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デジタルレイバーを同僚に!SIer過依存と多重下請けからの脱却

リプリパ編集部

厚生労働省が2023年3月に発表した人口動態統計速報によると、過去1年間の自然減が81万人を超えました。都市の規模で例えると、新潟市や浜松市が一つ消えたことに相当する、かなりの衝撃です。今後、労働生産人口が増えることはありません。

そこで注目されているのが、デジタルレイバー(Digital Labor:仮想知的労働者)です。これは、定型業務を自動化することで、人間が処理する必要がある業務の負担を軽減し、生産性向上につなげるソフトウェアロボットを指す用語です。それまでの仕事のやり方に限らず、仕事そのものを根本から改善する、創造的な破壊としてのDX(デジタルトランスフォーメーション)に不可欠な要素の一つです。

なお、アウトソーシングについての記事はこちらも併せてお読みください。

世界的に見ても、SIer依存度が高すぎる日本のIT人材

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が、2022年9月に「世界デジタル競争力ランキング2022」を発表しました。これは、世界63カ国と地域を対象に、デジタル技術のポテンシャルをスコア化したランキングです。残念ながら日本は、過去5年の推移で「知識」「技術」「未来への対応」は、それぞれの数字は上昇しているにもかかわらず、過去ワーストの29位に低迷しました。

各項目を詳しく見てみると、「知識-人材」の「国際経験」「デジタルテクノロジーのスキル」がほぼ最下位で、「未来への対応-ビジネスの俊敏性」の「機会と脅威」「企業の俊敏性」「ビッグデータの利用と分析」も同様という惨憺たる状況で、これが全体の評価を下げたようです。

▼World Digital Competitiveness Ranking – IMD business school for management and leadership courses
https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/

急速に進むIT化とグローバル化、そして何より待ったなしのDXの推進によって、優秀なエンジニアの奪い合いが発生しています。当然、コストは高止まりし、スキルが十分ではないエンジニアも現場に駆り出されます。

日本のIT人材はSIer(システムインテグレーター)を中心に共有されている

デジタルビジネスの広がりに伴うDX推進により常に技術者が必要になり人材不足が発生
デジタルビジネスの広がりに伴うDX推進により常に技術者が必要になり人材不足が発生

そもそも日本の企業は、自社の内部にIT人材を抱えるのではなく、外部のSIer(システムインテグレーター)に依存している比率が非常に高いのが特徴です。日本のIT人材がIT産業以外の1/3未満なのに対して、アメリカは逆に、IT産業の人材が約1/3です。つまり日本では、自社のIT人材はアメリカの半分以下ということを意味します。これではダイナミックなビジネス環境の変化に、スピーディーに対応するのは難しいのも当然です。

システムインテグレーターに偏る日本のIT人材

世界各国と比較して、国内の事業会社にはIT人材が圧倒的に少なく人材不足が慢性化
世界各国と比較して、国内の事業会社にはIT人材が圧倒的に少なく人材不足が慢性化

参考:IT人材が従事する産業「デジタル化による消費の変化とIT投資の課題」内閣府
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je20/pdf/all_04.pdf

発注のウォーターフォール?多重下請け構造という根深い問題

SIerへの依存度の高さに関連して、日本のシステム開発の根深い問題があります。それが、多重下請け構造です。

顧客である発注元がまず、最初の発注先である「元請け」に開発を依頼します。その元請け企業からの報酬よりも安い価格で下請け企業が仕事を受注し、その仕事をさらに下請け企業に委託する…これを繰り返すことで、各社はその差益が売上となる構造です。 プロジェクトに参加して、リモート会議の時に所属がよくわからない人がいたり、対面で『名刺をたまたま切らしてしまっていて…』という人は、実はフロント企業の下請け・孫請け企業の人で、素性を明かせない人だということもあります。複数の企業の所属を使い分けている人も珍しくありません。

日本のシステム開発のほとんどは多重下請け構造

システム開発では土建業のような「労働集約型」が主流
システム開発では土建業のような「労働集約型」が主流

このような構造は、労働環境の悪化や賃金水準の低下、無駄な工数やコミュニケーションコストなど、さまざまな問題を引き起こします。当然これらは、DXの阻害要因にもなります。ITシステムやユーザーとITベンダーの関係、IT部門の立ち位置、品質および納期の管理、社内のITリテラシー不足、マネジメント層と現場の間に生じる溝など、DXの障害になります。

多重下請け構造の弊害

  • 丸投げが繰り返され、実際に開発に従事しているエンジニアが誰か分からない
  • どこの会社に、どの部分の責任があるのか分からなくなる
  • 上位の組織が決めないと、自社では判断できない
  • 下位の組織ほど、会社の収益性や従業員の労働条件が悪くなる
  • 要件定義や基本設計など、いわゆる上流工程が重視され、開発は下流工程だと見なされる
  • 労働生産人口の減少により、そもそも人月計算によるビジネスが限界

優秀で心強い同僚「デジタルレイバー」と一緒に働こう!

このような条件にある中で期待されるのが、「デジタルレイバー」です。これは、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)やAI(人工知能)を使って、従来、人が処理していた反復的な手作業を自動化することを指します。

RPAは、人間が作業する定型業務を自動化する技術で、人間の作業をコンピューター上で再現します。データを抽出・入力したり、フォームへ記入、ファイルの移動などの主にバックオフィス業務で、人間の労働者の操作をそのまま真似て自動化できるソフトウェア技術です。請求書処理やデータ管理、給与計算、採用など、さまざまな実務に応用することで、必ずしも人が操作しなくてもいい操作をソフトウェアが処理することで、時間とコストを節約し、ヒューマンエラーを回避できます。従業員の生産性だけでなく、CX(顧客満足、カスタマーエクスペリエンス)を向上させることにもつながります。

一方、いろいろな話題が盛り上がっているAIですが、AIは人工知能の総称で、機械学習(ML)やディープラーニング(DL)などの技術を使って、特定のタスクをこなすことができます。

最近、時々見聞きするようになってきたのが、AGI(汎用人工知能:Artificial General Intelligence)です。AIが画像認識や音声認識など特定のタスクに特化した人工知能である一方、AGIは人間と同じように、あらゆるタスクをこなせる、汎用性と自律性に富んだ人工知能を指します。機械が人間と同等の知能を持ち、問題解決や学習、将来の計画を立てる能力を持つ、自意識のあるAIです。

そしてこれがさらに進むと、ASI(人工超知能:Artificial Super Intelligence)に進化します。ASIは、人間の認知能力を凌駕し、現在の人間には不可能なタスクを実行できます。ここで起きるのが、シンギュラリティーと言われる、人間の知能をAIが越える人類史上で極めて重要な転換点です。

RPAとAIは混同されがちですが、異なる技術です。RPAは反復作業を自動化するソフトウェアで、プロセス駆動型です。エンドユーザーが定義したプロセスにのみ従います。

一方、AIは機械がデータから学習し、通常人間の知能が必要な作業を処理できるデータ駆動型の技術です。機械学習によってデータのパターンを認識し、学習して徐々に賢くなっていきます。

ただ、RPAとAIは、複雑なタスクを人でなくても処理できるインテリジェントな自動化ソリューションとして、一緒に使われることも珍しくありません。例えば、RPAを使ってデータを自動入力させ、そのデータをAIで解析し、新たなインサイト(洞察)を発見できるようなフローを作れます。

SIerへアウトソース vs 社内でデジタルレイバー

ここで、自社の業務の一部を社外のSIerへアウトソースする場合と、自社でデジタルレイバーを使う場合とで、それぞれのメリットとデメリットを整理してみましょう。

メリットデメリット
SIerへアウトソース・開発期間が短い
・開発に必要な人材を確保しやすい
・開発コストが限定的
・自社の業務に合わせたカスタマイズが難しい
・コミュニケーションや品質管理が難しい
・セキュリティー面で不安がある場合も
社内でデジタルレイバー・自社の業務に合わせたカスタマイズが可能
・社内で完結する場合は、よりセキュア
・社内の人材育成につながり、ノウハウも蓄積
・通常業務以外のタスクが発生する
・開発に必要な人材を確保・育成することが難しい
・適切な管理運営コストも無視できない
プロジェクトの規模は、生産労働時間に基づく。極小:10,000時間未満、小:10,000~30,000時間、中:30,000~60,000時間、大:60,000~100,000時間、巨大:100,000時間以上

SIerへアウトソースするメリット

  • 開発期間が短い
  • 開発に必要な人材を確保しやすい
  • 開発コストが限定的

SIerへアウトソースするデメリット

  • 自社の業務に合わせたカスタマイズが難しい
  • コミュニケーションや品質管理が難しい
  • セキュリティー面で不安がある場合も

社内でデジタルレイバーを使うメリット

  • 自社の業務に合わせたカスタマイズが可能
  • 社内で完結する場合は、よりセキュア
  • 社内の人材育成につながり、ノウハウも蓄積

社内でデジタルレイバーを使うデメリット

  • 通常業務以外のタスクが発生する
  • 開発に必要な人材を確保・育成することが難しい
  • 適切な管理運営コストも無視できない

自分たちが欲しいモノは、やっぱり自分たち自身の手で!

従来、コンサルティング会社からSIerに依頼していた業務も、IT構想から要件定義、設計、実装、テスト、そして運用に至るまで、自社で完結することができます。つまり、システム開発の「内製化」です。日本でも、大手のアパレル業や小売業、IT企業などが、従来、子会社としていた開発組織を、自社内に吸収する動きも出てきています。

顧客企業の多くは外部のシステムインテグレーターに依存

SIer依存のフローから、システム開発を内製化するには?
SIer依存のフローから、システム開発を内製化するには?

デジタルレイバーを育てて、一緒に人も組織も育っていこう!

新型コロナウイルスのパンデミックが不幸なきっかけだったとはいえ、人口減に加えて接触や移動が制限されたことによって、創造的な破壊としてのDXを推進せざるを得ない状況にあります。その、政府が進めるDXや「働き方改革」の切り札として注目が集まるのが、デジタルレイバーです。

デジタルレイバーに、アジャイル開発やローコードツールを組み合わせることで、自社に最適なシステムを素早く現場に投入できます。貴重な人材は、本当に人でなければ対応できないところに集中させ、自社ならではの強みをさらに磨くことが可能になります。単なるアウトソースでは実現できなかった、新しい人材と共に成長を続けましょう。


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