それはどのローコード・ノーコードの話?カオスマップを俯瞰する
「ローコード」「ノーコード」という単語も、見聞きする機会が増えてきました。「ChatGPT」や「DX」のようなバズワード(広く話題の言葉)にこそなっていませんが、単語レベルで切り分けた言葉としては日本語話者にも耳馴染みがあるので、説明しやすく理解もされやすいメリットはあるでしょう。
しかし、他者とやり取りする上では、そろそろ『何についてのローコード・ノーコードなのか?』を確認しておく必要がありそうです。
ノーコードとローコードの特徴や違いをおさらい
ローコード・ノーコードは、手入力によるプログラムのコーディング作業を最小限に抑え、迅速なセットアップと展開を可能にするアプリケーション開発手法です。プログラミングコードをほとんどもしくは全く書かなくてもいいローコード・ノーコードの特徴は、ドラッグ&ドロップで操作できる、インタラクティブなビジュアルプログラミング環境です。多くのサービスが、ビルド済みテンプレートも備えていて、サードパーティーのツールやソリューションとの統合も容易です。
まず、ノーコードとローコードの特徴や違いを簡単におさらいしておきましょう。
非技術系ユーザーのためのノーコード開発
ノーコード(No-code)開発は、プログラマーではない人でも、コードを書かずにソフトウェアを開発できる環境です。アプリケーションの構築には、ユーザーフレンドリーなビジュアルインターフェースや、あらかじめ用意されたテンプレートが使用されます。技術的なバックグラウンドを持たない人々でも、ソフトウェア開発にアクセスできるようにする手法の一つです。
- ソフトウェア開発の民主化
- プログラミングの知識は不要
- アプリケーション開発にビジュアルインターフェースを使用
- 高速な開発とデプロイ(展開、配備、配置)
プロの開発者のためのローコード開発
ローコード(Low-code)開発は、最小限のコーディングを併用するソフトウェア開発へのアプローチです。必要に応じてコーディングによるカスタマイズや拡張が可能です。プロのソフトウェア開発者や、ビジネスとITのハイブリッド社員が生産性を向上させるために使用します。カスタマイズの柔軟性や複雑さを実現しながら、ノーコード同様に、ソフトウェア開発のプロセスをスピードアップします。
- ソフトウェア開発プロセスをスピードアップ
- 必要なプログラミング知識は最小限
- ビジュアルインターフェースを使用しつつ、手作業によるコーディングも可能
- ノーコードよりも柔軟なカスタマイズが可能
比較
- ソフトウェア開発の民主化:どちらの手法も、非IT人材にソフトウェア開発の機会を広く提供します。
- 対象ユーザー:ノーコードは非プログラマー向けに設計されていますが、ローコードはプログラマーと非プログラマーの両者向けに設計されています。
- 柔軟性:ノーコードよりもローコードは柔軟性が高く、カスタマイズのオプションも豊富です。
- 複雑さ:ノーコードはシンプルなアプリケーションに適していますが、ローコードはより複雑な大規模ビジネス向けのアプリケーションも扱えます。
ローコード・ノーコードの応用範囲は拡大の一途
企業は、ローコード・ノーコードツールを導入することで、生産性を向上させたり、自動化を促進させ、製品を素早く市場投入し、意志決定のスピードアップが可能になります。また、ソフトウェア開発者の不足とコストの上昇や、増大するデータ量とそれに伴う組織内のITニーズを解決する手法として注目が高まっています。中小企業からベンチャー企業、大企業まで、あらゆる規模の組織に適したソリューションがあります。
ローコード・ノーコードマーケットの拡大は、留まるところを知りません。先日のリープリーパーの記事でも、業界予測をいくつか取り上げて、その大きな期待の高まりを確認しました。テクノロジー系のリサーチ企業ガートナーのリリースでは、世界のローコード開発マーケットは、2023年に20%成長して269億ドル(2023年7月初め時点で約3兆7,590億円)に達すると予測されています。
また、直接、ソフトウェア開発のプラットフォームを指しているのではなく、さまざまな分野で使われる機会が増えています。Webサイト制作やCRM(顧客関係管理)などの現場でも、ローコード・ノーコードサービスが使われるようになっていることも紹介しました。
つまり、『ローコード・ノーコードツールには、どんなサービスがあるのか?』も重要ですが、『それは、何についてのローコード・ノーコードの話なのか?』『ローコード・ノーコードで、何を実現するのか?』という前提を確認する必要があることを意味しています。
ローコード・ノーコードツールのカオスマップを眺めてみよう
こういう時は、ある特定の業界地図を描いて、プラットフォームやサービスをマッピングした「カオスマップ」で俯瞰してみるのが便利です。ソフトウェア開発以外に、どのような分野でローコード・ノーコードが使われているのでしょうか?
まず一つはこちら。研究や科学、教育、テクノロジーを活用して、社会の進歩に貢献するUnigram Labsというチームが描いた、ローコード・ノーコードのカオスマップです。2022年1月に公開されたマップでは、ローコード・ノーコードを9つのカテゴリーに分類しています。代表的なサービスとセットで見てみましょう。
- ビジネスインテリジェンス:企業の意思決定プロセスを改善する目的で、情報を知識に変換するツール
例:Google Data Studio、Tableau、SAP Business Objectsなど
- カスタマーサービスやCRM:顧客との関係を構築・管理するビジネスプロセスすべてを自動化
例:Salesforce、Zoho、Creatioなど
- エンタープライズアプリケーション開発:企業全体の幅広いアプリケーションを構築例:OutSystems、Microsoft PowerApps、ServiceNow、Mendixなど
- IoTと産業オートメーション:IoTデバイスの接続や制御、管理と、産業プロセスや機械の自動運転
例:Akenza.ioなど
- AIと機械学習:データサイエンティスト以外でもMLモデルを利用
例:Data Robot、GeneXusなど
- マーケティング/Eコマース/デザイン:キャンペーンやセールス、クリエイティブの最適化
例:HubSpot、Marketo、Mailchimp、Shopify、Canva、Figmaなど
- ソフトウェア開発ツール:技術者向けのアプリケーションコードジェネレーター
例:Virtuosoなど
- Web/モバイルアプリ開発:ハイスキルなWebのナレッジが不要なコンテンツ管理システム(CMS)
例:WordPress、Wix (Editor X)、Webflow、Squarespaceなど
- ワークフロー自動化:特定の操作を統合・促進し、自動化することで、完全性・正確性を保証
例:Workato、Zapier、Asana、miro、Notion、Kintoneなど
続いては、ノーコードによる共創を目的とした、日本のノーコーダーズ・ジャパン協会によるカオスマップです。こちらは、以下の11のカテゴリーにわたって、いろいろなサービスやプラットフォームが多数登録されています。
- ビジネスアプリ(うち、モバイルメイン)
- Webサイト
- モバイルアプリ
- EC/D2C
- 顧客管理
- 業務自動化
- テスト自動化
- 学習
- IoT/AI
- VR/AR/3D
- 受託開発/人材マッチング
重複するブランドも多いので、こちらの詳しい説明は割愛します。2つのカオスマップは、世界と日本という違いだけでなく、分類方法やカバーしている範囲なども違うため、単純な比較はできません。しかし、重複しているロゴは、人気のサービスやツールだと考えて、間違いないでしょう。
何を実現するためのローコード・ノーコードなのか?
このように、ローコード・ノーコードはさまざまな分野への展開が拡がっています。そのため、つまり、ひと言でローコード・ノーコードといっても、必ずしもソフトウェア開発やプラットフォームのことを指しているとは限りません。
確かに、ローコード・ノーコード開発プラットフォームは、アプリケーション開発の迅速化、コストの削減、特定のビジネス要件に合わせたカスタマイズなど、いくつもの利点を提供します。専門スキルを持つITエンジニアの関与を減らせれば、開発プロセスを簡素化することで、組織が時間とコストを節約するのにも役立ちます。ビジネスがアプリケーションをより速く、より効率的に構築できれば、新しいソリューションを提供することで、顧客満足度を上げられるかもしれません。維持管理を効率化・自動化できれば、貴重な技術的専門知識を持つエンジニアを、新しい製品開発に割り振る余裕が確保できます。
しかし、これらのプラットフォームはあくまでも環境の一つであり、道具に過ぎません。いろいろな分野で普及が進んでいるからといって、そこで実現できることがすべて成功するとは限らないのは当然です。優れた環境を利用することで、自社のビジネスのどんな目標を達成できるか、具体的に検討することが重要です。
かつて「パソコン」や「インターネット」は、使っていることそのものが珍しく、それだけで価値があると思われていた時代がありました。「クラウド」が登場した頃は、従来のクライアントサーバー型システムのラベルの付け替えに過ぎないのでは、と誤解されていたことも。サービスから家電まで、何にでもとにかく付けられる昨今の「AI」は、マーケティング用語化している面もあります。
ローコード・ノーコードは、今後もカオスな状態のままで目まぐるしい進化を続けるでしょう。普及はさらに加速して一般化・透明化し、当たり前の技術として、テクノロジーそのものを意識することは減っていくはずです。「ローコード」「ノーコード」も、業界や業種、規模などの違いはあっても、具体的にビジネスのどんなゴールを達成するために使われるのかが、より明確に問われていくでしょう。
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