時代が求める「説明可能なAI」-ブラックボックスを照らすXAIとは?
AIの進化と普及は、私たちの生活を急速に大きく変えつつあります。しかし、その裏側で、AIが何を学習し、どのような結論を導き出したのか、その意思決定プロセスが見えにくいという問題が指摘されています。
この課題を解決するために注目されているのが「説明可能なAI(XAI : Explainable AI)」です。この記事では、XAIの基本概念から、具体的な手法やユースケース、企業が直面する課題を解説します。
* この記事は、2024年3月28日に公開した内容を編集・更新しています。
便利なAIが何をやっているか、実はよく分からない…
企業とエンジニア個人のAI活用は、今や「選択肢」から「必須」へと変化しています。しかし、AIが何を学習し、そこからどのような結論に至ったのか、外から使うだけではその意思決定プロセスがよくわかりません。これは、ハルシネーション(幻覚)として知られる誤回答や、コンテンツの無断学習とはまた別の、AIの問題として指摘されています。
しかし、ここに大きな矛盾があります。例えば、人が十分に説明できないものの、取りあえずは動くコードやそれらしい分析レポートが大量に生成されるのはよく聞く話。AIを便利に使えば使うほど、そのコンテキスト(文脈)が失われていくことになります。AIの活用が急務な一方で、その判断根拠が不透明なことへの懸念も高まっています。
AI各社がLLM(大規模言語モデル)の複雑な構造について、詳細な手の内を明らかにしていないのは、ビジネス戦略上の戦略として一定の理解はできます。とはいえ、ユーザーが透明性・安全性について懸念するのも当然で、LLMに説明可能性を持たせる、XAIの研究が注目されているわけです。
説明可能なAI(XAI)とは?
この課題を解決するために注目されているのが、XAIです。これは、AIの意思決定プロセスを人間が理解できる形で示す技術のこと。特定の技術やツールではなく、AIの判断根拠を明らかにする目的のために研究されている技術群の総称です。 XAIの概念は、2017年にアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が主導した、AIの研究プロジェクトが契機となりました。それ以前のAIは、内部の判断プロセスがブラックボックスとなっていて、結果のみを出力し、判断理由を説明できませんでした。しかし、XAIの登場により、AIの判断理由を可視化して透明性を高めることで、AIに対する信頼性が向上するようになりました。

▼参考:説明可能なAI – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%AC%E6%98%8E%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AAAI#cite_note-ooetc_p20-6
急成長するXAI市場の現状
実は、すでにXAIのマーケットは急成長しています。2024年時点で68億〜83億ドル規模のXAI市場は、2030年から2033年にかけて210億〜460億ドルに拡大すると予測されています。20%以上という非常に高い年平均成長率は、AI市場全体をも上回る勢いです。
また、学術界・実務界でもXAIへの関心が高まっています。近年注目を集めている研究領域として、Google Scholarの関連論文(総説も含む)のヒット数も急増していることから、その注目度が窺えます。
さらに、法整備も進んでいます。 2025年9月29日、カリフォルニア州でSB53(透明性フロンティアAI法)が成立しました。これは、安全プロトコルの公開義務やリスク評価の透明化、重大インシデント報告、第三者監査義務(2030年から)、内部告発者の保護制度の強化などを含む、AI開発者に対する透明性・安全性確保のための包括的規制法です。2026年1月1日に施行されます。
カリフォルニア州、全米初の最先端AI安全開示法「SB53」制定米国 | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/10/6537f3596ce4bce1.html
EUでは、各ステークホルダーへの説明可能性・解釈可能性として、「EU AI法(EU AI Act)」が制定されました。日本では、総務省と経済産業省が取りまとめた「AI事業者ガイドライン」が制定されるなど、XAIは全世界的な注目を集めています。
▼AI事業者ガイドライン(第1.1版)- 令和7年3⽉28⽇ 総務省 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20250328_1.pdf
XAI導入のメリットとは?
では、なぜこれほどまでXAIが重要視され、期待が高まっているのでしょうか?その理由は、XAIを活用することで、以下のようなメリットが期待できるからです。
意思決定の透明性と信頼性の向上
AIをビジネスに活用するには、予測の根拠を説明したり、問題が起きたときにその原因を説明する必要があります。例えば、需要予測にAIを活用する際、予測の根拠を説明して上司や現場を説得する必要があるでしょう。
AIの予測結果がどの特徴量によって影響されたかが可視化され、ビジネス上の意思決定に対する透明性が向上します。これにより、顧客やステークホルダーがAIの予測に対して信頼を持ちやすくなり、AI導入に対する心理的抵抗を軽減できます。
リスク管理の強化
AIがどのようにして判断を下しているかを理解することで、誤った予測や偏りのある結果を早期に検出し、リスクを軽減できます。
特に、医療診断や金融審査など、AIが予測を外すと人命に関わる、あるいは多額の損失を生んでしまう可能性がある分野では、AIの処理ロジックが明確になっている必要があります。また、社員の採用にAIを活用したい場合、誤った予測や偏り、差別的な結果を早期に検出し、リスクを軽減できます(詳細は後述)。
モデル改善の促進
XAIによってモデルの判断過程を理解できるため、どの部分を改善すべきかが明確になります。結果として、モデルの精度向上や、ビジネス要件への適合性を高めることができます。
XAIの実践的な活用事例
では、実際にどのようなシーンでXAIが活用されているでしょうか?説明責任が求められる業務といえば、やはり、ミスが許されない医療や金融業界を筆頭に普及が進んでいます。
医療診断の根拠を説明
医療診断においてXAIは特に重要です。AIがある疾患の可能性を示した場合、「どの検査値や症状が判断に影響したか」をSHAPなどで定量的に示すことで、医師は患者に対して納得できる説明が可能です。
また、AIがMRI画像から病変を検出する際、XAI技術を用いることで「画像のどの部分に注目して判断したか」を可視化できます。例えば、Google DeepMindは、眼疾患検出システムで異常箇所をハイライト表示することで、眼科医が診断を理解し検証できるシステムを開発しています。AIの判断が妥当かどうかを、人間の医師が検証することで、誤診のリスクを減らせます。
金融業界での与信審査や不正検知
金融分野では、説明責任が法的に求められることが多く、XAIの導入が進んでいます。融資の可否をAIが判断する場合、なぜ承認されたのか、あるいは拒否されたのかを説明する必要があります。SHAPモデルを実装することで、信用決定に関する争いも削減できます。
また、クレジットカードの不正利用検知において、XAIは「なぜこの取引が不正と判断されたか」をシステム管理者に説明します。誤検知を減らせれば、顧客満足度が向上します。
製造ラインの監視と予知保全
製造現場では、設備の故障予測にAIが活用されています。例えば、「この設備が3日後に故障する可能性が高い」とAIが予測した場合、XAIを用いることで「温度センサーの異常値とバイブレーションの変化が主な要因」といった具体的な根拠を示せます。
原因がわかれば、保守担当者は適切なメンテナンスを判断でき、計画外のダウンタイムを削減できます。限られた人材の有効活用にもなります。
人材採用でのスクリーニング
採用活動にAIを活用する企業も増えていますが、公平性の観点からXAIが重要です。海外では、欧米先進国の白人男性に偏った学習データから得られた判断結果が、偏見や差別を助長している問題が指摘されたことがありました。
AIが候補者を評価する際、どの要素(経験年数、スキル、学歴など)が評価に影響したかを透明化することで、性別や年齢、人種などによる不当な差別がないことを確認できます。
XAIの可能性と今後
XAIの技術は急速に進化しています。医療診断や金融審査などの分野だけでなく、今後はより幅広い領域での活用が期待されています。
特に、大規模言語モデル(LLM)のような複雑なAIシステムに対しても、説明可能性を持たせる研究が進んでいます。AIの社会実装が進む中で、「AIが何を考えているか」を理解することは、AIを信頼し、適切に活用するための重要な鍵となるでしょう。
さて、XAIの重要性は理解できました。では、具体的にどのような技術でXAIは実現されているのでしょうか?次の記事では、LIMEやSHAPといった代表的な手法と、オオカミとハスキー犬を見分ける興味深い実験例を紹介します。
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