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テクノロジー

1,000量子ビット超えと48論理量子ビット実現!二つの画期的な進展

理人

先週、量子コンピューター業界に大きなニュースが2つ舞い込んできました。一つ目は、量子コンピューター開発のパイオニアであるIBMが、1,000量子ビットを達成し、その開発ロードマップを更新したことです。そして二つ目は、ハーバード大学をはじめとするQuEra、MIT、NIST/メリーランド大学の共同研究チームが、48論理量子ビットの量子コンピューターを実現し、その成果を世界的に著名な学術誌「Nature」に発表したことです。

1,000量子ビットと48論理量子ビットという、一見異なるスケールの成果ですが、それぞれが量子コンピューティングの進化という大きな流れの中で重要な意味を持っています。

この記事では、これらの画期的なニュースについて、リープリーパーの過去記事の内容を交えつつ、その意義と影響について詳しく解説していきます。

IBMが1,000量子ビット量子コンピューターの実現

まずは、IBMのニュースについて解説します。

IBMは、2023年12月4日に1,000量子ビットを超える超電導方式の量子コンピューターを発表しました。これは、同社が公表していた開発ロードマップの今年の目標を見事に達成したことを意味します。

プレスリリースタイトルでは「first-ever 1,000-qubit(史上初の1,000量子ビット)」となっていますが、2023年10月24日にAtom computingが中性原子方式の1,180量子ビットの量子コンピューターを発表しています。史上初ではなかったとはいえ、異なる実現方式で1,000量子ビットを超える量子コンピューターが実現されたのは、今後の量子コンピューター開発の競争が一層激化することを予感させます。

物理的な量子ビット数の増加は、エラー訂正能力を持つ論理量子ビットを構築する上で極めて重要です。量子ビットはノイズに弱く、エラー発生のリスクが高いため、暗号解読などの複雑なタスクに必要とされる量子ビット数は、100万~1,000万にも及ぶと言われています。現時点で、100万量子ビットとはかなり開きがありますが、4桁量子ビットの達成はこの分野における大きな進歩です。

さらに、IBMは開発ロードマップを更新し、今後10年間の目標を設定しました。特に注目すべき点は、ハードウェアイノベーションのセクションから量子ビット数の目標が削除され、代わりに実用化される量子コンピューターに関する量子ビット数と量子ゲート数の目標が設定されたことです。量子コンピューターの実機が提供されなければ、その有用性は検証できません。IBMは実際に実機およびクラウドアクセスを提供しており、日本では先月11月27日に東京大学で127量子ビットの量子コンピューターが導入されたことも特筆すべきでしょう。

IBM量子サミット2023で発表された開発ロードマップ
IBM量子サミット2023で発表された開発ロードマップ
出典:At IBM Quantum Summit 2023, the company extended the IBM Quantum Development Roadmap to 2033, and has established an IBM Quantum Innovation Roadmap through 2029. (Credit: IBM)
https://newsroom.ibm.com/2023-12-04-IBM-Debuts-Next-Generation-Quantum-Processor-IBM-Quantum-System-Two,-Extends-Roadmap-to-Advance-Era-of-Quantum-Utility

ハーバード大らが48論理量子ビットの量子コンピューターを実現

もう一つの注目すべきニュースは、ハーバード大学を含む研究チームが48論理量子ビットの量子コンピューターを実現したことです。これまでの研究では、大阪大学が1万物理量子ビットで64論理量子ビットを達成する可能性を発表していましたが、1万量子ビットを待たずこの新たな研究はすでに、64論理量子ビットに迫る48論理量子ビットの実現に成功しました。

前述の通り、物理量子ビットを組み合わせてエラー訂正能力を持つ「論理量子ビット」を作ることは、量子コンピューターが実際の問題解決に用いられる上で非常に重要です。今回の48論理量子ビットを使った量子計算は、その複雑さから、最先端のスーパーコンピューターでもシミュレーションが困難と考えられます。

現段階では、エラー訂正能力を持つ量子コンピューターを使った実用的な計算の報告はありませんが、そのような成果が報告される日も遠くないでしょう。この重要な研究結果は、世界で最も権威のある科学雑誌の一つである「Nature」に掲載されており、これが量子コンピューターへの関心をさらに高めることになると予想されます。

また、今回特に注目すべき点は、48論理量子ビットを実現した方法が「中性原子方式」の量子ビットであることです。これは、先に1,000量子ビット量子コンピューターの実現を発表した、Atom computingが採用している方式と同じです。これまで量子コンピューターの開発は、IBMをはじめとする企業による「超伝導方式」の量子ビットが先頭を走ってきましたが、中性原子方式が新たな注目を集めています。

中性原子方式の大きな利点は、原子が電気的に中性であるため、電磁ノイズに対して強い耐性を持ち、その結果として量子ビットの忠実度が高く保たれることです。さらに、この方式はスケーラビリティー(拡張性)とコヒーレンス時間(量子状態が保持される時間)の面でも優れていると考えられます。

2024年には、このような特性を持った中性原子方式の量子コンピューターが、さらに大きなニュースとなる可能性があります。この技術の進展により、量子コンピューターの開発競争は新たな局面を迎え、多様な技術アプローチによるイノベーションが実現することに期待しましょう。

▼ハーバード大学、QuEra、MIT、NIST/メリーランド大学が、48個の論理量子ビットを用いて誤り訂正量子アルゴリズムを実現し、量子コンピューティングの新時代を先導 | QuEra Computing Inc.のプレスリリースhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000134275.html

▼Bluvstein, D., Evered, S.J., Geim, A.A. et al. Logical quantum processor based on reconfigurable atom arrays. Nature (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06927-3
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06927-3

▼【プレスリリース】量子コンピュータの実用化を早める 新たな量子計算アーキテクチャを確立 ~一万程度の中規模な物理量子ビット数でも高精度な量子エラー訂正を実現~ | QIQB: 量子情報・量子生命研究センター 大阪大学 世界最先端研究機構

新しい期待をもたらす2つのクリスマスギフト

年末に飛び込んできたニュースは、量子コンピューターの研究者たちにとって、大きなクリスマスギフトとなりました。しかも2つ!それが今回紹介した、IBMの1,000量子ビットを超える量子コンピューターの実現と、ハーバード大学らによる48論理量子ビットの量子コンピューターの実現という、量子コンピューティング分野における二つの画期的な進展です。

IBMの進歩は、量子コンピューターの物理的な限界を押し広げ、実用化に向けた着実な一歩を示しています。一方、ハーバード大学らの成果は、エラーに強い高い計算能力を持つ量子コンピューターの可能性を示唆しています。これらの成果は、量子コンピューティングの未来に大きな期待を持たせ、その実用化に向けたレースがますます加速していることを物語っています。量子コンピューターの開発は、技術の領域を超え、ビジネス、科学、そして社会全体に影響を及ぼす可能性を秘めています。来年も、この進化する領域に注目していきましょう。

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理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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