最近の投稿

アーカイブ

カテゴリー

最近のコメント

  1. にんじん
  2. アバター
  3. アバター
  4. タロウ
  5. アバター

テクノロジー

光量子コンピューターでブレイクスルー!量子の話題がアツい!

理人

日本の量子コンピューター開発研究チームからビッグニュースが舞い込んできました。光を使った量子コンピューター、通称「光量子コンピューター」における論理量子ビットの生成という、世界初の快挙に関するプレスリリースです。現状の量子コンピューターは誤り訂正能力が未熟ですが、この技術により大きな進化を遂げることが期待されます。

今回の記事では、光量子コンピューターについてプレスリリースの内容を中心に解説します。

プレスリリースの内容(原文)

2024年1月19日に発表されたプレスリリースは以下のとおりです。

東京大学大学院工学系研究科の紺野峻矢大学院生(研究当時)およびアサバナント・ワリット助教、古澤明教授らの研究チーム、情報通信研究機構(以下、NICT)、理化学研究所、チェコ共和国のPalacký UniversityのPetr Marek准教授およびRadim Filip教授、ドイツ連邦共和国のUniversity of MainzのPeter van Loock教授は、伝搬する光の論理量子ビットであるGottesman-Kitaev-Preskill量子ビット(以下GKP量子ビット)を世界で初めて生成しました。

誤り耐性型量子コンピューターを実現するため、通常は非常に多数の量子ビットを用いて、それらを1つの論理量子ビットとして構成します(以降、区別のため、通常の量子ビットを物理量子ビットと呼びます)。この方法では用いる物理量子ビットの数が膨大であることが、実用的な量子コンピューターへの最大の障壁となっています。一方、GKP量子ビットは、1つの光パルスの中で1つの物理量子ビットを用い1つの論理量子ビットの生成を実現できます。これまでGKP量子ビットは有力視されてきましたが、光では実現に至っていませんでした。

本研究では、東京大学とNICTが共同開発した超伝導性を用いた光子検出器を用いて、光におけるGKP量子ビットの生成を世界で初めて実現しました。このGKP量子ビットは同研究グループで実現された大規模光量子プロセッサーと相性がよく、大規模な誤り耐性型光量子コンピューターの誤り耐性につながると期待されます。 本研究成果は、2024年1月18日(米国東部時間)に「Science」に掲載されます。

プレスリリース
伝搬する光の論理量子ビットの生成
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20240119/index.html
Scienceに掲載された論文
Konno, Shunya, et al. “Logical states for fault-tolerant quantum computation with propagating light.” Science 383.6680 (2024): 289-293.
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk7560

そもそも「光量子コンピューター」とは?

光量子コンピューターは、光の粒子である光子(フォトン)を量子ビットとして使用します。他の量子コンピューター実現方式と比べ、光子は外部環境の影響を受けにくい特性を持っているため、常温での動作が可能で、実用化へのハードルが比較的低いとされています。さらに、光の速度を利用した高速計算が可能です。また、既存の光通信と親和度が高いため、量子コンピューター同士で通信しやすいと考えられています。

プレスリリースの凄い点 1:1つの物理量子ビットから1つの論理量子ビットが得られる

論理量子ビットは、誤り訂正能力を備えた量子ビットを指します。通常の量子ビット(物理量子ビット)は状態が変化しやすいため、誤り訂正は量子コンピューターの計算において重要な役割を果たします。一般的に、多数の物理量子ビットを組み合わせて一つの論理量子ビットを構成します。

しかし、今回のプレスリリースで発表されたGKP量子ビットは、一つの物理量子ビットから一つの論理量子ビットを生成できます。量子コンピューターの計算能力において、論理量子ビットの数は非常に重要です。そのため、GKP量子ビットによるこの進歩は、量子コンピューティング分野において画期的な成果と言えます。

プレスリリースの凄い点 2:大規模誤り耐性型高速光量子コンピューターの実現が期待される

量子コンピューター開発の主要な課題の一つは、論理量子ビットの構成に多数の物理量子ビットが必要とされることでした。前述のGKP量子ビットの登場により、1つの物理量子ビットから1つの論理量子ビットが得られるようになると、この問題は大きく解消される可能性があります。これにより、量子コンピューターのスケールアップに向けた重要な進展が期待されます。

さらに、光量子コンピューターは、その高速な情報処理能力により、大規模かつ高速な量子コンピューティングの実現に向けて重要な役割を果たすことが予想されます。

近年起こった光量子コンピューターの進展

光量子コンピューターは、今回のプレスリリース以外にも近年目覚ましい進展を遂げています。ここでは、そのいくつかを紹介します。

Xanaduによる量子超越性の達成(2022年6月)

カナダの量子ベンチャーであるXanadu(ザナドゥ)は、光量子コンピューターを使って量子超越性を実現したと報告しました。量子超越性とは、従来のコンピューターを凌駕する計算能力を量子コンピューターが示すことを意味します。彼らが解いた問題はガウス・ボソン・サンプリングと呼ばれる特殊な数学的問題で、直接的な実用的応用は限られていますが、量子コンピューターの実用化に向けた重要なマイルストーンを示しました。以前は、AWSの量子コンピューティングプラットフォームであるAmazon Braketを通じてこのシステムを利用できましたが、2024年1月現在では利用できなくなっています。

掛け算の実現(2023年7月)

次に、理研の研究チームが発表した光量子コンピューターにおける掛け算の実現に関する報告です。ここで言う「掛け算」とは、電卓による数値の掛け算ではなく、光同士の掛け算を指します。光量子コンピューターでは、量子ビットの操作としてこの掛け算が非常に重要です。しかし、光の基本特性として、光子同士の相互作用は非常に弱いため、直接的な掛け算操作は困難です。

この掛け算の実現は、GKP量子ビットの開発と同様に、誤り訂正型の光量子コンピューターの実現に大きく寄与します。理研のチームが開発した方法は、光量子コンピューターの能力を大きく拡張することが期待され、量子情報処理の新たな可能性を開くものです。

量子コンピューターの二大研究者が語る関連ビデオ

今回の研究チームのメンバーである古澤明先生と、理研で国産超伝導量子コンピューターを開発している中村泰信先生、YouTuberヨビノリたくみさんとの対談動画はおすすめです。光量子コンピューター、超伝導量子コンピューターのメリット、デメリットや魅力について語られています。

大規模な量子コンピューターの実現への期待

今回の記事では、量子コンピューターの実現方式の一つである光量子コンピューターに関して、日本の研究チームのプレスリリースを中心に解説しました。光量子コンピューターは、常温での動作可能性や計算の高速性といった、他の量子コンピューターとは異なるポテンシャルを持っています。今回報告された成果により、大規模で理想的な量子コンピューターの実現への期待が一気に高まりました。量子コンピューター開発レースの有力候補としてさらに注目していきましょう。

参考文献

▼光量子コンピュータの新時代(武田 俊太郎、応用物理 第92巻 第4号(2023))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/92/4/92_214/_pdf

▼量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性(武田俊太郎、技術評論社)

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT ME
理人
理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
理人の記事一覧

記事URLをコピーしました