心理的安全性が、組織とチーム、個人の成長にとって重要な理由
心理的安全性が気になってこの記事に辿り着いた皆さん!今、あなたはどんな不安を抱えていますか?
この概念は、単なる「働きやすさ」の話ではありません。個人の力ではコントロールしきれない外部環境に振り回されないための、チームと個人を守る土台です。AIによって自分の存在価値がなくなるリスクや、急激な社会変化への不安が広がる今、「こういう言動をしても大丈夫」と思える心理的安全性の価値は、さらに高まっています。
今回はその基本概念と、AI時代に見えてきた新しい重要性について考えてみます。
* この記事は、2023年4月18日に公開した内容を編集・更新しています。
膨大な手間とコストを掛けて分析された心理的安全性
近年、いろいろなシーンで見聞きする機会が増えた心理的安全性ですが、その概念の歴史は意外と浅いことはご存知ですか?
2003年2月1日、アメリカの宇宙船スペースシャトル「コロンビア号」が大気圏に再突入する時に、空中分解する事故が起き、機体と共に尊い7人の宇宙飛行士の命が空に散りました。宇宙開発の歴史に刻まれたこの悲劇的な事故の直接の原因は、発射時に外部燃料タンクの断熱材が剥落し、機体にダメージを与えていたことでした。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン氏が事故を調査した結果、打ち上げ直後に問題が起きていたにも関わらず、現場でそのことを把握したエンジニアが、NASA(アメリカ航空宇宙局)上層部に意見できない風土であったことが分かりました。ここで重要とされたのが、心理的安全性(psychological safety)という概念です。
▼出典:
これは、人々がチームとして活動する時、プロジェクトにマイナスの影響が出たり、人間関係が悪化してしまうことを心配せず、メンバーがお互いに自分の意見を正直に、素早く伝えられる状態を意味します。チームのパフォーマンスを最大化させ、創造性や革新性を向上させる上で、この心理的安全性が重要視されます。
もう一つ、この心理的安全性が大きく話題になったきっかけが、2016年にGoogleが発表した研究結果でした。これは、同社が2012年から生産性向上のために、膨大な手間とコストを掛けて自社のチームを分析した「プロジェクト・アリストテレス」という計画の研究成果の一つでした。
Googleの調査によると、心理的安全性が高いチームは、よいパフォーマンスで多くの収益をもたらし、従業員の定着率も高く、幹部から2倍の頻度で効果的だと評価される可能性が高いとされています。
Googleの発表という点も注目を集めた理由の一つですが、テクノロジーが急速に発展する中で、効率がよく生産性が高い働き方を多くの企業が求めていた、という背景もあるでしょう。
▼出典:
AIへの不安が広がる時代に、心理的安全性がより重要になる理由
心理的安全性という概念が生まれた2000年代初頭と比べて、私たちを取り巻く環境は大きく変わりました。とりわけこの数年は、AIエージェントによる業務の代替や組織再編が、現実の話として語られるようになっています。「自分の仕事は残るのか?人間としての自分の価値とは?」という不安を抱えながら働く人が増えています。特にIT業界では、エンジニア採用の減少・中止が危機感と共に伝えられています。
世界最大の人事マネージメント会社Mercerが2025年11月に発表した調査では、AIが自分の仕事や会社にどう影響するかについて、直属の上司から説明を受けたことがある従業員は2割に満たないという結果が報告されています。リーダーからの説明がない「リーダーシップの空白」が、AIに対する不安をかえって増幅させている、という指摘です。
▼出典:‘Leadership vacuum’ prompts AI anxiety at work, report finds | HR Dive
https://www.hrdive.com/news/leadership-vacuum-prompts-ai-anxiety-at-work/805113
さらに2025年、Nature系列の学術誌Humanities and Social Sciences Communicationsに掲載された研究も注目に値します。AI導入が組織の心理的安全性を低下させ、それが従業員のメンタルヘルス悪化につながる経路が実証されています。同じ研究では、この悪影響を和らげるには、倫理的なリーダーシップが重要であることも示されました。
▼出典:
マクロな視点で見れば、不安材料には事欠きません。国際情勢やエネルギー危機、激しい気候変動、日本の国力低下や円安、物価高、社会の分断や差別など、さまざまな問題が可視化されることでさらに不安に陥る人も、以前より増えているのではないでしょうか。
個人が外部環境そのものをコントロールすることは難しくても、自分が日々働くチームの中で「本音を言えるかどうか」は、まだ自分たちの手で変えられる領域です。不確実性が大きい局面ほど、身近なチームの心理的安全性が、個人にとっての精神的な拠り所として機能する、という構図が、以前よりはっきり見えてきたように思います。
▼参考:世界・日本経済の展望|2026年5月 中東からの供給制約に直面する世界、問われる経済の強靱性 | 内外経済見通し | エコノミックインサイト | MRI 三菱総合研究所
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/ecooutlook/2026/20260520.html
なぜ、組織やチームの成長に心理的安全性が重要なのか?
では、心理的安全性がなぜ重要なのかを、改めて見てみましょう。
仕事で、メンバーが自分の考えや意見を自由に発言できる状態を実現することは、チームのパフォーマンスや生産性に大きな影響を与えます。前述のように、いろいろな機関が生産性の高い優秀なチームを分析したところ、生産性に強く影響している要素は、他者への心遣いや、どのような気づきも安心して発言できるという、心理的な要素であることがわかりました。
心理的安全性が確保された組織では、メンバーは自分の考えや意見を自由に発言できます。自分が温めていたアイデアやマイナスの懸念を素直に表明しても、人格攻撃されるリスクがありません。質問に対しても、的確なフィードバックや積極的な意見交換で対話が生まれます。アイデアを共有することで、効果的なコラボレーションが可能になり、チームメンバーの多様な視点を活用できます。
もし、ネガティブな結果や判断があっても、それらを過度に恐れることなく、リスクを冒し、間違いを認めることができる安心感があります。リーダー自らが自分のミスや欠点を率先して公表することで、従業員たちの無駄な緊張感を取り除けます。
信頼関係が築かれたチームでは、メンバーが批判や罰を受けることを心配せず、安心して自分らしさを発揮し、チームと自分自身の目標達成に貢献することができるのです。これは、組織が成長する上で、大きな原動力となります。
- 情報や意見交換がスムーズになる
- モチベーションや生産性が向上する
- イノベーションが生まれやすくなる
- 自分と他者それぞれのミスや失敗から学べる
- ストレスが減り、人材の定着率が高まる
心理的安全性が確保されていないチームの、ネガティブ効果
逆に、プレッシャーが非常に強く、厳しい成果主義が導入されているような組織ではどうでしょうか?
新しいことに挑戦して失敗するなんて無駄。他のメンバーを助けるようなバカな真似はしない。数字を上げるためなら、どんな手段でも使うのは当たり前。何なら、他者の成果を横取りしたり、邪魔したり、貶めたり。パワハラ体質が蔓延するのは、火を見るより明らか。
これでは、心理的安全性など確保されるはずがありません。メンバー同士がギスギスした雰囲気になるだけでなく、チーム全体にネガティブな緊張感が高まり、ひいては組織全体に悪影響を及ぼします。
- 協力体制より、敵対する競争意識
- 仕事の質やアイデアがマンネリ化する
- 仕事のやり方に問題があっても改善されにくい
- 問題が起こったときの解決に時間が掛かる
- 会議の質やチームの生産性が低下する
- メンバーの不安やストレスが高まり、離職率もアップ
医学的見地から見た、心理的安全への障壁
チームにおいて心理的安全を達成するためには、いくつかの障壁があります。医学関連分野における最大級のデータベースPubMedに掲載された研究では、心理的安全性を阻む障壁として、次の4つの項目が指摘されています。
- 上下関係
- 不十分な知識による認識
- 性格
- 権威主義的リーダーシップ
▼出典:
これらの阻害要因は、チームメンバーが自分のアイデアや懸念を表現したり、リスクを取ることに違和感を覚えるような環境を作り出してしまう可能性があります。また、燃え尽き症候群、ストレス耐性の低減、ネガティブな結果に対する恐怖などが起き、間接的に人命を危険に曝す最悪の事態を招きます。
障壁を克服し、チームの心理的安全を促進するために、リーダーは学習すべき重要課題として捉えることが必要です。意識してフランクな環境を作ることも重要ですが、自分から多くの質問をすることで好奇心を示したり、時に自分自身の誤りを認めることも有効です。匿名のシナリオを使ってチームとワークショップを実施し、安全な心理状態を支える行為と傷つける行為の両方を、根気強く学習していくことも必要です。
心理的安全性が実現されているか?質問と観察でチェック!
心理的安全性が確保されている・されていないのリストを、自分のチームに当てはめながら読んでいた人も少なくないでしょう。心理的安全性を測定するには、質問と観察という2つの方法があります。
まず、質問による測定では、チームメンバーに対して、以下のような7つの質問を投げかけてみましょう。
- 自分の意見や感情を自由に表現できるか?
- 新しいアイデアや提案が歓迎されるか?
- メンバーは、お互いに助け合っているか?
- ミスをしてしまった時、非難されがちか?
- 自分の能力や貢献が評価されているか?
- 自分が重要な存在だと感じられるか?
- 自分が成長できると感じているか?
また、チームの会話や行動を観察し、次の4つの指標から心理的安全性を測定します。
- 質問や疑問を出す頻度・回数
- 意見や提案を出す頻度・回数
- ミスや失敗を認める頻度・回数
- 助けやフィードバックを求める頻度・回数
心理的安全性が実現しているかどうかは、1on1(一対一)の面談やアンケート、何気ない雑談などで、定量的・定性的にチェックできます。もし、これらの質問や観察の結果、今のチームメンバーの心理状態に懸念があることが判明したら、すぐに改革に着手する必要があるでしょう。
とはいえ、『そういう余裕は、意識が高い大企業やIT業界だけのこと』『環境や仕組み作りは経営層の課題だろう』『古い考え方のオーナー企業や家族経営じゃ無理』という、否定的な意見が出るのもよくある話。問題があることをわかっていても、現状を肯定して維持したい「正常性バイアス」と呼ばれる現象です。AIによる変化のスピードと度合いが増すほど、ビジネスの変化そのものへの不安と結びついて、この正常性バイアスはより強く働きやすくなります。
次回は、これらの認識が誤解であることと、心理的安全性を確保するためにできる・すべき、具体的な施策について紹介します。
安全や平和は、あって当たり前だと思っている時は特に意識せず、失われそうになって初めてその重要性が身に沁みるもの。日頃から丁寧な維持管理が必要です。
人間でなければならないタスクに集中するためにも、激変する時代の変化に柔軟に対応できるシステムとその開発運用体制が不可欠です。ローコード・ノーコード開発による心理的安全性の確保について、ご興味があればぜひお声掛けください。






