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数学からバイオインフォマティクスへ:博士課程1年目の変化と成長

理人

著者である私は、社会人博士として博士課程に進学して1年が経ちました。今回の記事では、博士課程1年目を振り返り、感じた意識やスキルの変化について紹介します。

この記事は、去年8月に書いた「数学修士からバイオ分野の社会人博士にフィールドチェンジした感想」のアップデート版です。また、私がこれまでリープリーパーで書いてきた記事を紹介する記事も別途公開しているので、合わせてご覧ください。

自己紹介

私は、修士課程までは純粋数学を専攻していました。現在は、生物学、特にバイオインフォマティクス(生物学と情報科学の融合分野)の博士課程で研究に取り組んでいます。研究テーマは大まかに言うと「ゲノム解析」です。この記事では、数学を学んでいた時期と現在の研究活動を比較し、感じたことを中心に紹介します。

取り組む姿勢の変化

数学は教科書と紙、ペンがあれば研究を進められますが、バイオインフォマティクスではデータと計算機がないと研究を始められません。これまで調べ物や論文執筆のためにパソコンを使用したことはありましたが、研究そのものに活用したことはありませんでした。

また、数学に取り組んでいた際は、文章に書かれている内容を正確に理解することに重点を置き、多くのことに手を出すよりも一つのことにじっくりと取り組んでいました。現在は、日々更新される最新の論文をチェックし、研究のストーリーを理解した上で、自身の研究に繋がるアイデアを考え、実装を試すなど、取り組むべきことの種類が非常に多岐にわたります。以前のようにじっくりと腰を据えて考えるというよりは、さまざまなことを効率的にこなしていく、要領の良さが求められていると感じています。

ゲノム解析を通じた生物学知識の習得

私が取り組んでいるゲノム解析では、さまざまな形式のゲノムデータを自在に扱える必要があります。研究開始当初は、それぞれの形式の違いや扱うためのツールやコマンドについての知識がありませんでしたが、現在ではスムーズに作業できるようになりました。

私が日頃使っている、主なゲノムデータの形式とツールは以下のとおりです。

  • FASTA、FASTQ:ゲノム配列データのフォーマット
  • SAM、BAM:ゲノムアライメントデータのフォーマット
  • VCF:ゲノムの変異情報に関するデータのフォーマット
  • SAMtools:ゲノムデータの閲覧、編集ツール
  • IGV:ゲノムデータのビューワー

研究の意義に対する理解の深まり

共同研究を始めた当初は、生物学のことはアルゴリズムを適用するテーマの一つとしてしか捉えていませんでした。しかし、博士課程に進学し、さまざまな講義を受講して知識を習得したり、論文を読み込んだりする中で、研究の意義について深く理解できるようになりました。現在では、生物学の課題解決のための手段として、アルゴリズムの選択を考えられるようになりました。

ストーリーを意識した論文の読み方の習得

研究とは、全く新しいものを無から生み出すことと誤解している人もいるかもしれません。しかし、実際には先人たちが積み上げてきた研究の流れを引き継ぎ、そこに新たな要素を付け加えていく作業だと言えます。

そのためには、先行研究の論文を読み、どのような理想の実現を目指し、現状がどうであり、どんな課題を抱えていて、それをどのような工夫で乗り越えたのかを理解する必要があります。

論文を読み始めた当初は、一行一行を読むだけで精一杯でしたが、現在では研究のストーリーを理解しながら読むことで、より効率的かつ深く読めるようになりました。

研究報告スキルの向上

数学の発表では、主題となる定理を示すために定義や補題を準備し、自分の言葉で説明することが主で、黒板を使うことがほとんどでした。そのため、発表資料を作成する機会はそれほど多くありませんでした。

しかし、博士課程に進学してからは、私たちの研究室では毎週研究進捗報告会があり、隔週で発表の担当が回ってくるため、資料を準備して発表しなければなりません。

最初のころは事実を単に列挙するだけで、何が言いたいのか、次にどうするのかと指摘されることも多々ありました。最近では、「空・雨・傘」(状況・解釈・行動)(「問題解決の全体観 上巻 ハード思考編」中川邦夫著)を意識して報告することを心がけており、報告の質が向上したと感じています。同時に、指導教員からのフィードバックの質も高くなり、より有意義なコミュニケーションが取れるようになったと実感しています。

問題解決の全体観 上巻 ハード思考編 | 中川 邦夫, コンテンツ・ファクトリー, 中川 学

研究発表スキルの向上

博士課程に進学してから、研究室内部での研究状況報告だけでなく、学内の研究発表会でも二度発表する機会があり、ポスター発表とスライドを用いたプレゼンテーションを経験しました。スライド発表は修士論文で経験済みでしたが、ポスター発表は全くの初めてでした。発表の際は、研究室のメンバーとは異なり予備知識を持たない聴衆に理解してもらうため、研究の背景、意義、目的などをわかりやすく伝える必要があります。最初に作成したものよりは、よりわかりやすい資料を作成できるようになってきたと感じていますが、まだまだ改善の余地があると認識しています。

研究の進め方の習得

数学をはじめとする理論研究では、少人数、場合によっては一人でも完結できることがあります。一方、バイオ分野の研究では、研究者同士の協力が不可欠であり、協力なしには進展が望めません。私の指導教員を観察していると、ほぼ毎日のように他の研究者とミーティングをしたり、定期的に出張に出かけていることがわかります。バイオインフォマティクスの研究では取り組むべきことが多岐にわたりますが、すべてを自分一人でこなす必要はありません。自分の得意分野を見出し、苦手な部分や自分にはできないことは、その分野を得意とする研究者と協力して進めていくことが重要だと学びました。

指導教員とのコミュニケーション頻度の増加

修士課程では、週に一度の発表の際にしか指導教員に会う機会がなく、新型コロナウイルスの感染拡大期にはリモートで面談していました。現在では、ランチにはほとんどの場合一緒に行くため、その際に相談できます。また、夕方になると指導教員が研究室にいらっしゃるので、気軽に相談できる環境にあります。

さらに、進捗報告ミーティングも毎週(隔週で発表)開催されているため、研究が行き詰まったり困ったことがあれば、すぐに相談して解決できます。

2年目もさらに充実した日々に

博士課程1年目を振り返ると、研究に取り組む姿勢や論文の読み方、研究報告スキルなど、さまざまな面で成長を感じています。特に、生物学の知識を深め、研究の意義を理解することで、数学の研究とは異なるアプローチが必要であることを学びました。また、指導教員とのコミュニケーションが増えたことで、研究の進め方についても多くのことを吸収することができました。

博士課程での研究は、まだ始まったばかりです。今後も、自分の得意分野を伸ばしつつ、苦手な部分は他の方と協力しながら、研究を進めていきたいと思います。そして、新たな知識や技術を身につけ、より質の高い研究成果を発表できるよう、精進していきます。

同じ研究職として、松原さんが書いた記事もオススメなので、合わせてお読みください。

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理人
理人
博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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