ナラティブで支持を集めた企業たち-その成功の裏にある共通点とは?
「ナラティブ」という言葉は、2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授の書籍『ナラティブ経済学』で広く知られるようになりました。アイデアの口承伝搬と、人々が新しい物語を生み出しては伝播していく「感染性」について注目され、2020年頃から日本でも、ナラティブに関する情報が増えていきました。今回は、「私やあなたの物語」に注目し、実際に成功している事例をいくつか見てみましょう。
* この記事は、2024年3月12日に公開した内容を編集・更新しています。
ナラティブを活用した国内外の事例
稀代のストーリーテラーでありビジョナリー、そして天才詐欺師でもあったのが、Apple(旧Apple Computer)の創設者スティーブ・ジョブズ氏。彼が身に纏っていたカリスマ性と、人を煙に巻く話術は「現実歪曲フィールド」と呼ばれていました。彼は、スペックとストーリーとを絶妙のバランスで演出し、大企業幹部から消費者まで、聴衆を虜にし、羨望と期待に駆り立てるエンターテイナーでした。効果的なストーリーテリングは芸術、科学であり、時に劇薬でもあると言えます。
▼Think Different ad salutes ‘the crazy ones’: Today in Apple history
https://en.wikipedia.org/wiki/Think_different
その一方で現代は、天才ではない市井の人々が自分事として語る物語——ナラティブが、大きなパワーを秘めています。壇上のカリスマを憧れと共に見上げるのではなく、同じ広場に集まった人々の語りが、計り知れない新たな可能性を持っています。
以下では、(企業がそれを意図していたかどうかに関係なく、結果として)ナラティブが最大限に活用された事例を見てみます。なお、昨今「話題になった事例」はあっという間に鮮度を失います。そこでこの記事では、単発のバズではなく、複数年にわたって一貫した姿勢を継続している事例を中心に選びました。つまり、「続いている物語」の事例です。
ベネトン
「物議を醸す(controversial)」という単語は、もはやベネトンの代名詞とも言えます。社会的・政治的問題に取り組む、挑発的でセンセーショナルなキャンペーンで知られます。戦争や人種差別、病気などデリケートなトピックについて、衝撃的な手法で意識を高め、社会問題にスポットライトを当てています(それらは、なぜか日本では展開されていません)。
ナイキ
“Just Do It” を鼓舞するスポーツブランドとして、チャレンジの克服や身体の卓越性に焦点を当て、アスリートやアスリート志望者をエンパワーしてきました。スポーツの範疇に限らない、挑戦するマインドを持つオーディエンスを刺激する強力なメッセージは、ブランドコミュニティーを育み、人々の会話に火を点け、目標を追求する意欲を高めています。
パタゴニア
環境保護活動への積極的関与でも知られる、アウトドア・アパレル企業。一見、企業利益に反する「より少なく買って、より長く使い続ける」ことを奨励しています。製品の寿命と価値を紹介し、使用済み商品のリサイクルなど、環境意識の高い消費者とのつながりを育んでいます。創業者イヴォン・シュイナード氏は2022年、「地球を唯一の株主にする」として、会社の所有権を環境保護のための信託・非営利団体に譲渡しました。一過性のキャンペーンではなく、会社の構造そのものを物語の一部にした稀有な例です。
https://www.patagonia.jp/stories/say-goodbye-to-forever-chemicals/story-133800.html
Soup Stock Tokyo
「世の中の体温をあげる」を企業理念に掲げ、健康志向が強い女性客から支持されるスープ専門店。離乳食を無料で提供することを発表したところ、子育て世代の来客を快く思わない独身層からネガティブな反応が。しかし、包摂と寛容のコンセプト「Soup for all!」の通り、自社の姿勢を丁寧かつ毅然と示した姿勢に賞賛が集まりました。
ヘラルボニー
「異彩を、放て。」をミッションに掲げる、知的障害を持つ人々がアートやファッション、デザインを通じて才能を発揮する機会を創出している「クリエイティブカンパニー」。障害者を社会的弱者ではなく、社会を豊かにするユニークで価値ある視点を持った存在だと捉え、インクルーシブで公平な世界を作る活動をしています。
ヤッホーブルーイング
「よなよなエール」などで、クラフトビールブームの一角を担い続ける企業。代表自らが顔と名前を出してファンとやり取りするコミュニケーションやイベントなどを通じて、企業が語り手を独占せず、ファンと一緒に物語を続けてきました。ソバーキュリアスといった、アルコールを飲まない逆方向の消費トレンドが広がる中でも、その姿勢がブランドの強さを支えています。
Duolingo
世界的に人気の語学学習プラットフォーム。緑色のフクロウのマスコット「Duo」を、あえて予測不能なキャラクターとして運用しています。時にシュールで自虐的、ユーザーを置いてきぼりにするような投稿も、ミーム化して拡散・再生産され、成功事例として取り上げられています(ちなみに私は、2026年9月24日(木)日時点で2679日継続中!)。
ESGやSDGsでもナラティブが重要な鍵だが…
これらの事例は、ナラティブがいかに強力なマーケティングツールになるかを示していますが、同時に、批判と監視の対象にもなっています。例えば、ベネトンのアプローチは悲劇を利用しているだけだと糾弾され、ナイキも強制労働などエシカルな観点から批判され続けています。
企業にとってナラティブなアプローチが有効かは、企業の倫理観や行動との整合性に大きく依存します。重要なのは、企業の価値観との一致や信憑性、ナラティブに込められた約束の実現です。諸刃の剣でもあることには、十分に注意しておきましょう。
社会課題とビジネスの接点と言えば、ESG(環境と社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)が思い浮かびます。持続可能性を強調する企業にとって、ナラティブは重要な役割を担っています。消費者だけでなく、従業員や取引先、地域、行政、そして社会に対して、自社の製品やサービス、サプライチェーンを通じて何ができるのか?ステークホルダーとの相互対話を続けることこそが、持続可能な社会の実現に直結しています。
その一方で、ESGやSDGsを掲げる企業が矛盾する行為をしていたり、グローバルサウスの国々に負担を付け回している現実がたびたびニュースになります。従業員のコンプライアンス違反が明るみになり、ソーシャルネットワークで炎上するのも日常茶飯事。具体的な行動を伴わない表面的なストーリーや宣言は、齟齬を生み出すことで信頼を損なって価値を低下させるだけでなく、組織の未来を危うくします。
この「表面的な物語が信頼を損なう」というテーマは、次回さらに深掘りします。B2Cの良好なナラティブがB2Bにプラスの影響を与える一方で、一部の企業では、人々のナラティブを味方に付けることに失敗しています。炎上からリカバーするコストや時間などの被害は、時に甚大です。ナラティブはなぜ失敗するのか?その原因について、次回の記事で詳しく観察してみましょう。
これらの事例に共通するのは、「自ら語る」ではなく「他者に語らせる」設計があったこと。自社の物語を、誰とどう続けていくか?そのためには、さまざまなステークホルダーと、エンゲージメントとしての信頼関係を育てていく必要があります。
それを下支えするのが、自社のビジネスに常に最適化されたシステムです。御社の課題解決と挑戦の信頼できるパートナーとして、BlueMemeをお役立てください。






