ローコード・ノーコード開発は、実は親より子供たちの方がやってる

プログラミング教育が必修化の時代。子どもたちは「スクラッチ」や「マインクラフト」で遊びながら、すでにローコード・ノーコード開発を実践しています。実は、保護者の皆さんより先へ行っているかもしれませんよ。自然な学びが未来のIT人材育成にどうつながり、DXにどのような革新をもたらすのか?ローコード開発プラットフォームOutSystemsのリーディングパートナーである、BlueMemeの視点で掘り下げます。
プログラミング教育は定着している一方、現実は…
新学習指導要領に沿って、小学校でプログラミング教育が必修化されたのが2020年度。翌21年度からは中学校の「技術・家庭科」で、さらに22年度から高校の「情報 I」でプログラミングが導入されました。児童や生徒に1人1台のデバイスを用意するGIGAスクール構想で、学校のICT環境整備も進んでいます。
プログラミング教育:文部科学省
しかし、現実はなかなか厳しいようです。以下の報告書では、就学年が上がるに連れて、プログラミング学習を続けたいと希望する子供が減っています。保護者も、子供が理工系を目指す以外には、その必要性を特に感じていないようです。

https://speakerdeck.com/codeforeveryone/puroguramingujiao-yu-shi-tai-diao-cha-bao-gao-shu-2022-zi-domobao-hu-zhe-noyi-shi-diao-cha-dan-chun-ji-ji-jie-guo

出典:プログラミング教育 実態調査報告書2022 「子ども・保護者の意識調査 単純集計結果」みんなのコード – Speaker Deck
https://speakerdeck.com/codeforeveryone/puroguramingujiao-yu-shi-tai-diao-cha-bao-gao-shu-2022-zi-domobao-hu-zhe-noyi-shi-diao-cha-dan-chun-ji-ji-jie-guo
なぜ、プログラミング教育が重要なのか?
そもそも、プログラミング教育が必要と言われている理由は何でしょうか?
産業構造の変化
社会はIT化・グローバル化しています。さらにその変化の度合いやスピード、複雑さは増す一方です。これに対処するには、テクノロジーのスキルが必須です。
DX人材としての期待
少子高齢化による労働生産人口の減少とそれに伴う国力の低下は、「2025年の崖」として警鐘が鳴らされています。単なるIT人材ではなく、DX人材の育成が急務です。
生活に必須の「プログラミング思考」
分解、組み合わせ、一般化、抽象化、シミュレーションというプログラミング思考は、ソフトウェアを開発するかどうかに関係なく重要です。これは、デザイン思考やアート思考、批判的思考(クリティカルシンキング)などと共に、不可欠な考え方です。
ミッチェル・レズニック 「子供達にプログラミングを教えよう」| TED Talk
子どもたちが学習している、ビジュアルプログラミングとは?
ビジュアルプログラミングとは、その名の通り、画面上のビジュアル要素をグラフィカルに操作しながら、プログラムを作成する手法です。従来の手法が、特定の構文でコードをテキストベースで記述するのと異なり、初心者が学習しやすいのが特徴です。そのため、教育ではコンピューターの概念を学習するために使われています。
これは、今、ソフトウェア開発の新しい手法として広く普及している、ローコード・ノーコード開発と共通しています。機能や柔軟性、スケーラビリティーは大きく異なりますが、複雑な構文やコマンドを覚える必要がなく、直感的でインタラクティブな操作が可能な点は共通しています。
このビジュアル操作は、OutSystemsのようなプロ向けローコード開発プラットフォームと非常に似ています。実際にBlueMemeにも、子どもの頃に自分が遊んでいたり、子どもと一緒に楽しんでいる経験が、現在のローコード開発のスキル習得に役立っているエンジニアたちがいます。
人気のビジュアルプログラミングツール
では、主なサービスを見てみましょう。レッスンやコース、カリキュラムが無料で提供されていて、理解度・難易度に応じて自由に進められます。作った作品を世界中に公開したり、他の人の作品で遊べるのも魅力です。
Scratch(スクラッチ)
世界中の教育機関で広く使われている、ゲーム感覚でプログラミングを学べるサービス。ドラッグ&ドロップで、コードブロック(関数)をつなぎながら、スプライトと呼ばれるキャラクターを動かします。ゲームやアニメーション、プレゼンテーション、音楽など、さまざまな作品を自由に作れます。
Scratch | 未来の学びコンソーシアム
https://miraino-manabi.mext.go.jp/content/285
スクラッチをはじめよう | ワイワイプログラミング | NHK for School
https://www.nhk.or.jp/school/programming/start/index.html
Minecraft(マインクラフト)
Minecraft(通称マイクラ)には、「レッドストーン回路」という仕組みがあり、自動化システムを作れます。これも、企業システムにおけるワークフローやビジネスロジックの設計と概念的に同じ。ゲームで培った論理的思考力は、実際のビジネスプロセスモデリングにおいて非常に有用です。
遊び方:レッドストーンとコマンドブロックの使い方 (パート1) – YouTube
Springin’(スプリンギン)
Scratch同様、絵や写真にアクションを組み合わせながらゲームを作れます。メッセージ(定型のみ)機能があるため、初歩のネットリテラシーの育成にも役立ちます。

ブロックリーゲーム
Googleが提供する、ビジュアルプログラミングによるゲーム環境です。文章やイラストで出題されるパズルや迷路など、徐々に難易度が高くなる8つのステージで学習していきます。

CodeMonkey(コードモンキー)
IT先進国でもある、イスラエル生まれのプログラミングゲームアプリです。内容も充実していて、全部でステージが420もありますが、冒頭を無料で学習できます。

Code.org
女性やマイノリティーがコンピューターサイエンスに関わること目的とした、NPOが運営するサービスです。ブロックを使った初歩的なプログラミングだけではなく、JavaScriptの記述問題もあり、基本的なコーディングのループや関数、変数なども学べます。

ぷよぷよeスポーツ×プログラミング
https://puyo.sega.jp/program_2020/
セガの人気ゲーム「ぷよぷよ」を自分で作りながら、HTMLやCSSやJavaScriptなど、フロントエンドのプログラミングを学べます。サンプルコードを書き写し(いわゆる写経)して、遊びながら知識を習得できます。

子どもがプログラミングを学ぶ上での注意点
学校や家庭でプログラミング教育を受ける上で、いろいろな課題や注意点も指摘されています。
指導役の不在:一部のサービスでは、教え方を学ぶための専門学習モジュールやプラン、ガイドなどが用意されています。しかし、先生たちの多くは、プログラミングの十分な知識を持っていません。また、雑務に追われる教師の働き方が、大きな問題になっています。十分なICT教育を受けていない保護者たちの家庭でも、指導ができていません。
教育格差:全ての児童や生徒に十分なスペックのデバイスや、高速ネットワークが整備されている訳ではありません。また、パソコンの授業があってもオフィスドキュメント作りがメインなら、プログラミング教育を受けられる時間は限られます。
テクノロジーとの適切な距離:デジタルデトックスの必要性が指摘されているように、視力低下やメンタルヘルス、ゲーム依存症など、成長期の子どもは特に注意が必要です。オフラインとオンラインの良好なバランスを取りながら、双方の価値を高める指導が不可欠です。
サービス終了の可能性:「テクノロジア魔法学校」は、ディズニーの世界をテーマに人気キャラクターが学習をサポートしてくれるサービスでしたが、2025年3月末で終了予定です。特定のサービスに依存し過ぎると、プログラミングの考え方を他に応用できない可能性もあります。
セキュリティーリスク:IT部門の承認を得ずに、勝手にアプリケーションを作成したりサービスを使う、シャドウITの問題があります(ハックできるほどの子どもは、さらなる成長が期待できるとも言えますが)。
「本業」とプログラミング、どっちが大事か?ではなく
前述の報告書の背景を考えると、『受験対策が忙しくなるに連れて、プログラミング学習どころじゃなくなる!』『うちの子はゲームとYouTube、友達とチャットばかりしかやってない…』という声が聞こえてきそうです。しかし、大学入学共通テストの受験科目に「情報」が加わることが予定されているように、「受験と、その先の仕事でもプログラミングが重要」な時代です。
近年、子どもの成長過程に於ける「体験格差」が指摘されています。IT教育は特に、各家庭の世帯収入や環境、学校や地域の教育制度や支援体制など、さまざまな要因が影響します。質の高いコンピューターサイエンス教育の有無という格差は、将来の職業選択に大きな影響を及ぼします。
これと同じような状況は、保護者の皆さんの勤務先でも起きているかもしれません。人手不足で余裕がない。外部のSIerに任せているので、人材が育たない・定着しない。経営層の意志決定に時間が掛かりすぎて、大胆なDXに踏み切れない…ローコード・ノーコードは、ソフトウェア開発を広く一般の人にも広げる民主化。にも関わらず、それを学ぶためのチャンスがあるかどうかは、組織によって大きな違いがあります。
今後、AIとローコード・ノーコード開発の融合はさらに進み、子どもたちのプログラミング教育にも影響を与えるはずです。また、デジタルレイバーと呼ばれる電子化された同僚と、協業しながら仕事をするのも当たり前になります。全ての仕事で、何らかのソフトウェア開発スキルが必須になる時代が来ています。
子どもたちのローコード経験が未来を創る
「学ぶ」のスタートは、「真似ぶ」。子どもたちが遊んでいるツールの根本的な思想はどれも、ローコード・ノーコード開発の本質である「複雑で巨大なものも、細分化・モジュール化し、誰でも扱えるようにする」ことと通じています。これは、BlueMemeが推進している、OutSystemsのようなエンタープライズ向けローコード開発プラットフォームにもつながっています。
遊びの中で経験することが、未来のDX人材育成にとって非常に重要な役割を果たし、明日の技術革新を牽引する原動力となるでしょう。
BlueMemeでは、企業向けワークショップやOutSystemsトレーニングを提供しています。次世代だけでなく、今の非エンジニア人材の育成や内製化など、ご相談やご質問はどうぞお気軽にお寄せください。