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テクノロジー

ビジネスの意思決定を強力に支援する「数理最適化」とは何か?

理人

数理最適化とは、意思決定や問題解決のために用いられる数学的な手法の一つです。これは、AIや機械学習と同じように数理的な基盤に基づいたテクノロジーであり、ビジネス現場にも広く活用されています。しかし、AIに比べると認知度が低く、皆さんも詳しくないかもしれません。

今回の記事ではそんな数理最適化について、基本的な概念からビジネスへの応用、AIとの違い、そして最新の量子アルゴリズムに至るまで、幅広く解説します。

「数理最適化」がどれぐらい知られていないか

具体的な説明に入る前に、AIと数理最適化の認知度の差を知るために、Googleトレンドで検索してみました。検索キーワードは「AI」「数理最適化」で、期間は過去12ヶ月、対象地域は日本です。

縦軸の数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレスト(注目されているキーワードや文章の検索数)を相対的に表しています。「100」はそのキーワードの人気度が最も高く、「50」は人気度が半分であることを示しています。

結果を見ると、安定して50を超える青い「AI」に対し、赤の「数理最適化」は1未満です。2つのキーワードの検索数の間で、圧倒的な差が付いていることから、「数理最適化」は関心が持たれずほぼ知られていないと言えます。

「AI」と「数理最適化」の、圧倒的な関心度の差
「AI」と「数理最適化」の、圧倒的な関心度の差

「数理最適化」とは

数理最適化」とは、数学的なモデル(数理モデル)を使用して特定の目的(目的関数の最大化や最小化)を達成するための最良の解を見つけるプロセスです。一般的な用語として「最適化」という言葉を使うことがありますが、数理モデルを活用する最適化を強調して「”数理”最適化」と言います。

数理最適化は、利用可能なリソースを最も効果的に使用する方法を見つけ、意思決定をサポートする強力なツールです。

数理最適化活用スキーム
数理最適化活用スキーム

「最適化問題」とは

次に「最適化問題」とは、目的となる関数を最大化または最小化する解を見つけるプロセスです。この問題は、解が満たさなければならない一連の条件である「制約条件」の下で解かれることが一般的です。

例えば、2次関数の最大値を求める問題は図のように定式化できます。この例における制約条件1と制約条件2では、最大値が異なっています。このように、最適化問題は制約条件により影響を受けます。

また、今回の例のように最適化問題において目的関数を最大化(最小化)する際には、「微分」が使われることがあります。関連記事と併せてお読みください。

最適化問題の定式化
最適化問題の定式化
2次関数の最大値を求める問題の定式化
2次関数の最大値を求める問題の定式化

最適化問題は数理モデルの一種

最適化問題は、以前の記事で紹介した「数理モデル」の一種であり、コンピューターでの計算と非常に相性がいいです。

具体的には、最適化問題を解くための「アルゴリズム」が存在し、これらのアルゴリズムはコンピュータープログラムとして実装されます。プログラムを実行することで、最適化問題の解を迅速に求めることができます。

コンピューターの計算能力を利用することで、複雑な最適化問題でも高速に解を得ることができ、効率的な意思決定をサポートします。

ビジネスに最適化は欠かせない

数理最適化は、AIや機械学習に比べて知名度は低いかもしれませんが、ビジネスにおいて非常に価値のあるツールです。実際に、最適化はビジネスにおける人材や時間、資金、物資などのリソースを効果的に配分するのに使われています。これにより、利益を最大化し、効率を向上させることができます。

数理最適化は、以下のようなビジネス分野で活用されています。

1. サプライチェーン管理

  • 在庫管理
  • 需要予測
  • ロジスティクスと配送の最適化

2. 製造業

  • 生産スケジューリング
  • 施設のレイアウト最適化
  • リソース割り当て

3. 金融

  • 投資ポートフォリオの最適化
  • リスク管理
  • 価格設定戦略

4. マーケティング

  • 広告予算の配分
  • 顧客セグメンテーション
  • キャンペーンの効果最大化

数理最適化の活用事例は、各社のプレスリリースなどで報じられています。

▼自動車船の配船計画支援システムの運用を開始しDXを加速 | 商船三井
https://www.mol.co.jp/pr/2021/21046.html

日々進化する数理最適化

数理最適化の進化は、アルゴリズムの開発やプログラムの改善、そして計算機の性能向上と密接に結びついています。これらの要素は相互に影響し合い、最適化技術の進歩を牽引しています。

アルゴリズムの進化によって、より複雑な問題に効率的に取り組む能力が高まります。また、新しいアルゴリズムが開発されることで、多様な問題に対して迅速かつ正確な解を求めることが可能になります。さらに、プログラムの進化も同様に重要です。洗練されたプログラムは、アルゴリズムを効果的に実行し、最適化問題の解をより速く、より簡単に得る手助けとなります。

一方で、計算機の性能向上は、これらのアルゴリズムとプログラムが最大限に活用される基盤を提供します。高性能な計算機は、大量のデータを処理し、複雑な計算を迅速に実行する能力を持っています。

これらの要素が相互に影響し合い、数理最適化の方法論と技術の進化を促進しています。この進化により、数理最適化はさまざまな産業や研究分野での問題解決に、さらに貢献するようになっています。

数理最適化と機械学習(AI)の違いは?

数理最適化と機械学習(AI)の主な違いは、目的にあります。

数理最適化は、与えられた制約条件の下で特定の目的(たとえばコスト削減や利益最大化)を達成するための最良の解を探求することに特化しています。これに対し、機械学習はデータの中からパターンを抽出し、その学習を元に未知のデータを予測したり分類することを目的としています。

具体的には、数理最適化は製造の効率化や物流のルート最適化など、明確な目的の達成を目指す場面で利用されることが多いです。一方、機械学習は商品の推薦や画像の識別など、データベースの知識から新しい知見を引き出す場面での利用が考えられます。

これらの技術は異なるアプローチを持つものの、現代のビジネスや研究において欠かせません。それぞれの特性を理解し、適切に活用することが求められます。

最適化問題のための量子アルゴリズム

量子コンピューターのアルゴリズムである「量子アルゴリズム」にも、最適化問題を解くために考案された数理モデルが存在します。量子ビットの特殊な性質を利用することで、大規模で複雑な最適化問題に対して、効率的に解を見つける可能性があります。

量子アルゴリズムの一例として、近似的に最適化問題を解くことができる「量子近似最適化アルゴリズム」(QAOA:Quantum Approximate Optimization Algorithm)が挙げられます。量子コンピューティング技術自体はまだ発展途上であり、実用的なアプリケーションは限られていますが、最適化問題の解法に革命をもたらす可能性を秘めています。

まだまだ無名でも将来性は高いのが、数理最適化!

今回の記事では、数理最適化について解説しました。

数理最適化は、ビジネスにおける効率的な意思決定をサポートする強力なツールであり、さまざまな場面でその力を発揮します。アルゴリズムとプログラム、計算機の性能向上に影響を受けながら、日々進化しています。また、AIとは異なるアプローチで問題解決に取り組む方法を提供してくれます。そして、量子アルゴリズムの登場により、さらにその可能性は広がっています。認知度はまだAIには及びませんが、数理最適化は今後のビジネスにおいてますます重要な役割を果たしていくでしょう。

参考文献

しっかり学ぶ数理最適化 モデルからアルゴリズムまで (KS情報科学専門書) | 梅谷 俊治

今日から使える!組合せ最適化 離散問題ガイドブック (KS理工学専門書) : 穴井 宏和, 斉藤 努

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理人
理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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