お酒に強い?弱い?あなたの遺伝子が握るアルコール代謝

9月〜10月は、下半期の異動や新学期で、お酒を飲む機会もあるかもしれません。皆さんご存知のように、お酒に対する強さは人それぞれ異なります。
筆者自身、お酒を飲むのは好きなのですが、飲んだ後すぐに顔や手が赤くなってしまいます。お酒を飲んだことがある皆さんは、自分のお酒の強さについて知っているでしょうし、それが両親ひいては血筋に影響を受けていることも、何となく感じているのではないでしょうか。
つまり、私たちの持つ遺伝子がお酒に対する強さを決めているのです。今回の記事では、お酒に対する強さにどんな遺伝子が関わっているか紹介します。
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お酒の強さを決める遺伝子
お酒に対する強さを決める主な遺伝子は、アルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を作り出す働きをします。これらの酵素は、体内でアルコールを分解する重要な役割を果たしています。
アルコール分解の仕組み
アルコールが体内に入ると、以下のような過程で分解されます:
- アルコール → アセトアルデヒド(ADHの働き)
- アセトアルデヒド → 酢酸(ALDHの働き)
- 酢酸 → 水と二酸化炭素
この過程で特に重要なのは、2番目のステップです。アセトアルデヒドは、顔が赤くなったり、吐き気を感じたりする原因となる物質です。
遺伝子多型とお酒に対する強さ
アルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の遺伝子には、いくつかの種類(これを「遺伝子多型」と呼びます)があります。主に関係するのは、ADH1B、ALDH2という2つの遺伝子です。
ADH1Bは低活性、活性、高活性に分類され、アルコールからアセトアルデヒドに分解される速度に影響を与え、お酒の抜けやすさが決まります。例えば、以下のような型に分類されます:
- 低活性型:アルコールの分解が遅い(お酒が抜けにくい)
- 活性型:通常の速度でアルコールを分解
- 高活性型:アルコールの分解が速い(お酒が抜けやすい)
一方、ALDH2は非活性、低活性、活性に分類され、アセトアルデヒドの分解される速度に影響を与えます。例えば、以下のような型に分類されます:
- 非活性型:アセトアルデヒドをほとんど分解できない(お酒に非常に弱い)
- 低活性型:アセトアルデヒドの分解が遅い(お酒に弱い)
- 活性型:通常の速度でアセトアルデヒドを分解(お酒に強い)
これらの遺伝子型の組み合わせによって、個人のお酒に対する強さが大まかに決まります。例えば、以下のような型に分類されます:
- お酒に強い:ADH1Bが低活性型、ALDH2が活性型
- 普通:ADH1Bが活性型、ALDH2が活性型
- お酒を受け付けない:ADH1Bが高活性型、ALDH2が非活性型または低活性型
日本人や中国人、韓国人など東アジアの人々は、ALDH2の非活性型や低活性型を持つ割合が、他の地域の人々よりも高いです。これが、東アジアの人々にお酒に弱い人が多い理由の一つです。
「最近飲まなくなったからお酒弱くなった」は本当か?
さて、ここで飲酒の頻度とお酒の代謝について考えてみましょう。皆さんも、一度は「最近飲まなくなったからお酒弱くなった」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか?結論から言えば、この言葉には一定の科学的根拠があります。ただし、その理由は単純ではありません。
1. 酵素の適応
私たちの体は、環境に適応する能力を持っています。アルコールを定期的に摂取していると、肝臓でのアルコール脱水素酵素の量が増加する傾向にあります。これを「酵素誘導」と呼びます。
逆に、長期間アルコールを摂取しないでいると、体はアルコール脱水素酵素の生産を減らします。これにより、久しぶりにお酒を飲んだ時に、以前よりも弱くなったように感じる可能性があるのです。
2. 耐性の低下
アルコールに対する耐性も、飲酒頻度に影響されます。定期的に飲酒していると、脳神経系がアルコールの効果に慣れていきます。これを「耐性」と呼びます。
飲酒を控えていると、この耐性が低下します。その結果、以前と同じ量のアルコールでも、より強い効果を感じる可能性があります。
3. 体重や体組成の変化
飲酒習慣の変化に伴って、体重や体組成が変わることもあります。例えば、飲酒を控えることで体重が減少した場合、同じ量のアルコールでも血中アルコール濃度が高くなりやすくなります。
4. 心理的要因
「お酒に弱くなった」という思い込みが、実際の反応に影響を与える可能性もあります。これは「プラセボ(プラシーボ)効果」の一種と考えられます。
5. 年齢による影響
加齢に伴い、肝臓の機能が低下したり、体内の水分量が減少したりすることで、アルコールの代謝能力が低下する傾向があります。「最近飲まなくなった」という状況が、単に年齢を重ねたことによる変化を反映している可能性もあります。
遺伝子が影響するその他の体質
お酒に対する強さ以外にも、私たちの身体の特徴や病気のリスクは遺伝子と深く関係しています。遺伝子の違いによって、さまざまな体質の差が生まれるのです。以下にいくつかの例を挙げてみましょう。
耳垢の種類(乾型か湿型か):
ABCC11遺伝子の違いにより、耳垢が乾型(カサカサ)になるか湿型(ベタベタ)になるかが決まります。東アジア人の多くは乾型の耳垢を持っています。
筋肉の付きやすさ:
ACTN3遺伝子は、速筋繊維の形成に関わっています。この遺伝子の型によって、瞬発力を必要とするスポーツに向いているかどうかが影響を受けます。
カフェインの代謝スピード:
CYP1A2遺伝子の違いにより、カフェインの分解速度が異なります。これが「コーヒーを飲むと眠れなくなる」といった個人差の原因の一つです。
肥満のしやすさ:
FTO遺伝子は、体重や肥満のリスクに影響を与えることが知られています。
アレルギー体質:
特定の遺伝子変異が、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患のリスクを高める可能性があります。
ご先祖様に感謝の祝杯を
今回の記事では、お酒に対する強さと遺伝子の関係について解説しました。
私たちの体質を決める遺伝子、特にアルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の遺伝子が、お酒の代謝に大きく影響していることがわかりました。また、東アジアの人々にお酒に弱い人が多い理由も、この遺伝子の特徴から説明できます。
お酒への反応以外にも、遺伝子は私たちの身体に大きな影響を与えています。この記事をきっかけに、皆さんが遺伝子についてもっと興味を持ってもらえたら嬉しいです。
参考資料
▼Overview: How Is Alcohol Metabolized by the Body? – PMC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6527027
▼Matsuo, Keitaro, et al. “Alcohol dehydrogenase 2 His47Arg polymorphism influences drinking habit independently of aldehyde dehydrogenase 2 Glu487Lys polymorphism: analysis of 2,299 Japanese subjects.” Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention 15.5 (2006): 1009-1013.
https://aacrjournals.org/cebp/article/15/5/1009/285731/Alcohol-Dehydrogenase-2-His47Arg-Polymorphism