「昭和100年」化させない!マルチローコードでDXを実現する戦略

2025年は、昭和でカウントするとちょうど100年目。現役世代の退職と労働生産人口の減少で、さまざまな弊害が警告されている「2025年の崖」をついに迎えます。
しかし、長年の負の遺産ともいえる古い慣習や意識、レガシーな仕組みをまとめて克服するチャンスでもあります。そのヒントが、マルチローコード・ノーコード戦略です。年末の大掃除を兼ねて、前回までの記事から通しでお読みください。
BANI時代のマルチソリューション
どんなにデータを集めて分析しても、過去の延長には未来がない時代。BANIと呼ばれるように、脆く不安に囲まれ、予測不可能な変化に対応するには、複数の手法が必要です。
予測不可能なビジネス環境の中でも、迅速な開発でイノベーションが促進されれば、競合に対して有利な立場と、レジリエンス(回復力)を確保できます。
- 脆さ:プラットフォームを多様化・冗長化し、インシデントによるリスクを低減
- 不安:新たな課題に迅速に対応するために不可欠な、開発体制のアジャイル化
- 非線形性:予測不可能な変化にも柔軟に対応できる、複数の手法の組み合わせ
- わかりにくさ:複雑なシステムも管理しやすくなる、AIの強化やUIの簡素化
プロバイダーの視点でチェック
ここで一旦、見る角度を変えて、プラットフォーム・プロバイダーの視点から検証してみましょう。連載初回のカオスマップにあったように、膨大な競合が乱立する状況は、カニバリズム(共食い)のレッドオーシャンなのでは?と思いがちです。しかし実は、一般のビジネスにも役立ついろいろなヒントに溢れています。
旧来の囲い込み戦略からの転換
従来型ビジネスの常識は、ユーザーの「囲い込み」でした。競合他社に目移りや乗り換えさせない閉じた環境を構築することが、顧客のロイヤルティーと継続的な収益を確保する、最適な方法だと考えられていました。
しかし、IT化とグローバル化、スマートフォンとソーシャルメディアの普及、急速なAIの進化など、パラダイムは激しく変化しています。
オープン化によるエコシステム
そこで、多くのプロバイダーが、エコシステムというマインドセットへとシフトしています。それを実現しているのが、さまざまなサービスやプラットフォームの統合を容易にする、柔軟かつ堅牢なAPI連携。自社ですべてを賄うのではなく、相互運用が可能になったことで、マイクロ化・モジュール化が進んでいます。
プラットフォーマーの都合ではなく、CX(顧客体験)が重視されているサービスが、ユーザーにとって非常に魅力的に映るのは当然です。
独自の価値提供によるイノベーション
ただ、競合がひしめき合う中、複雑なシステムの一部に甘んじることは、独自の存在価値を弱め、代替されてしまうリスクが常にあります。
しかし、健全な競争によってイノベーションが促進されることは、継続的なサービスの改善へとつながります。巨大なシステムにおいても、重要な一部としての地位を強化する意識が重要です。
プロバイダーにとっての将来展望
ローコード+AI時代を迎え、全く新しいサービスが登場するかもしれません。また、特定のニッチな分野に特化し、専門性を強化する戦略を取るプラットフォームもあるでしょう。
ユーザーに対してオープンで自由な環境を提供しつつ、他社に置き換えられない独自の高い価値を生み出し続ける。プラットフォーム・プロバイダーには、矛盾するこの両者のバランスを取ることが求められています。
マルチ戦略を成功させるために必要なこと
すでに多くの企業が、ローコード・ノーコード開発プラットフォームを使うかどうかではなく、次のステージへと移っています。その一方で、DXがなかなか実践できていない企業もあります。
マルチプラットフォームを見据えた上で、この戦略を成功に導くさまざまなポイントを考えてみましょう。
戦略的マネージメントとガバナンス
開発や運用に留まらず、人事や財務など、組織全体の変化を伴うマルチ戦略には、ガバナンスの確立が不可欠です。トップレベルの経営陣が技術シフトやトレンドを理解し、意思決定を迅速化させることは必須。ビジネスのゴールと技術的能力、イノベーションとリスク管理、それぞれのバランスを取る、強固で明確な戦略抜きには語れません。
そのためにも、経営陣と情報や意見を交換する機会を定期的に持ちましょう。日本や自社のビジネス特有の課題や、激変する環境への危機感、DXの本質なども併わせて考え、具体的な行動計画にブレイクダウンしていく必要があります。
ローコード・ノーコードを導入してアジャイルスタート
検索すれば成功事例はいくらでも出てきますが、失敗を含む生きる経験は自社でしか得られません。単純なプロセスの自動化から始め、小さくてもすぐに成果を示すことで、経営陣の信頼と賛同を得るステップも必要です。
ローコード・ノーコードをまだ導入していなければ、まずは、自社の主要なニーズに合う汎用性の高いプラットフォームを一つ、導入することから始めましょう。iPaaS(Integration Platform as a Service)なら、スモールスタートが可能です。現場の小さな範囲で使って検証・評価しながら、体制も整え、ノウハウを共有していくことが有効です。
導入済みであっても十分な成果が得られていなければ、外部SIerなどのパートナーに協力を仰いで、体制や手法を見直すのも一つの手。企業のニーズや成長に合わせたマルチ化戦略をサポートできる、信頼できるパートナーとプラットフォームを選択しましょう。
マインドセットとカルチャー、組織構造のアップデート
チャレンジと失敗、そこから学べる継続的な学習を受け入れる企業文化の醸成が、プロジェクトの成功を左右します。非エンジニアでも開発できるシチズンデベロッパー(市民開発者)というコンセプトを広め、挑戦できるカルチャーを促進しましょう。
サイロ(縦割り組織)化しがちなIT部門とビジネス部門との障壁を取り払うなど、組織構造の変革も不可欠です。また、挑戦を推奨する掛け声だけでは、人は動きません。適切に評価したりバックアップする、心理的安全性が確保された環境がセットです。
クロスファンクショナルなチーム編成と、DX人材の育成
前回の記事でも詳しく説明したように、エンジニア+非エンジニアから成る少人数の機能横断的なチームが必要です。チームワークを育てることで、技術的能力とビジネスニーズのギャップも埋められます。
また、従業員の成長をサポートする体制も忘れずに。社内ワークショップやセミナー、研修プログラムに投資し、アップスキリングやリスキリングを促進しましょう。情シス部門のスキルアップや役割変更、トレーニング体制の強化も重大な人事課題。非エンジニアの成長を奨励・育成し、ES(従業員満足)を達成することは、次の人材採用にもプラスに影響します。
この他、「2025年の崖」から落ちないためには、ベテランや退職する従業員の知識を取り込み、体系化するためのツールとして活用することも有効。世代を超えて、新しい開発環境に携わるよう奨励すれば、ノウハウの移転が促進されます。
デジタルレイバーの導入と更新
人材という意味で重要な鍵を握るのが、前回の記事でも紹介したデジタルレイバー。単に、エンジニア不足を補う仮想労働者としてではなく、ローコード→ローコードという高度で複雑なシステムを、最短の時間で確実に移行させるには、デジタルレイバーの存在抜きには不可能です。
デジタルレイバーもまた、現場のニーズに応じてアップデートを繰り返していく必要があります。これは、生成AIがコパイロット(副操縦士)として人間をサポートしてくれるように、人間のエンジニアの教育にもつながります。
データ戦略と倫理、コンプライアンス
複数のプラットフォームを併用する上では、首尾一貫したデータ管理やセキュリティー対策が極めて重要になり、ハイレベルの監視が求められます。
先進的なAIを導入し、手作業の負担を軽減する自動化・効率化は必須ですが、同時に倫理的配慮やコンプライアンスの遵守もより重視されます。
ベンダーとの関係管理
内製化を進めつつ、外部SIerへの依存割合を減らせば、ベンダーロックインのリスクも低減できます。また、ベンダーが複数になれば、さらにリスク回避にも効果があります。その一方で、信頼できるパートナーとの関係維持や管理がより重要になります。
2025年を昭和100年にさせないために
ビッグテックの総本山アメリカでは、トランプ政権で新設される「政府効率化省」をE.マスク氏が主導することになりました。早速、官僚機構が槍玉に挙がり、オンプレミスのレガシーなシステムが人員と共に大粛正され、ノーコード・ローコード化やクラウド化が一気に進むと噂されています。
また、トランプ政権の保護主義的な政策によって、深刻な影響が懸念されています。日本の主力産業である自動車業界に圧力が強まれば、その余波は日本国内のさまざまな企業にも連鎖することは、十分想像されます。
すべてのITプラットフォームにいえることですが、結局は、リスクとメリットのバランス次第。複数のプラットフォームが混在すれば、機能や管理、人材面で複雑になることは避けられません。ダウンタイムやインシデントなど、リスクの可能性も増えます。しかし、数々の潜在的なリスクよりもメリットの方が遙かに上回ります。最新の統合ツールとプラクティスを活かせば、全体を効果的・効率的に管理できます。
ローコード・ノーコードのマルチプラットフォーム環境は、単にシステムの開発方法を変えるだけではありません。運用や財務から人事、教育に至るまで、組織マネージメント戦略のほぼすべてに関わる重要事項です。激変する環境の中で、ビジネスを迅速にピボット(方向転換)できる柔軟性や、市場投入時間の圧倒的な短縮、デジタルレイバーによる自動化は、心強いアドバンテージです。また、APIによるプラットフォームを越えた専門的な機能の活用や、AIで自動化される監視・管理にも、大きな期待が寄せられています。さらに、新しいツールにも素早く適応できる多才な人材の育成は、個人のキャリアパスにもプラスに作用します。
さて、リープリーパーの2024年の更新はここまで。読者の皆さんには、大変お世話になりました。ありがとうございます。来たるべき2025年が、昭和100年かのように過ぎていくことを見過ごす余裕はありません。新しい時代に即した価値創造につながるイノベーションを生み出すには、短期的な数字の達成ではなく、組織の人材やカルチャー、戦略的側面も考慮した、総合的な視点が必要です。企業が新たな価値を創造するプロセス全体を再構築する、またとないチャンスを活かすことで、予想できない危機的状況という崖を、一緒に飛び越えて進んでいきましょう。新しい希望へとリープできる素晴らしい年をお迎えください!