分析、最適化、応用に関連する製品やサービスを紹介していました。出展社や登壇者は、ローコード・ノーコードツールを扱っているベンダーやデータアナリスト系の組織、コンサルティング会社、GoogleなどのIT大手など、バラエティーに富んでいました。

「Big Data Expo 2023」で扱われていたテーマは、実に多岐にわたります。データサイエンスやビジュアライゼーション、ビジネスインテリジェンス(BI)から、アナリティクスやアーキテクチャー、エンジニアリング、クラウドコンピューティング、DX、セキュリティーなど、多様なテーマが見られました。一番目立っていたのは、ここでもAIや機械学習、ディープラーニング関連のセッションや出展でした。

「Big Data Expo 2023」会場のユトレヒト会議場
「Big Data Expo 2023」会場近くのユトレヒト駅

イベントは、データを専門的に扱っているかどうかにかかわらず、組織のあらゆるレベル向けに、最新動向やソリューションを幅広く紹介する内容でした。

例えば、データ関連のチーム以外のマネージャー向けには、顧客に関する新たなインサイトを収集し、より効果的にターゲットを絞るマーケティングプロセスが紹介されていました。データスペシャリストには、より効率的かつ精度の高い結果を得るために、データエコシステムの最新トレンドとテクノロジーが披露されていました。また、経営陣とデータチームの橋渡しをするマネージャーには、組織におけるデータドリブンの考え方を浸透させ、ギャップを埋めるためのステップが説明されていました。さらに、データ分析を支えるITプロフェッショナルには、増え続ける膨大なデータの取り扱いや、ローコード・ノーコード開発プラットフォームのアドバンテージが紹介されていました。

そして経営層には、データと事実、分析に基づいた優れた戦略を策定し、正しい意思決定を下すことが、成長と利益を達成するために不可欠であることが訴求されていました。

AIによるデータ解析ニーズの高まり

企業の中には膨大なデータが溜まり続けていますが、必ずしも全ての企業が有効活用できているわけではありません。従来は、過去の実績をベースに未来予測を立てたり、熟練した社員のスキルに頼って経営判断することも可能でした。

変化が激しく予測が難しい現代では、BIツールなどで統計をリアルタイムに分析する自動化のニーズがますます高まっています。企業のいろいろな部署に個別に溜まっているデータを、どうやって一元管理するか。使いやすいダッシュボードをどのように設計するか。効率的に自動化するにはどうすればいいか。それらの課題に対する具体的なソリューションも目立ちました。

そのため、エンジニアとしての専門知識も備えた、データアナリストやデータサイエンティストなどの専門職が求められています。しかし、IT人材不足はEUでも課題です。そこで、ローコード・ノーコード開発プラットフォームとAIで、集計から分析まで自動化・内製化しようという傾向が非常に強くなっていると感じました。

さて、ここからは、興味深かったいくつかのプログラムを紹介しましょう。

強力なデータ基盤の力:AIへの道を開く

▼The Power of a Strong Data Foundation: Paving the Road to AI | Big Data Expo
https://www.data-expo.nl/en/program/power-strong-data-foundation-paving-road-ai

日本では馴染みが無いものの、150年以上にわたるデータ駆動型エンジニアリングの実績を持つ、老舗企業Van Oordによるセッション。多くの企業では、貴重なデータ部署間で共有されず、分散したままで活用されない、サイロ化が起きています。これを解決するために、全社的なデータ分析とAIの民主化によって、組織内のデータ基盤を構築することの重要性が示されました。データを集中させるハブを介して分散したチームを相互につなぐことで、新しいビジネスチャンスが生まれます。

Turbo GPT 3.5でAIをトレーニングした生成系AIサービス

▼Building a AI-powered tutor with Turbo GPT 3.5 | Big Data Expo
https://www.data-expo.nl/en/program/building-ai-powered-tutor-turbo-gpt-35

Travis(トラヴィス)は、OpenAIのLLM(大規模言語モデル)を使った生成AIで、CEOがChatGPTとの違いやアドバンテージをアピールしていました。

Turbo GPT 3.5を使ったコンテンツで、教育格差を解消
Turbo GPT 3.5を使ったコンテンツで、教育格差を解消

ChatGPTの出力には出典が明示されませんが、Travisでは必要な箇所の全てに個別リンクが付きます(これはすでに、Perplexity AIやBing AIで実現されています)。また、指示する文面(プロンプト)が曖昧だと、同義語による「ゆらぎ」が起きてしまい、見当違いの参照元を見に行ってしまうことがあります。これを避けるには、細かくコンテキストを指定する必要がありますが、Travisでは柔軟かつ正確に解釈できることが説明されました。

プロジェクトの技術的背景(トランスフォーマー、大規模言語モデル、プロンプトエンジニアリング)と、実際に稼働しているデモが紹介されました。また、生成AIと教育系コンテンツを連動させて、教育格差を解消する活用事例もありました。

セキュアかつ精度の高いテストデータをAIで生成

▼Unleashing Data-Driven Innovation: The Power of AI Generated Synthetic Data | Big Data Expo
https://www.data-expo.nl/en/program/unleashing-data-driven-innovation-power-ai-generated-synthetic-data

2020年にアムステルダムで設立された新興企業Synthoが披露したのは、AIが生成した高品質かつセキュアな合成データを活用した、データアクセスの迅速化・効率化でした。同種のサービスでは、GenRocketなどがありますが、ビッグデータを使ったイノベーションは、厳しいプライバシー規制や機密情報の適切な管理と不可分です。このセッションでは、合成データ実データとの精度比較や詳細な分析が示されました。

AIで生成した、高精度かつセキュアな「生成ツイン」データ
AIで生成した、高精度かつセキュアな「生成ツイン」データ

ヨーロッパ大手のスポーツ用品チェーン、デカトロンのAI活用事例

▼Decathlon: Integrating AI into Business Strategy and Process | Big Data Expo
https://www.data-expo.nl/en/program/decathlon-integrating-ai-business-strategy-and-process

Decathlon(デカトロン)は、フランスの大手スポーツ用品チェーンで、ヨーロッパ各地に店舗を展開しています(日本語サイトもあります)。ITがメインの業務ではない会社の実例として、興味深いビジネス戦略とプロセスへのAIの戦略的統合が紹介されました。

AIチームは、データサイエンティスト3人とデータエンジニア3人、アナリスト4人で構成されているとのこと。日常業務の改善や効率化、意思決定の高速化、複雑な業務の単純化など、顧客の深い理解、リスクの事前察知など、ビッグデータを幅広いビジネスイノベーションに活用しています。

非IT企業が社内にデータ分析チームを組織
非IT企業が社内にデータ分析チームを組織

事例として上げられていたのは、まず、新人従業員の学習についてでした。社内の情報を収集して学習するのに、業務時間の中で2時間も使っていることが発覚。全社で試算すると、実に5万時間、金額に換算すると約100万ユーロ(約1億5,800万円)もの非生産的な時間が発生していました。これを、AI使ったナレッジベースを制作して運用し、時間コストを半減させました。

もう一つの事例が、自転車の買い取り査定でした。デカトロンには、自社で販売した自転車の買い取り制度もあります。買い取り金額は点検して決まるのですが、1台あたり約30分掛かる上に、買い取り価格にもばらつきが出ていて、人材や設備の拡張も難しい状況でした。これを、自転車の損傷具合をAIで画像解析することで、買い取り金額の自動査定だけでなく、必要な修理法やパーツを特定する仕組みを開発しました。顧客満足度(CS)と顧客体験(CX)向上にも寄与し、買い替え需要の促進にもつながっている様子でした。

自転車の修理が必要な部分をAIが画像診断
自転車の修理が必要な部分をAIが画像診断
Vélos, tous nos vélos au meilleur prix | Decathlon
https://www.decathlon.fr/browse/c0-tous-les-sports/c1-velo-cyclisme/c2-velos/_/N-xxtlfp


テーマもバラエティーに富んでいたこともあり、説明しているプレゼンターから現場のエンジニア、企業の経営層まで、ブースでいろいろな立場の人々から話を聞きました。各地で、活発な質疑応答やディスカッションの様子が散見されました。

イベントの様子は、後半の記事でも詳しくお伝えします。どうぞ続けてご覧ください。

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