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力強く静かに輝き続け、ハートに火を灯す「闘う女たち」の映画7本

kotobato

2023年に公開された映画の中から、勝手に「闘う女たち」カテゴリーになりそうな作品を、まとめて一気に7本紹介する(ネタバレなし)。テクノロジーやメディア、プロモーション視点なども交えながら振り返ってみる。

これらの作品はどれも、現代を生きる幅広い人たちにお勧めしたい。ガラスの天井に阻まれている女性や、家事や育児に縛られている人、自分のキャリアが全く見通せない人、後進の指導に悩む中間管理職の方々、右も左も分からない新社会人の皆さん、ジェンダーの問題が理解できない人たちにも見てほしい。そして、年末年始に帰る故郷がなかったり帰りづらいあなた、新しく何かを決断したりリスタートしたい人たちも、ぜひご一緒に。

  • 『658km、陽子の旅』(2022/日本)
  • 『燃えあがる女性記者たち』(2021/インド)
  • 『グッドバイ、バッドマガジンズ』(2022/日本)
  • 『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』(2023/アメリカ)
  • 『セールス・ガールの考現学』(2021/モンゴル)
  • 『ケイコ 目を澄ませて』(2022/日本)
  • 『バービー』(2023/アメリカ)


『658km、陽子の旅』

― もし、何か少しでもまだ間に合うのなら

主人公の陽子は、就職氷河期に青森から東京へ上京してきた中年女性。何をやっても上手く行かず、夢も人生もとうの昔に諦めていて、小さなアパートからほとんど出ず、独り社会から孤立している。先行きの希望も居場所も無い。何もかもが、もう間に合わない。

そんな彼女の元へ従弟が尋ねて来て、彼女の夢に反対して疎遠だった父親が故郷で亡くなったことを知る。半ば強引に部屋から連れ出され、従弟家族と一緒に20年ぶりに故郷に帰る。しかし、おどおどして人と上手く意思疎通できない。

ふとした行き違いで、彼女は高速道路のサービスエリアに独り取り残されてしまう。携帯電話も、所持金もほとんど持たないまま出てきた彼女は、翌日正午の出棺に間に合わせるため、ヒッチハイクをするしかなかった。

人との距離感が掴めない分、自分の窮状を必死にアピールしては拒絶され、また落ち込む。出会う人々の全てと打ち解けられるわけではない。心温かく優しく支えてくれる人たちもいれば、弱みにつけ込む最低な人間もいる。不器用な出会いと別れを短く繰り返しながら、陽子の凍てついた心が少しずつ開放されていく。そして、岩木山を臨む雄大な景色をバックに、静かに雪が降り始める。

わずか半日という時間と、その背景に流れる長い時間を描いたロードムービー。オダギリジョー演じる、幻影として現れる若き日の父親に赤いキャップを被らせたのは、W.ヴェンダースの『パリ、テキサス』(1984/西ドイツ・フランス)へのオマージュだったと、熊切和嘉監督が語る。静かな劇中曲と、終盤に魅せる菊地凛子の長回しの独白が、見る人の胸の奥深くを揺さぶる。

『燃えあがる女性記者たち』

― スマホとソーシャルメディアを手にした抑圧からの解放

映画『燃えあがる女性記者たち』予告編 – YouTube

この作品はまさに、テクノロジーでありDXの話だった!リープリーパーでは何度も、『ローコード・ノーコード開発プラットフォームとは、ソフトウェア開発の民主化である 』と書いてきた。その「民主化」が、どれほど力強いインパクトを秘めているか、この作品から垣間見える。

舞台は、インド北部の州で2002年に創刊された地方新聞社「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」。男性が支配する雑然としたニュースの世界に登場したこの新聞は、「ダリト」と呼ばれる被差別階級の女性たちによって発行されている。主任記者のミーラは、自身の子育てと夫の無理解に苦慮している。劣悪な鉱山で幼い頃から働かされ、家族と世間からの結婚の圧力に悩む記者もいれば、読み書きが苦手な新人もいる。地元の生活に密着した取材活動を通じて、地域社会の差別や大都市と農村部との経済格差、女性への暴力や性犯罪、違法労働や癒着、拡大するナショナリズムなど、さまざまな情報を発信し続けている。

「カバル・ラハリヤ」は、紙媒体からソーシャルメディアへの移行に挑戦し、2016年には独自のビデオチャンネルで配信をスタート。28人の記者からなるチームメンバーは、スマホの使い方を学ぶ一方で、家にはネットワークどころか、電気や電灯すら無い女性も。劣悪な社会インフラや、封建的・家父長的な男性社会、時に命の危険すらある状況の中でも、彼女たちはひるまず、市政の人たちの声を丁寧に拾い続けていく。やがて、彼女たちの発信するニュースは、インド各地へと波及する大きなうねりになっていく。

歌も音楽もダンスも出てこないインド映画だが、それらに負けないパッション溢れる作品だ。見る側に『あなたがやれない理由はそれ?やってないだけでは?』『今の日本で、民主主義やメディアジャーナリズムが機能してる?』を正面から突きつけられる。2021年のサンダンス映画祭を皮切りに、40もの映画賞を受賞したのも納得。原題の “Writing with fire” が、この作品を端的に物語っている。

『グッドバイ、バッドマガジンズ』

― 本当に嫌らしく汚らわしいのは、何だ?

映画「グッドバイ、バッドマガジンズ」本予告 – YouTube

▼グッドバイ、バッドマガジンズ | Prime Video
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BZY82WP4

オシャレな女性ファッション誌に携わることを夢見る、就活生の詩織。彼女が配属された編集部は、希望とは全く逆の男性向けエロ本の出版社。そこで彼女が目にしたのは、卑猥な写真と猥雑な言葉の洪水だった。悲惨な労働環境の中、癖の強すぎるライターや編集者、営業担当たちに翻弄されながら、彼女は段々と感覚が麻痺して慣れていく。次々とハプニングが起きる中でも、何とかやり過ごしていかないと、自分が消耗してしまう。

しかし、東京オリンピックの開催が決定し、「外国人訪日客への配慮」として、主な販売場所であったコンビニの成人雑誌コーナーから雑誌が撤去されることに…。雑誌媒体の販売部数減少とネットへのシフトも進み、編集部は窮地に追い込まれる中で、一人前の編集者を目指す彼女がこれまでやってきたこと、そして彼女の存在は、全部無意味で無価値だったのか?

くだらない、役に立たない、あってはならない存在。正しさで表面的にクリーニングされ、グレーゾーンという存在を許さない社会。大義名分があった権力側の、分かりきっていた虚構。実話を元にした脚本による完全自主制作というこの作品は、ありきたりな青春サクセストーリーではなかった。ポリティカルコレクトネスやスポーツウォッシングにこそ、嫌らしさ・汚らわしさを感じずにはいられなかった。雑誌制作の現場にいた経験がある身としても、随所で感情移入しながら見ていた。本当に猥雑だったのは、何だったのか?https://x.com/kotobato/status/1616670111540314112

『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』

― 目が眩むほどの偉大な力を華麗に使いこなす闘いは続く

『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』 – YouTube

グラミー賞を12回受賞。TIMEのPerson of the Year 2023に選出。2024年2月には、東京ドーム4日間ぶっ通しツアー。そして来年からは、いくつかの大学で彼女のことを研究する授業が開講される。

この映画は、2023年8月3日から5日にかけて、ロサンゼルス郡南西部イングルウッドで開催されたテイラー・スウィフトのコンサートの映像である。彼女がコンサートを開く地域には、スウィフティーズ(ファン)が大挙し、ホテルの高騰や渋滞といったオーバーツーリズムだけでなく、振動まで計測されるほどの社会現象を巻き起こす。

バックステージのオフショットなどはなく、純粋にライブ中の映像が中心だ。キラキラとゴージャスで、ド派手な演出がふんだんに散りばめられている。ところどころ、どうやって撮影しているのかわからないショットも多数あり、ライブ映像の最新テクノロジー見本としても、興味深かった。

実は、彼女の曲はあまり聞いたことがないまま、この作品を見た。知っていたことと言えば、カントリーをバックグラウンドに持つスーパーPOPアイコンということと、アーティストの権利保障のため、SpotifyやApple Musicなど音楽配信プラットフォームともバチバチやりあって来たこと。そして、ジェンダーや人種差別に対する彼女の言動が、保守派の男性たちから攻撃対象になってきたことだ。2024年秋にはアメリカ大統領選挙があるが、彼女の言動は若年層の投票率に影響を与えてきた。共和党と民主党どちらにも揺れ動くスイングステートの情勢を、本当にスウィフトさせるほどの影響力がある。

この映画が特徴的なのが、メジャーな配給会社を通さずに、自分の会社から劇場AMCシアターに直販している点だ。こんなブレイクスルーができたのは、彼女だからこそ。Erasツアーは10億ドルの興行収入を記録し、音楽アーティストとして史上最高額の収益を上げたツアーとなった。この作品も、コンサート映画として最高の興行収入を記録し、ゴールデングローブ賞に新設された「興行成績賞」にもノミネートされている。

『セールス・ガールの考現学』

― 世の中を知るに連れ、変化していく少女の自我

『セールス・ガールの考現学』予告編 – YouTube

▼セールス・ガールの考現学 | Prime Video
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHJJBBYG

大学で原子力工学を学ぶ、垢抜けなくてヤボったい女子大生サロール。ヘッドフォンで音楽を聴きながら街を移動し、中産階級の家族と同居する家では、部屋で一人、絵を描くのが好き。

ある日、ケガをした友だちに代わって、彼女は怪しげなアダルトグッズの販売店でアルバイトを始める。仕事としてただ淡々と、いろいろな客が求める品物を売っては、毎日の売上金を店のオーナーであるカティアに届ける日々。華麗な謎の経歴を持ち、裕福な暮らしを送るカティアは、女性の先輩としてサロールに接し、やがて二人の間には、世代や立場を越えた奇妙な友情が芽生える。世の中や人間のことを少しずつ教えられ、知っていくサロールには、徐々に自我が芽生え始めるが…。

モンゴルと聞いてすぐに連想する広大な草原も登場するが、都市部のレストランで登場人物たちがロシア語で会話するシーンもあり、地理的な位置や都市化など、欧米やアジアとはまた違う不思議な映像演出のテイストを感じた。シスターフッド的な物語や、世代間ギャップによる前世代への否定的な展開を交えつつ、将来の選択に悩みながらも、自分の足取りで前へ進む主人公を描いた青春映画だ。原題に、現代社会の出来事を研究する「考現学」をわざわざ付けた邦題は、それなりに効果的だった気がする。

『ケイコ 目を澄ませて』

― 進むほど、知るほどに恐ろしくなる、それでも前へ

映画『ケイコ 目を澄ませて』本予告 – YouTube

▼ケイコ 目を澄ませて | Prime Video
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8RP5GHZ

再開発が進む東京の下町の古いジムに通うボクサーのケイコは、聴覚障害を持って生まれた。特に秀でた才能があるわけではなく、むしろハンディキャップを背負っている彼女を唯一受け入れてくれたこのジムは、家族のような場所だ。ボクシングは本当に厳しいが、誰からも評価されなくても、自分の力で闘っている。希望など無くても、とにかく目の前の何かと必死に格闘し続けている。

彼女は、デビューして2勝する。しかし同時に、恐怖の感情が芽生え始める。3戦目に挑むのを迷いながら、悩んだ末に休会したいとノートにしたためるが、どうしてもそれを会長に渡せない。一方で、若い練習生は廃れたジムを辞めていき、会長の体調も芳しくなく、ジムは閉鎖されようとしていた。

プロボクサー小笠原恵子の自伝『負けないで!』が原案。英語のタイトルは ”Small, Slow but Steady(少しずつ、ゆっくり、でも着実に)”。同じ、女性ボクサーが主人公の映画『ミリオンダラー・ベイビー』(2004/アメリカ)ほどの重い起伏や悲壮感はない。ただ、ボクシング映画が扱っているのは、必ずしもボクシングそのものではないのだという点は共通している。三浦友和が演ずるジムの会長がまたいい味を出していたけれど、彼も赤いキャップを被っていたのは、何の偶然?

第96回キネマ旬報 日本映画作品賞ベスト・テン第1位。バリアフリー音声ガイドに対応した上映だったが、最近、この型式の作品も増えてきた。スマホアプリに連動しているが、視覚障害者用のナレーションは特別なスキルが必要と聞く。時間とコスト、品質の点で、この分野でも生成AIの活躍が期待されている。

『バービー』

― ポップに描いた現実世界の裏返しとして大ヒット

映画『バービー』日本版本予告 – YouTube

最後にこれを取り上げる時点で、「負けた」気がしないでもない。コンテンツの解説なんてしないどころかタップリやった上に、まんまとこうして引っ掛かっているのだから。しかし、社会現象を巻き起こしたこの作品は無視できない。IMDbのTop Movies of 2023にランクインして、ゴールデングローブ賞にもノミネートされ、グレタ・ガーウィグ監督は、女性監督の単独作品として歴代興行成績トップに輝く。

女の子向けに作られたマテル社の人形バービーたちが暮らす「バービーランド」は、毎日がハッピー(ちなみに、エンドロールに流れるバービーの配役名は全員が「バービー」!)。朝起きたら皆に明るく挨拶して、それぞれの一日を充実して過ごし、夜は楽しくパーティー。男の子キャラのケンは、ただのイケメンなボーイフレンドというだけの存在価値。今まで通りの日常がこれからも続いていくと思っていたのに、何かがおかしいと感じたバービーは、人間が住む現実社会へ。

従来の、育児シミュレーションとしての人形であることを拒否し、パイロットや医者、大統領まで、ジェンダーに囚われない可能性の象徴として、女の子たちに人気だったはずのバービー人形。それが、若い世代にとっては、ステレオタイプや消費文化、ルッキズムの象徴として批判されていたことを知り、ショックを受ける。一方、ケンは、マッチョな男性像に自我が目覚め、自分の王国「ケンダム」を築く情熱に火が点く。平穏な日常は戻ってくるのか?戻ってくることが幸福なのか?

人形を実写化したこの作品の面白さは、男性の付属物や装飾品として扱われてきた女性を、男女の立場を入れ替えることで鮮やかに指摘している点だ。しかも、終わった後もモヤモヤが残る。子供向け映画だと勘違いして家族で見に行き、途中で退席した人たちの話も聞いた。

マテル社の自虐も散りばめられていて、企業としてよくこの作品を許可したなと、度量の深さと戦略に感心せずにいられない。チープなカラーが爆発している絵作りや、俳優が人形に見えるようなセットの造形もなかなか凝っていて凄い。皮肉や揶揄、音楽と歌詞が何を象徴しているのかは、一度見ただけではわからないので、こういうのは解説付きで見るのがオススメ。


私は、見た映画は備忘録としてIMDbに記録している。コロナで自粛期間中の反動という訳でもないけれど、今年は約40本と、割とよく映画館に足を運んだ一年だった。リストを振り返りながら眺めていたら、どう言うわけか闘う女性たちが登場する作品が多かったので俯瞰してみた。

ヒロインたちは、それぞれの立場で葛藤し、迷い、苦しみながらも、次のシーンへと進んでいく。情けない姿であっても、同じように打ちひしがれているオーディエンスの心を揺さぶる。時に、背景の事情は感じさせず、どこまでもキラキラと明るく光り輝く。さまざまな困難を乗り越え、必ずしもハッピーエンドではなくても、何かの事情で闘えない人たちをも、間違いなくエンパワーしている。

ほとんどの作品が、配信またはディスクが出ているので、機会があればぜひ見て揺さぶられてほしい。シナリオと演技があるのは綺麗に作られたお伽噺で、ドキュメンタリーやライブだからリアルだということではない。見る側の体験としては全て、リアルそのものなのだ。エモーショナルな体験は、スクリーンを飛び出し、暗がりを抜けた外の世界にも確実に拡がっていく。

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リプリパ編集兼外部ライター
企画制作や広告クリエイティブ畑をずっと彷徨ってきました。狙って作るという点ではライティングもデザインの一つだし、オンラインはリアルの別レイヤーで、効率化は愛すべき無駄を作り出すため。各種ジェネレーティブAIと戯れる日々です。
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