テクノロジー

ユーザーをどっぷりその気にさせる!イマーシブ体験がなぜ重要か?

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前回は、巨大なスクリーンと高画質、ダイナミックな音響を誇る、映画の撮影・上映テクノロジーであるIMAXや、その技術的挑戦を続けるクリストファー・ノーラン監督について紹介しました。

IMAXが誇る「臨場感・没入感」は、映画などエンターテイメント全般でよく使われる単語ですが、実は、一般のビジネスでも重要な意味を持っています。それが、イマーシブ(没入感)というキーワードです。

多様化する映像体験とコンテンツ消費スタイル

世界では、16〜64歳のインターネットユーザーの97.6%がスマートフォンを持ち、平均して一日6時間40分をネットに費やしています(出典:Digital 2024: Global Overview Report — DataReportal – Global Digital Insights)。コロナ禍や世界情勢の緊迫、生成AIの急速な普及など、社会情勢やマーケットニーズ、技術トレンドはこの数年で大きく変化しました。

テクノロジーの進化に伴って、コンテンツやメディアフォーマット、視聴スタイルが移り変わるのは世の常。

映画も、例えばNetflixは場所やデバイスを選ばずに楽しめます。ビデオは、TikTokやYouTubeショート、Instagramリールなど縦長・短尺が人気で、時に倍速再生されます。もちろん、若年層ほど接触時間が長い傾向にあります。

スマートフォンネイティブ層が消費の主役になっていく中で、オーディエンスを決められた日時と場所に集め、手元のデバイスをオフにして集中させ、いかに感動を深く残すか。限られた可処分時間の中でコスパ・タイパを重視する姿勢は、映画に限らず音楽や演劇などの時間芸術には厳しい時代です。

それに反して、映画館での視聴体験も根強い人気です。ノーラン監督は、コロナ禍当時でも新作『TENET テネット』を映画館で上映することに拘り続け、ワシントンポスト紙に寄稿するなど、映画館という環境の必要性を業界の内外に訴えました。結果として、20年近く共に映画を製作・配給してきたワーナー・ブラザースとのすれ違いで、袂を分かつ一因にも…。

なぜ、ノーラン監督はそこまで映画館を重視したのか?その理由は、映画が単なる消費コンテンツではなく、制作者や出演者から劇場に至るまで、一つの総合芸術としての体験を重視しているからでした。公開から時間が経てば、ノーラン作品も配信やディスクで視聴できますし、スマートフォンでの視聴にしても、彼は全てを否定しているわけではありません。とにかく、テクノロジーに合わせた芸術表現と継続的なビジネスとの、高い妥協点を追求し続けているのです。

イマーシブの基本概念と技術

近年のコンテンツを語る上で重要なキーワードの一つが、イマーシブ(没入感・のめり込み)です。視覚や聴覚、触覚など複数の感覚を通じて、より現実に近い仮想体験をユーザーに提供することです。

前回の記事で解説したように、IMAXは映像と音響を最適化したシアター全体が、一つのイマーシブな装置だといえます。また、3D映画は専用ゴーグルやメガネ型のデバイスで没入感を高めます。

イマーシブを実現する手法としては、VR/AR/MRなどの仮想技術がよく知られています。

仮想現実(VR):専用ゴーグルを使い、360度見渡せる仮想環境を自由に動き回って、ゲームをプレイしたり他者と対話できます。

拡張現実(AR):現実世界に情報を付加して拡張する技術です。スマートフォンで風景に情報を表示する地図アプリは身近な例。

複合現実(MR):現実空間と仮想オブジェクトを掛け合わせ、ユーザーがそれらをリアルタイムに操作できる技術です。

ゴーグルが無くても、スマートフォンでも没入感の雰囲気は味わえます。Googleマップでは、2023年の初春から、いくつかのランドマークをイマーシブビュー機能で表示できるようになりました。3Dオブジェクトに航空写真をマッピングした表示で、天候や交通量まで表示されます。まるでドローンで空撮したような光景を、自由にタップして眺められます。
https://maps.app.goo.gl/YTJRz1vTqborR7W97

こちらもゴーグル要らずですが、旅行代金と高いチケット代が必要です。2023年9月にラスベガスにオープンした巨大な球体の施設Sphereは、大きな話題となりました。スクリーンサイズはIMAXの約18倍、解像度は2億5,600万 px。16万7,000個のスピーカーは、狙った方角だけに音を届けるビームフォーミング機能を備えています。専用カメラで撮影された高精細映像と共に、圧倒的な没入感を実現しています(サウジアラビアや韓国でも建設を交渉中との噂)。 How Las Vegas’ Sphere Actually Works – YouTube

また、イマーシブは、ITに限定されているわけではありません。今春、開業した施設イマーシブ・フォート東京(青海)は、その名のとおりイマーシブのテーマパーク。人気アニメやゲーム、小説をテーマにした、まさに没入感を現実空間で味わえる施設です。

イマーシブシアターと呼ばれる型式のイベントも、世界各地で開催されています。これは、ストーリーの中に観客自身も加わって、ステージとなる場所を移動したり、舞台となるホテルに実際に宿泊するような、体験型の演劇手法です。

▼What Is Immersive Theatre? Definition + Examples | Backstage
https://www.backstage.com/magazine/article/immersive-theatre-explained-75850/

さらに、現実空間を演出装置に見立てたリアル脱出ゲームやARG(代替現実ゲーム)にも、根強いファンがいます。その世界観に浸り込むことさえできれば、例えば一枚の布が壁になり、折った紙が本になります。

ビジネスにも活かされるエンタメの概念

このようなイマーシブという視点は、一般のビジネスとは無関係に思えますが、実は深く関係しています。物質的なモノ消費から、体験重視のコト消費へとトレンドが移り変わっている昨今、以下は、どれもエンターテイメントに多くのヒントが溢れています。そして、まるで現実空間がそこにあるかのようなリアルな感触をプラスするのが、イマーシブです。

  • ゲーミフィケーション(ゲーム的仕組み)を利用した行動変容
  • 閉じた世界でユーザーを集中させる優れたUI
  • 短時間で操作やルールを効果的に学習できるフロー
  • ファンの獲得とナーチャリング(顧客育成)
  • ナラティブ(共創する物語)を通じたメッセージ
  • 安全性と達成感、使命感の心理的バランス設計
  • コミュニティーのエンゲージメント向上、など

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拡がるイマーシブのさまざまな応用例

イマーシブの用途は、エンターテイメント系以外にも広がっています。近年では、教育や学習などのトレーニング、マーケティング、コミュニケーション手段などにも応用されています。例えば、購入前に家具を部屋の中で自由に配置できたり、風景に情報をオーバーレイできるモバイルアプリや、工場での組み立て作業や、倉庫での商品管理のトレーニングなどにも使われています。詳しい事例は次回に譲るとして、主に以下のような用途が期待されています。

  • エンターテインメント:高解像度の3D空間の中で、プレイヤーは強烈な没入感を体験
  • マーケティング:消費者は、商品を買う前によりリアルに購買体験をテスト可能
  • コミュニケーション:アバターや仮想空間で、全員が同じ場所にいるような意思疎通
  • 製品開発・保守:図面から立体化したオブジェクトで、機器の開発やメンテナンス
  • 教育・訓練:複雑な工程や対人関係をシミュレートし、安全かつ効果的な訓練に
  • 医療・介護:手術や介護のトレーニングやアシスト、患者のリハビリや精神的な治療に

IKEA Place に行ってみましょう – YouTube

ユーザーはストレスに没入したくはない

ただし、没入感・臨場感を考える上で重要なポイントは、「現実の完璧な再現」が必ずしも最適解とは限らない点です。

例えば、カーレーシングゲームの場合、プレーヤーのレベル設定としてF1ドライバーの技術や癖、マシンの性能を再現しても、ゲームとしては楽しめません。なぜなら、それで得られる体験は、プロドライバーは人間業を越えたテクニックの持ち主だ、と知ることぐらいだからです。

また、現実の情報をできるだけ多く再現することが効果的とも限りません。これは、処理の負荷が高くなるという、システム上の意味だけではありません。人間の脳は、知覚済みや重要でない情報は適度に間引く一方、逆に不足している注意すべき情報を補うという、非常に高度な処理を瞬時にしているからです。

3Dゲームをプレイしたり、その様子をYouTubeで見て「3D酔い」で気分が悪くなることはありませんか?『フォートナイト』『ゼルダの伝説』『スプラトゥーン』など、3DのFPS(一人称視点ゲーム)やMMORPG(大規模多人数同時参加型オンライン・ロールプレイングゲーム)では、架空の世界でありながら、リッチな没入感が得られます。しかし、視覚上では激しく動いている感覚があっても、実際には自分の身体はほとんど動いていません。このズレによって自律神経が乱れ、乗り物酔いのような目眩や吐き気が起きてしまいます。

Fortnite Battle Royale Chapter 5 Season 4 – Absolute Doom | Official Season Trailer – YouTube

さらに、ASMRオーディオコンテンツは、ヘアカットや食べ物の咀嚼音、人の囁き声など、まるで自分がその空間にいるかのような臨場感が人気です。ノイズキャンセリング機能付きのヘッドフォンで聴けば、音声だけでも鳥肌が立つほどリアルです。

Ultra Fast RAW Barbershop Sounds ASMR✄ – YouTube

何が「リアル」か?イマーシブには演出が不可欠

ユーザーとしては、あくまでも安全・快適に体験を楽しんだり、高揚感に浸ったり、効率的に技術を習得したいはずです。危険と隣り合わせのプレッシャーまで再現されたり、何となく感じる違和感や疲労感を覚えたいわけではありません。また、没入感といっても、人間の五感のすべては再現できません。

つまり、快適な没入感のためには、誰に向けて・何を・どこまで・どうやって、再現するかが重要。対象ユーザーの設定と効果的な演出、機能の取捨選択が不可欠です。さらに、上質なイマーシブには、ユーザーに最適化したパーソナライズや、結果のフィードバックと更新、変化への迅速かつ柔軟な対応も求められます。そのためには、膨大なデータを高速処理することで「人が自然に感じられるリアル」を再現できる、高度な仕組みが必要です。


このイマーシブが関係しているのが、現実空間を仮想上に再現するデジタルツインです。この「デジタルな双子」に、よりリアリティーを持たせ、ユーザーは仮想だとわかった上でその気になるのがイマーシブという概念です。

そして、デジタルツインで扱う膨大なリアルタイム情報を処理するシステムを構築できるのが、ローコード開発プラットフォームというつながりです。次回はいよいよ、この関係に没入していきましょう!

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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