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働き方

IT企業で『技術を学習するな!』といわれる意味 – 国田健さん3

リプリパ編集部

国田健さんへのインタビュー記事も最終回。バスクラリネット奏者という芸術家としての面と、IT企業でビジネスの交渉や調整役として立ち回る仕事との、違いや共通点。チームの中で動くことと、一人で自立的に動くことのバランスとは?そして、IT企業にありながら、技術を学ばない強み(!)とは?

ニッチなマーケットのコアなファンに届ける、ここにしかない価値

― そういえば、ミューズ・プレスさんの、楽譜を復刻して販売するビジネスもユニークですね。
国田:はい。楽譜というのは、書籍と同じように文化的な価値を持つ作品がいっぱいあるんですが、例えば絶版になったり、災害や戦争で失われて、購入が難しい楽譜が沢山あるわけです。オーケストラ作品をピアニストがピアノ用にアレンジしてるけど、そもそも楽譜になってないとか。そういった世に出ていない作品だったり、過去の作品で一度はなくなった作品を発掘しては、復刻して、必要な人たちに届けています。

▼Muse-Press(ミューズ・プレス)|Muse-Press公式サイト
https://muse-press.com/

― 初めて知りました。なるほど、そういうニーズがあるんですね!
国田:そうなんです。しかも、扱っている楽譜は、国際コンクールで演奏するようなプロレベルの作品だけです。実は、Eがこういうのに目がなくてですね。ヨーロッパに行った時は、各国の楽譜や参考図書、中古の楽屋さんなどを二人で巡りまくりました。彼は目利きなんで、日本のマーケットでどれに高い価値が付くとかもよく分かってるんですね。
コロナ禍以降は、沢山の要望もあって仕方なく、一部の楽譜をPDFで販売していますが、以前はまったくしてなかったんですよ。やっぱり手に触れる実物がいいなということで、印刷もオフセットやオンデマンドじゃなくて、こだわりの活版印刷で刷っています。基本的に大量販売・大量消費のビジネスではなく、本当に欲しい人にピンポイントで届けています。

― ニッチ・オブ・ニッチにチャンスを見い出した、と。
国田:はい。本気でニッチを探していると、ニッチな人同士が自然につないでくれるんです。銀座でヤマハさんが期間限定の特設ブースを作ってくれたり、楽譜屋さんが扱ってくれたのも、ニッチなご縁です。何も宣伝していないのに、池袋の楽器店ではお客さんからご指名で『ミューズ・プレスの楽譜ないですか?』って問い合わせがあって、担当者さんから連絡をもらったこともありました。もちろん、日本国内に限らず、地球の裏側から注文が来たりもします。小さい変な出版社ですが、一番いいマーケティングはカタログを充実させることだと思って、他所ではやっていないことを長い目でやってます。

『技術の勉強をしてはいけない!』と命じられたワケ

国田:そういえば、実は、社長の松岡さんから『技術の勉強はしないでほしい』って言われたんですよ。

― え?今、何ていいました!?どういうことですか?
国田:まんまですよ。『技術の勉強はしなくていいから』と軽く怒られたことがあります(笑)。でも、自分は全くITのことは分からずに、IT企業に入ったわけです。それなのに、あっちのベンダーやこっちの企業と話してこいなんて、もうわけが分からず、しばらくはパニックになっていました。

― いや、ならない方がおかしいでしょ(笑)。
国田:でも、段々と、自分に求められている役割もぼんやりとですが分かってきたんです。エンジニアが、技術のことを理解しているのは当然です。ただ、それゆえに自分で制限を掛けてしまうことがある、と。
なので僕は、中途半端に技術のことを勉強するのではなく、技術がもたらす価値に注目してほしいと。技術的な優位性、それだけでは価値は生まれてきませんよね。それを使うことでどんないいことがあるのか、社会にどんな変化をもたらすことができるのか、中途半端な技術的バイアスが無い状態で、価値に注目し、想像してほしいということかと思っています。

― なるほど、一理ありそう。
国田:でも、その時点の技術的な制約のままやり続けていたら、iPhoneもテスラも生まれなかったはず。既存の常識やリミットを超えていくからこそ、新しい技術が生まれ、技術革新が起きて、社会が変わっていく。その中で、エンジニアも伸びていくわけです。
だから、技術がわかってない方がいいから、『国田さんは、技術のことを頑張ってやってはいけない』と釘を刺されたんです。『エンジニアとしての自分たちの立場では分からない、もう見えなくなっていることがあるから、同じ世界に来ないでほしい』と言われました。

― ここまでクラシック音楽の話を聞いきたはずが、エンディングに掛けてロックまたはパンクなリズムになってきました(笑)。

全体のハーモニーを意識しつつ、ソロでも自分の価値を活かす

― 国田さんのいろんな活動を拝見してきましたが、BlueMemeでの仕事と音楽活動の、どっちがメインで、どっちがサブっていう区別はないような気がします。「両A面」といっても、ストリーミング&サブスク世代の読者には伝わらないんでしょうけど(笑)。
国田:一見、全く性格違う複数の仕事を同時にすることの、ポジティブな作用はたくさんありますよ。
芸術家って、開発エンジニアと結構似ているところがあるんです。新しい技術をいろいろ試したいとか、次から次にいろんなアイデアも出ます。一方で、技術ばかりが先行したり、アイデアをまとめて実現する術を持っていないことで、頓挫する状況も何度も経験してきました。その点、ITの現場で得たマネージメントの知識や経験、考え方は、そのまま芸術活動に還元できています。

― 個々の特性を活かしながらも、不要和音にならないようにちゃんと馴染ませていくのは、まさにオーケストレーションですね。国田さんには、組織のカルチャーに完全には染まり切れない、ソロのポジションが期待されているのかもしれません。同じゴールを目指していても、他者とは違う視点を提供してくれる存在というか。
国田:そうかもしれませんね。何だか割と、唯一無二の立ち位置から発言することも多いですし。ファシリテーションっていうとスッキリしすぎですが、いろんな人たちや物事の間に入って何とかしながらやっていくところは、重なる部分があるのかなと思ったりはします。

― 一つの大きなコミュニティーの中で、全体として調和した旋律を目指しつつ、新しい価値としてソロパートも奏でるチャレンジをしてみる。バスクラリネット演奏者としての国田さんと、今の仕事と重なる部分が多い印象を受けました。
国田:そうですね。バスクラリネットという自分が扱っている楽器も、あんまり他にやってる人がいない立ち位置で、独自のポジションを確保している面はあります。アイデンティティー的な話をすると、楽器がそうだから自分がそうなったのか、自分が元々そうだからそういう楽器を選んだのかは分からないです。でも、子供の頃から『人と同じことしたくない』っていう願望は強かった気はします。

― 最後に、国田さんの今後の、仕事と音楽面での目標って、どんなことでしょう?
国田:仕事では、他のチームメンバーと一緒にやるタスクを通して、仕事の幅を広げて経験を積んでいきたいです。音楽だと、演奏の仕事もまだまだ増やしていきたいですが、最近では、例えばAIが勝手に自分の演奏に合わせて伴奏してくれたりとか、音楽とITテクノロジーのソリューションをつなぐスタートアップもあって、注目しています。

― ChatGPTがペアプログラミングに使われているような感じですね。他には?
国田:IT業界で得たマネージメント系の技術やノウハウ、例えばプロジェクトマネーメントの考え方とか、コンセプトのまとめ方などを、芸術の分野に還元できないかと思っています。
音楽に限らず、公共活動としての芸術には公的資金が投入されます。一方で、ビジネスとして成立させるなら、スポンサーの存在も重要です。どちらにしても、これからは社会貢献が重要になるでしょう。そこからまた新しい価値が生まれるはずなんで、何かそれをつなぐことをやってみたいです。

― ありがとうございました。ますますのご活躍を期待しています。

この記事でインタビューをした方

国田 健 / Ken Kunita
バスクラリネット奏者 × IT
オランダ・ロッテルダムでバスクラリネット奏者として活動する、メーカースペース「Het Batavierhuis」専属のアーティスト。BlueMemeで活動する以外に、音楽出版社Muse Pressにも所属。芸術家の資質とITの知見を活かした、新しい音楽家の在り方を模索中。

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