日本企業が取り組む残念なデジタルレイバーが失敗する理由はコレ!

デジタルレイバーは、業務の効率化やコスト削減を実現し、人材不足を補えると期待される、労働力としての自動化技術です。その名称が知られて実際に現場で使われるのも、まだまだこれからですが、ローコード開発プラットフォームとAIによって、強力に進化しています。しかし、導入に失敗したり、なかなか成果が出ないケースはすでにある程度知られています。中には、日本社会特有の課題も。掛け声倒れのDX同様に、その主な要因と背景を理解することが重要のようです。
デジタルレイバーの導入に失敗する主な要因
日本社会におけるIT化の遅れや、システム開発の内製化率の低さが、デジタルレイバーの導入を妨げる要因となっている可能性があります。保守的・封建的な文化が根強い企業では特に、変革が進まない理由には事欠きません。
経営層の関心やサポート不足
DX同様デジタルレイバーも、SaaSの契約をどうする?といったレベルの話ではなく、経営課題に直結しています。経営層のビジョンが不明確で、導入や運用に対して十分な理解や支持が示さなければ、リソースが途中で枯渇したりプロジェクトが後回しにされ、失敗するリスクが高まります。
目的や目標が不明確
デジタルレイバーを開発・導入する目的や、達成すべき明確なゴールが設定されていなければ、ズルズルと時間とコストばかり掛かって、成果にはほど遠い結果に。そもそも、デジタルレイバーは中途半端に作れないはずですが、基準が決まっていなければ、導入後の評価が曖昧になり、効果を測定できません。また、デジタルレイバーと協働する、人間の役割が不明確になることもリスクです。
人のスキルシフトが必須
ローコード開発やAIのおかげで、非エンジニアにもスピーディーにシステム開発ができます。しかし、デジタルレイバーを実現するには、既存システムとの統合やデータの整備、ビジネスの深い理解が必須。エンジニアが十分な知識を持っていない場合、プロジェクトが遅延したり、システムの品質が低下し、セキュリティーリスクも増大します。
また、デジタルレイバーが多くの業務を担うことで、従業員に必要とされるスキルが変化し、従来のスキルは陳腐化するリスクがあります。新しいスキルを習得できない人は、キャリアの停滞を招きます。
人材不足と教育体制
即戦力として稼働するデジタルレイバーの導入・育成には、深く広い専門知識が必要です。しかし、ローコード開発やAIが効果的だと知られていても、実際にそれを活用・指導できる人材は慢性的に不足しています。自動化・効率化のための環境整備が進まなければ、現状は変えられません。
不十分なデータ収集・管理
質の高い、膨大なリアルタイムデータを使った高速な分析が、デジタルレイバーの質を左右します。サイロ化や不整合など、データやネットワークの整備や管理が不十分だと、正確な判断ができません。分析精度が低いままでは、デジタルレイバーの効果が十分に発揮されません。
短期的・近視眼的な視点
デジタルレイバーの導入と運用には、適切なフレームワークやプロセスが必要です。プロジェクト管理や変革管理のフレームワークが不十分だと、導入が計画通りに進まず、現場は混乱します。また、短期的な成果を追い求めるあまり、必要なプロセスや調整を怠ることも、デジタルレイバーの失敗につながります。長期的な投資と位置づけなかったり、評価と改善を繰り返すアジャイルな取り組みを軽視することも危険です。
従業員からの抵抗やメンタルヘルスへの悪影響
デジタルレイバーの動作や意図が理解されなければ、業務の効率が低下します。優秀な仮想労働者の導入が進めば、人間の雇用は不要です。特に深刻なのは、知識のアップデートができないホワイトカラーの置き換えです。従業員としては、失職の不安があれば抵抗感を抱くのも当然で、反対運動やサボタージュなど、効率化とは正反対の皮肉な状況に。また、自分が無価値に思える燃え尽き症候群(バーンナウト)など、メンバーのメンタルヘルスが悪化すれば、チーム全体の意思疎通や生産性の低下につながり、マイナスのスパイラルに陥ります。
日本社会の壁でデジタルレイバーは夢物語に終わる?
さらに、デジタルレイバーの浸透を阻む、日本社会ならではのネガティブな現実には事欠きません。
景気低迷の影響
先日の衆議院議員選挙でも多くの数字が飛び交いましたが、実質賃金は2024年5月まで26か月連続マイナスと、2年以上もの間、物価上昇率が賃金の上昇率を上回り続けていました。一瞬、6月・7月の2か月はプラスになったものの、8月は再びマイナスに転落。
OECDが先日発表した経済見通しでは、2024年の世界の成長率が3.2%と予測されました。一方で日本は、一人負けの-0.1%。長引く景気低迷と低い成長率が、企業のDX投資を抑制する要因となっている―というより、これは鶏と卵のどちらが先かと同じ。企業が新しい技術に投資する関心がなければ、デジタルレイバーの導入は進まず、さらに競争力を失うジレンマに陥っています。
▼OECD Economic Outlook, Interim Report September 2024 | OECD
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-economic-outlook-interim-report-september-2024_1517c196-en.html
チャレンジマインドの欠如
同調圧力が強く、均質化していて、ハイコンテキストな文化の社会。しかも景気が冷え込んでいる中で、新しいことに挑戦しようという機運が高まるはずはありません。
年長男性中心の封建的な価値観や、古い慣習が根強く残っている日本の企業文化では、デジタルレイバーのような技術の導入には強い抵抗感があります。得体の知れない他者との協働よりも、座して死を待つ衰退の方が受け入れられる結末に。
景気低迷と不十分な雇用対策
12月は、「年収の壁」として103万円や178万円という金額や働き方が話題になりました。金額にかかわらず、製造や販売、物流を中心に、人の確保はさらに厳しさを増していきます。
本来なら、デジタルレイバーでは賄えないタスクは人間が処理し、高い付加価値を生み出す機能が属人化することで、組織と個人の両方にとってアドバンテージにもなります。しかし、根強く残る年功序列や終身雇用といった、メンバーシップ型雇用をベースにした組織では、従業員が新しいスキルを習得するインセンティブは低く、デジタルレイバーと協働するような柔軟性は求められていません。
また、最低賃金の上昇が言われる一方で、雇用状況が改善する兆しは見えません。人手不足と解雇規制の板挟みになっている日本では、雇用の調整弁としての機能を、非正規雇用や外国人労働者が担わされている現実が、社会問題になっています。
埋まらないジェンダーギャップ
女性の働きやすさを実現するには、デジタルレイバーが重要な役割を果たすはず。しかし、世界経済フォーラムが今年6月に発表した「Global Gender Gap Report 2024」で、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位。政治・経済分野で相変わらず低迷しています。男性主導のデジタルレイバーは、女性にとって新たなバリアになる可能性もあります。
教育システムの遅れ
教職の現場も、家庭や企業も、目先のことで精一杯。仮想の同僚と働くことが当たり前になる、近未来の姿を現代の教育システムで示す余裕がありません。十分なノウハウとスキルを持った指導者の、適切な教育を受ける環境がなければ、デジタルレイバーに使われる側の人間になることは、目に見えています。
私たちの日常生活において、コンビニで働く外国人スタッフの皆さんや、スーパーマーケットのセルフチェックアウト用レジは不可欠な存在です。しかし普及し始めた当初は、信じられないことに『日本人が、人間がちゃんと接客せよ!』と難癖を付けるモンスタークレーマーが、珍しくありませんでした。
デジタルレイバーも、バグやトラブル、制限があったり、現場のニーズにフレキシブルに対応できなければ、同じようなネガティブ評価に晒されるでしょう。しかし、いろいろな障害が立ち塞がっているこの日本社会で、人間とデジタルレイバーがそれぞれの強みを活かして協力し合うこと以上に、有効なソリューションが見当たらないのもまた事実です。
すでにデジタルレイバーは、使う・使わないではなく、具体的にどう使っていくか?のレベルです。輝かしい希望だとはいえなくても、机上の空論で終わらせず、少しでもマシな未来を創造していくには、どうすればいいか?次回は、それを考えてみましょう。