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テクノロジー

量子コンピューターの時代って結局いつ来るの?進化の過程とは

理人

『量子コンピューターって時々ニュースで聞いたりするし凄そうだけど、身近なビジネスでサービス提供してるのは聞いたことないし、結局いつ使われるようになるの?』この記事に辿り着いた皆さんは、量子コンピューターについて、こんな印象を抱えているのではないでしょうか?

他にも、量子コンピューターについて聞いたことがあるとしたら、『スーパーコンピューターをはるかに凌ぐ超高速計算ができる!』『現在の暗号が一瞬で解読される!』みたいな噂でしょうか?直近だと、マイナンバーカードを新しくする案があり、河野太郎デジタル担当大臣がその理由として、量子コンピューターを話題にあげていたことが印象的ですね。

今回の記事では、そんな量子コンピューターについて、現状の開発状況、理想的な量子コンピューター(FTQC)とは何か、最近生まれた第3の概念(Early-FTQC)について解説します。印象や噂話ではなく、現状のロードマップから予想できる、これからの量子コンピューターの時代について、正しい知識として知っていただきたいと思います。

そもそも、なぜ量子コンピューターがこんなに期待されているのか?

まず、量子コンピューターが辿ってきた歴史を簡単に見てみましょう。量子コンピューターは、1980年代に物理学者のリチャード・ファインマンにより提唱され、同じく物理学者のデイビッド・ドゥイチュにより、計算の基礎理論が作られました。しかし、考案された当時は何に活用できるのか疑問視されていました。

それを打ち破ったのが、1994年にピーター・ショアにより発表された、素因数分解を高速に行えるアルゴリズム—通称「ショアのアルゴリズム」です。このアルゴリズムによって、量子コンピューターは古典的なコンピューター(現行のコンピューター)よりも、遙かに高速に素因数分解が可能なことが示されました。また、公開鍵暗号システム(RSAなど)のセキュリティーにも、重大な影響を与える可能性があると認識されました。

「ショアのアルゴリズム」は、世界中の研究者から量子コンピューターへの期待を高め、実機の開発を模索する時代が続きました。

そんな黎明期を打ち破ったのが、2019年Googleが「量子超越性」を報告した論文です。「量子超越」とは、量子コンピューターが現存する最良の古典的なコンピューターよりも遙かに高速に、または効率的に解を得ることを指します。これが、量子コンピューターが一般の方に知られるきっかけになりました。

そしてつい先月、IBMは量子超越を報告する論文を、権威ある科学雑誌『Nature』に投稿しました。

量子コンピューターがここまで注目されているのは、古典コンピューターを超越する性能を持つからであり、今後も定期的にこのような報告が公開されていくことでしょう。現在の性能と理想のギャップを無視した報道には、「ハイプ(hype 誇大広告や大げさな宣伝)」と揶揄する声もあります。しかし、期待と幻滅を繰り返しながらも、量子コンピューターは実用化に向けて着実に進んでいます。

量子コンピューターを表す言葉「NISQ」「FTQC」そして「Early-FTQC」

量子コンピューターの実現を語る上で欠かせない言葉が、「NISQ」と「FTQC」です。

「NISQ」とは、Noisy Intermediate-Scale Quantumの略で、ノイズが存在し、中間規模(50 – 100程度)の量子ビットを持つ量子コンピューターを表します。一方「FTQC」とは、Fault-Tolerant Quantum Computingの略で、量子エラー訂正を用いて量子ビットのエラーを訂正し、計算結果の信頼性を高める量子コンピューター を指します。

FTQCでは、素因数分解を高速で解くようなアルゴリズムを実装できますが、その実現には技術的な課題も多く何年掛かるかわかりません。そこで、ノイズのある不完全な量子コンピューターでもうまく活用する方法を模索しているというわけです。

量子コンピューターが、どれだけノイズの影響を受けやすいかを表したのが次の表です。「忠実度」とは、量子操作(量子ゲートの適用や量子ビットの初期化等)が理論的な目標(理想的な操作結果)にどれだけ近いかを評価する指標で、忠実度が高ければ高いほどミスの確率が小さくなることがわかります。

忠実度計算回数ミスの確率
99%100回73%
99.9%100回10%
99.99%100回1%
量子コンピューターは、ノイズの影響を受ければミスの確率が上がってしまう

量子コンピューターの実機開発が進んできた最近では、そんなNISQとFTQCに次ぐ「Early-FTQC」という言葉が使われ始めています。「Early-FTQC」は、FTQCへの移行の初期段階の量子コンピューターを指し、NISQよりも量子ビット数が多く、一部のエラー訂正能力を持ちます。上記の表で見たようにノイズの影響を受けやすい量子コンピューターですが、忠実度を高めることによってミスの確率を減らすことができ、従来のコンピューターでは実装できないアルゴリズムを実現することも可能かもしれません。

量子コンピューターを実用的な問題に使えるようになるのは一体いつ?

私の見立てでは、今から4年後の2027年前後に「Early-FTQC」時代が始まると考えています。根拠としては、量子コンピューター開発の最前線を走るIBMのロードマップにあります。

IBMの量子コンピューティング開発ロードマップ
IBMの量子コンピューティング開発ロードマップ
出典:IBM Quantum Computing | Roadmap https://www.ibm.com/quantum/roadmap

IBMは量子コンピューター開発のロードマップを発表していて、2021年に127量子ビット、2022年に433量子ビット、と順調に達成しています。そして、2023年には1,121量子ビット、2024年1,386量子ビット、2025年に4,158量子ビットを掲げています。大まかに年々倍々のペースで量子ビット数を伸ばしています。2026年には8,000量子ビット、2027年には1万量子ビットを達成すると期待できるのではないでしょうか。

一方、今年の3月には大阪大学と富士通の共同研究により、量子誤り訂正の革新的な成果が発表されました。物理量子ビットは、量子コンピューターで直接操作される、基本的な情報の単位で、環境ノイズや操作エラーの影響を受けやすく、その状態は時間とともに消えてしまう可能性があります。 一方、論理量子ビットは複数の物理量子ビットから構成される、エラー耐性のある情報の単位のことです。エラーに強い単一の論理量子ビットを作成するために、多数の物理量子ビットを使用しなければなりません。この発表では、従来より大幅に少ない1万物理量子ビットで64論理量子ビットが実現できると報告されました。

それらを踏まえると、大雑把な推測ですが、2027年前後に1万物理量子ビット近い量子コンピューターが実現し、それと同時に誤り訂正能力も実装されていくのではないでしょうか。スーパーコンピューターでも50~100量子ビットの量子コンピューターのシミュレーションは難しく、実用的な問題への活用の第一歩が始まると予想できます。

技術革新を繰り返しつつ、研究は確実に進んでいる

量子コンピューターの可能性がこれほどまでに注目され、研究が進展している現在、私たちは技術革新の真っただ中にいます。概念から実現可能な技術への道のりはまだ遠いかもしれませんが、その先には、私たちの問題解決能力を根本から変える可能性が存在します。「NISQ」「FTQC」「Early-FTQC」という用語は、その進行中の旅路を表すバロメーターであり、私たちが量子コンピューターの真の力を利用する日を待つマイルストーンです。量子コンピューターが実用的な問題に対して解を提供し始めるその日まで、過度に期待しすぎることも無関心になることもせず、量子コンピューター時代の訪れに注目してもらえたらと思います。

参考文献

▼量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性(武田俊太郎、技術評論社)
https://www.amazon.co.jp/dp/B084MD98W5

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理人
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博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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