GAFAMもスタートアップも参戦!量子コンピューター最前線

量子コンピューターの開発競争が新たな段階に入りました。Microsoft「Majorana 1」、Amazon「Ocelot」と、量子コンピューター用チップのリリースが相次ぎ、スタートアップのPsiQuantumも光量子チップ「Omega」を発表しました。今回の記事では、最近、立て続けに発表された各社の量子コンピューター技術について、最新動向を紹介します。
Microsoft:トポロジカル量子プロセッサ「Majorana 1」
2025年2月19日、Microsoftは世界初のトポロジカル量子プロセッサー「Majorana(マヨナラ) 1」を発表しました。このプロセッサーは、トポコンダクターと呼ばれる新素材を用いています。これは、100万量子ビットという大規模でスケーラブルな量子コンピューターを実現するための重要な進展です。
Majorana 1の特徴
- エラー耐性が高い
- デジタル制御が可能
- 量子エラー訂正を簡素化する
この研究成果は、権威ある科学誌『Nature』に掲載されました。Microsoftは今後、量子エラー訂正の実証を進め、数年以内にフォールトトレラント(耐障害性)な量子プロトタイプを構築する計画です。

出典:Microsoft unveils Majorana 1, the world’s first quantum processor powered by topological qubits – Microsoft Azure Quantum Blog
https://azure.microsoft.com/en-us/blog/quantum/2025/02/19/microsoft-unveils-majorana-1-the-worlds-first-quantum-processor-powered-by-topological-qubits/
PsiQuantum:光量子チップセット「Omega」
2025年2月26日、PsiQuantumは光を利用した量子チップセット「Omega(オメガ)」を発表しました。これは、実用規模の量子計算を実現するためのチップセットで、数百万量子ビット規模のシステム構築に必要な、先進的な光学部品をすべて統合しています。また、半導体工場で大量生産が可能なレベルまで、技術的に成熟しています。
Omegaの特徴
- シリコンを用いた光学技術を活用
- 高精度な量子操作を実現
- 長距離のチップ間接続が可能
- 新たな冷却システムを導入し、既存の超低温冷却装置を不要に
PsiQuantumは現在、オーストラリアのブリスベンと米国シカゴに量子計算センターの建設を進めていて、今後はチップの大規模統合と接続技術の改良に注力する予定です。

https://www.psiquantum.com/featured-news/omega
光量子コンピューターについては、リープリーパーの以下の記事も合わせてご覧ください。
Amazon:「Ocelot」チップ
2025年2月27日、Amazonは新しい量子コンピューティングチップ「Ocelot(オセロ)」を発表しました。Ocelotは有名な「シュレーディンガーの猫」の思考実験にちなんで名付けられた「猫量子ビット」と呼ばれる技術を用いていて、量子誤り訂正のコストを最大90%削減できるとされています。
Ocelotの特徴
- 従来の手法と異なり、誤り訂正を前提に設計
- スケーラブルな製造が可能
- 従来の方法と比べて必要なリソースを1/10に削減
- 誤り訂正の効率を強化
Amazonの研究者は、この新技術により、実用的な量子コンピューターの開発が最大5年早まると予測しています。Amazonは引き続き量子研究に投資し、量子コンピューティングの実用化を加速させる方針です。

出典:Amazon’s new Ocelot chip brings us closer to building a practical quantum compute
https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
量子エラー訂正と大規模化:量子コンピューター開発の成熟期へ
各社の最新発表に共通しているのは、量子エラー訂正技術の向上と大規模化を視野に入れた開発アプローチです。これは量子コンピューター開発が、実験的段階から実用化を見据えた成熟期に入りつつある明確な証拠といえます。
量子コンピューターの実用化における最大の課題は、量子ビットがノイズに弱く、長時間の計算が困難なことでした。これまでの開発は、主に量子ビット数の増加や基本的な量子操作の実証に重点が置かれていました。それが現在は、量子エラー訂正と大規模化という、実用化に不可欠な技術的課題の解決に焦点が移っています。
この傾向は、量子コンピューターが「実験室の技術」から「実用化可能な技術」へと発展する重要な転換点です。今後数年で、より実用的な量子コンピューターが登場する可能性が高まっています。
実用的な量子コンピューターが登場するのはいつか?
量子コンピューターの実用化時期については、多くの専門家が2030年前後を一つの目安として見ています。現在の技術開発の進捗速度を考慮すると、この予測には一定の妥当性があるでしょう。
現状では、1,000量子ビット程度の物理量子ビットが実現されていますが、実用的な量子優位性を示すためには10万量子ビット規模のシステムが必要だと考えられています。物理量子ビット数の増加だけでなく、それらの品質向上と量子エラー訂正技術の進展が重要なカギを握っています。
最近のGoogle、Microsoft、Amazon、PsiQuantumなどによる発表は、量子エラー訂正と大規模化に焦点を当てた開発が進んでいることを示していて、実用化への道のりが着実に進んでいることを示唆しています。
ただし、量子コンピューターの開発には予測できない技術的障壁が存在するかもしれず、実用化の正確な時期を断言することは困難です。それでも、大手テクノロジー企業の参入と積極的な投資により、2030年までに少なくとも特定の領域では、実用的な量子優位性を持つコンピューターが登場する可能性は高いと考えられます。
量子コンピューター開発競争の今後
今回の記事では、日々ニュースの絶えない量子コンピューター業界の最前線について解説しました。方式はそれぞれ異なりますが、量子コンピューティングに次の進化の波が訪れていることは間違いありません。
AIに力を注いできた大手テクノロジー企業が量子コンピューターの開発にも熱心な事実は、世界的にAIの次に量子の時代が来ることを予感させます。Googleについては、以前の記事で解説したのでそちらをご覧ください。
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは実現できない高速な計算を可能にし、創薬や材料開発、暗号技術などさまざまな分野に革命をもたらす可能性を秘めています。以前のリープリーパーの記事では、次のように述べました。
「量子コンピューター開発競争は、今後さらに激化すると予想されます。各方式の特徴を活かしつつ、技術的課題を克服し、実用的な量子コンピューターの実現を目指す取り組みが加速していくことでしょう」
今回紹介した各社の発表は、このような予測を裏付けるものであり、量子コンピューターの実用化が急速に近づいていることを示しています。特に、エラー訂正技術の進展は、量子コンピューターの実用化への大きな障壁を乗り越える重要な一歩です。
大手テクノロジー企業からスタートアップ、そして日本の産学連携まで、量子コンピューター開発の潮流は確実に広がっています。この分野の発展が、人類の計算能力を飛躍的に向上させ、さまざまな社会課題の解決につながることを期待しましょう。