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バイオテクノロジー

バイオは新しいデジタル!ITに続くブレイクスルーを生物学が担う!?

松原 太一

今回は、”Bio is the new digital!” (バイオは新しいデジタルだ)という、ニコラス・ネグロポンテ教授が発した一つの言葉について説明します。バイオテクノロジーが未来の重要な技術であることを、著者が3つのポイントで説明します。

Bio is the new digital!(バイオは新しいデジタルだ)

”Bio is the new digital!”(バイオは新しいデジタルだ)という言葉は、MITメディアラボ(米国マサチューセッツ工科大学 建築・計画スクール内に設置された研究所)の創設者であるニコラス・ネグロポンテ(Nicholas Negroponte)教授が言った言葉です。

この言葉は、デジタル技術が社会に浸透することで起こる変化を予言したネグロポンテ教授が、次なる大変革の原動力として捉えている「バイオロジー(生物学)」について述べたものです。デジタル技術は、私たちの生活と社会に大きな影響を与え、変革をもたらしています。彼は、バイオテクノロジーもまた、社会に大きなインパクトを与える可能性を持つと考えているのです。

1.バイオテクノロジーは新たなデータの泉

生命ビッグデータ

まずは、バイオテクノロジーがどのように新たなビッグデータ(量と多様性、処理速度、価値、正確性が重視される、巨大なデータ群)を生み出しているかについて考えてみましょう。私たちの周りには生命という驚くべき現象が溢れています。DNA、たんぱく質、mRNA、エピゲノム(どの遺伝子を使う・使わないかを制御する仕組み)、臨床データ、神経科学のデータなど、私たちの身体は膨大なデータの源泉です。いわば、「生命は巨大なデータベース」なのです。

さらに、技術の進化によってデータの解像度も劇的に上がっています。シングルセルゲノミクス(1つの細胞の持つ遺伝情報(ゲノム)を調べる実験手法)や空間オミクス(組織中の場所と対応した生物学的データを取得する手法)、脳科学の計測技術の進歩などにより、私たちは生命の細部まで見ることができるようになりました。

ビッグデータは革命を起こしてきた

クラウド化等に伴うデータの蓄積は、IT革命を引き起こしました。データが蓄積されることで、機械学習や深層学習などの発展したコンピューティング技術が、それらデータの持つポテンシャルを最大限に評価できるようになりました。

これらの技術は、膨大な量のデータを活用してパターンを見つけ、予測を可能にしました。これにより、自動運転車や音声認識、画像認識など、人間の能力を補完する新たな技術が開発されるきっかけとなりました。 以上のように、データの増加はIT革命を牽引し、社会全体に大きな影響を与えました。そして今、バイオテクノロジーはその新たなデータの源泉となりつつあり、同様の革新をもたらす可能性があります。

2.IT技術同様、コスト低減でイノベーションを加速するバイオテクノロジー

コストの低減がイノベーションを招く

ITの世界では、インターネットの出現により、誰もがプログラミングを学び、データを共有し、新しいアイデアや製品を作り出すことができるようになりました。大規模な設備投資を必要とせず、パーソナルな開発力が花開き、イノベーションのコストが大幅に低下しました。

この最たる例が、オープンソースソフトウェア(OSS)の活動です。開発者は無料でコードを共有し、利用することが可能になりました。これにより、ソフトウェア開発のコストは大幅に低減され、誰でも自分のアイデアを形にするしきい値が大きく下がりました。

また、前述のクラウドコンピューティングもコスト低減によるイノベーションの例です。AWS(Amazon Web Services)、Google Cloud(GCP)、Microsoft Azureといったパブリッククラウドが知られています。これらのクラウドサービスによって、企業は大規模なデータセンターを設ける必要なく、必要なときに必要なだけのコンピューティングリソースを利用できるようになりました。これは、特にスタートアップにとって大きなコスト低減となり、新規事業を立ち上げる際のハードルを大きく下げました。

そして今、バイオロジーの世界でも同様のことが起こっている

技術の進歩により、生物学的な研究や実験が以前よりも非常に安価で手軽に実施できるようになり、より多くの人々が参加できるようになっています。その一つの例として、ヒトゲノムの解読コストが大幅に下がっています。2003年に完了したヒトゲノム(人間が持つゲノム:全遺伝子情報)プロジェクトでは、全ゲノムの解読に約300億円掛かったと言われていますが、次世代シーケンサー(略号NGS:DNAの膨大な塩基配列を高速に読み取ることができる装置)の登場により、そのコストは2021年には約10万円まで下がりました。

ヒトゲノム解読のコストの変遷
ヒトゲノム解読のコストの変遷

▼出典:The Cost of Sequencing a Human Genome – Courtesy: National Human Genome Research Institute

3.デザインの未来は大きく変わる

元MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏によれば、未来の「デザイン」とは、ハードウェアやソフトウェア、生物学、数学が融合されたものに変わると語っています。

▼【Biotech】”Bio is the new digital” – Joi Ito – YouTube

生物学と数学を組み合わせれば遺伝子を設計でき、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせれば自動化された製造プロセスを設計できます。バイオテクノロジーを使ったエレクトロニクスや、素材、エレクトロニクスを使った健康など、バイオテクノロジーがデジタルと同じように社会全体に浸透することで、新たな可能性が開かれるというのです。これらが、デザインの新たなフロンティアになるのです。

実際、新型コロナウイルスのパンデミックで開発されたmRNAワクチンは、その開発にバイオテクノロジーとデジタル技術が結びついた最良の例といえます。mRNAワクチン開発は、ウイルスのゲノム(生物のDNAが持つ遺伝情報)情報を解析し、どの部分の情報をワクチンとして利用するかを決定するために、大量のデータを扱う能力と、それを解析するためのアルゴリズムが必要です。これは数学とコンピューターサイエンスの力を借りたものであり、ワクチン開発を大幅に加速させました。

また、この遺伝情報を体内に効率よく送り込むためのナノ粒子(物質を1mの10億分の1単位にした微小粒子)の開発も、化学と生物学の結びつきから生まれました。

次のデジタル、それはバイオ

ネグロポンテ教授は、デジタル技術が社会に浸透することで起こる変化を見事に予言しました。そして彼は、次なる大変革の原動力として「バイオロジー」を挙げています。バイオロジーがデジタル技術と同様に、社会全体に大きな影響を与える可能性があるのです。

▼Amazon.co.jp: ビーイング・デジタル―ビットの時代 : ニコラス・ネグロポンテ, 洋一, 福岡: 本

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松原 太一
松原 太一
研究員(専門分野:バイオインフォマティクス・深層学習・量子コンピューティング)
2021年から株式会社BlueMemeで量子コンピューティングやゲノム情報解析の研究開発を担当。専門分野は、量子AIの生命医科学への応用。BlueMemeに在籍する傍ら、2023年度より社会人学生として、九州大学大学院システム生命科学府へ進学し博士号取得を目指す。
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