クジラとカバは実は仲間!「大哺乳類展」で知ったDNA解析の凄さ

先日、福岡市博物館で開催されている「大哺乳類展」に行ってきました。今回の記事では、その展示の中で特に興味深かったことを紹介します。皆さんは、クジラとカバが近い親戚だという話をご存じでしたか?
約200体の標本が展示されている「大哺乳類展」!
「大哺乳類展-わけてつなげて大行進」は、福岡市博物館で8月25日まで開催されています。この展示会は、哺乳類の多様性と進化に焦点を当てています。約200体の剥製標本や全身骨格標本が展示されていて、特にアジアゾウやトラ、パンダの全身骨格が圧巻でした。
東京上野の国立科学博物館で開催されていた展覧会は6月で終了しましたが、巡回展が福岡市博物館で8月後半まで開催されています。夏休みの自由研究にもオススメなので、家族連れでも大人だけでも、興味がある皆さんはぜひ行ってみてください!
「大哺乳類展」へ行くことになったきっかけ
私は幼い頃から生き物が好きで、昆虫採集や魚釣りをよくしていました。その延長で、動物園や水族館、博物館に足を運ぶのが趣味となり、そこで新しい知識を得ることが楽しみになりました。
また、ここリープリーパーで理人さんが書いた記事も刺激になりました。ニホンオオカミと日本犬の遺伝的な近縁性に関する記事を読んで、DNA解析の面白さを再認識しました。「大哺乳類展」でも、新たな発見があるのではと期待して訪問しました。
哺乳類の分類ルール:網/目/科/属
展示の紹介に入る前に、哺乳類の分類ルール、分類の歴史、DNA解析の登場による変化について説明しておきましょう。
哺乳類の進化と分類を示す「系統樹」は、木の根元を共通の祖先、枝分かれを新しい種の進化として表現します。分類階層は上から順に「網(もう)」「目(もく)」「科(か)」「属(ぞく)」で構成されていて、下に行くほど詳細な分類になります。
この階層を住所に例えると分かりやすく、「網」が国、「目」が都道府県、「科」が市、「属」が区に相当します。また、福岡県から鹿児島県、沖縄県をまとめて「九州・沖縄地方」と呼ぶように、系統樹は哺乳類の分類を示す住所のようなものです。
系統樹を用いることで、哺乳類の進化の流れや共通の祖先を把握できます。例えば、コアラは「哺乳網(ほにゅうもう)- 双前歯目(そうぜんしもく)- コアラ科(か)- コアラ属(ぞく)」と分類されます。また、目(もく)より下の階層を、大きなグループでまとめて「有袋類(ゆうたいるい)」と呼ぶこともあります。
見た目や解剖に頼っていた、分類と系統の歴史
DNA解析が登場する以前、生物の分類は見た目や骨、歯、角、棘の有無、臓器の形状など、観察や解剖で得られる形態的特徴に基づいて分類されていました。例えば、有袋類(カンガルーやコアラなど)は、腹部の袋で未熟な子を育てる動物として分類されました。
しかし、この方法では外見が似ていても異なる種、あるいは見た目が異なっていても近縁の種を、正確に分類することが困難でした。これにより、一部の生物は誤って分類されてしまっていたのです。
革新的な技術、DNA解析の登場!
1970年代から1980年代に掛けて、DNAの塩基配列を解析する技術が急速に発展しました。特に、1980年代に登場したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、特定のDNA配列を大量に複製する、画期的な技術です(新型コロナウイルスのPCR検査はまさにこれ)。これにより、DNA解析の精度と速度が飛躍的に向上しました。
1990年代には、ヒトゲノムプロジェクトが開始され、2003年には人間の全ゲノム配列が解読されました。これらの進展により、遺伝情報に基づいた生物の分類が可能となり、従来の方法では見逃されていた多くの新発見が生まれました。
こういったDNA解析技術の進展により、生物の分類と系統の研究は新たな段階に入りました。形態的特徴だけでなく、遺伝的特徴に基づいて生物を分類し、その系統関係を解析することが可能となったのです。これにより、従来の分類法では見逃されていた多くの新発見がもたらされました。「仲間じゃないと思っていたら実は仲間だった」とか、「実は腹違いのきょうだいでした」的なことが分かっています。
実は、クジラとカバは近い仲間だった!
以前は、クジラは鯨類、カバは偶蹄類と別々に分類されていました。クジラは哺乳類の一種ですが、尾びれや背びれがあるため、見た目ではカバとは全く異なります。そのため、長い間、クジラとカバは全く別の分類に属すると考えられていました。しかし、DNA解析技術の進歩により、実はクジラとカバは共通の祖先から進化したことが明らかになりました!
どうやってこのことが発見されたのか?
1999年、東京工業大学の二階堂氏らの研究チームが、レトロポゾンというDNA配列を使って、クジラとカバの関係を調べました。レトロポゾンはRNAから逆転写されてDNAに組み込まれる特殊な遺伝子で、一度挿入されるとその配列はほとんど変化しません。この特性を利用して、共通祖先の存在を明らかにしたのです。
具体的な研究手法
研究チームは、クジラとカバからDNAを取り出し、そのDNAの中に共通して存在するレトロポゾンの挿入部位を解析しました。解析は、以下の流れで実施されました。
1.DNAの抽出と増幅
クジラとカバからDNAを抽出し、PCRを使って調べたいDNA配列を増やしました。
2.DNA配列のサイズの確認
増やしたDNA配列の長さを調べ、レトロポゾンが挿入されているかを確認しました。
3.配列の確認
レトロポゾンが含まれているかを調べ、共通祖先から分岐した証拠を得ました。
結果と意義
解析の結果、カバとクジラのDNAには、共通するレトロポゾンが存在することが確認されました。これにより、見た目は大きく異なるものの、両者が共通の祖先を持つ近縁種であることが明らかになりました。この発見を受けて、従来別々に分類されていた鯨類と偶蹄類は「鯨偶蹄目」として統合されました。
生物進化の謎を解くDNA解析は面白い!
クジラとカバが親戚だという事実には驚かされました。見た目だけでは想像もつかない進化の繋がりを明らかにできるDNA解析は、非常に価値のある技術だと改めて感じました。
こうした進化の謎を解き明かすDNA解析は、私たちに新たな視点を提供してくれます。哺乳類に限らず、鳥類や爬虫類、魚類などでも同様の発見があるかもしれません。