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カルチャー

AIとサブスク時代にDJを通じた未知の曲との出会い―DJ Tokinaga 4

リプリパ編集部

さて、BlueMemeの技術トレーナーでもあるDJ Tokinagaに聞いてきた興味深い話も、いよいよクロージングの時間です。メロウなチークタイムの前に、もう少し突っ込んで聞いてみます。例えば、ミックスで新しい価値を見い出すのが得意な生成AIとの関係だったり、そもそもコンテンツの価値とは一体何なのか?という大きな話だったり。

前回からさらに溯って、ぜひ4回の連載を通してプレイしてみてください!

サブスクではリーチできない新しい曲との出会い

― とある説によれば、『人は14歳までに触れた音楽を一生聴き続ける』という話があります。私は、自分の音楽ライブラリーの高齢化を通り越して、アーティストが次々に引退したり亡くなっていくのを、呆然と見送ってます。
Tokinaga:時間が経てば、自然とそうなりますよね。

時永さんが今、新しい音楽に触れるチャンネルって何ですか?例えば、SpotifyやApple Music、Amazon Musicのような音楽専門チャンネルのレコメンドなのか、一般のソーシャルメディアのタイムラインなのか、または出入りしてるリアルな場所が一つのソースになってるとか?
Tokinaga:僕の場合は、よく行くレコード屋の新入荷の情報ですね。

― そうか!今でもそういう新入荷の情報があるんですね!
Tokinaga:
はい。その新譜がどんな感じか、一応スマホで聞いてみて、それでいいのがあったら買う流れです。

― なるほど。
Tokinaga:欲しい中古のレコードは、自分の中ではまあまあ取り揃えてるつもりです。もちろんそれでも、僕が知らないけど良い曲が世の中にはいっぱいあるんです。

DJでヤバいのは、生成AIよりもやっぱり○○!

― 今、いろんなところで生成AIが大人気じゃないですか。物質同士の新しい組み合わせを生み出すとか、人間が想像もしなかった食材を使ったレシピを提案したり、薬の組み合わせによる創薬とか言われてますよね。やって楽しいかどうかは別として、AIによる新たなマッチングってDJにも向いてそうな気がするんですけど、そこってどう思ってますか?
Tokinaga:そうですね、多分一定のレベルでは、いい感じのミックスができるんじゃないですかね。でも、最終的にはヤバい人間の方が勝っちゃう気がします。トップレベルにいるようなDJは、本当にヤバいんです。語彙がちょっとアレですけど(笑)。

― 前回の『かっこよさは上手さじゃない』ってのに通じてますね。
Tokinaga:AIっていうと、膨大な学習データが必要ですよね。でも、そもそもネット上に公開されてる音楽って、今まで世の中に出てきたあらゆる音楽の中でも、実は結構、少ない方だと思うんですよ。

― それはそうか。本や映画にしても、オンラインで試聴できるのはもちろん、情報としてインデックスされている作品ばかりじゃないし。
Tokinaga:そうなんです。過去の音源とかも含めると、実は知られていない曲がまだまだ沢山あるはずで。だからそう考えた時に、ある人がどっかから持ってきた、誰にも見つかってなかったヤバいレコードの方が勝てる気はしますけどね。昔だとそれを「ニューディスカバリー」とか「レアグルーヴ」って呼んでたんですよ。

温故知新であり、新大陸発見だ!
Tokinaga:そうなんですよ。例えばこんな曲は、レアグルーヴと言われるものの中でも非常に有名になった曲ですね。

― これ、モータウンベースで好きかも。
Tokinaga:ですね、Jackson sisters。世の中にある音源へのアクセスって、実は限られてるんです。例えば、どっかの会社が節税対策のために作られたレーベルで出した、世界で数百枚しか残ってないようなレコードとかで、めちゃくちゃ有名になってる曲とかもあるんです。

― レーベルの存在自体がレアなんてのがあるんですね!
Tokinaga:他にも、リリース当時は全く知られてなくて、後の時代になってから『こういうヤバいレコードがある!』みたいに世界中に噂が広がっていくことがあります。枚数は少ないし、欲しい人はめちゃくちゃいるから値段も高いんです。さっきのJackson sistersのレコードは、今では8万円代で取引されています。実は今までに自分が購入したレコードの中で、一番の高額盤はこいつでしたね。当時一人暮らししていた部屋の家賃とほぼ同じ値段でした(笑)。

― 推し活の鏡だ(笑)。
Tokinaga:こういう知られてないレコードが世の中にはいっぱいあって、ネットには上がっていない、ヤバい曲が世界にはまだまだ存在するはずなんです。

― 生きたコレクションでありアーカイブでもある、すごい世界だ。時永さんにとっては、そういうのを発掘するのも楽しみの一つなんですね。もう、考古学並の世界じゃないですか。
Tokinaga:そうですね。レコード屋の棚の隅から隅まで全部見て片っ端から視聴したり、eBayやメルカリ、ヤフオクを常にチェックしているような人たちは、本当にいい曲を見つけるんです。でも、僕はそこまでの領域にはいけてなくて、ある程度知られているレコードの中から、シングルでは出てないんだけどLPでちゃんと聞くといい感じの曲とか、そういうのを掛けたりします。

コンテンツが溢れている時代に、本当の価値とは?

― ところで、最近、一部のアーティストが新しく曲を出す時に、敢えてビニールでも出してたりするじゃないですか。あれって何なんですかね?マニアなコレクター向け?
Tokinaga:ちょっとでも音にこだわってる人は、アナログレコードでも届けたいっていう考え方もあるかなと思います。でも確かに、メディアとしてのレコードが評価されている傾向もあるようです。僕もまさにそうなんですけど、部屋にジャケットを飾ったりしておきたいし、レコードプレイヤーを持ってないけどレコードは買う人すらいるみたいなんですよ。この数年、本当にレコード屋で若者を見かけるようになりましたから。

そうえいば 2020年9月、アメリカでCDの売上をビニールレコードが抜いて大きな話題になりました。コロナ禍で人がライブイベントに集まることもできない中で、一見、アナログレコードの人気が沸騰しているようにも見えましたが、実はCDというメディアの衰退が激しすぎただけなんですよね。

Tokinaga:確かに、別にCDからレコードに回帰したわけじゃなくて、ストリーミングに移ってますからね。

―前回の記事で話した長崎の音浴博物館に行った時の出来事で、興味深かったことがあるんです。若いカップルが来てたんですけど、プレーヤーの使い方がわからなくて、店のおばちゃんに聞きながら恐る恐るレコードを掛けてたんですけどね。レコードを『掛ける』って言わずに、『再生する』としか呼んでなかったのも興味深くて。
Tokinaga:世代間のメディアギャップって、ありますよね。

― ソーシャルメディアのタイムラインでもたまに見ますが、Z世代やα世代には、片面にわずか1曲ずつしか入ってなくて、しかもいちいちひっくり返さないといけないシングルレコードが、とても新鮮な体験らしいんですよ。書き換えはもちろん、量が固定されてそれ以上増やせないパッケージとか、ランダム再生や早送りもできない。そんな制限の多さがむしろ魅力的に映っているようです。
Tokinaga:今って、音楽を消費する社会だと思うんです。音楽なんて世の中に本当にいっぱいあるし、簡単に手に入るし、どんどん『はい次!』みたいな感じだと思うんですね。

― 流通にしても、サブスクリプション型ストリーミングが象徴していますからね。大衆や茶の間がなくなってパーソナライズが進む以上、誰もが知ってる、時代や世代に共通のヒットチューンが登場しづらくなるのは、仕方ないとは思いますけど。
Tokinaga:ビニールレコードも、次から次って掛けようと思えばできます。でも、ずっとプレーヤーの前にいるとは限らないから、一回掛けてちょっと離れたりする。そうすると、面倒くさくなってそのまま全部聴いたりするんです。その結果として、いい曲を再発見したり、一曲一曲を大切に聞いている面はある気がします。

Z世代はHMVでLPレコードを買っているとも聴きます。レコメンドのアルゴリズムによるコントロールから外れるには、偶然と強制が鍵ですね。消費しきれないほどの量とスピードが、人を本当に幸せにするのか?という、哲学的な問いも感じます。
Tokinaga:きっと、先ほどのAIの話にも通じていますね。それこそ楽器なんてなくても曲はAIで生成できるし、DJ機材がなくても完璧なミックスを大量に自動生成できる。でも、それを人は本当にかっこいいって思えるのか?

確かにそうですね。結局、最後は、人間としての自分の感覚に戻っていくのかもしれません。さて、4回に渡って時永さんのDJトークを聞いてきました。とても興味深い話の数々でしたが、機会があったら、ぜひライブを見るか聞くかさせてください!
Tokinaga:はい。こちらこそ、ありがとうございました。


DJをやってる人にじっくり話を聞く機会が今までなかった聞き手にとって、とても新鮮で楽しい時間でした。固定されていて、誰がどこで再生しても変化がないはずのアーカイブとしてのメディアも、組み合わせや再生スタイルを変えるだけで演出が多様化する。クリエイティビティーに溢れる、そんな世界をちょっとだけ覗くことができました。

皆さんは、DJと聞いてどんな印象を持ちましたか?好きでよく聞いたり、自分でやっている人はいますか?ぜひ、感想をコメント欄やソーシャルメディアでお聞かせください。オススメDJの紹介も大歓迎です!

この記事でインタビューをした方

DJ Tokinaga
元パーソナルトレーナーのDJ

中学生の頃にHip Hopに出合い、大学生からお宅DJに。社会人になってから人前でDJを行うようになり現在も月1でDJを行っている。現在はHip Hop、R&BにアニソンやJ Popを全てアナログレコードでミックスするプレイスタイル。家族で新宿や渋谷にでかけた時にレコード屋に寄らなくていいの?と聞いてくれる妻に感謝!!

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リープリーパー(略称:リプリパ)編集部です。新しいミライへと飛躍する人たちのためのメディアを作るために、活動しています。ご意見・ご感想など、お気軽にお寄せください。
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