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テクノロジー

進化するテクノロジーへの信頼?警鐘?要注目のTESCREALとは何だ?

kotobato

変化の激しいテクノロジー業界では、次々と新しい言葉が生まれます。今回は、多くの人がまだ聞き慣れないものの、今後見聞きする機会が確実に増えると思われる重要なキーワード「TESCREAL(テスクリアル)」について紹介します。

TESCREALは、IT分野で影響力を持つ人々が推奨している思想です。OpenAIがChatGPTをリリースして以降、2023年は生成AIが爆発的に普及した一年でしたが、実は、OpenAIのサム・アルトマンCEOの解任から復活に至る昨秋の内紛にも、このTESCREALの観点が深く関係していると見られています。TESCREALは壮大な概念や哲学で、実体がないため分かりにくい面がありますが、現代に生きる私たち誰もが無関係ではいられないテーマなので、概要だけでも知っておきましょう。

人類の未来の希望か、警鐘か?TESCREAL(テスクリアル)とは?

一部の知識人や文化人が、障害者や高齢者、女性、外国籍の労働者たちを、生産性や効率の観点だけで語ってソーシャルメディアで炎上することが、残念ながら珍しくありません。その時、テクノロジーやサービスの観点から、あなたはどんな意見を持ちますか?

  • 人間を「製品」のように捉えて優劣で判断し、格差や差別につながる可能性があるテクノロジーは危険と見なして、禁止・管理すべきだ!
  • 「誰も取り残さないデジタル社会」を望むより、一部の人々を置き去りにしてでも、テクノロジーを進化させて未来へ進むことで解決可能。
  • 活動を続けて結果を出すには、ビジネス視点が不可欠。綺麗事だけでない利益の追求と、将来を見据えることが、結果として全体幸福につながる。
  • 技術が発展することには期待したいが、どうしても人が介在する必要があり、両者のメリットを活かすことで少しでも問題が解決できないものか…

人それぞれにさまざまな感想を持つでしょうが、今回のテーマは、これらを俯瞰的・包括的に考えることです。

TESCREAL(テスクリアル)とは、研究者ティムニット・ゲブルと哲学者エミール・トレスによって作られた、人類とテクノロジーの未来を示す思想に与えられた呼称です。以下で説明する、長い「-ism」が並ぶ7つの単語の頭文字を並べた造語です。このキーワードは、シリコンバレーの一部のエリートたちの間で流行している一連の未来的哲学を表していますが、生成AIの爆発的普及に合わせて、欧米のテック系メディアで目にすることが増えてきました。

T.ゲブル氏の名前を知らなくても、2020年12月に、AI倫理研究者である彼女をGoogleが解雇したニュースを記憶している人は多いかもしれません。当時、彼女はGoogleが開発中だったAIであるBARTの大規模言語モデル(LLM)の学習データには、人種や性別などの偏見という問題があることを論文で指摘しました。一方、Googleは、技術的に解決可能な問題だとしてその公表を認めず、その対立が原因だったと言われています。T.ゲブル氏は、TIMEが2023年に発表した「AIに影響を与える世界の100人」にも選出され、É.トレス氏と共にまとめ上げた概念がTESCREALです。

TESCREAL(テスクリアル)で言及される7つの思想

TESCREALは、7つの思想の集合体です。ただし、決して統一された運動や思想ではなく、多様で時には相反する考え方の集合です。テクノロジーの進化を手放しに歓迎するためのものではなく、全否定する警告でもありません。具体的な目標や方法、倫理的枠組みはそれぞれ異なっている点に注意しておく必要があります。

トランスヒューマニズム(Transhumanism)

遺伝子操作やサイバネティクス(動物と機械についての制御と通信の総合的研究)などを利用し、人間は生物学的な限界を超えられる・そうすべきだという思想。

エクストロピアニズム(Extropianism)

トランスヒューマニズムの一派で、知性や寿命、人間の無限の可能性、幸福を増大させるためにテクノロジーを利用することを提唱する。

シンギュラリタリアニズム(Singularitarianism 特異主義)

AIの進歩が人間の理解力や制御能力を超えて加速し、巨大な知性を持つ技術的特異点(シンギュラリティー)が生じると予想すること。

宇宙主義(Cosmicism)

ロシア発祥の哲学的・文化的運動で、宇宙空間の探査と植民地化、人類と宇宙とのつながりや、地球外生命体と知性の可能性を受け入れる世界観。

合理主義(Rationalism)

信仰や伝統、直感ではなく、理性と論理、証拠を、知識や真理の第一の源泉とし、意思決定において感情や主観的な経験を最小限に抑えるべきだとする哲学的信念。

効果的利他主義(Effective Altruism 略号EA)

貧困や病気など他者の生活を改善し、人々の苦しみを減らすために、エビデンスと理性を用いて、最も効果的な方法を特定する社会運動。これに反対する「e/acc」という活動も起きています(詳細は次回の記事で!)。

長期主義(Longtermism)

現在の目先のニーズよりも、長期的な未来と将来の世代の幸福を優先する考え方。多くの場合、人類の生存や可能性を脅かしかねない存亡の危機に対処する。

このように、TESCREALはAIなどの先端テクノロジーが人類の未来に与える潜在的・倫理的・長期的影響を考察するための概念です。SF世界の話のようですが、一部はすでに技術的に実現され、現実に問題が起きている課題でもあります。

TESCREAL視点で見るガートナーのハイプサイクル

テクノロジーの未来の可能性と言えば、IT分野のリサーチとアドバイザリー組織であるガートナーが発表している「ハイプサイクル」は、貴重な洞察を与えてくれる優れた資料として知られています。さまざまな新しいテクノロジーに期待が集まり、人気となる一方、期待外れで幻滅に終わるものもあります。社会へ適応した技術はその後、安定して普及していく過程を曲線で描いた図です。

ハイプサイクルは、技術トレンドを理解する1つの指標であり、一方のTESCREALは広範で複雑な概念です。TESCREALは、特定のテクノロジーにフォーカスを当てているわけではないので、このハイプサイクルの中で明示されてはいません。しかし、この図に登場する多くのテクノロジーやトレンドは、TESCREALの考え方と密接に関係しています。両者の洞察を組み合わせ、ポジティブな側面に注目したり、継続的なモニタリングと批判的思考を交えながらオープンに対話することは、テクノロジーの未来を形成するビジョンにとても有効でしょう。ただし、ハイプ(hype)とは「誇大宣伝」を意味する言葉であることもお忘れなく。

トランスヒューマニズムとエクストロピアニズム

AIやブレインマシンインターフェイス(BMI)、遺伝子工学、ロボット工学、機械学習による自動化などは、人間の限界を押し広げ、能力を高める可能性を秘めている。

シンギュラリタリアニズム

AIの急速な進歩はハイプサイクルで繰り返し取り上げられるテーマであり、その過程に技術的特異点も位置している。

宇宙主義と長期主義

宇宙探査や資源採掘、通信の技術的進歩は、地球外への進出を拡大し、次世代にわたる長期計画を奨励している。

効果的利他主義

問題解決へのデータ駆動型アプローチを反映し、社会的インパクトを与えるデータ分析、AI、デジタルツインの利用価値が強調されている。

異なる思想の落としどころを探る難しさ

テクノロジーの急速な進化への期待とリスクという点では、昨今、AIほど顕著な分野もありません。生成AIへの期待と懸念は、世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議2024でも非常に重要なテーマになっていました。去年のG7広島サミットでもテーマの一つになり、文化庁から生成AIと著作権保護についてのガイドラインとなる素案も提示されました。

▼AI – artificial intelligence – at Davos 2024: Here’s what to know | World Economic Forum
https://www.weforum.org/agenda/2024/01/artificial-intelligence-ai-innovation-technology-davos-2024/

▼文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回) | 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_05/

TESCREALの信奉者たちの主張は、『政府の関与を最小化し、技術進化と自由経済に委ねよ』ということです。貧困や格差という目先の問題よりも、気候変動やAIの暴走、宇宙開発など、長期的・世界的な人類の課題解決を目指すべきだと考える人たちもいます。テクノ楽観主義たちは、トリクルダウン理論を唱えています。最先端テクノロジーへの投資は波及効果を作り出し、富裕層から中流から下層へ、大企業から中小から零細企業へ、先進国からグローバルサウスへ、組織から個人へと下りていくと主張しています。

その一方で、TESCREALに警鐘を鳴らしている人たちの主張は、『テクノロジー原理主義は、人間の尊厳である人権や、民主主義が脅かされるリスクがある』ということです。先端技術は、格差や差別解消のために、寄付や慈善活動といったノブレスオブリージュ(恵まれた立場にある者たちが果たすべき義務)をエンパワーすべきで、優れた者が恩恵を受ける一方で、そうでない者には価値がない選民思想・優生思想につながると警告しています。社会格差の増大は強烈な反動運動や文明破壊すら引き起こしかねません。

私たちは、これらの真っ向から対立する考え方に対して、それぞれの立場で最先端テクノロジーの進化について真剣に考え、対話を重ねながら、難しいバランスを取っていく必要があります。


TESCREALは壮大な話なので、複数回に分けて解説します。次回は、推進派の主張とそれに対する反対意見や課題を考えてみます。どうぞお楽しみに。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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