働き方と仕事術

同調圧力が強い日本社会でマイクロマネージメントは本当に効果的?

リプリパ編集部

前回、マイクロマネージメントの成否は、企業の組織文化にも左右されるという話をしました。よりマクロな視点で見ると、国際的な感覚にも違いがありそうです。

「和を重んじる」文化的慣習は、集団の調和を優先する一方で、個人の自由やプライバシー、自主性が制限されがち。そもそもマイクロマネージメントは、日本企業や社会にフィットするのでしょうか?前回の記事から続きでお読みください。

日本企業におけるマイクロマネージメントの背景

日本の企業文化では、従来「報・連・相(報告・連絡・相談)」が重視されてきました。一般に、垂直方向のレポートラインとしての「報告」、水平方向の情報展開としての「連絡」、そしてチーム内としての輪の中での情報共有としての「相談」が重要だといわれています。

しかし、年功序列や終身雇用が前提とされる旧い体質の組織では、これらが必ずしも有効には機能していないことがあります。そのため、自主性・自律性が制限され、上司が部下を細かく管理するスタイルも珍しくありません。

これは、旧来型の企業に限った話ではありません。例えば、勤務時間の管理上、一旦退社(したことに)して、計測されない環境で残業するような、バッドノウハウはよく聞きます。貴重なリソースが、細かすぎる監視や実情を踏まえていない管理のハックに使われるのは、組織と個人の両方にとって大きな損失です。

日本企業のマイクロマネージメントの例

以下は、日本社会の特性を反映させつつ、効果的なマイクロマネージメントを実践している例です。

トヨタ自動車

IoT技術を活用した生産管理システム「トヨタ生産方式」により、各工場の生産状況をリアルタイムでモニタリングし、効率を最大化しています。従業員一人ひとりの作業状況を把握し、問題が発生した際に即座に対応することが可能。しかし、過度な干渉ではなく、改善点を提案する形でフィードバックされます。

二デック

カリスマ経営者である永守重信氏の、強烈なリーダーシップとマイクロマネージメントの徹底が特徴。複数のM&Aによる急成長も、トップ自らが現場を知り尽くし、信念を持って迅速に決断するスピードの結果といえるでしょう。ただし、そのスタイルには毀誉褒貶も。

ソニー

グローバル企業として、従業員の自主性を尊重する企業文化を築いています。人材のマネージメント権を人事部ではなく現場が持ち、個々の業務進捗を分析し、必要に応じてリソースを提供する形で丁寧なマネージメントが導入されているようです。

マイクロマネージメントに対する文化的差異

アフターコロナの社会とはいえ、新しい感染症にも引き続き警戒が必要です。思い返せば、新型コロナウイルス対策が世界的に見ても特異な形で「成功」したのが日本でした。キーワードは、同調圧力と自主規制。「皆がしているからする」「クレームがくるかもしれないからやめておく」の成果でした。

日本では、抑圧的なマイクロマネージメントが当たり前とされる環境が、今も多くあります。その一方で海外では、従業員の自主性を尊重する傾向が見られ、労働組合の構成比率も高い傾向にあります。

当然、マネージメントに対する考え方の違いは、国際間のプロジェクトで大きなネックとなることも。オフショアやニアショアでのソフトウェア開発や越境EC、海外取引や物流などでは、日本流の細かなマネージメントを強制するのではなく、各地域に適したローカライズ(現地最適化)が不可欠です。

日本型

  • 報告・連絡・相談の重視:頻繁な報告を求められ、業務プロセスが可視化されやすい
  • 細かい指示を好む文化:伝統的に、上司が部下の業務に細かく関与することが一般的
  • 集団主義の影響:個人よりも組織の和を重視するため、厳しい管理が容認される傾向

欧米型

  • 成果主義が強い:過程よりも成果が評価され、細か過ぎる業務管理は敬遠される
  • 自主性の尊重:抑圧的な監視は生産性を下げると考えられ、個人の裁量を重視
  • 労働者の権利意識が強い:監視強化に反対し、プライバシー保護の規制が厳格

マイクロマネージメントと雇用形態の関係

国際的な文化圏の違いだけでなく、雇用形態もまた、マイクロマネージメントの成否に影響を及ぼします。

従来の日本企業は、「どこの組織に所属しているか」が重視されるメンバーシップ型雇用がメインでした。一つの組織に長く所属し、部署や職種をいくつも経験することで、ある程度長い時間を掛けて従業員同士や顧客との関係を構築してきました。

一方、「何ができるか・何をやってきたか」が重視されるジョブ型雇用は、外資系・グローバル企業・IT企業を筆頭に、近年、日本でも増えています。

これまで硬直しがちだった日本の労働市場でも、流動性がある程度高まりつつあります。ただし、雇用形態のどちらが優れているということではなく、組織や職種によって、柔軟な組み合わせが模索されています。従業員が転職も前提にキャリアを考えることで、マイクロマネージメントの意味も変化しています。

メンバーシップ型の長期的な関係で、細かく支援 

メンバーシップ型雇用では、企業は長期雇用を前提とし、新卒採用後に人材を社内で育成するスタイルを取ってきました。そのため、スキルや特性を長期間かけて把握し、最適な方法で指導・育成できます。「配属ガチャ」と呼ばれる組織内での異動では、会社都合で永遠に振り回される場合もあれば、幅広い経験と長期的かつ丁寧なサポートにつながることもあります。

例えば、以下のような点はメリット。つまり、同じ企業にある程度の期間所属していることを前提にすれば、マイクロマネージメントは効果的に機能しやすいといえます。

  • 従業員の働き方データ(部署歴や生産性、ストレスレベルなど)を継続的にモニターし、業務負荷を調整
  • 長期的なキャリアプランをAIで分析し、適切な異動・研修をマイクロマネージメントでパーソナライズ

ジョブ型のプロを監視しても、ROIが不一致

一方、ジョブ型雇用では特定の職務に対する専門性が求められ、転職も頻繁なため雇用の流動化を促進しています。

こうした環境では、企業が長期的に従業員を管理するのが難しく、マイクロマネージメントは敬遠されがちです。流動性が高い市場では、管理負担の増加や従業員の不満が大きくなります。

  • 短期間で転職する人に対し、細かく管理してもROI(費用対効果)が合わない
  • 過度な監視はプロを尊重しない抑圧と捉えられ、優秀な人材ほど流出しやすい

人材不足—特にDX人材の確保・育成は、ますます厳しさを増しています。日本型のメンバーシップ雇用には、教育や従業員満足(ES)の点でマイクロマネージメントの効果を高められるだけの、時間的猶予が一定程度あるといえます。

一方で、ジョブ型が普及して雇用の流動性が上がると、過度な管理は逆効果。短期間の関係で従業員のエンゲージメントを上げることは難しく、マイクロマネージメントによる管理は、育成ではなく監視に傾きやすいリスクがあります。意味のない監視は組織にとってもマイナスですが、プロとして信頼しある程度の裁量を任せることと、必要な管理を最初から諦めて放置することとは、似て非なるスタンスなので要注意です。

テクノロジーを適切に活用し、従業員の自由度と業務効率のバランスを取ることが求められています。このことには、両者で違いはありません。

個人の支援に逆行するバックラッシュ

残念ながら、このことにも触れておかざるを得ません。それが、トランプ政権で急速に進むDE&I(多様性・公平性・包括性)への過激なバックラッシュです。

ウォルマート、多様性支援を中止-今後「DEI」という用語使わず – Bloomberg

就任から約4ヶ月の間に、政府機関の閉鎖や予算停止、解雇、再入国拒否、国外追放など、大混乱を引き起こしているのは報道のとおり。グローバル企業や大学を筆頭に非常に難しい選択を迫られ、IT企業でも海外出身のエンジニアたちがレイオフされています。

従業員のことをどこまで細かく把握するかは組織に依りますが、例えば、その人材がマイノリティー(社会的弱者)の場合、どのような配慮やサポートが必要かを判断するためにも、具体的な情報が不可欠です。しかし、収集された個人データが監視や制御に利用されると、働きやすさの支援とは真逆の、抑圧・選別のための武器に。組織や個人が使っている用語まで検閲されるレベルです。

特に、これからの社会を支える若年層にとって、「組織の本音と現実」の狭間で自分の細かな情報がどのように利用されるのかは、切実な問題です。これは現実に起きているディストピアとして、私たちも警戒しておく必要があります。


では、そんなデジタル・ネイティブ、ソーシャル・ネイティブなZ世代が、マイクロマネージメントについてどう捉えているか?次回は、この辺りを考察してみましょう。

記事のご感想やご意見、御社のマネージメント事例や課題なども、お気軽にコメントなどでお寄せください。

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUT ME
リプリパ編集部
リプリパ編集部
編集部員
リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
リプリパ編集部の記事一覧

記事URLをコピーしました