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テクノロジー

何回だって挑戦!量子コンピューターの基本のキから学んでいこう

理人

皆さんは、もし他の人から『最近、時々聞くけど、量子コンピューターって、何?知ってる?』と聞かれたら、少しでも説明することができるでしょうか?

リープリーパーには、量子コンピューターに関する記事を数多く紹介していますが、難しくて全然理解できない!という人もいるかもしれません。しかし、そんなのは大丈夫!大事な話は、何度でも縁が巡ってくるものです。

▼量子コンピューターに関する記事一覧|LeapLeaper(リープリーパー)
https://www.leapleaper.jp/tag/quantum-computer/

今回の記事では、改めて量子コンピューターに関する素朴な疑問に対して、図を交えて説明しながら、従来のコンピューター(古典コンピューター)との違いと共に解説していきます。この記事を読めば、同僚や部下、上司、そして家族にも自信を持って、量子コンピューターを語れるようになること間違いなしです!

「量子コンピューター」とは何かを、ひと言でいうと?

量子コンピューターは、天井からぶら下がったシャンデリアのような、美しい構造をしています。この量子コンピューターが何かを、短い文章でシンプルにいえば、量子力学の原理である「量子もつれ」と「重ね合わせ」の性質を持つ「量子ビット」を利用した計算機です。これだけだと、まったく何のことかわからないので、それぞれの用語を以下で説明しましょう。

CES 2020で展示されていた、IBMの量子コンピューター
CES 2020で展示されていた、IBMの量子コンピューター
出典:IBM_SystemOne_Andrew_Lindemann_2.jpg
https://newsroom.ibm.com/media-quantum-innovation?keywords=quantum&l=100#gallery_gallery_0:21596

そもそも「量子ビット」って何?「重ね合わせ」とは?

量子ビット」(Qubit)とは、量子コンピューターの基本的な情報の単位です。古典的なコンピューターの情報単位であるビットには、0と1の状態があることは、広く知られています。つまり、ビットは0か1か、どちらかの状態を取ります。

これに対して量子ビットは、0と1の間の任意の状態を表現できます。つまり、0であると同時に、1でもあるという状態です。これを「重ね合わせ」の状態と呼びます。これは、量子ビットが量子力学の原則に従い、複数の状態を同時に持つことが可能であることを示しています。量子ビットの数が量子コンピューターの性能に直結するので、世界中の企業がその開発に全力を注いでいます。

量子ビットに特徴的な、0であり1でもある「重ね合わせ」の状態
量子ビットに特徴的な、0であり1でもある「重ね合わせ」の状態
参考:「量子コンピューター~2030年に向けたロードマップ~」(第330回NRIメディアフォーラム)を参考に、LeapLeaper編集部で作成

「量子もつれ」って何?

次に、量子コンピューターの説明で必ず出てくる「量子もつれ」について説明しましょう。量子もつれとは、2つ以上の量子ビットが互いに密接に結びつき、一方の状態が他方の状態に直接影響を与える現象を指します。たとえば、2つの量子ビットが量子もつれ状態にあるとき、1つのビットの観測結果(0または1)が、即座にもう1つのビットの状態を決定します。これは、2つのビットが物理的に離れていたとしても、その関連性が瞬時に存在するという、非常に直感に反する性質です。

どちらか一方を観測すると、他方が決まってしまう量子ビットの「量子もつれ」
どちらか一方を観測すると、他方が決まってしまう量子ビットの「量子もつれ」
参考:「量子コンピューター~2030年に向けたロードマップ~」(第330回NRIメディアフォーラム)を参考に、LeapLeaper編集部で作成

なお、以前にリープリーパーの記事で解説した「量子テレポーテーション」は量子もつれによって起こる現象です。また、2022年のノーベル物理学賞は、量子もつれの性質を理論と実験の両方で示した研究者たちに与えられました。

▼2022年のノーベル物理学賞に「量子もつれ」の研究者3人
https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize/2022/physics/article_12.html

量子コンピューターの計算は古典コンピューターの計算と何が違うの?

計算機である古典コンピューター(従来式コンピューター)と量子コンピューターとでは、計算することは同じでも、その処理方法が異なります。

古典コンピューターでは、それぞれのビットが持つ情報は0か1で固定されているので、計算を何度も処理することで答えを出します。一方、量子コンピューターの計算は、量子ビットの持つ量子重ね合わせの性質を活かして、一度にたくさんの情報を持つことができます。これらの特性は、同時に多くの計算を処理することを可能にし、たくさんの答えの選択肢の中から絞り込んで1つの答えを出す計算方式です。

従来式コンピューターと量子コンピューターの計算方式の違い
従来式コンピューターと量子コンピューターの計算方式の違い
参考:『いちばんやさしい量子コンピューターの教本 人気講師が教える世界が注目する最新テクノロジー (「いちばんやさしい教本」シリーズ) (湊雄一郎著、インプレス)』13ページ図表01-2を参考に、LeapLeaper編集部で作成

量子コンピューターってもう実用化されてる?

時々、ニュースなどで量子コンピューターの話を見聞きする機会も増えました。では、すでに実用化されていて、私たちの知らない間に凄い計算をしていたりするのでしょうか?その答えはNOです。

現状の量子コンピュータは「NISQ」(Noisy Intermediate-Scale Quantum)と呼ばれ、計算時にノイズが発生する「不完全」な状態です。量子ビットの数も多くないため、その能力は一部に留まっています。量子コンピュターが期待されているのは、古典コンピューターを凌駕する性能を発揮するポテンシャルを持っているからですが、残念ながら、現状ではそのレベルには達していません。

これに対して、理想的な量子コンピュターは「FTQC」(Fault-Tolerant Quantum Computing)と呼ばれます。ノイズの影響も受けない一方で、必要な量子ビットの数は100万(10の6乗)~1,000万(10の7乗)程度と想定されています。

現状の量子コンピュター開発のロードマップを元に試算すると、下の図のようなグラフを描くことができます。FTQCの実現には今から15年弱掛かると考えられますが、昨今の量子コンピューター開発の発展により、FTQCとはいえないものの優れた計算能力を持つ量子コンピューター(「Early-FTQC」)は、今から5年弱で到達する可能性がありそうです。

また、量子コンピューターの実機だけではなく、GPUを使った量子計算も盛んにシミュレートされています。

量子コンピューターの進化と量子ビット数の想定
参考:『量子コンピュタの頭の中――計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界(束野仁政著、技術評論社)』38ページ図1.8を参考に、LeapLeaper編集部で作成

実用化されれば、全てのコンピューターが量子コンピューターに置き換わる?

量子コンピューターが実用化すれば、現在のコンピューターが全て量子コンピューターに置き換わるかというと、そんなことはありません。古典コンピューターとスーパーコンピューター、量子コンピューターにはそれぞれに得意分野があり、お互いに補い合いながら使い分けられるからです。

例えば、量子コンピューターが得意な領域として、最適化問題や機械学習、シミュレーション、暗号などが考えられています。

最適化問題数ある選択肢の中から最適なものを選ぶのが、最適化問題です。最適化問題は、一度に多くの状態を表現できる量子コンピューターと相性がいいのではないかと期待されています。

シミュレーション:量子力学に基づいて設計された量子コンピューターは、同じ法則に従う自然の現象をシミュレートするのに適していると考えられています。化学反応や新しい材料の性質などのシミュレートが期待されています。

暗号解読:「ショアのアルゴリズム」のような量子アルゴリズムは、大きな整数の素因数分解を高速に処理できることが理論的に証明されています。これにより、RSA暗号などの解読につながります。

機械学習:量子ビットの持つ重ね合わせの性質を利用することで、機械学習のモデルのパラメター数を削減できると期待されています。最近では「量子AI」というキーワードも出てきました。

量子コンピューターのことを、いろいろな角度から

今回の記事では、量子コンピューターの基本である「量子ビット」とその重要な性質である「量子もつれ」と「重ね合わせ」について解説しました。また、それを活かした量子コンピューターの計算方式と、実用化までのロードマップ、そして量子コンピュータが応用される分野について説明しました。

今回の記事の内容が頭に入っていれば、ニュースやネット記事、日常会話で量子コンピューターというキーワードが出てきても、他の人より深く理解できるようになるはずです。しかし、新しいテクノロジーを理解するには、人それぞれに時間やタイミングが重要です。

リープリーパーには、量子コンピューターをあらゆる角度で解説した記事がたくさんあるので、この記事を頭に入れつつ、改めて読んでみてください。また、これからもビギナーからハイアマチュア、プロフェッショナルまで、いろいろな記事を充実させていきます。どうぞご期待ください。

参考文献

▼「量子コンピューター~2030年に向けたロードマップ~」(第330回NRIメディアフォーラム)
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2022/forum330_2.pdf

▼量子コンピュータの頭の中――計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界 | 束野 仁政 | Amazon

▼いちばんやさしい量子コンピューターの教本 人気講師が教える世界が注目する最新テクノロジー 「いちばんやさしい教本」シリーズ | 湊雄一郎 | Amazon

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理人
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博多在住の研究員兼博士課程学生
エンジニアになるつもりで入社しましたが気づいたら研究をしていました。数学が専門ですが、研究はバイオ系です。ときどき採用面接をしたりします。オタクなので月に1度は遠征に出かけます。
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