リアルを越えるイマーシブなデジタルツインを支えるローコード開発

イマーシブ(没入感)は、近年のエンターテイメントやコンテンツのキーワードですが、ビジネスでも重要となっています。そしてこれが関係するのが、現実世界をデジタル空間に再現する技術であるデジタルツインです。そのための柔軟かつ効率的なシステム開発に不可欠なのが、ローコード開発プラットフォームです。
現実世界の情報を把握するデジタルツイン
デジタルツインとは、現実世界のシステムや物理的なオブジェクトの仮想モデルを、デジタル空間に再現する技術です。IoT(モノのインターネット)やAI、5G/6Gなどの先進技術を組み合わせて、物理空間の情報をリアルタイムに収集し、仮想空間側に「双子」を作り出す手法です。
デジタルツインを導入するメリット
デジタルツインには、物理空間の環境や設備の状態を仮想空間で収集・分析したり、将来の動作や変化を予測できる、さまざまなメリットがあります。
データ統合と視覚化
多様なデータセットを統合し、空間的コンテキストを提供することは、複雑なシステムの理解に役立ちます。人間とロボットとの間で、安全かつ効果的なコラボレーションも可能に。
リアルタイムの監視と分析
デジタルツインを使えば、インフラや製造工程をリアルタイムに監視できます。不具合や停止などの問題を早期に発見・特定し、製品の品質低下やダウンタイムを回避できます。
仮想テストとプロセスの最適化
物理的に変更を加える前に仮想環境でテストできれば、リソースの節約にもつながります。例えば、製造業では組み立てから品質管理まで、製造プロセス全体の最適化・効率化が可能です。
リスク軽減とセキュリティー計画立案
仮想環境で潜在的なリスクをシミュレートできるので、回避策を事前に計画できます。安全性を向上させることで、予期しない中断を最小限に留めることが可能です。
イマーシブ体験によるエンゲージメント向上
3Dカタログやインタラクティブなデモは、ユーザーに製品をより視覚的・感覚的にアピールできます。イマーシブな体験は、ユーザーが製品の機能や利点を理解する助けとなります。
協調的で迅速な意思決定
スムーズな状況把握と理解は、迅速な意思決定を実現します。複雑なタスクも協力して完了できる、チームとしての一体感も生まれ、コミュニケーションの質的向上にも。
デジタルツインの応用例
次に、デジタルツインの応用例をいくつか見てみましょう。
自律型工場の構築-NVIDIAとシーメンス
半導体製造のNVIDIAと電機製造のシーメンスは、デジタルツインとイマーシブ技術を活用した自律型工場のパートナーシップを締結。産業用メタバースも利用し、生産プロセスのリアルタイム監視と分析を実現しています。
航空機エンジンのメンテナンス-GE
ゼネラル・エレクトリック社(GE)では、航空機エンジンをデジタルツインで再現しています。実際のエンジンに取り付けたセンサーからリアルタイムで収集したデータを基に、仮想空間でエンジンの状態を再現し、適切なタイミングでメンテナンスを実施。合計で、15億USドル(約2,190億円)ものコスト削減と効率化を達成しています。
▼GE Digital Twin Stories
https://www.ge.com/digital/industrial-managed-services-remote-monitoring-for-iiot
心臓疾患患者のケア-メイヨークリニック
メイヨークリニックでは、心臓のCTスキャンやMRIデータを基に、患者の心臓のデジタルツインを作成しています。医師は手術や薬物療法の効果をシミュレートし、患者に最適な治療法を選択する戦略を立てられます。これは、治療の成功率の向上や、入院期間の短縮にも寄与しています。
アグリテック-カーネギーメロン大学
カーネギーメロン大学では、地形や土壌の特性、作物の成長データを統合して、農場のデジタルツインを構築しています。気温や湿度、降水量などの環境データをリアルタイムでモニターし、作物の成長をシミュレート。最適な灌漑や施肥のタイミングを決定することで、農業生産性が向上し、資源の効率的な使用が実現されています。
▼Digital Twins and Nanotechnology Can Transform Agriculture – News – Carnegie Mellon University
https://www.cmu.edu/news/stories/archives/2024/june/digital-twins-and-nanotechnology-can-transform-agriculture
都市計画や防災対策-Project PLATEAU
国土交通省が進めている都市の3D化プロジェクトです。都市全体のデジタルツインを作成し、そのデータを基に、GIS(地理情報システム)など、さまざまなシミュレーションや分析に活用しています。VRも導入され、都市計画や防災対策などに役立てられています。
ビジネスにおけるイマーシブへの期待
社名を変えるほどメタバースを推進するMeta(旧Facebook)は、専用ゴーグルMeta Questとアプリで、ゲーム以外への活用を提案しています。例えば、会議アプリでは、資料の共有や書き込み、発言の書き起こしや翻訳はもちろん、メタバース上での相手との位置や距離、方角に応じた音声など、リアルな環境を演出しています。
空間コンピューティングを謳うApple Vision Proは、次世代コミュニケーションの未来を示しました。また、AppleがイヤフォンAirPodsとApple Musicで提供している空間オーディオも、高い臨場感が人気です。
IT企業の多くが、オンラインだけではコミュニケーションに制限があることを知り、アフターコロナでもフルリモートの働き方を選んでいません。しかし、近い将来、まるで同じ部屋で対面しているようなイマーシブは、デジタルツインと相まって、ビジネスを変える重要な要素となるでしょう。
デジタルツインを実現するローコード開発
効果的なデジタルツインを作り、イマーシブを実現する上で不可欠なのが、状況の変化に迅速に対応できる、強力で柔軟なITシステムです。そこで、鍵となるのがローコード開発プラットフォームです。
ITエンジニアの負担軽減と能力拡張
高度なデジタルツインを実現するには、サーバーやクラウド、ネットワークだけでなく、機械系・組み込み系のノウハウや、セキュリティー、運用・保守など、幅広い知識が必要です。イマーシブを実現するには、UI・UXの設計、3Dや画像・ビデオ・オーディオの処理も不可欠。さらに、AIの普及に合わせたデータサイエンスも必須です。
人が手作業でプログラムを書く必要がないローコード開発は、エンジニアの負担を減らし、スキルを拡張します。
非エンジニアの確保と育成
イマーシブの実現には、人間の感覚や感情、心理という視点が不可欠です。そのためには、STEM(科学・技術・工学・数学)系ではない、いわゆる文系人材もエンジニアとして育成し、設計段階から開発に関与することが有効です。
アジャイルな超高速開発
設計から開発、運用、保守までを一気通貫で実現できる、アジャイルな高速開発という特徴がローコード開発の強み。小さな範囲でトライを繰り返し、現場からのフィードバックを迅速に反映させながら、開発できます。
工数とコストの削減と最適化
限られた人材でもデジタルツインを高速に開発できるメリットは、工数の圧倒的な短縮や、人件費、教育コストの点でも大きなアドバンテージです。コストがネックになり、従来は諦めていたデジタルツインの可能性を高めます。
豊富なAPI連携、カスタマイズの柔軟性
主要なサービスとAPIで連携できるプラットフォームを選択すれば、いろいろな外部サービスとの情報をやり取りできます。ChatGPTに代表される生成AIも、今後確実に応用範囲が拡がるはずです。
また、APIが用意されていない場合でも、必要なコードを書いて処理できる柔軟性が、ローコード開発のアドバンテージ。特殊なセンサーやレガシーな設備を監視・操作するための、トランスコーディングやリファクタリングの幅も拡がります。
「もうひとつの本物」をよりリアルに
ガートナーが先日発表したハイプ・サイクルでは、デジタルツインはまだ黎明期にあります。
日本では、高度成長期に作られたインフラの多くが耐用年数を迎え、危険性が指摘されています。これらをデジタルツインでモニターすれば、効率的な補修計画を立てられます。遠隔地にある巨大な設備も、限られた人間と多数のセンサーやロボットで監視・運用が可能になるでしょう。
少子高齢化と過疎化が進み、医療関係者にも働き方改革が叫ばれる中、離島や地方などの遠隔医療にも期待が寄せられます。ヒューマンエラーを回避し、トラブルが起きた時も冷静に対応するには、リアルな体験を通じた生きた学習が有効です。イマーシブな環境を前に、オフショアのメンバーと共同作業すれば、深い相互理解とチームの一体感が生まれます。
「別レイヤーに作られたもうひとつの本物」であるデジタルツインは、いろいろな問題のソリューションとして期待が高まっています。そこにリアリティーを持たせるのがイマーシブ。これらの実現に、ローコード開発プラットフォームは不可欠です。これらの要素は、人間という超高性能かつ柔軟な存在としての感覚や能力を、最大化するヒントかもしれません。